このSSは、一体のNo.550「黄色薔薇ごっこは道なき道」の続編のようなモノになっております。ですからこのSSを読んでいただく前にそちらの作品から読んでいただければ幸いです。でないとただの電波作品になってしまいますので(笑)
それからこの作品は完全なバカ作品です。間違っても原作の雰囲気など微塵もありませんので、読まれる際はお気をつけください。
では、本編に行かせていただきたいと思います。
今日もいつもどうりに、薔薇の館では黄色薔薇さまである由乃さまと乃梨子の親友であるドリルこと瞳子の熱いバトルが繰り広げられていた。
「ちょっと、ドリル。お茶汲んでちょうだい!」
「キィィー! どうして私が由乃さまのお茶を汲まなければならないのですの!!」
「そんなのあたりまえじゃない、あなたは私の第37代目の妹(仮)なのよ」
「くぅっ! グゥの根が出ないぐらい凄いのを入れてやりますわ!!」
はあ、またか。乃梨子は一つ溜め息をつく。ツッコミを入れたいのは山々だが、流石にかれこれ一週間、週6でほぼ同じ時間にまるで目覚まし時計のように鳴り始める二人を見せつけられてきた乃梨子の気力は根こそぎ奪われていた。
(ああもう、お前らがそんなにガミガミ鳴らなくてもこっちは起きとるわい! むしろお前らの方がええかげん目を覚まさんかい!!) ※乃梨子さんストレス過多
さっき乃梨子はサラリと一週間といったが、実はこれは普通ではありえないぐらい凄いことだった。そう、瞳子はあのブレーキペダルのかわりにアクセルペダルが2個ついたダンプカー由乃さまのスールローテーションに選ばれて一週間も続いているという前人未到の金字塔の記録を打ち立てていたのだから。
かちゃ
乃梨子がそのようなことを考えていると、瞳子が由乃さまに言われた通りにお茶を出しているのが乃梨子の視線の端に入ってきた。
「ふん、ご所望のお茶ですわよ。どうぞ、お姉さま(仮)」
「あら、いい香りね。ありがとう、ドリル」
とりあえず、ここは一時休戦といったところか。
由乃さまは微笑を浮べながら瞳子の入れてくれたティーカップを手にとり、瞳子も笑みを浮べながら自ら入れたほのかに湯気が立ち上るティーカップをゆっくりと手にとっていた。
二人のその様子を見て乃梨子は、案外二人の相性は悪くないのかな、となんとなくだが感じないでもなかった。
瞳子も由乃さまも二人は否定するだろうけど、乃梨子からみればお二人は結構似たもの同士、意外とお似合いのスールになるのかもしれない。
(・・・瞳子がいいのなら、それもいいのかもしれない。祐巳さまのことを考えるとちょっと複雑だけど・・・ってやめよう。これじゃあ、あのときと一緒だ)
ふう、乃梨子は勇み足をしそうになる自分の気持ちにブレーキをかけるように溜め息をついた。そうだ、あのとき乃梨子はオーディションのときに、瞳子にお節介をかけようとしたけど、やめた。だって、それは結局、瞳子自身の問題なんだ、ってあのときに乃梨子は分かったのだから。
だから乃梨子はもう瞳子になにもいわない。たとえこのまま二人が本当のスールになったとしても、それならそれでいい。うん、そう思う。
とりあえず乃梨子はそう考えを総括しようとしたとき、「ぶぼっ!!」という激しい奇声が乃梨子の耳に飛び込んできた。
「ぷーっ!!」
驚いて乃梨子が振り向くと、由乃さまの口からお茶が拡散メガ粒子砲のように激しく噴出し、それは綺麗な虹でも出るんじゃないかと思わせるような美しい放物線を描きながら、由乃さまの射線上正面にいた祐巳さまに激しく降り注いでいた。・・・ちょっと綺麗だった。
「こ、こら、ドリル!! どうしてこのお茶はこんなにスパイシーなのよ!! グゥの根どころか、息の根が止まるところだったじゃない!!」
「あら、お姉さま(仮)。いくら瞳子のお茶がお気に召したからってわざわざ祐巳さまにお分けにならなくてもよかったですわよ。おかわりならいくらでもございますのに、ほら」
瞳子はそう言いいながら、右手に「辛さ×10辛!! いろんな意味でお世話になったあの方に!」と表面にプリントアウトされた「ねりわさびZ」(特許出願中)を右手に持ち微笑を浮べていた。
、
(・・・前言(大)撤回、ない。この二人がスールになるなんて、ない。たとえ地球が3回滅亡しておつりがでるくらいの一大スペクタクルに襲われても、絶対にない!!)
