【622】 笑えない明日  (ROM人 2005-09-23 04:14:44)


 がちゃSレイニーシリーズ。
 篠原さんの【No:538】「操を立てるロザリオ返し」を読むまで頭の中にちらついていたBADエンドです。

※かなり暗いお話ですので苦手な人はスルーしてください。

――――――


二条乃梨子は深々と溜息をつきながら、薔薇の館から椿組への道を歩いていた。
薔薇の館の空気が重い。
祐巳さまが居ないだけで、薔薇の館はこうも違ってしまうのだろうか。
いや、違う。 確かにそれもあるけど、そこにあるはずのものが無い事が、
私を重い気持ちにさせているのだと思う。
志摩子さんのロザリオ。
それは、きっとただの象徴的なものであって、
例えそれが無くても志摩子さんとの関係が変わるはずもない。
そうは思っているのだけど、どうにも割り切れない。
もやもやとした気持ちで、今の重苦しい空気を漂わせた薔薇の館に居るのは苦痛だった。
志摩子さんとも何を話していいのかわからない。
だから私は、忘れ物を取りに行くという名目で薔薇の館から逃げ出したのだ。

教室につくと、すでに誰も残っては居なかった。
自分の席に静かに腰を下ろすと、机の上に伏して溜息を吐き出す。
祐巳さまと瞳子がいけないんだ。
多分、お互いに好きなくせにはっきりとしないから。
ここに居ない親友の顔を思い出しながら心の中で悪態をつく。
鬱陶しいと思ったときもあったけど、世話好きで、
この学園に場違いだとしか思えない私を、一生懸命学園になじませようとしてくれていた。
志摩子さんと姉妹になる様な間柄になれたのだって、彼女のおかげだ。
やり方は強引だったけど。
「このままでいいはず無いから」
そうだ、今私は初めて彼女のために何かをしてあげられるときだったんだ。
いつもしてもらうばかりで、恩返しと呼べるものなんて何もしていなかった。
彼女にしてもらったことの半分も私は瞳子に返せていない。
だから、頑張らなければいけないんだ。
薔薇の館に戻ろう。
そう思って私は立ち上がった。

カラン

私が立ち上がった際に、私の机から何かがこぼれ落ちた。
普段から大ざっぱにものを詰め込んでいたのが原因だろう。
だが、机からこぼれ落ちたそれを見て私の思考が停止した。

それは、見間違うはずもない。
志摩子さんのロザリオだった。
そして、一緒に一通の手紙が落ちていた。

『 乃梨子さんへ
  これは、貴女がしているべきものですわ。
  いろいろありがとうございました。
  乃梨子さんと知り合うことが出来て、
  瞳子は楽しかったです。

  さようなら              』


手紙にはそう書かれていた。

私は、馬鹿だ。
瞳子が志摩子さんのロザリオを受け取って喜ぶはずなんて無いじゃないか。
彼女が平気でそれを持ち続けられるはずなんて無いじゃないか。
私は薔薇の館に向かって走った。
そして、事情を説明すると薔薇の館に残っていた全員で瞳子を捜した。
探さなきゃ。
全部打ち明けて、謝らなきゃ。
私は校内をくまなく探し回り、通学路もくまなく探した。
紅薔薇様は瞳子の家に連絡してくれた。
しかし、瞳子は家に戻っていなかった。
だとしたら、どこに?
考えても、考えても私は瞳子の行きそうな場所が思いつかない。
私は、瞳子のこと何も知らないんだ。
こんなんで何が親友だ。
私は自分で親友だと思いこんでいたのではないだろうか。
自分で親友だと思いこんで、瞳子のためだと勝手に思いこんで瞳子を騙して。
瞳子がどれほど傷ついているかなんて考えても居なかったんだ。

「瞳子……」
もう、とっくに日は暮れていた。
連絡係を引き受けてくれた由乃さまによると、瞳子はやはり見つかっていないらしい。
私は力無く公園のブランコに腰掛けた。
ずっと握りしめていた志摩子さんのロザリオを見つめた。
ぐんにゃりと視界が歪み、涙が溢れてくる。
どんなに罵られてもいい。
嫌われたっていい。
今すぐにでも瞳子に会いたいよ……。

それでも、それ以来、私は瞳子に会うことは出来なかった。




瞳子が発見されたのはそれから1週間も過ぎた頃だった。
冷たい冬の海岸に深い色の制服に身を包んだ少女が打ち上げられた。




それからのことを話します。
祐巳さまは、結局妹をお作りになりませんでした。
そして山百合会の選挙には蕾が一人も立候補しないという前代未聞の出来事。
山百合会のメンバーは一新され、薔薇様達の卒業を期に、
新しい山百合会がリリアン女学園を導いていくことになりました。
私は、志摩子さんにロザリオ返しこの学園で再び一人になりました。
たった一人で、私は瞳子の居なくなった学園で生きて行かなくてはならない。
それは私の罪の形。


カッターナイフの刃を静かに押し出して、今日も私は自分の体に傷を刻み続ける。
こんな痛みなんて、冬の海の冷たさに比べれば些細なものでしかない。
私はあの時の瞳子を忘れない。
冬の海岸で変わり果てた姿になってしまった彼女のことを。


たとえ、親友と呼ぶ資格が無くても、忘れない。



――――――――

こんなのが浮かんでしまい、かなり鬱でした。
最近、がちゃsレイニーーシリーズが明るい方向に向かってきて嬉しいです。
もう、BADエンドの可能性無さそうなんでせっかくなので投下させてもらいます。
がちゃsレイニーーシリーズが幸福な終わり方になりますように。
それではROM人はROM人らしく楽しみに待っています。


【レイニーダークルート(仮) まとめリンク】

【No:622】「笑えない明日」 −ROM人
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【このセリ掲示板: No:3】「悲しみの別れ 〜笑えない明日 〜」 −琴吹 邑さま
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【No:728】「雨上がり妹を乃梨子に」−ROM人
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【このセリ掲示板: No:10 】「Resurrection」 −琴吹 邑さま
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【No.851】 「悲しみにさようなら」−ROM人


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