ある日の薔薇の館
「はぁぁぁ。ダメね、私たち」
「お姉さま、どうなさいました。また江利子さまに弄られましたか?」
「またって何よ。そうじゃなくて、前から思ってたんだけど紅薔薇さんちは古い温室。白薔薇さんちは銀杏の中の桜の木。紅白にはそんな象徴的な場所があるのに、何で我が黄薔薇家にはそういう気の利いたモノがないのよ」
「黄薔薇は令さま以来武道館だと思いますが」
「ダメよ、あんな酸っぱい匂いのするところ。私はもっとこうロマンチックとかそういうモノが欲しいの」
「お姉さまがそれを言いますか」
「何か言った?」
「いえ」
「どこかにないの? いかにも黄薔薇黄薔薇したステキスポットは」
「キバラキバラ、ですか。考えてみます」
「頼んだわよ」
次の日の放課後
「どう、どこか素敵な場所は見つかった?」
「はい。お姉さまと私の思い出の場所で、しかもキバラキバラです♪」
「菜々と私の思い出の場所? どこだったかしら」
「ご案内します」
中庭を挟んで薔薇の館とは反対側に位置する棟の、とある一室
「……何でここが私たちの思い出の場所なのよ?」
「お姉さまと私の運命的な出会いを象徴する場所です」
「へー、そう。で、黄薔薇黄薔薇は?」
「気張ら気張ら、です」
「オマエハアホデスカ! 何が悲しくてこんな所でデートしなきゃならないのよ!」
「デート……。最初からそう言って下されば」
「何だと思ってたのよ、全く」
「お姉さまのことですから密談謀議の場所かと」
「あなた私のこと何だと思ってるの」
「でもほら、ここからだと薔薇の館がよく見えますよ」
「ほんとだ。丸見えだわ」
「誰か来たようです。あれは……紅薔薇さまと瞳子さまですね。はい、お姉さまの分です」
「あら、気が利くわね。……じゃなくてあなたいつもオペラグラスなんか持ち歩いてるの?」
「あ、ほらほら見て下さい!」
「うわっ! 誰もいないと思って何やってるのよ、あの二人は」
「……すごいですね」
「……すごいわ」
「どうです。お気に召しましたか?」
「う〜ん、でもやっぱりちょっとね。なんか匂いそうだし」
「そう思って各種取り揃えておきました」
「へー、こんなに色々種類があるんだ。あ、私これにしようっと。って芳香剤じゃない!」
「温室だって肥料の匂いが充満してますし、銀杏の中の桜の木はシーズンになればギンナン臭に包まれます。でもここなら掃除も行き届いてるから、深呼吸したって平気ですよ」
「しないわよ、こんなとこで! やっぱりイヤなものはイヤなの!」
「私はお姉さまと一緒ならどこでも楽しいんですが」
「だからって何もこんなとこ」
「お姉さまは私がキライですか?」
「な、何よいきなり。そんな訳ないじゃない」
「じゃあスキですか?」
「……スキよ」
「ならここでいいですよね♪」
「菜々がそう言うんなら……、
っ て い い 訳 あ る か ! ト イ レ な ん て !! 」