ここで二人はお互いをけん制するかのように、じりじり、と間合いを詰める。それはまるで熟練した練達者のようにまったく無駄な動きがなかった。
(・・・ていうかその無駄のなさが山百合会にとっては全くの無駄ではないのか? もっと違うことに力つかえよ、あんたら)
対峙した二人がゆっくりと口を開き、戦いの前哨戦ともいえる舌戦を開始した。
「・・・どうやら姉(仮)として、妹(仮)を躾ないといけないみたいのようね、ドリル!!」
「ふっ、躾られるのはどちらですわね? お姉さま(仮)!!」
やがて二人がお互いに戦い前の挨拶を終え1分の隙のないファイティングポーズをとるにつれて、乃梨子は暗澹たる気持ちに激しく襲われる。
(・・・ああ、やっぱりこうなるのか)
お願い、誰か仲裁に入って、と乃梨子が願わずにいられないところに、ここで2人に割ってはいる声があがる。だが、ここで素直に乃梨子の期待どうりにいくほど最近の山百合会は乃梨子に対して優しくはない。
「そこの2人! よくも私の祐巳さまに汚らわしいものを!!」
(・・・ああ、やっぱりお前もか、ノッポ)
ここで被害者の祐巳さまに、せめて妹(仮)である可南子だけでも止めてもらおうとしようとしたが、その祐巳さまは「わくわく!」といった表情を浮べながら可南子の方に「頑張れ! 可南子ちゃん」などとエールを送っていた。
(・・・だめだ、このタヌキにはなんの期待も出来ない)
もはや残された手段は一つ、ここは山百合会最後の良心ともいえる乃梨子の姉でもある志摩子さんに頼るしかない。
乃梨子にとっての最後の砦である志摩子さんに仲裁を頼むべく、志摩子さんの座っているイスに視線を向けた。しかし、
「志摩子さん・・・って、あら?」
そこに最後の砦はなかった。
乃梨子がさっきまで志摩子さんが座っていたイスを見てみると、そこには志摩子さんの姿はなく、かわりに「志摩子」と書かれた名札がついたクマのぬいぐるみがちょこんと座っていた。
(ちょっ、志摩子さん、ど、何処に言ったの、志摩子さん!?)
きょろきょろ
乃梨子は慌てて志摩子さんを探してみるが志摩子さんは何処にも見当たらなかった。だが、志摩子さんは見当たらなかったがかわりに部屋の中で少し不自然なところが乃梨子の目に入ってきた。
(ん、あれ? なんで窓が全開に?・・・ってまさか!)
乃梨子が慌てて全開になっていた窓の方にいくと、そこには頑丈そうなそうなロープが窓の縁に括り付けられ、そのロープは真っ直ぐに館の外の地面まで垂らされていた。
そして乃梨子はそのまま薔薇の館の2階から外を見回すと、約20メートルぐらい先に志摩子さんらしき人影が銀杏並木の方に向かっていくのが見えた。
乃梨子はその人影に向かって叫んだ。
「志摩子さーん!!」
その声が聞こえたのか、その人影は正面の方を乃梨子の方に向けてきた。それは紛れもなく乃梨子の姉である志摩子さんだった。
「志摩子さーん!! 助けてー!! 志摩子さーん!!」
乃梨子がそう言った後、志摩子さんはちょっと困ったような表情を浮かべたあと、ゆっくりと首を振ってきた。
それはまるで「そんなのムリ」といっているように乃梨子は見えた。
「ちょっ、志摩子さん! そりゃないよ、志摩子さん!!」
だが志摩子さんは何事もなかったかのようにその足取りを銀杏並木の方に向けてダッシュ! そしてあっという間にその姿は見えなくなった。
乃梨子が打つ手がなくなったことで愕然としているところに、乃梨子の耳に何か「カーン!!」と金具を叩くようなような物音が聞こえてきた。
乃梨子が慌てて振り向いて見ると、そこには右手にゴングを持って左手のハンマーで叩いてなにかの合図をしているような祐巳さまがいた。
(・・・ああ、始まってしまった)
その鐘が鳴ることの意味、それは、マリアさまが目をそむけたくなるような光景が薔薇の館で開始される合図に他ならなかった。
次の瞬間、薔薇の館は激しい怒声と物音に襲われた。
「うおおおー!! ドリルゥゥゥー!!」
「きぃぃぃぃー!! このイケイケエェェー!!」
「全ては祐巳さまのためにイィィー!!」
ドン!! バタ!! ごとごと! ばきっ!!
ここで、祐巳さまが乃梨子に話し掛けてきた。
「はい、今日も解説者は乃梨子ちゃんです。乃梨子ちゃん、どうぞ」
「・・・だ、だめだこりゃ!!」
「はい、乃梨子ちゃんからでした!」
乃梨子はいつも激しく思う。このままでいくと「山百合会」が「山猿会」と呼ばれるようになるのは時間の問題ではないだろうか、と。
するするする。
がっしゃーん!!
(ん!?)ひょい
その思いは志摩子さんの脱出用ロープを伝って薔薇の館から逃げ出している乃梨子の頭上を、薔薇の館の2階からイスが猛スピードで流星のように流れていくのを見て確信に変わっていくのであった。
乃梨子がロープを伝い地面に降り立ったとき、上の方から金物を叩くような物音が聞こえてくる。
カン!カン!カン!
「勝者! 可南子ちゃん!」
「やりましたわ、祐巳さま!」
・・・マリアさま、乃梨子はもう挫けそうです。
終わり。
すみません、すみません、本当にすみません。完全なるバカ作品ですみません。