No.753 → No.778 → No.825 → No.836の続きです。
「確かに令ちゃんは戦闘力は高くても人を傷つけたりは出来ない。 まあ、私絡みだとどうかはわからないけど。 祥子さまは、危険となれば祐巳さんにそんなこと絶対にさせないでしょうね。 自分達で手は下さない。 話が大きくなりすぎるかしら? 瞳子ちゃんも同じかな? 秘密裏にって言う訳にはいかなくなるでしょうね。 乃梨子ちゃんは………きついかな……祐巳さんの言っていることが本当ならね」
「納得してくれてたわけじゃあないんだ…」
「あまり表沙汰にしたくないのは分かるわ、できれば山百合会の中だけで済ませてしまいたいって言うのも、消去法で行ったら………私しか居ないって言うのもね……」
二人目の犠牲者がでたあと、学校は生徒にたくさんの宿題を押し付けて一時閉鎖されることになった。
休みをいいことに祐巳の家に大量の宿題とともにやってきた由乃、今日は泊まっていくことになっている。 さっきまで祐麒に数学と物理を教えてもらってある意味ご満悦な由乃に祐巳はすべてを話した。 祐巳の表情からただ事ではないのを察してくれた由乃だが、今は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「符合するのよね。 きつく香水を付け出したのは死臭をごまかすため、怒りっぽくなったって言う乃梨子ちゃんの話。 祐巳さんがいま話した内容と符合するわ……でも…」
祐巳は穏やかな表情をして由乃を見つめる。 由乃が出す答えを知っているかのように。
「………ごめん。 断っていい? ……いくら私が『イケイケ青信号』でも命がけって事だと……」
「うん、そう言うと思ってたよ。 一人で何とかしてみるよ」
「…………」
穏やかな祐巳の顔を睨み付けていた由乃は、テーブルに手を付いて立ち上がり、ダークブラウンのチェック柄のロングスカートを揺らしながら祐巳の部屋からゆっくりと出て行く。
「……………なかったわ」
「…え?」
「……聞きたくなかったわ、この話…」
一瞥をくれてから扉を閉めた由乃は、そのまま暫く扉に背中を預けて廊下の天井を見つめていたが、深い溜息を吐いたあとゆっくりと廊下を歩き、祐麒の部屋の前にやってきた。 何度か無遠慮に入ったことはあるのに、なぜか今日は緊張してしまう。
”コンッ コンッ コンッ”
ゆっくりとしたノックをして部屋の主が出てくるのを待つ。 やがて扉が開き祐麒が人懐っこそうな顔を覗かせる。
「由乃さん。 どうかしたの?」
「……少し、いさせてくれる? 祐巳さ……ううん。 私が落ち着くまで、少しの間でいいの……」
「…どうぞ……少しの間でも一緒にいてあげるよ」
自分の席と由乃が勝手に決めているベットの横、絨毯の上に腰を下ろす。 祐麒は当然のように由乃のすぐ横に座る。 祐麒の肩にもたれかかる由乃、祐麒も何か話しかけるでもなく黙って肩を貸している。
ゆったりと ゆったりと 時間もなにも考えずに…………。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「カット〜〜! ご苦労様〜」
「由乃さ〜〜ん、アドリブ多かったよ〜〜。 合わせるこっちの身にもなってよ、本格的な女優じゃあないんだから」
「由乃さん、この後アクションシーンがあるじゃない、殺陣シーンでのアドリブは怪我の元よ」
「分かってるわよ〜〜、まかせて、そっちはしっかりやるから」
「ホント頼むよ〜〜、私がピンチになった時、颯爽と現れて助けてくれなくっちゃ困るからね」
「だから今後の展開ばらしちゃだめでしょ」
「でも由乃さま、祐麒さんとのシーンこれでいいんですか?」
「え? なにが?」
「だって、励ましてもらったりするシーンですよね? なにも言わない、キスすら無しって…」
「あ〜、そういうこと。 祐麒君とはこんな感じ多いわよ」
「そ、そうなんですか?」
「『イケイケ青信号』『ブレーキの壊れた暴走機関車』の由乃さんが? 思いっきり振り回しているかと思っていたけれど?」
「ちょっとちょっと! えらい言われようじゃない!」
「意外でしょ? 祐麒に聞いてもマッタリしてる事も結構多いって言うのよ」
「そ、そりゃあ引っ張りまわしてるかもって自覚はあるけど……。 この前はスケート教えてもらったし、インライン・スケートとMTBの乗り方とか。 あ、スノボもやってみたいわね…。 そうそう祐巳さん、今度スキューバ・ダイビングの講習受けに祐麒君と行って来るからよろしくね」
「私によろしくされても困るよ〜」
「動き回ってる時もいいんだけど、祐麒君と二人で寄添ってマッタリしてる時間ッたら……はぁぁぅっ……」
「……? (ヒラヒラヒラ) あっちの世界に行っちゃった……かな?」
「おつかれさま〜〜」
「あ、お疲れさま祐麒さん。 なにをなさっていらしたの?」
「殺陣の時は俺サポートに回るのでその打ち合わせを……ときに…由乃さんはなにをしているんです?」
「祐麒さんとの愛欲の日々を思い出しているのよ」
「ええ〜っ?!」
「『マジ狩る☆クラッシャーミラ狂由乃ン』のこと考えてんでしょ」
「由乃ンじゃな〜〜〜い〜!!」
「菜々さんなにをなさっているんですの?」
「由乃さまに言うとダメージのありそうな単語をメモってるんです」
「菜々の場合わかっててやってる分性質が悪いわよね……由乃さまも大変だわ……」
「そのうちそれに喜びを感じるようになるかと………」
「な、なにか黒い計画を遂行中のようですわよ……そういえば、あなた出番なんかありましたの?」
「志摩子さまに食べられていた女学生役を二回やりましたが?」
「あんただったんかい!」