この作品は静×祐巳となっています。
現在時刻は放課後、黄昏時とでも言うのだろうか。
「ふう、選挙では志摩子さんに負けちゃったな」
私は蟹名静、白薔薇の座を狙ったけど、藤堂志摩子に破れた。けど、満足のいく結果だった、後は、私が望むのは……
イタリアに留学するまで、慌ただしくなく、ただ静かな日常と……
「もう、これもいらないかな」
私は手の中にあるロザリオを見る。そう……白薔薇になれたら誰かを妹にしようと思って買ったものだった。
私は校舎の窓からそれを捨てる事にした。これ拾ってまた誰かが有効に使うのも良し、捨てられても私が捨てたのだから文句など言えない。ごめんね、結局君を使ってあげる事が出来なかった。ごめんね。
「えい!」
私は思いっきり投げた、誰にも当たらない事を祈って……
「ウワァ!」
下から何か悲鳴が聞こえた。人に当たったのだろうか?けどこんな遅い時間に人なんか誰もいないと思ってたし、けどロザリオは小さい割には重い。怪我をしているかもしれない。
私は急いで階段を駆け下り、外に出て悲鳴を上げた生徒を探した。するとマリア像の前に1人の少女がしゃがんでいた。
あれ?あの子どこかで見たことあるような。とにかく、声をかけてみよう。
「あの、ごめんなさい!怪我無かった?」
「え?」
しゃがんでいた少女がこっちを振り向いた。その少女とは…
「ゆ…祐巳さん?」
「あ…静様」
どうやら、私のロザリオに当たってしまった不幸な少女は祐巳さんだったらしい。
「ごめんなさい、私校舎からロザリオ投げちゃって、どこか怪我しなかった?」
「いえ、怪我はしてませんけど、なんだが首に重いものが引っ掛かったみたいな感じがしたから怖くなってしゃがんじゃったんです」
首に当たったのか……確かに首のところが少し赤い、
「首みしてくれる?痕が残ってたら大変だし…」
「はい、すみません」
なんで、謝られているのか解からないが見ることにしよう。
カシャ
ん?…祐巳さんってロザリオ二つ持ってたのかな?
「ロザリオ……二つあるよ」
「へ?」
「いや、だからロザリオが二つ首にかかってるんだけど」
「ええ!?私祥子様からもらったロザリオしかかけていませんよ!」
じゃあ、まさか。じゃあ、まさかこれは……
「私のロザリオ?」
「ええ!静様のロザリオォ!?いつの間に?」
どうやら、私には先天的な輪投げの才能があるらしい。
「ぐ…偶然だね」
「ホントに……そうですね」
「ん?」
「どうかしたんですか?」
胸のあたりに十字架のような赤い後が出来ている。
カシャ
「痣みないなのできてる」
「痣ぐらい別にいいですよ。ロザリオでちょうど隠せますし」
なんとか、隠せるぐらいだ。
「ホントにごめんなさい」
「いえ、良いんですよ。それより、はい」
そう言って、祐巳さんは私にロザリオを差し出してきた。
私は1つの案を思いついた。
「それ、祐巳さんにあげるわ」
そうだ、あげよう。私が持っていても無意味なものだし、祐巳さんにもらってもらえるのならこのロザリオも本望だろう。
「ええ!?けど…」
「いいのよ。あげるわ」
「けど、ロザリオもらうってことは……」
「いいから…もらって欲しいの」
「は……はい。うれしい…です」
なんだか祐巳さんが妙に照れてる。何でだ?
「じゃあ、私はこれで。山百合の仕事頑張ってね」
「は…はい、明日からよろしくお願いします」
何だか良く分からないけどよろしくされてしまった。私はその後家に帰って寝ることにした。
その間、頭の隅に何か引っ掛かるものがあるのが気になったが、どうせたいした事じゃないだろう。
私はそんなことを考えながらいつの間にか寝てしまった。
「チュン、チュン」
鳥の鳴き声だろうか、多分今は朝だ。
「ふぁぁ」
うう、何だか昨日は気になることがあってなかなか寝付けなかった。だけど、今日も学校に行かなくちゃならない。
私は今校門をくぐった所にいる。なんだか周りの視線が痛い。
私はその原因を嫌と言うほど知る事になる。
「号外ですよぉ〜」
そう言って新聞部だろうか、生徒が号外を配っている。
私はその号外を見て固まってしまった。
『衝撃!黒薔薇、紅薔薇の蕾を妹に!?』
そんな!?私は祐巳さんを妹にした記憶は無い。
だが、号外には証拠写真といわんばかりに一面に私が祐巳さんの首にロザリオとろうとしている写真が載っていた。だが、このトップを見てこの写真を見れば誰でもロザリオをかけているように見えるだろう。
いったい誰がこんな写真を…
「わ…私は許可なんて取ってないわよ」
「私が取りました」
後ろには祐巳さんがモジモジしながら立っていた。
「ど…どういうことなの?」
「だって、静様は私にロザリオをくれたでしょ?」
「あ…あがたわ…」
この写真は蔦子と言う子がとったらしい。そうか、なるほど祐巳さんは誤解をしているんだ。
「あげたけどアレは…」
「…嘘だったんですか?」
う、祐巳さんが目を潤ませながら見てくる。
マズイ!流されるな!
「いえ、あの祐巳さん」
「……お…お姉さま」
「へ?」
なんだ?祥子さんでもいるのかな。周りを見渡してもそれらしい人物はいない。
祐巳さんは照れながらこちらを見ている。ま…まさか……
「わ…私のこと?」
「そう…です。呼んでみたかったんです。静様の事をお姉さまって」
くぅ!耐えろ!流されるな私!
「そ…そう」
「あの……もう1つお願いがあるんですけど…」
上目遣いで見てこないで……私の理性が…
「な……………なに?」
「祐巳って読んでください」
グハァ!………ああ、私は今まで何を我慢していたんだろう。
「ゆ、祐巳」
「はい、お姉さま」
「祐巳!」
「お姉さま」
だめ。これは言っちゃダメなんだ。ダメ言ってはダメ!
「私はあなたのこと好きなの」
「わ…私も…です」
涙が出るほどうれしいとはこのことだろうか。
「祐巳、私うれしくて、天にも昇る思いよ」
「だったら、昇天してあげるわ!」
後ろから、声がした。振り向くとそこには
「さ…祥子さん」
「泥棒ネコのようなまねをしてただで済むとは思わない事ね!」
「静お姉さま頑張って!」
私は蟹名静、私が望む事は…イタリアに留学するまで、慌ただしくなく、ただ静かな日常と…………
私が祐巳さんに思いを伝えず静かに残りの期間祐巳さんに尽くす事だ。
全て望みとは逆だったが、これはこれでいいと思う。
「再選挙よ!蟹名静!」
…………これ以外は。
====続く====