ええ、すみません。連投させていただきました。
この作品は一体の連載ものの草案で書いてみたものですが、一応単品で読んでも分かるようになってますので載せてみました。
祐巳が、瞳子ちゃんの手伝いを祐巳が押しかける形で付き合あってから3日ほどが過ぎたある日、瞳子ちゃんがポツリと祐巳に言ってきた。
「どうして、祐巳さまはそこまでおめでたいのですか?」
これはまたずいぶんなことを言ってくるものだ。だが、祐巳はそのストレートな物言いに不快は感じなかった。だって、祐巳は知っていたから。瞳子ちゃんの「おめでたい」は決して悪い意味だけじゃないということが。
さて、どう返したものだろう。ふむ、祐巳は少し考えた後、瞳子ちゃんに答えた。
「困ってる人がいて、なおかつそれが知っている人を助けることはそんなに不思議なことかな?」
答えが分かっていたのだろうか、瞳子ちゃんはすぐに返してきた。
「祐巳さまのは、少々度が過ぎてると思います」
なるほど。そうなのかもしれない。でも、それは仕方がないんじゃないか、とも思う。
「瞳子ちゃんの言うと通りなのかもしれない。でも、瞳子ちゃん。その瞳子ちゃんが言う度って、いったい何処からきてるの?」
瞳子ちゃんは、意表をつかれたような表情を浮かべていた。
「そ、それは……」
瞳子ちゃんが口篭もると、祐巳は続けて口を開いた。
「確かに自分でも、めでたいな、って思うときがあるよ。でもね、その度ってのは人によってそれぞれ違うのだから仕方がないとも思うんだ。……それとも、やっぱり今回のことは迷惑だった?」
祐巳が言い終わると、瞳子ちゃんは少し顔を歪めながら祐巳に短く返してきた。
「……そうは言いません」
「じゃあ」
祐巳が、いいんだよね、言おうとした時、瞳子ちゃんが祐巳を口を塞ぐように続きを言ってきた。
「まだ話は終わってません。祐巳さま、この際ですからははっきり言います。確かに祐巳さまの考えは基本的は間違ってませんし、正論だと思います。ですが」
瞳子ちゃんはそこで一旦言葉を止め、祐巳の方に真正面に視線を向けてきた。なぜだか祐巳には瞳子ちゃんの視線の中に悲しみのようなものが見えたような気がした。
祐巳と瞳子ちゃんの視線がぶつかる中、瞳子ちゃんがゆっくりと口を開く。
「祐巳さまは、その時の相手の気持ちを考えたことがおありなのですか?」
「相手の気持ち?」
それはちょっと意外な言葉だった。いや、別におかしいことではないか。相手の気持ちを考えずに何かをするなんてただの自己満足にすぎないから、瞳子ちゃんの質問は至極当然なことなのかもしれない。
祐巳はよく考えて、瞳子ちゃんに返答した。
「えっと、考えてはいる、と思う」
「それじゃあ、今回はどうして瞳子の手伝いをしてるのですか?」
手伝ってる理由、そんなの決まっている。瞳子ちゃんが心配だったから。
「えっと、瞳子ちゃんが心配だったから、じゃ、だめ?」
「それは、どういう理由で心配だったのですか?」
どういう、ったって。心配なものは、ただ心配だった、としか答えようが無い。
「どういうったって、やっぱり後輩が困っているのだから、お節介かも知れないのはわかってるけど、助けなきゃ、って」
祐巳がそう言うと、何故だか瞳子ちゃんは祐巳から視線を逸らして地面の方に向けた後、ポツリと呟いた。
「後輩が、ですか」
祐巳には、その行動の意味が分からないまま瞳子ちゃんに肯定の返事をする。
「うん、瞳子ちゃんはかわいい後輩だよ」
「……そうですか、よく分かりました」
なぜだか祐巳には、その言葉からは氷のようにヒンヤリとしたものが感じられた。
祐巳は不安になって瞳子ちゃんに声をかける。
「どうかしたの、瞳子ちゃん?」
だが、祐巳の声が聞こえなかったのか、瞳子ちゃんは俯いたまま何かぶつぶつと呟いていた。
様子がおかしいので祐巳が声をかけようとしたが、瞳子ちゃんは地面に向けていた視線をその自慢の両髪をブルンと揺らしながら挑むような目で祐巳の方に向けてきた。
「祐巳さま、先ほどの話の続きですが、やはり祐巳さまは何にも分かっていません」
「分かっていない、って、さっき言った、人の気持ちってやつ?」
