【661】 1つだけ確かなことは  (水 2005-09-29 03:06:00)


がちゃSレイニーシリーズ。 番外編?
くま一号さま作『ドリルがスキンシップひととき【No:654】』の続き……で良いのでしょうか。
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 薔薇の館から教室へと引き上げる。

 途中、乃梨子さんとは二手に分かれた。 二人一緒だと目立ってしょうがないという理由にして。
 本当の所は可南子にとって、乃梨子さんは足手まといだから。 乃梨子さんには悪いが、姉の不始末の所為なのだと諦めてもらおう。
 可南子一人なら追っ手をまくのになんら苦労はしないのだから。

「あっ、一年の細川可南子さんよね?」
 普段からは考えられない喧騒の中庭、おそらくは上級生の数名に早速声を掛けられる。
「……急ぎますので」
 そう言い残し、可南子はちょっと小走りでその場を後にする。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
 当然追いかけて来るが。
「では、ごきげんよう」
 近くの通行人をスクリーンにして、はい、さよなら。 一丁上がり。 これ位はお手の物。
 どうという事は無く、単にバスケットの技術の応用だ。 長身ばかりが目を引くだろうが、実はこれでも技巧派として鳴らしたのだ。



 それでも要らぬ接触は避けようと、足早に教室を目指していたが。

『でも……』
 聞こえてきた声がなんとなく気に掛かって、可南子は足を止めた。

 声の出所に目をやると、ちょっと木立の陰になった所に頭が見える。 1、2、3人。
 その内の一つは編み込み三つ編み頭。 見覚えがある。 可南子のクラスメイト、名前は敦子、だったと思う。
 ちょっと様子を見ることに決めた。

 三人の内で可南子が見知らぬ、おそらくは上級生の二人が熱心に敦子さんに話し掛けている。

「前から敦子ちゃんの事、可愛いなって二人で言ってたのよ」
「あ、ありがとうございます」
「あの話は知ってるでしょう、受け取ってよ」
「え〜っと……」
「大丈夫よぉ。 先にお姉さまになってる方を邪魔にしたりはしないから」
「そうよ、みんなで仲良くやりましょうよ。 きっと上手く行くわ」
「そ、そうですわね。 そういうお積もりならば……」
 敦子さんは説得されてしまったようだ。 最初の不安そうな顔が、明るい笑顔になってしまった。

(ああ、世話が焼けるわね)
 後で泣かれる方が面倒だという事にして、可南子はちょっかいを出す事にした。


「止めておきなさい。 後悔するわよ、敦子さん」
「えっ? か、可南子さん」
 いきなりの闖入者に驚いているようだ。
「な、なによあなた。 あなたには関係無いじゃない、横から口を出さないでよ!」
「そうよそうよ!」
 多分二年生だろうが、先輩二人が盛んに吠え掛かってきた。 面倒だから適当にあしらう事にする。
「あなた方よりは敦子さんと関係あると思うけど。 クラスメイトだもの。 そっちこそ邪魔よ、口を挟まないで」
「ぐっ……」
 頭の悪い連中は放っておいて、可南子は敦子さんに向き直った。

「敦子さん、教えてあげるわ」
「な、なに?」
「一つだけ確かなことは、あなたがロザリオを受け取ってしまったら後で絶対皆が泣くって事。 あなたのお姉さまを含めてね」
「えっ?」
 敦子さんは予想もしてなかった様子で目を丸くする。

「何言ってるのよあなた、みんなで仲良くすれば良いじゃない!」
「そうよ、血の繋がった本当の御姉妹の場合、たくさん御姉妹がいらっしゃっても仲良くやっているじゃないのよ!」
「そうですわよね?」これは敦子さん。
 可南子は敦子さんと話をしているのだが、用の無い先輩方二人が食って掛かってきたので相手をしてやる。

「ふう、頭が悪いわね。 本当の姉妹の場合、表面上はどんな関係に見えたとしても、その根底には覆せない序列があるから成り立っているのよ。 歳の差という名のね。 あなた敦子さんの二人目のお姉さまになって、一人目の上に立つの? 下に就くの? 全く対等というのは有り得ないわ」

 理屈が正しいかどうかは分からないが、構わず言い放つ。 こんなものは勢いさえ有れば良い。
 すると、何か思う所があったのか、先輩方二人は静かになった。 こんな人達はどうでも良いから放置する。

「そう言う訳で、スールというのは普通の姉妹の有り様とは違うのよ、敦子さん。 特別なの」
「そんな事、言われなくても」
「分かってないわ。 あなたお姉さまとはスールの契りを結んだのよね?」
「それが?」
「この場合の契りって、結婚に近いものじゃない。 あなた聖書朗読クラブよね、今まで何を学んできたのかしら」
「あっ……!」
 やっと話が通じたようだ。 思っていたよりも苦労した可南子は、内心でホッと息をついた。



「ありがとうございました、可南子さん。 ご助言頂きまして……」
 敦子さんは目に見えて落ち込んでいる様子だが、律儀にも可南子に頭を下げてきた。 先輩方は、「ごめんなさい」と一言だけ残して立ち去った。

「目は覚めたようね」
「ええ、済みませんでした。 可南子さんにお手数をお掛けしてしまって」
「済まないと思うなら、ちょっと頼まれてくれない?」
「え? ええ、良いですけど……」
「あなた今から聖書片手にお姉さまの所まで行って、一緒にクラブ活動なさい」
「は?」
「さっきの先輩方みたいな愚かな連中の暴挙を未然に防ぐのよ。 とっ掴まえて説教するの」
「あ……」
「この役目はあなたたち聖書朗読クラブに一番相応しいのではない?」
「そうね、その通りだわ……。 分かったわ、可南子さん。 お姉さまを通してクラブの皆さまにも動いて頂きますわ」
 敦子さんの目に輝きが宿り始めた。 いつもの調子に戻りつつあるようだ。

「悪いわね、私は他にする事があるの。 任せていいかしら」
「ええ、勿論です。 では早速動きますわ、ごきげんよう可南子さん」
「ごきげんよう敦子さん。 頼むわね」

 可南子は元気良く駆けて行く敦子さんを見送りながら、すべてが上手く行ってくれるように、自分が上手く立ち回れるように、いつの間にか祈っていた。


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まつのめさま作『理想すれちがう【No:662】』に続く


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