【504】 テニス部ドキュメント問い詰めモード  (朝生行幸 2005-09-09 14:23:30)


これは、No.499の続き…みたいなものになってます。

「かつらかつら」
「並薔薇かつら」

 とある昼休み。乃梨子が有権者でもないのに各党のマニフェストに突っ込みを入れては呆れた溜息を吐いていると、例によっていつもの二人組、敦子と美幸が現れた。普段とちょっとニュアンスの違うことを言いながら。

「聞きましたわよ乃梨子さん」
「お姉さまの白薔薇さま、一年生の時は桃組だったそうですわね」
 それがどうしたと思いながらも、二人に顔を向ける。どうせほっといても、こちらが反応するまでちょっかいかけてくるに違いないのだ。早く終わらせてしまった方が、得策というものだ。

「そうよ。で、それがどうしたの?」
「これを見てくださいな」
 敦子が取り出したのは、最新のリリアンかわら版。そこには、全国大会に出場する二年生のテニス部員の記事が、一面を飾っていた。
「あぁ、お姉さまや祐巳さまのお友達…?の桂さまね」
「そして、ここ」
 続けて、ある一点を指差す美幸さん。そこには、あるクイズが掲載されていた。
「実は、私のお姉さま、小山田みゆきとおっしゃるんですけれど、彼女も去年は、桂さまと同じクラスでしたのよ」
「じゃぁ、お姉さまに聞けばいいじゃない?」
「ええ、真っ先にお聞きしたのですけれど…、残念ながら記憶に無いとおっしゃって…」
 なるほど、と納得する乃梨子。だから、同じクラスだったお姉さまにも聞いてもらいたいというわけか。

「でも、なんで答えを知りたいの?」
「ホラここ」
「へー、正解者には、図書券二千円分かぁ。結構大きいなぁ」
「とある方が、自腹を切って提供なさったそうですわ」
「そろそろ私たちも、自分用の立派な聖書が欲しいと思っておりましたの。この図書券をゲットできれば、大きな足しになろうというものです」

 なんだか下心満載だよマリア様の子羊たち。まぁ、お嬢様といえども所詮は高校生。そんなに小遣いも多くないだろうから、気持ちは分からなくもない。正直言って、乃梨子も欲しいぐらいだ。

「かつらかつら」
「並薔薇かつら」
「白薔薇さまに、お聞きになってくだいませね〜」


「…と言う事なんですが、志…お姉さま、祐巳さまはご存知ですか?」
 放課後、いつものように薔薇の館に赴けば、そこには幸いにも、志摩子と祐巳がいるのみ。しかも二人とも、一年生の時は桂と同じクラスではないか。お茶を準備しながら、幸先ヨシと、早速二人に例のクイズの答えを聞いた。
『………』
「あの…、お姉さま?祐巳さま?」
 問い掛けるも、返事なし。しかも、乃梨子の視線を露骨に避ける二人。
「えーと、まさか、お二人とも知らないってことは無い…ですよね?」
「ゴメン乃梨子ちゃん。実は忘れた…と言うよりは、まったく記憶にないの」
「私も、全然聞いたことがないわ。同じクラスだったのに、どうしてかしら」
 バツが悪そうに顔を見合わせたお二人は、心底すまなさそうな表情で言った。

「そんな、桂さまは、一応曲りなりにもとりあえずはなんとなくそれなりにお二人のクラスメイトのはしくれの隅っこの風下の出涸らしの吹きっさらしだった方。それをお忘れだなんて」
「あー、乃梨子ちゃんの方が余程酷いこと言ってる気がするんだけど。それに、忘れたんじゃなくて、全く記憶に…」
「お姉さまも、今も桂さまにヒトカケラでも友情らしきもの…友情っぽい感情…友情とギリギリ判断できなくもない意識がほんのちょびっとでもあるのなら、思い出してください!」
「乃梨子?思い出す以前に、聞いたことがないことを思い出すなんて不可能…」
「それでは余りにも、桂さまが可哀相です!」
 乃梨子も、なぜここまで自分が必死になるのかよくわからなかった。おそらく、ちょっと鬱陶しいとはいえ、一応友人の姓なしコンビが、誰かさんの轍を踏んでしまうかもしれないのを看過できないからなのだろう。
 主役級キャラである乃梨子の驕りなどではまったく無いはず。絶対に無いはず。さらには、図書券のためでも無いはず。あり得ないはず。きっとそうに違いない…はず。…だよねぇ?

 結局、薔薇の館に保存してある山百合会資料を、全てひっくり返して調べたにも関わらず、クイズの答えは判明しなかった。

「いかがでしたか?」
 翌朝、ホームルームが始まる前、疲れきって机に突っ伏している乃梨子に、敦子と美幸が声をかけてきた。
「あ〜、あのねぇ」
 脳内分泌成分のみの影響で現れる嫌〜な笑みを浮かべる乃梨子。さすがの二人も、頬を引き攣らせて後ずさる。
「答えはね〜」
 今度は一転、乃梨子に迫る敦子と美幸。一言一句聞き逃さないように、密着に近い形で耳を近づける。

「あきらめろ?」


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