「妹オーディション」より
うっとりとした目をしてロザリオを手の平で転がす少女の姿を眺めながら、由乃は「この子、どこかでみたことがあるような気がする」と思った。
どこでだろう。記憶ははっきりしない。でも、漠然とまったく知らない人ではないような気がするのだ。もしかしたら、直接会ったのは初めてなのかもしれないけれども。
「あ、ごめんなさい。お返ししますね」視線に気づいた少女が、あわててロザリオを差し出すので、由乃はその手の平から摘み上げた。江利子さまが曲がり角から姿を現したのは、まさに二人の手と手が触れあった瞬間だった。
「よしのちゃ――」
「ああっ、前黄薔薇さまだ。すみません、サインしていただけますか」
その時、やっと由乃にも理解できた。
「……まさか、その子?」
由乃は、その時聖さまのことを考えていた。