【610】 祥子、新境地  (8人目 2005-09-22 07:10:12)


『がちゃSレイニー』

     †     †     †

『はぁ』

 ここは三年松組の教室、つまり祥子の教室だ。
 先程の惨状を目の当たりにして祥子は眩暈を覚えた。

『ふぅ』

 廊下からこちらを伺う人だかりを、チラリと一瞥してさらに溜息。

(迂闊だったわ。そうよね、あの娘なにげに策士だったのを忘れていたわ)

 あの瞳子ちゃんを薔薇の館のお手伝いに抜擢し、幻滅させ喧嘩別れした可南子ちゃんすら瞬く間に手元に引き寄せた。
 あの二人を篭絡した手腕。可南子ちゃんの時は、さすがの祥子も背筋に冷たいものが走った記憶がある。
 未遂に終わったが、祥子すらも罠にはめようとしたくらいだ。

(しかも恐ろしい事に本人には自覚が無いのよね、詰めも甘いし)

 それにこの号外は、おそらく真美さんと由乃ちゃんの仕業。記事には白薔薇さまのことが書かれてある。

(まったく…後で令と由乃ちゃんに御灸を据えなくては)

 由乃ちゃんと祐巳は目の届く範囲で監視していないと、とんでもない事になる。
 という事実を突きつけられ、その事に気がつかなかった自分に少し落ち込む。

(一先ず自分の身の安全だけは確保しなければならないわね)

 そう決意して立ち上がり廊下へと向かう。
 そこかしこから悲鳴のようなものが聞こえるが無視をして注意する。

「あなた方、はしたなくてよ。静かにしてちょうだい!」

 凛とした良く通る声で周りを黙らせる。
 これでしっかり私の言葉を聞くことができるでしょう。

「今からこの号外に対する紅薔薇としての見解を話すから、最後までしっかり聞いてちょうだい」
「「「・・・」」」

「まず最初に言っておくわ。私は祐巳以外を妹に迎える気はありません!」
『えー』声があがるがキッと睨むと静かになる。

「この号外には白薔薇さまの噂だけが書かれてるのは、みなさんご存知よね?
山百合会幹部である三薔薇のうちの紅薔薇と黄薔薇は、この提案にはすでに反対しています。
だから仮に白薔薇が賛成しても二対一で提案は否決と言う事。
それに多姉多妹制を明文化する権限は山百合会に無いわ」

 そう。この号外に載っているのは、要約すると次の二つだけ。
 『白薔薇さまが多姉多妹制を提案したらしい』
 『白薔薇さまが二人目の妹を松平瞳子嬢にしたらしい』

「納得いただけて?」
「「「では紅薔薇のつぼみの話は?」」」

 何人からか声があがるが迷わず返す。

「それは噂でしょう。違って?」
「「「はい…わかりました」」」

 言うと、みんな納得したのか三三五五に散って行った。
 祐巳の噂を確かめる手段は、持ったらしい妹の名前が未確認だから本人に確かめる以外ないのだ。

『ふぅ』

(放課後、生活指導室に呼び出されるかもしれないわね。あの娘達の後始末がこんなに大変だったとは思ってもみなかったわ)

 祥子は、今日三度目の溜息をつくと新聞部を注意するべく教室を後にした。


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