「ぬあああああああ!」
唐突に大声をあげたのは、『マリアさまが見てる』の作者、紺野御雪だった。
「どうしました!?」
慌てて紺野先生に駆け寄ったのは、同作イラスト担当、いびき麗音だ。
「も〜、どうしてくれるのよ〜!」
泣きそうな顔で、悶えまくる紺野先生。
「ですから、いったいどうしたとおっしゃるのです?」
締め切り前日であっても、滅多に取り乱さない紺野先生が、ワープロソフトとブラウザを起動しているパソコンを前に、頭を抱えている。
「これ見てよ〜。せっかく新作で使おうと思っていたネタ、このサイトで既に使われているのよ〜」
「あー、本当ですね」
「ど〜しましょ、これで21回目よ、21回目!私の作品に好意を持ってくれるのは嬉しいけれど、次から次へと、思いつくネタを片っ端から使われて行ったんじゃぁ、全然進まないわ〜」
ファンの意見や動向を把握するため、紺野先生は頻繁にマリ見てサイトを閲覧している。
要望が多い展開は積極的に用い、反対意見が多い部分はストーリーに影響が無い限り省くようにと、結構読者の反応が作品に表れる。
そんな中、メインストーリーに関る「ハズ」のネタを先んじて使われた日には、今のように、頭を抱えざるを得ないのだった。
特に人気の小説系二次創作サイトになると、総量では原作を上回る文字数のSSが掲載されているのだ。
ネタも被ろうというものだ。
「もうこうなったら、ファンがまったく予想もしなかった展開に持ち込むしか…」
「加奈子が祐美の妹になるとか?」
「それも良いわね」
「灯子が吉乃の妹になって、奈々がさらにその妹になるとか?」
「いいねぇ、採用しようか」
「マジっすか!?」
いびき絵師の冗談に、半ば本気で答える紺野先生。
「いくらなんでもそれは無茶です、止めてください!」
「もちろん半分冗談よ」
「それって半分本気ってことですよね!」
「どうかしら?うふふふふ…」
「ハッキリしてくださいよ!」
「うふふふふふふふふふふふ…」
こうして、人気作品『マリアさまが見てる』は、紺野先生の苦悩と開き直りの果てに、日の目を見るのであった…。
なお、当作品はフィクションです。
登場する人物名、作品名は、実在のそれとパッと見は良く似ていますが、直接関係はありません。