「あ! 志摩子さんだ!」
「ちょっとまてー!」
私は慌てて志摩子さんに駆け寄ろうとするもう一人の私を引きとめた。
「なんで邪魔するの?」
「あの志摩子さんはこっちの志摩子さんなの!」
「うーん、私のケチ」
「だーかーらー! 昨日も言ったでしょ、こっちの志摩子さんはノーマルなんだから!」
「でも、私も最初会ったときは志摩子さん普通だったよ?」
「それはあなたがその道に引き込んだんでしょ!」
「……そうだったかな?」
お分かりであろう。
昨日の晩、突然現れた私の前に現れた私はいわゆる百合。いい変えればガチ。
つまり私と志摩子さんが『そういう関係』だった世界、そういうパラレルワールドから来た二条乃梨子だったのだ。
もちろんこちらの私と志摩子さんはノーマル。二人の間には純粋な美しい友愛を育てている。
「うそつけ」
「モノローグに突っ込むなっ! 嘘じゃないもん!」
「うそうそ、あなただって志摩子さんとあーんなことやこーんなことしてみたいって思ったことあるはずよ?」
「ないっ! 断じてないっ!」
「そうかな? じゃあ、志摩子さんにそういうことされるの、嫌?」
「え!? えーっと……」
「嫌じゃないんじゃない? 志摩子さんなら」
「それは…………」
「ほれほれ、どうなのかなぁ?」
「……どうなのかしら?」
「って、志摩子さん!?」
そういえば近くに志摩子さんが居たんだった。
「ごきげんよう、乃梨子。今日は二人なのね」
「って、志摩子さんこの惨状を見てそれだけですか」
「ええと『そういうこと』して欲しいの?」
どっひゃーっ、と私はずっこけた。
「し、志摩子ひゃん、聞いてたんですか……」
「ええ、でも途中からよ」
「途中というと?」
「『そういう』ことって何かしら?」
「あ、それはですね」
「まてまてまてまてっ! 志摩子さんを悪の道に引きずり込まないで! 志摩子さん知らないで聞いてたんですか?」
「だって楽しそうだったから」
楽しそうに見えましたか。
「別に楽しんでません」
「そうなの?」
「とにかく! こっちはこっちで互いに望んだ関係を築き上げているんだからあなたは余計なことしないで!」
「まあ、こっちの私がそういうんなら」
「大人しくしてくれるのね」
「ひとりえっちのつもりで私にせまるっ!」
「ちょっとまてー!」
いきなり抱きつかれたというか擽るんじゃない首筋なめるな襟から手突っ込むなあんたほんとに私かちょっとはっちゃけすぎ「だぁーーーいいかげんにしろ!!」
「……はぁ、はぁ、はぁ」
「乃梨子……暴力はいけないわよ」
志摩子さんは倒れている私に近づいていった。
「あ、あのね、『それ』に触る前に聞いて、志摩子さん」
ちゃんと説明した方がよさそう。
向うの志摩子さんと私がそんな関係なんてちょっと志摩子さんにはショックかもしれないけど。
「でも……」
「あのね(〜中略〜)というわけなの」
「そうだったの。その中略はどうかと思うけど判ったわ。……私と乃梨子が……」
志摩子さん、ショックを受けるんならわかるんだけどなんで頬を赤らめてるんですか?
「ねえ、乃梨子?」
というか、潤んだ目で私を見つめないでほしいんですけど。
「私ね、本当は乃梨子のこと」
私の頬に手を当てて顔を寄せてくるのはなんなんでしょう?
「し、志摩子さん……」
「貴方が欲しかっt」
がつん。
「がつん?」
突然、私に迫っていた志摩子さんが崩れ落ちた。
「よかった。間に合ったわ」
「って、志摩子さん!?」
志摩子さんの後ろにもう一人志摩子さんがいた。
「……あなたはどっちの乃梨子かしら?」
「え? あ! 私、こっち! 普通の乃梨子だよ!」
「よかった」
志摩子さんもあっちのもう一人の志摩子さんと会っていたそうな。
こっちの二人がノーマルだって聞いて『大きなお世話』をしてきたそうだ。
私を『開発』するって言って出て行っちゃって慌てて追いかけてきたんだって。
「志摩子さんも災難だったね」
「ええ、乃梨子もよ」
「この二人どうする?」
「説得して大人しくなってくれれば良いのだけど」
「だめなら隔離?」
「そうね。私たちの関係を邪魔されそうだし」
「は? 関係って?」
「……邪魔されるくらいなら先に頂くわ」
そう言いながら、志摩子さんは艶かしい目で私を見つめた。
……えーっと、これはどの世界の志摩子さんかな?
終われ