【No:505】 → No530 → No548 → No554 → No557 → 【No:574】 → 飽きられつつもまだ続きます。
「志摩子! 志摩子ってば」
ん?
「もしかして、私のこと(志摩子って)呼びました?」
「もう、どうしたの志摩子? 」
なんか彫りが深くてきれいな人。
藤堂志摩子さんの知りあいか。
「すみません、私は藤堂志摩子さんではないんです」
もしかして今後こういうことって多くなる? この髪型、気に入ってるんだけどな。
などと考えつつ、その人に頭を下げた。
「やっぱり志摩子じゃない」
「いえ、よく似てますけど違うんです」
「何をふざけてるの? あ、判った。久しぶりだから私を楽しませてくれてるのね?」
うーん、困ったなぁ。
信じてくれないよ、この人。
「あのですね、私は……」
「志摩子」
なんか真剣な目でじっと見つめられてしまった。
「……ちょっと痩せたかな」
「え?」
「白薔薇さまは大変?」
ロサギガンティアって藤堂さんの役職名だっけ。
「あの……」
どうしよう。
「時間ある? ちょっとお話しない?」
「あ、はい」
思わず同意しちゃった。
だって、この人の『志摩子』を見る目があまりに優しかったから。
名前も知らない藤堂さんの知り合いに連れられて、私は近くの喫茶店に入った。
「私ね、ひとつだけ後悔してることがあるのよ」
困ったな。
その藤堂さんの知り合いの人は語りに入っていた。
あまりプライベートな話きいたら藤堂さんに悪いし。
でもその人はそんな私に関わらず話を続けた。
「だって負担にならないように、なんていいながら結局、私が卒業しちゃったらあなたはまだ二年生なのに白薔薇さまに成るしかなかったじゃない?」
つまり、この人は藤堂さんの先輩で卒業生なんだ。
「聞いていいですか?」
「なあに?」
「藤堂志摩子はあなたにとってどんな存在ですか?」
ちょっと目を見開いて驚いたような顔をした。
でも、すぐにまたさっきの優しい目になった。
「そうね、大切な妹。どうしたの? そんなこと聞いてくるなんて」
やっぱり。
この人、この前の乃梨子さんの話に出てきた藤堂さんのお姉さま、先代の白薔薇さまだ。
彼女は手を伸ばしてきて私の頭をなでた。
私は言った。
「いい制度ですね、リリアンの姉妹制度って。私ちょっと羨ましくなりました」
最初変な制度だなって思ったけど、友達とも違う、単なる先輩後輩とも違う、卒業後も続くこんな関係を築けるなんて。
「……え?」
「申し遅れました。私、都立K女子高校に通ってる藤沢朝姫といいます。藤堂さんのお姉さまのことは乃梨子さんから伺ってました」
改めてそう挨拶した。
「……本当に志摩子じゃなかったの?」
「そういいましたよ?」
「……」
じっと私の顔を観察してる。
「……志摩子の生き別れの姉妹とか?」
「そんな話聞いたことないですけど」
「私もだわ」
〜 〜 〜
「ごめんなさいね、ひと違いなのに引き止めちゃって」
ようやく私が藤堂さんじゃないと判ってくれた佐藤さん。
じゃあなんで他人なのに藤堂さんを知ってるのかとか、それは私が藤堂さんを知っているのは最近、リリアン学園とうちの学校で交流があったからだとか、そんなの嘘っぽいとか、ちょっとした口論があったんだけど、話をしているうちに、理屈はともかく「志摩子はそんな顔しないわね」と、ようやく違いに気付いてくれたのだ。
「いいえ、藤堂さんのお姉さまと知り合いになれてよかったです」
藤堂さんによろしくって言ったら、よく会うわけじゃないんだって。
「ふふ、なんか志摩子に会いに行きたくなったわ」
「それなら、会ったらよろしく伝えてください」
「そうね。会って聞いてみればはっきりするし」
って?
「あの、まだ疑ってるんですか?」
「うーん、志摩子って溜め込んじゃうタイプだからもしかしたら今は裏の人格で……」
「そう、私は裏志摩子。彼女の抑圧された感情から形作られたもう一つの……って違いますってば!」
「ぷっ……、だって証明するもの持っていないでしょ?」
むっ、噴出したな。
「それは、今日は学生証もってこなかったけど」
「やっぱり」
「佐藤さんも藤堂さんを良く知ってるんなら判るでしょ?」
「世界の敵が現れたとき志摩子の中から浮かび上がってくる?」
「そう、ボクは自動的なんだよ。……ってわたしゃ泡かい! 黒帽子さんかい!」
「あはははっ!」
なんか爆笑してるし。
「……遊んでるでしょう?」
「朝姫ちゃん最高!」
性格悪いよ、この人。
佐藤さんがひとしきり笑った後。
「久しぶりに楽しかったわ。ありがとう」
「私は笑われ損ですよ」
そりゃ、ついノリ突っ込みしちゃったけど。
「また会えるといいわね」
そんなこと言いながら佐藤さんはまた私の頭をなでた。
「リリアンへはまた訪問するかもしれませんけど」
「そのときは呼んでよ。私リリアンの大学部だから」
そうだったんだ。
「いつになるか判りませんよ?」
連絡先を教えてくれるのかと思ったら事務で呼び出しかけてくれ、だって。
変な人だけど、悪い人じゃないと思った。
だって藤堂さんに対してあんな顔ができる人だから。
(続く【No:593】)