いつまでたっても決して慣れる事はありえないもの。
それは志摩子さんとの二人の時間。
今日は連休を利用して、ちょっと遠くまで足を延ばす事にして。
降り立ったのは、人影疎らな午後の田舎駅。 心地良い風に緑が匂う。
ホームからうかがえる光景はすでに秋の気配。
一頃より緩くなった陽射しに、紅葉が好く映えている。
無人の駅舎を後にして、線路と並行する通りを下りの方へと歩き出す。
通りとはいえ、ちょっと進めばそこはもう森のような所。
美しく色付いた木々のあいだをゆっくりと歩く私の装いは、この場に不似合いだろうか。
旅行前に新しく買って貰えた、黒いワンピースと靴。
この先の山寺までの道行には向かないか。 失敗したかもしれない。
少々危うい足元に、踏みしめながら歩を進める私の鼻先に訪れたものを手に取ってみる。
もみじ。 いや、カエデか。
「きれいだな……」
秋に最も相応しい色に着飾った一葉に、しばらく足を止めて見入ってしまった。
予定よりもだいぶ時間が遅くなったけれど、ゆっくりと歩みを再開する。
真っ赤な、本当に真っ赤な木々を見上げながら歩き続け。
「志摩子さんと一緒に来るはずだったのにな……」
ぽたりぽたりと何かが落ちた。