【678】 心の扉華麗にスルー  (琴吹 邑 2005-10-01 08:59:21)


琴吹が書いた【No:626】「おいしいやきもち 」の続きになります。

物語を最初から確認したい場合は
http://hpcgi1.nifty.com/toybox/treebbs/treebbs01.cgi?mode=allread&no=81&page=0&list=&opt=
を参照してください。



「ただいまー」
 家に帰ると、私は、ぐったりとソファーに座り込んだ。
「おかえりーどうしたの? なんか疲れているみたいだけど」
「うん、ちょっとねー」
 正直、疲れたのだ。祐麒さんと一緒にいた時間は、楽しかったけど、かなり緊張していたし。
 ただ何より、疲れたのが志摩子さんだった。志摩子さんもやっぱり女の子なんだなあと。
 志摩子さんが、あんなに眼をきらきらさせて、祐麒さんと仏像を見に行ったときのことを聞いてくるとは思っても見なかった。
 まあ、誘っていかなかったことのささやかな復讐も多少は混じっているのかもしれないけど。

 結局、あそこで、別れてしまったから、祐麒さんに対してのマイナス点がプラスになることはなかった。
 多分、あのままどこか行っても、マイナスがプラスになることはなかっただろうと思うけど。
 とりあえず、半日の評価の結果として、彼の評価はマイナスだったのだ。
「覚悟決めなきゃダメかな?」
 私は、菫子さんに聞こえないように、そうぽつりとつぶやいた。




 晩ご飯を食べ、お風呂から上がると、パソコンの電源を入れた。

 OSが立ち上がると、すぐにインスタントメッセージングソフトがメールの着信を告げた。
 広告かなと思いつつ、メールボックスをあけると、「本日はお疲れ様でした。」というタイトルでメールが届いていた。



subject:本日はお疲れ様でした。
sender:福沢 祐麒

本日はお疲れ様でした。
あまり関心の無かった仏像に、少し興味が湧いてきました。
特にあの羽付きの仏像は興味深く、後で、自分でも調べてみようと思いました。

あのあと、藤堂さんはどうでしたか?
二条さんは大丈夫でした?




 なんで、祐麒さんが私のアドレスを知ってるんだろうと首をかしげ、すぐにそう言えば祐巳さまに、アドレスを教えたことがあったのを思い出した。
 その祐巳さまの方から、メールが来たことは一度もないのだけれども。
 リリアンでメールアドレスの交換をしたことがないから、意外とリリアンではパソコンの普及率は低いのかもしれない。
 そんなことを頭の片隅で思いながら、私は返信ボタンをクリックした。



subject:本日はお疲れ様でした。ありがとうございました。
sender:二条乃梨子

本日はありがとうございました。
この機会に、仏像に関心を持っていただけたならば、幸いです。
羽藕観音は確かに調べてみると、面白いかもしれません。
何かわかったら、是非教えてもらえないでしょうか。

心配かけまして、本当にすみません。
藤堂さん――志摩子さんの方は大丈夫です。

私の方も、特別問題ありません。
まあ、問題になるとすれば、明日以降だと思いますが……。

今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。

PS
このメールアドレスで、インスタントメッセージングサービスに登録してあります。


私は、文面をもう一度読み直した後、メール送信のボタンをクリックした。



【No:714】へ続く


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