「祐巳、今までありがとう。これからは私、新しいパートナーと共に過ごして行くから」
「いいえ、こちらこそありがとうございました。お幸せに」
「でも、私とあなたは、ずっと姉妹ですからね」
「はい、もちろんです」
ここは新婦の控え室。
純白のウェディングドレスで美しく着飾った小笠原祥子を、涙を浮かべて見つめる祐巳。
祥子は、祐巳をそっと抱いてやった。
「祥子、ここにいたのか」
新婦を迎えにきた新郎。
彼の姿は、坊ちゃん刈りに眼鏡という、今では滅多に見かけない優等生ルック。
「正念さん」
「へ?」
驚いた祐巳。
そう言えば、相手の名前を聞いていなかった。
てっきり銀杏王子とばかり思っていたのに、現れたのは意外な人物。
「あ、祐巳ちゃん。来てくれたんだね」
弟の祐麒と同級生だった、小林正念。
彼が祥子の結婚相手とは、これは夢か?夢なのか?
「あれ?祐巳ちゃん聞いてなかったのかな?」
「私、正念さんと結婚するのよ」
「なななななんですとー!?」
あたふたする祐巳。
「私、今日から小林を名乗るのね」
「そうだね祥子。君は今日から小林…」
「止めてーーーーー!!!!」
控え室に、祐巳の絶叫が轟いた。
「はっ!」
でろーと涎を流しながら、身を起こした祐巳。
ここは薔薇の館。
一人だけだったので、誰かが来るまで待っている内に、どうやら寝入ってしまったらしい。
「ああ、やな夢見たなぁ…」
「どんな夢なの?」
「お姉さまが、小林君と結婚する夢です」
寝ぼけているのか、周りの様子に気付いていない祐巳。
祥子以外も、みな興味津々と聞き耳を立てている。
「ふ〜ん、それで?」
こめかみに血管を浮かべ、冷たい声音で問う祥子。
「それでお姉さま、名前が変わってしまうんです」
オチは既に祥子にも読者にも見え見えだが、書かないわけには行かない。
「どんな?」
「こばやしさちこ」