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お昼休みのこと。薔薇の館で由乃さんが燃えていた。
「私のいない隙に敵の進入を許したのね」
「由乃さん敵じゃないってば」
昨日、志摩子さんの二回目の呼び出しがあった訳だけど、その顛末を志摩子さんと乃梨子ちゃんに聞いていた。
話によるとK女の人たちがたまたま非公式に訪問してきてて、タイミングよく志摩子さんの呼び出しがあったため、乃梨子ちゃんが生活指導室まで案内して先生の誤解はめでたく解けたとのこと。
だけど、その話を聞いた由乃さんが蚊帳の外だったのが面白くないらしくゴネてるのだ。
「もう、部活なんか行くんじゃなかったわ」
「いいじゃない、無事解決したんだから」
「良くないわ。私まだ見てない」
放っておくとK女に乗り込むとか言い出しかねない勢いだ。
祐巳は志摩子さんに話を振った。
「志摩子さんは会ったんでしょ。どうだった?」
「どうだったって、容姿だけを言えばよく似てる人だなって」
「それだけ?」
「ええ」
「ものすごく驚いたとか、自分がもう一人居るみたいで気味悪いとか無かった?」
「どうして?」
乃梨子ちゃんはびっくりするほど似てたっていってたのにどうも志摩子さんの反応ははっきりしない。
「どうしてって、ねえ」と、由乃さんの方へ視線を送った。
「志摩子さん、もしかして鏡見たことない?」
由乃さんが言う。いや、いくら志摩子さんが変わっているからってそれはないでしょう。 志摩子さんは由乃さんの言葉にクスリと笑った。
「私だって朝姫さんがまわりの人が驚くくらい私に似ているってわかってるわ」
「そうは見えないんだけど」
「だって、顔が似ているくらいで驚いたり気味悪がったら朝姫さんに失礼じゃない?」
そういうことだった。
人を見る時、志摩子さんは顔とか容姿を大きなファクターにしないそうだ。
「私は朝姫さんより一緒に居た春子さんのほうが興味深かったわ」
志摩子さんの言葉になぜか乃梨子ちゃんが苦笑した。
「あの方、乃梨子にそっくりなの」
今までの話からするとおそらく顔ではなく性格であろう。
乃梨子ちゃんの報告と志摩子さんの話を総合した由乃さんは予想どおりの結論を出してくれた。
「やっぱり乗り込むしかなさそうね」
〜 〜 〜
放課後、山百合会の二年生のトリオだけがが薔薇の館に居た。
「由乃さん本気なの?」
「大丈夫よ、あの学校に令ちゃん家の道場に通ってた子がいるの」
「居るからどうなの?」
「祐巳さん分からないの」
「分からないよ」
「協力者を確保したってことよ」
協力者?
「あー、学校に侵入する手引きをしてもらうとか」
「それも良いけど、あれよ」
そう言ってドアの方を指差した。
「なに?」
由乃さんの指差した先、部屋の隅にはなにやら紙製の手提げ袋がおいてあった。
志摩子さんはその袋の方へ行き、中を覗いた。
「……スカートとブラウスね」
そして、袋の中から、おそらくクリーニング屋さんのであろうビニールに包まれた衣服を取り出した。
「もしかして?」
「そうよ。ちゃんとみんなの分あるから」
得意げに胸を張る由乃さん。
いつの間にそんなものを。でも、ということは、話を聞く前から乗り込む気だったってこと?
「令ちゃんに頼んだらすぐ集まったわよ」
令さま、苦労がしのばれます……
実はその道場に通ってた子が大の令さまファンで、そのお友達にも数人令さまのファンがいて、至急貸して欲しいという令さまの頼みにもうものすごい勢いで協力してくれたってことらしい。これは後になってから知ったのだけど。
「さっさと着替えて行くわよ! 祥子さまに見つかる前に」
ちなみに祥子さまは、今日はちょっと遅れてくることがわかっている。
「え、えーっと、わざわざ着替える必然性が判らないんだけど」
「リリアンの制服は目立ちすぎるからに決まってるじゃない」
「普通に訪問してもいいんじゃない? 一応知り合いが居るってことだし」
志摩子さんは会ったわけだから。
「お忍びなのよ、公式訪問じゃないの。それに普通に行ったら面白くないじゃない」
なにが『面白く』なのか。由乃さんって最近、江利子さまに似てきた気がする。
「志摩子さん、どうする?」
「私はかまわないけど」
乗り気なのかどうでもいいのか志摩子さんが反対しなかったって時点で変装しての訪問は確定してしまった。
「こうなってしまった由乃さんはもう止められないわ」
「そうね……」
いそいそと着替えはじめた志摩子さんにならって祐巳も急いで着替えた。
「う、なんか私のスカート短い……」
リリアンの制服と比べたら、膝上何センチというスカートは短いと感じてしまうのだけど、由乃さんが選んだのは特に短くて、気をつけて行動しないとぱんつが見えてしまうかと思うような長さだった。
「私のはそうでもないけど……、でもちょっと恥ずかしいかな」
リリアンの制服に慣れているので、なおさらそう思えてしまう。
「慣れればどうということは無いわ」
志摩子さんはなんか平然とそんなこと言ってるけど。
でも。と、自分の足元を見つめる祐巳。
由乃さんと志摩子さんに比べて、やっぱり体格の差が……。
「祐巳さん、どうしたの?」
「え、いや、似合ってるよ。その制服」
「あら、ありがとう」
「もう、いくわよ! ぐずぐずしてたら誰か来ちゃうわ」
そんなこんなで、あわただしく会議室を後にした。
外に出たところで乃梨子ちゃんと鉢合わせた。
「あ、朝姫さん!?」
「乃梨子、私よ」
「志摩子さんなの!?」
「お見合いしている場合じゃないの」
固まった乃梨子ちゃんと向き合っていた志摩子さんを引っ張っていく由乃さん。
「あ、ちょっと!」
「ごめん、乃梨子ちゃん、あとのフォローよろしく」
一応そう言い残して、先に駆けていく由乃さんを追った。
後ろで乃梨子ちゃんがなんか叫んでいたけど彼女なら上手く言いわけしてくれるはず。
(続き【No:656】)