#このお話は、百合っぽいです。
#女の子同士のキスシーンとかあるので御注意ください。
午後の退屈な授業が始まる。
午前中の最後の授業が体育で持久走。
これだけ条件が重なれば、たとえリリアンの乙女達と言っても
睡魔に勝てない者達が続出する。
私、細川可南子もその一人だ。
いや、いつもは起きていられるんだけど。
そう、最近入部したバスケ部で少し頑張りすぎてるせいもあるんだから。
こら、そこ! 言い訳くさいとか言わない!
大体、この眠ってくださいと言わんばかりの単調な教師の授業運びだって問題だ。
生徒の集中力を高める為には……ダメだ、子守歌だ。
見ると二房のチョココロネも僅かに上下に揺れている。
マーブル模様のシャーペンを握ったまま、そろそろ彼女も夢の世界へと旅立とうとしていた。
授業中、居眠りをしていたことを後でからかったら、彼女はどんなリアクションを取るだろう。
一時期は、本気で啀み合ったりもした彼女だが、途中で気がついたことがある。
彼女はかわいいのだ。
ちょっかいを出して、怒らせるとその怒り顔がとてつもなくかわいい。
ぷんすかと怒る彼女を見るのが私は楽しくてしかたがないのだ。
私は、眠りに落ちそうだったのを必死で立て直した。
一緒に眠ってしまったのでは優位になって彼女を弄ることが出来ないから。
彼女の手に握られていたシャーペンが、かすかな音を立て彼女の机の上に転がった。
完全に眠ったな……。
後は、じっと我慢してこの授業を乗り切るのみ!
私は彼女のいろんな姿を想像しながら、必死に耐えた。
*
「み、見ていたんですの!?」
案の定、授業中の居眠りについて指摘すると彼女の顔は真っ赤になった。
「ええ、よく眠ってたわ」
「ううっ……」
「寝言で「祐巳さまぁ……好きです」とか言ってたわよ」
「そ、そんな事言うわけがありませんっ!!!」
子供のように握りしめた拳を振り回す。
ぜんぜん痛くないけど、当人は本気で殴りかかっているつもりなのだろう。
「ノートが涎でびしょびしょになっちゃったんじゃない?」
私はなおもからかい続ける。
すると、彼女は言葉に詰まり、さらに真っ赤になる。
「図星?」
「と、瞳子はそんなことないですから!」
「じゃあ、ノート見せてみなさいよ」
「ノ、ノートは、う、うちに忘れてきてしまったのですわっ!」
明らかに動揺している。
もう一押し。
「ふふふ、祐巳さまにも教えてあげようかしら」
彼女にとって致命傷となるキーワード。
「……」
「あら、どうしたのかしら」
急に彼女は押し黙る。
ちょっと効き過ぎた?
「……言わないでください」
私の袖をぎゅっと握り、俯いたまま彼女は言った。
「どうしようかしら」
「……なんでも言うことを聞きますから、(祐巳さまには)言わないでください」
どうしたのだろう。
彼女にしては、やけにしおらしい。
居眠りの件について、祐巳さまに知られると困ることでもあるのだろうか。
でも、これはチャンスだ。
「なんでも言うことをきくというの?」
「ですから、お願いです。 言わないでください」
その表情は真剣だ。
少し潤んだ瞳。
それは、今まで見た彼女の中で一番かわいい表情。
おもわず、胸がドキッとなる。
”自分だけのモノにしたい”
私の中で、どす黒い感情が高まってくる。
私は、彼女を誰も居ない空き部室に連れ込み鍵をかけた。
「そう、じゃあ……私にキスして。 唇に」
「えっ……。」
「私の唇にキスしてくれたら、言わないであげるわ」
私の目は、彼女のやわらかそうな唇に釘付けになっていた。
彼女は、急に体をこわばらせ、私から逃げようとする。
でも、私はそれを許さない。
伊達に、バスケ部で鍛えているわけではない。
逃げようとする彼女をいとも簡単に私は捕まえた。
「そ、そんな……き、キスだなんて……」
「そう、それなら……してもらうのは許してあげるわ」
そう言って、彼女の不意をついて唇を奪う。
やわらかい唇の感触と、ほんのりと苺の味。
授業中、隠れて飴をなめていたのね。
ガバッと彼女は私から逃れた。
「な、なにをするんですの!!」
「キス」
「そ、それはわかってますわ!」
「なんでかって事? それは私があなたのことを好きだから」
「な、なんで……」
「前から、かわいいと思っていたのよ。 年下だったら妹にしたいぐらい」
「で、でも」
隙を見せた彼女をもう一度捕まえる。
「か、可南子さんは瞳子のことが嫌いだったはずでは……」
まだ、彼女は私の言うことが信じられないようだ。
「信じられない? じゃあ、これでどう?」
私はもう一度彼女の唇を塞いだ。
今度は長く、そして情熱的に。
彼女の唇をこじ開け、堅く食いしばられた歯をこじ開け彼女の舌と私の舌を絡ませる。
「い、いや……瞳子は……こんなこと……こんなこと……」
私は優しく彼女を包み込むように抱きしめた。
「私の恋人になりなさい。 あなたに拒否権はないわ。 この部屋にはビデオカメラが仕掛けてあるのだから」
私は、欲しかったモノを手に入れた。
彼女は、だんだんと諦めたように私に従うようになった。
12月、瞳子は祐巳さまの妹になった。
もちろん、そう仕向けたのは私だ。
瞳子と私の関係がバレ無いようにするためのカムフラージュだ。
瞳子は祐巳さまの前では良き妹を演じている。
祐巳さまは気がついていないようだ。
ただ、市松人形が私と瞳子のことを訝しげな目で見ていた。
やつは要注意だ。
瞳子は私だけのモノだ。
誰にも渡しはしない。
「さあ、瞳子。 私にキスをしてごらん?」
「はい……可南子さん」
――――
なんだ、これは……。
普通に、可南子×瞳子のラブラブ話を書くつもりだったのに_| ̄|○