「加東さん加東さん!」
目敏く此方を見付けるや、すかさず寄って来た彼女は佐藤聖さん。 このキャンパスで知り合った、まあ悪友としか呼べない存在だ。
「……どうしたの」
「ね、ね、これ見てよ!」
やけに嬉しそうな彼女。
このニヤニヤした美貌を見るにつけ、薔薇は薔薇でも白だけは有り得ないでしょ、と何時もながらに思いながら。
「何かしら」
手渡された物、一枚の写真を一瞥する。
(――なっ!?)
それはなんと言うか、エッチな写真。 その一言に尽きる。
だが。 そこに写っている女性は。
ある意味では実用的とも言える、極端に面積の狭い水着のみを身に着け、そのポーズは不必要なほどサービス精神に溢れていて。
その顔は――私。
佐藤さんはというとニヤニヤどころか、もうニタリニタリとエロさ満点で此方を見ている。
「ウヘヘヘ、加東さんって大胆――」
「あら、懐かしい写真ね。 今思うと私もよくこんな事やったわよね……。 佐藤さん何処で見つけてきたの?」
「へ? あれ? これ、私が作った合成写真なんだけど……」
佐藤さんは口を開け放ってぽか〜んとしている。 いつもしたり顔の彼女にはレアな表情だ。
「えっ? あっ!?」
「ええ〜〜!? か、加東さんこんな撮影した事あるのっ? お仕事? ねえ、いつやったの? 去年?」
「し、知らないわ……。 あ、あなた最近ずっと端末に向かってたから、真面目にやってるわねと感心してたのに……。 佐藤さん、こんな物を作っていたのね……」
「い〜じゃん♪ ねえねえそんな事より本物の写真があるの? あるんだよね? 見せて見せて!」
完全に火が点いてしまったようだ。 押し倒さんばかりのもの凄い勢いで纏わり付いて来る。
そのうえドサクサ紛れに私のムネやらオシリやらさわさわしてきた。 ヤダどこ触ってるのよ、このエロ薔薇さま。
「し、知らない」
「ふふ〜ん♪ そんな真っ赤な顔して恥ずかしがりながらとぼけても説得力ないって。 ね〜〜、み〜せ〜て〜〜!」
さわさわ、さわさわ……。
(ぐっ。 我慢、我慢……ここで騒いであの合成写真をばら撒かれるわけには)
「……。 写真は残ってないのよ。 ホントよ」
「え〜? そんなのヤダ〜! あっ、じゃあ撮影会しようよっ! ね〜〜、しよ〜〜!」
さわさわ、さわさわ……。
(……我慢……我慢……)
「ううっ、しょうがないわよね……。 その代わり、この事は他の人には絶対内緒にしてよね……」
「おっけ〜! わ〜い撮影撮影っ♪」
エロ馬鹿さまは、私の体をようやく解放して万歳三唱を始めた。
「一時間位したら私のうちに来て……。 準備しておくから……」
「うん、カメラマンも連れて行くよ。 綺麗に撮って貰おうねっ♪」
「え!? 今、内緒にって――」
「だいじょ〜ぶだって、口は堅い子だから。 じゃあまた後でっ!」
「ちょっ、待っ――」
「カ〜〜メ〜〜ラ〜〜ちゃ〜〜〜〜ん!!」
私の制止も聞かずに、エロ王さまは前傾姿勢の理想的なフォームで走り去っていった。
「さてと……」
携帯を取り出す。 番号を聞いておいて良かった。
「あ、ロサキネンシスさん? 加東景です、え〜と、ごきげんよう?」
電話の相手は当然ロサキネンシスさん。 あのダメ人間について、一番詳しい人物だ。
「――という訳で、あのエロおやじのサイズを教えて欲しいのだけど」
『それなら私が持っているわ。 そういう衣装なら、きわどい物からとても恥ずかしい物まで、聖のサイズで色々取り揃えているわよ』
「そ、そうなんだ。 なぜ持ってるのかは訊かないでおくわ……。 協力してくれる?」
『うふふ……。 10分で行くわっ!』