【聖と志摩子の場合】
「あ・・・・・・」
その時、二人とも初めて認知したのだ。
髪といわず制服といわず、白い花びらをまとった少女がこちらを不思議そうに見つめているのを。
しかし、それにしても何ということだろう。白い少女は、まるで鏡に映った自分のようではないか。
風の収まった桜の木々の中で、チラチラと染井吉野の花びらが小雨のように降る中。
しばらく、二人は無言で向かい合っていた。
【志摩子と乃梨子の場合】
瞬間、乃梨子は息をのんだ。
「──」
黄緑色の新芽をつけはじめた銀杏が林立する木立の中でただ一本、大きく枝を広げた染井吉野が今を盛りと花を咲かせている。
その下に、マリア様が立っていた。
しかし、何て美しい光景なのだ。表現する言葉もない。
やがてマリア様は乃梨子の視線に気づき、優雅に振り返って言った。
「ごきげんよう」
「・・・ご、ごきげんよう」
【聖と乃梨子の場合】
「大丈夫だと思うよ」
後ろから声が聞こえたような気がするが、今はそんな事に構っていられない。
「志摩子さんっ! 志摩子さーん! かむばーっく!」
「いや、だから大丈夫だと思うよ・・・って、聞いてる?」
「ああ、どうしよう。やっぱりここは、誰か信頼できる大人に相談した方が良いのかな?!」
「はいはい。ここに大人が居るから、落ち着いて私の話を聞・・・」
「ああでもっ! ここにはそんな信頼できる大人の人なんて居ないし!」
「しくしくしく・・・」
何か聞こえる泣き声に振り返ると、端整な顔立ちの女の人がしゃがみ込んで泣いている。
「あの・・・こんな所で泣いてたら邪魔ですから、退いてくれません?」
「君は無感情か」