とある時間のとある場所。ここは「泉の森」と呼ばれる美しい森です。
森の木こりの祐巳ちゃんは、今日もお仕事へ行くために泉の横を通っていました。
「よさぁ〜くはぁ〜木ぃ〜を〜切るぅ〜♪」
・・・・・・・・与作かよ。
「ミザルーのほうが良かった?」
・・・何でK−1のピーターアーツ入場曲・・・・・・確かにランバージャックって呼ばれてるけども・・・
「ツッコミ多いなぁ」
ネタが判りにくいんだって。もう与作で良いから。
「へいへいほ〜♪へいへい・・・・・・あっ!」
調子に乗って歌いながら歩いていると、斧をぶら下げているベルトが切れて、泉の中に斧を落としてしまいました。
「うわ、どうしよう・・・大事な商売道具が・・・」
祐巳ちゃんがどうやって斧を取り戻そうかと悩んでいると、泉の中から三つ編みの見た目は可憐な女神様が現れました。
「・・・・・・“見た目は”可憐なって、どーゆー意味よ」
話が進まないんでスルーして下さい、青信号の女神さま。
「ちっ・・・後で決着つけてやるからね。・・・・・・あなたが落としたのは金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?」
金の斧と銀の斧を持ち、女神様は祐巳ちゃんに問いかけました。しかし祐巳ちゃんは問いかけに答えず、イキナリ泉に突入すると、女神様へ向かって一直線に歩き出しました。
「え?ちょ・・・何?・・・きゃぁぁあ!」
突然の事に驚く女神様を抱き抱え、祐巳ちゃんは水辺へと引き返します。そして陸地に到着すると、こんな事を言い出しました。
「だめじゃない!こんな寒い時期にそんな薄着で泉に入っちゃあ!風邪ひくよ?」
言い忘れましたが、設定では今秋なのでした。
「薄着って・・・女神様らしく薄絹のドレスにしたんだってば。てゆーか泉から突然現れたんだから、少しは驚いてよ」
「えっと・・・たしかリュックの中に予備の上着が・・・」
「聞けよ!人の話をよ!」
女神様の話などお構いなしに、祐巳ちゃんはリュックの中を漁っています。
「あ、あった!私のセーターだけど良かったら・・・」
「いいから話を聞きなさい!」
ドレスの上から厚手のセーターという若干マヌケな格好にさせられそうな女神様は、祐巳ちゃんの頭をガッシリつかむと強引に自分のほうに祐巳ちゃんの顔を向けました。
「・・・ああ、ごめんなさい」
祐巳ちゃんの言葉に女神様はやっと話が進むと思い、用意していたセリフを言います。
「あなたが落としたのは・・・」
「何でこの寒いのに泉になんか入ってたの?私で良かったら話を聞くよ?」
「誰が身の上話を聞けと言ったぁ!!」
女神様はもう血管が切れそうです。
「私じゃあ助けにならないかも知れないけど、話をするだけでも気が楽に・・・」
「あなたが落としたのは金の斧ですか?!それとも銀の斧ですか!!」
どうやら女神様は、あまりにも話が進まないので強引に続ける事にしたようです。祐巳ちゃんに二本の斧を突きつけると力の限りそう叫びました。はたから見ると、まるで斧で襲い掛かる殺人鬼のようです。
「誰が殺人鬼だコラァ!!」
斧二刀流で少女に襲い掛かってるあなたがです。
しかし、肝心の祐巳ちゃんは斧に視線を向けたものの反応がありません。
「・・・・・・・・・」
「・・・あれ?ちょっと聞いてる?もしもーし!」
無言で斧を見つめる祐巳ちゃんの顔の前で、女神様はひらひらと手を振ってみました。
すると突然、祐巳ちゃんは女神様の手をがっしとつかみ、こんな事を言い出しました。
「判った。一緒に警察に行こう?」
「・・・・・・・・・・・・・はい?」
女神様は祐巳ちゃんの言ってる意味が判らず首をかしげます。
「誰でも魔がさす時はあるよ。一緒に行ってあげるから素直に斧返して謝ろう?」
「コレは盗品じゃねぇぇぇぇ!!」
なんかもうすでに女神とは思えない言動で女神様は祐巳ちゃんの胸倉をつかみ、がっくんがっくん揺さぶりながら叫びました。
いきなり胸倉をつかまれてビックリした祐巳ちゃんでしたが、気を取り直して女神様に聞きます。
