【599】 ヴァージンロード陽だまりの世界  (ケテル・ウィスパー 2005-09-21 01:56:40)


 古い小さな教会にしては立派なパイプオルガンが、静かで荘厳なメロディーを聖堂内に響かせている。 祝典が始まるまでまだ時間がある、参列者は穏やかに談笑して今日の主役の登場を待っている。


 リリアンの大学を卒業して6年、月日の経つのは早いもの、薔薇の館での忙しくもにぎやかで充実した日々はいまも忘れられない。

 水野容子さまは、大学卒業後、法律事務所に事務として就職されて、今年3回目の司法試験にチャレンジされるのだそうだ。 『5回くらいは覚悟のうちよ。 それくらい困難じゃなければ目指す価値なんか無いわ』 相変わらず強い方だと思う。
 佐藤聖さまは、現在リリアンの中等部で教鞭をとっていらっしゃる。 気さくだからかなかなか人気があるんだとか。 『ふふふふ、今度はキッスから教えてあげるからね〜』 淫行教師として捕まらない事を祈っています。
 鳥居江利子さま、今は山辺江利子さまは、先日双子を出産された、女の子だそうだ。 『子供って思いもかけないことしてくれるから結構楽しいわよ』 どうやら育児ノイローゼの心配はしなくていいようです。


 丁寧に掃除されている綺麗だが年代を感じさせる祭壇。 長い年月ここに集う人々に、やさしく慈悲深い微笑を投げかけ続けているマリア様。 正面のイエズス様はいったい何組の永遠の誓いをお聞きになったのか。 そしてまた、お二人に見守られて華燭の典が開かれようとしている。


 小笠原祥子さまは、海外に留学後、経済学の博士号を取るため研究施設に入られている。 『なかなか思うとおりになってくれないわね、いろいろな人の思惑が絡んでくるから』 アドバイスを求められたのだけれど、私には難しくてよく分かりません。
 支倉令さまは、先日7冊目の料理のレシピ本を出版されテレビ出演などもされている。 『もう8冊目の依頼が掛かっているのよ。 いま資料とか古文献とか読んでいる最中よ』 今度は、豆腐料理を中心にされる予定とか。


 10月の柔らかな太陽の光に照らされて、細かな模様の美しいステンドグラスから、祝福の天使が床の模様としてきらきらと降り立っている。


 松平瞳子ちゃんは、舞台と洋画の吹き替えなどを中心に活躍している。 ”摩訶不思議シリーズ”は、いまだに続いていてその同行取材や聞き取りにと忙しそうだ。 『たしかに忙しいですわ。 でも、好きなことをやっていられるのです。 疲れませんわね』 充実した毎日のようです。
 細川可南子ちゃんは、雑誌の編集者として、なんと瞳子ちゃんの”摩訶不思議シリーズ”の担当をしている。 『締め切りの読みが甘い作家のお守りって大変です……』 そう言いつつも楽しそうに微笑んでくれた。
 二条乃梨子ちゃんは、先日心霊相談の仕事を本格的に始めるため、マンションの一室を借りたんだとか。 『もう少し睡眠時間がほしいところですね』 一度相談を受けた人からは昼夜を問わず電話をしてくれてもかまは無いということにしているんだとかで……お肌大丈夫?
 有馬菜々ちゃんは、なんとアメリカで剣道の道場を開いている。 『”剣道の発祥は韓国だ”なんてことを言っているなんて許せますか?』 攻勢に出た菜々ちゃんは強い、がんばれ〜〜。


 曲が変わる、祝福の中にも緊張感が混じり今日の主役達の登場を待ちわびる。 やがて、聖堂の後ろの入り口が静々と開き、ゆっくりと、ゆっくりと時が動き出す。


 福沢祐巳……私は、少しバージョンアップしたお父さんの設計事務所で事務と営業と言う兼業をしています。 まあ、私の事はいいでしょう……。
 藤堂志摩子さんは、リリアンを卒業後イギリスに留学そちらで宗教学の助教授になって、なんと今朝ペルーからこの式のためだけに帰ってきた。 『なかなかスリルがあったわ、ライフルを突きつけられたり、遺跡の中で転がる石に追いかけられたり、ネオナチが襲って来たり……』 笑顔で言っているけれど、それって本当に宗教学?
 島津由乃さんは、由乃さんは…………。


 赤いヴァージンロードを、真っ白なウエディングドレスを身にまとった親友がゆっくりと神前へと進む。 お詫びデートなんて言っていたけれど、あの日祐麒に魔法を掛けられた由乃さん。 『もう終わりよ!!』と言うような喧嘩もあったけれど、その魔法は解けることはなかった。 

『永遠の愛なんていらない。 せっかく好きになったんだから、もっともっと好きになりたい。 もっともっと愛していきたい』 そう言っていたと言う友。 でもここでの台詞は ”死が二人を別つまで、永遠に愛することを誓いますか?”  さて、なんと切り替えしてくれるか、お義姉ちゃんは今から楽しみにしています。 



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