祐巳がそう言うと、瞳子ちゃんは日頃の姿からは想像もできない冷たい笑みを向けながら口を開いた。
「ええ、そうです。祐巳さま、これからちょっとかわった話をしますので聞いてもらえますか?」
瞳子ちゃんは祐巳の言葉を肯定すると同時に、突然脈絡の無いようなことを言ってきた。
だが、その言葉から言葉では言い表せない、何か、を感じ取った祐巳は、瞳子ちゃんの方へ自然と頷きを返していた。
「祐巳さま、ひとつ質問をします。例えばの話、ですが、一匹の子犬が寂しそうに鳴きながら祐巳さまの足元にいたらどうしますか?」
どうする、といわれても。
「えっと、頭をなでたり、餌をあげるなりしてかわいがると思う」
おそらくは大多数の人間がそうするのではないだろうか? 祐巳の答えに瞳子ちゃんは予想どうりというような顔をしながら質問を続けてくる。
「じゃあ、その子犬が懐いてきたらどうしますか? 例えば家までついて来たら?」
懐いて家までついてきたら? 祐巳の思考は一瞬止まった。そして、言葉の意味をゆっくりと考え、出した答えを瞳子ちゃんに口にする。
「……たぶん、家では飼えないから、だれか他に飼ってくれる人を探すと思う」
「ええ、そうでしょうね。それが普通の答えでしょう」
普通の答え、と言いながら瞳子ちゃんの顔は少し歪んで見えた。
「えっと、さっきの答えでおかしなとこがあった、瞳子ちゃん?」
「いえ、別におかしなところはありません。ですが、こうも考えられませんか? その子犬は祐巳さまに懐いて、つまり祐巳さまだからついて来たのかもしれないのに、その祐巳さまが他の人の飼い主を探す、という行為は子犬に対して裏切り行為になるということに」
「えっ」
裏切り行為、それはとても悲しくなる言葉だった。
「むろんこれは例え話ですので、現実の話でしたら子犬の心などわかるわけありませんし、本来でしたら祐巳さまの考えで間違ってないでしょう」
「でも、これは現実ではない例え話なんだね」
「はい、そういうつもりで聞いてください。では、はっきりといいます。もし、こういったとき最後まで自分の手で面倒が見れない場合は、初めから見捨てた方が自分のためにも相手のためにもなると思います」
相手のためにもなる、つまり、中途半端なおせっかいはやめろ、と瞳子ちゃんは言いたいのだろうか。確かに、それは正しいことかもしれない。でも、実戦するのは難しい。
「結構きついこと言うね、瞳子ちゃん」
祐巳が低い声でそう言うと、瞳子ちゃんは自嘲的な笑みを含んだような声で祐巳に返してきた。
「ええ。あとこれも分かっていることだから言います。祐巳さまはおそらく瞳子の忠告など聞かずに、これからもかわいそうな子犬に手を差し伸べるのでしょうね……だから瞳子は祐巳さまのことを、おめでたい、といっているのです」
祐巳は、確かにそうかも知れない、と思った。
たぶん瞳子ちゃんの言う通り、祐巳はこれからも余計なお節介を焼いていくんだと思う。
瞳子ちゃんは、相変わらず真っ直ぐと祐巳の方を見つめている。
「祐巳さま、これだけは憶えておいてください。確かに優しさは大切なものかもしれません。ですが、ときにそれはとても残酷なことになるということを」
祐巳は、その瞳子ちゃんの言葉をかみ締めるように心に刻み込む。
「うん、そうだね。ありがとう、瞳子ちゃん」
「礼などいりません。結局のところそれが福沢祐巳さまの祐巳さまたるゆえんなのでしょうから。……ただ」
「ただ?」
「それが自然にでたことなら仕方ないと思います。ですが、憐れみから相手に手を差し伸べるようなことはしないでください。それは思い上がりというものです。もしそうだったら、たぶん相手の人は祐巳さまを一生許さないと思います」
一生許さない、か。
祐巳はある種の決意を滲ませて、瞳子ちゃんに短かく返答した。
「うん、わかった」
祐巳がそう言うと、瞳子ちゃんは今日一番の笑みで笑っていた。
「さて、馬鹿な話をしてしまいましたわね。さっさと作業を続けましょう、祐巳さま」
終わり
祐巳と瞳子の会話を、自分なりに原作を意識して書いてみました。もし、おかしな所や違和感があれば指摘してくださればありがたいと思います。