「え?コレを思わず盗んじゃって、事の重大さに気付いて怖くなって身投げしようとしてたんじゃないの?」
「小心者の犯罪者か私は!コレは私が出したの!」
「“出した”って・・・警察でそんな事言ったら精神鑑定されちゃうよ?」
「サイコさんでもない!!め・が・み!!私は女神様なの!!さっきからナレーションでしつこいくらい繰り返してるでしょうが!!」
「・・・女神様?」
「そうよ!女神!!ゴッデス!!G・O・D・D・E・S・S、GODDESS!!りぴーとあふたーみー!ゴッデス!!」
祐巳ちゃんはふいに優しい笑顔でこう言いました。
「うん、そうだね、そういう事にしとこうか」
「哀れんだ顔で言うなぁぁぁぁ!!」
どう言っても自分の話を聞いてくれず、挙句の果てには可哀そうな人扱いしてくる祐巳ちゃんに、女神様は頭を抱えて絶叫しました。
「いったいどうしたら・・・・・・そうだ!」
女神様は何か思いついたようです。
「ちょっとコレを見なさい」
祐巳ちゃんに自分の手を注目させると、何も無い空中から美しい黄色の薔薇を取り出して見せました。祐巳ちゃんは驚いてこう言いました。
「うわぁ、手品上手いんだねぇ」
「手品ーにゃ!・・・って違う!!じゃあ、あなたの言うとおりの物を出してあげるからリクエストしないさい!」
女神様は律儀に乗りツッコミをした後に祐巳ちゃんに今ここで出して欲しい物を言うように指示しました。
「ん〜と・・・じゃあ、インド象」
「またヤケにでっかい物を・・・良いわ、ホラ!」
女神様はリクエストに答えてインド象を出現させました。
「わぁ!本物のインド象だぁ!この耳の大きさはアフリカ象じゃなくインド象に間違いないわ!」
「ヤケにマニアックねあなた。普通インド象とアフリカ象の見分けなんてつかないわよ。それはそうと、これで信じる気になったでしょう?」
「うわぁ・・・つぶらな瞳がカワイイ!」
「だから話を聞けっつーの」
女神様は象に夢中な祐巳ちゃんの後頭部にツッコミを入れました。
「痛っ!何するのよイキナリ!」
「・・・あなた通知表に“人の話を良く聞かない”とか書かれたクチでしょう」
「な、何でその事を?!もしかしてエスパー?」
「見たまんまじゃない・・・てゆーかエスパーじゃなくて女神だってば」
「・・・・・・本物なんだぁ・・・へぇ〜」
今度こそ素直な驚きを顔に表した祐巳ちゃんに、女神様は満足します。
「じゃあ、話を元に戻すわよ。あなたが落としたのは金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?」
「いや、私が落としたのは普通の鉄の斧だよ?」
やっと台本どおり進み始めたので、女神様は上機嫌です。
「あなたは正直者ですね。褒美に金の斧と銀の斧も差し上げましょう」
女神様にそう言われ、祐巳ちゃんは斧を受け取りました。
しかし、金の斧を持ったまま何か考え込んでいます。そして、金の斧と銀の斧を軽く振ってみた後こう言いました。
「いらない」
「何でよ?!」
女神様は思わず祐巳ちゃんの胸倉をつかんで問い詰めました。
「・・・だって・・・重すぎて使えないもの」
「誰がこれで仕事しろって言ったのよ!」
「それにモース硬度2,5くらいの金や銀じゃあ木は切れないと思うな」
「そんな細かい事はどうだって良いんじゃぁぁぁぁ!!良い?これはご褒美!ギフト!正直な人間には必ず良い結果が待っているという訓話的な話よ!だいたい金の斧持ってるなら木こりしなくても生活できるでしょ?!」
血の涙を流さんばかりの魂の叫びを放つ女神様を見て、祐巳ちゃんは問い返します。
「・・・ご褒美?」
「そうよ!」
「・・・・・・ご褒美ならシュークリーム一年分とかのほうが良いなぁ」
「私の斧はシュークリーム以下かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その後、女神様は二度と泉に落ちてきた斧を拾わなくなったそうな。