【865】 探し続けようくれた希望に  (ROM人 2005-11-15 13:30:13)


くま一号さんの書かれた【No:779】『幸せだと思う』の続きが読みたいので
瞳子カナダ行きBADエンド(?)を書いて催促してみようという試みです。

くま一号さんが【No:779】『幸せだと思う』の続きを書いてくださったら記憶の彼方へポイしちゃってください。





リリアンにまた秋がやってきた。
体育祭と学園祭の準備に追われ、祐巳さま達は毎日忙しい。
祐巳さまと志摩子さんは現在外回りの仕事に出ている。
そういう私も、現在目の前の書類の山に溜息をついているところだ。
今現在、薔薇の館の住人は六人。
祐巳さま・由乃さま・そして志摩子さんの三薔薇様と私と菜々ちゃんの蕾二人と瞳子の妹だけ。
瞳子は今カナダにいる。
せめてもの救いは、瞳子が残していってくれた瞳子の妹である良子ちゃんが働き者だと言うことだ。
来年の山百合会はどうなってしまうんだろう。
元々、リリアン女学園に一番ふさわしくないと思っていた私が、
唯一三年生の薔薇様になることになるのだから皮肉なものだ。

「どうしたの? 溜息なんて」
「あ、祐巳さまごきげんよう」
「紅薔薇様、ご、ごきげんよう」
外回りから帰った祐巳さまの所に瞳子の妹が駆け寄った。
あなたの妹のせいで溜息をついていたんですよとは間違っても言わない。
二人がどんな困難を乗り越えて姉妹になったのかを知っているから。
それでも、現実的に来年の山百合会に不安を感じてしまうのはしかたのないことで。
特に、同じ蕾の菜々ちゃんはくせ者である。
興味のあることに関してはもの凄いやる気を見せるが、そうでないことには全く無関心。
その極端さが、仕事のやる気にも反映され、
おまけに姉の由乃さまがそれに乗っかる形で、仕事をサボったりするものだから困りものである。
由乃さまは菜々ちゃんを猫っ可愛がりしていて叱る気すら見られない。
さらに、困ったことに菜々ちゃんには中等部の二年生に姉妹の約束をしている娘が居ると言う。
つまり、来年妹を作る気はさらさら無いと言うことだ。
どーすんだよ、おい。

「いえ、目の前の書類にちょっとウンザリしてただけです」
「確かに、すごい量だねぇ……」
祐巳さまは苦笑している。
だから、それはあなたの妹がカナダに(以下略
「私も手伝うよ」
そう言って祐巳さまは私の前にある書類を一束手に取った。
「あはは、しかしすごい量だね〜」
「本当に終わるんでしょうか……。 由乃さまと菜々ちゃんは相変わらず剣道部ですし」
この忙しいというのにあの二人はほとんど部活に足を運んでいる。
元々、デスクワークが嫌いなタイプなのだろう。
今までは上級生である薔薇様が居たからしかたなくやっていたのだろう。
もっとも、こういう仕事が好きな人は居ないかもしれないが。

無言で書類の上にペンを走らせ続ける三人。
瞳子の妹が入れた紅茶を飲みながら、ひたすら書類に向かい合う。
志摩子さん、早く戻ってこないかなぁ……。


それからしばらくして志摩子さんも戻ってきた。
四人でひたすら書類を片づけた。
そろそろ帰ろうかと思った頃、部活を終えた黄薔薇姉妹が爽やかな顔で現れた。
お茶だけ飲みに来たな……こやつらは。

そんなこんなで六人揃ってのお茶会を終え、私達は帰る。

黄薔薇姉妹と菜々ちゃんと親友らしい瞳子の妹が先を歩く。
そんな三人の背中を見つめるような形で、私達は歩いている。
「祐巳さま、これでよかったんでしょうか」
「え? 何が?」
「瞳子をカナダに行かせてしまってよかったんですか?」
「うーん、確かに寂しいけど……まあ、毎日メールのやりとりしてるし」
そう言った祐巳さまだけど、やっぱり寂しそうだ。
「やっぱり、顔を見たりお喋りしたり出来ないのは寂しいけど、瞳子ちゃんには夢を叶えてもらいたいし」
寂しくないわけないのだ。
祐巳さまは、お姉さまである祥子様も瞳子と同じく留学中。
たった一人で日本に取り残されているのだから。
「乃梨子ちゃんには苦労かけちゃうよね」
「……そんなこと」
「瞳子ちゃんったらカナダに行く前に、私に新しい妹を迎えたらどうですかなんて言ったんだよ。」
「瞳子が?」
そんな話、初めて聞いた。
もちろん、祐巳さまが瞳子以外を妹にしたという話も聞いていない。
「私……やっぱり、もう一度妹作った方がいいのかな」
「ダメです!」
私は声を荒げていた。
祐巳さまが瞳子以外の下級生を妹にするなんて。
そんなの嫌だ。
「乃梨子ちゃん……」
「祐巳さまの妹は瞳子だけです。
 瞳子だけじゃないとダメなんです!
 もし……もし、どうしても妹の手が必要なら……
 私が瞳子の代わりに祐巳さまの妹の仕事を引き受けますから!」
「乃梨子ちゃん……」
「みんな居るじゃないですか! それに、祐巳さまの跡は良子ちゃんが立派に継いでくれるはずです!」
私は祐巳さまに抱きついて泣いていた。
祐巳さまは優しく私を抱きしめてくれた。
そうか……瞳子が居なくて寂しかったのは私自身も同じだったんだ。
「……なんか、祐巳に妹を取られた気分だわ」
「し、志摩子さんっ!!」
私はあわてて祐巳さまから離れた。
「冗談よ。 それに、祐巳にだったら乃梨子を貸してあげてもいいかもしれないわ。 貸すだけなら」
そういって、志摩子さんはころころ笑った。
「……もう、志摩子ってば」
気がついたら三人とも笑っていた。
随分先を歩いている黄薔薇姉妹と瞳子の妹が立ち止まってこちらを伺っていた。
「さあ、祐巳行きましょ」
「うん」
私達は手を繋いで走り出した。
私の右側に志摩子さん、左に祐巳さま。
来年のことを考えると、まだちょっと不安だけどきっと何とかしてみせる。

ねえ、瞳子。
また、会えるよね?
帰ってこないと祐巳さまも私のお姉さまにしちゃうぞ?
私の空いてるもう片方の手で、祐巳さまも掴んじゃうからねっ!



―がちゃSレイニーシリーズ  乃梨子、強欲エンド―





(おまけ)

「ああああああああ、結局何も解決してないし、
 やっぱり来年三年生の薔薇様は私だけだーーーー。 瞳子のバカーーーーーーーー!!!」
でも、やっぱり家に帰るとポジティブが持続しない乃梨子なのだった。


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