【680】 いつかきっと  (朝生行幸 2005-10-01 22:24:12)


 毎日、ベッドの上で見上げるのは、鈍色の空。
 まれに日差しが差し込むも、すぐに閉じる雲の亀裂。
 病床についてから、いったいどのくらい経ったのだろうか。
 近頃は、雨の日にはいつも、あのことを思い出す。
 彼女は今、何をしているのだろうか。
 
 日々衰える我が身を嘆きつつ、心に浮かぶのはあの日の後悔。
 なぜ、謝ることが出来なかったのだろう。
 たった一度のつまらない意地のせいで、埋まることの無かった小さな溝。
 これは、己が犯した罪への懺悔。
 涙に似た雨が放つ静かな音だけが、自由に聞けるBGM。

 白む視界、動かない身体、そして、今にも途絶えそうな呼吸音。
 唯一持って行くことが出来るのは、やはりあの日の後悔だけ。
 珍しく雲間を切り裂き、我が身を照らす光。
 それは、やがて辿ることになる天への掛け橋。
 最後に願うのは、きっと届くはずのない想い。

「彩子さん」
 届くはずのない願い、聞こえるはずのない声。
「弓子さん」
 届くはずのない想い、出せるはずのない声。
 それは、神様がくれた、最後のプレゼント。

「ねぇ、奇蹟って信じる?」


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