【64】 外伝白ウサギ抱きまくら  (春霞 2005-06-20 04:01:05)


このお話は 【No:38】 琴吹 邑さま作 『抱きまくらお姉さま』の裏側に当たります。 
単独でも読むに足るとは思いますが。 そちらを先にお読みくださると、さらに楽しく成れると思います。 
では、どうぞご照覧ください。 

             ◆◆◆

どうにもしっくりとこない。

純白。総レース。ガータベルト付き志摩子さん。 真っ赤なベビードール志摩子さん。 ピンクのネグリジェ志摩子さん。 白い肌襦袢な志摩子さん。 赤い肌襦袢な志摩子さん。こちらは寝乱れ風味。エトセトラ。 乃梨子ちゃんの為の撮影だから、どれもファインダーの向こうに愛しい妹を思って柔かく微笑んでいる。
およそ大別すると、2通り。緩やかに両手を開いて、相手を迎え入れようというウェルカムバージョンと、半身でしどけなく横たわった誘惑バージョン。

まさに、芸術である。目の幸福である。645サイズのスタジオ写真故のきめ細やかな肌の質感が麗しい。 ……が。
「ベターではあるが、ベストではない。か。」おかしい。確かにあの撮影会の時、背筋に震えが来るような1枚が撮れた感触が有ったんだけれど。なぜ、今になるとそれが見当たらないのか。

「蔦子さま。私の作品も見てくださいますか。結構自信の一品です。」
「どれどれ、って。あれ1枚だけなの?」一緒になって結構撮っていたと思ったんだけど。
「1点中央突破です♪」一体何所でそんな言い回しを覚えてくるのだか。苦笑しながら目を手元に戻して見ると。
「…腕を上げたね。笙子ちゃん。」
黒のシルクにレースの縁取り。ガータベルト。ストッキング。その全てが志摩子さんの透き通るような白い肌を際立たせている。ピントも合っているし、余白のバランスも良い。 が。問題は。
「こんな表情、一体いつ?」
右手で口元を抑え、やや涙目。左手は、緩やかに身をよじり腰元へクロスして伸びてゆく。それによって強調され、たわみ歪む胸元。まさに究極。悔しいが良い写真だ。
「蔦子さまがフィルムを換えているときに、白薔薇さまがくしゃみをなさったでしょう。その瞬間を。」たしかに調子に乗って何種類も試しているうちに、志摩子さんがくしゃみをして、顔を上げた時には祐巳さんが毛布でくるんでいて「はい、もうお終い。志摩子さんが風邪を引いちゃうよ。」って言って撮影会は終わったのだった。

瞬間の、美?
「そうか」普段はロッカーに仕舞ってあるMam○ya645 ProTLを引っ掴むと、暗室へ飛び込む。

真っ赤な明かりの中、現像液に浮かび上がるそのシーン。「やはり、これか」

定着を済ませ、まだ濡れたその1枚を手に部室へ戻ると笙子ちゃんに御礼を言う。
「有難う、笙子ちゃん。原点を思い出したよ。」そう。この手元にある写真。白薔薇さまに駆け寄り毛布を羽織らせる祐巳さん。撮影会を皆で楽しんでいたままの明るさで。ちょっぴり友人の体調を気遣う心配と。同性とは言え、いや同性だからこその色香に酔ってほんのり染まる目元。

これが至高。私の至高。
「見た瞬間にシャッターを切っていたのね。そして、その後のばたばたで現像に廻すのを忘れていたんだわ。」原点はここにある。スナップショットこそ。1瞬を切り取る事こそが自分のスタイルだったのに。
「さすがに、最高級の素材がめったに無い姿を撮らせて貰えると言う事で 目が眩んでいたか。」我ながら情けない。負うた子に教えられるとは。「武嶋蔦子ともあろう者が。まだまだだな。」
「でも、お奇麗ですね。さすが紅薔薇のつぼみです。」横から覗き込む笙子ちゃん。「やっぱり蔦子さまは素敵です。こんな奇麗なものが撮れるのですから。」無邪気な姿だが。
「でも、」もしかするとこの子は、素材としてだけでなく撮影者としても一流になれるのかもしれない。私よりも年下の、私を唸らせる写真を撮れる少女。

何故? こんなに胸がドキドキするの? 


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