【880】 仰天交響曲  (朝生行幸 2005-11-18 01:25:12)


 これは、No.771の裏話です。

「よう」
「よう」
 M駅前のロータリーに停まった一台の車。
 やたらゴツイエアロパーツやカーボンボンネット、GTウィング等で飾られた、おまけに派手なカラーリングでステッカーも貼りまくりの、おめーそりゃやり過ぎだ、と言われても仕方がないような外観。
 見てくれだけは、まるでサーキットで使用されるレースカーだ。
 サベ○トの4点式シートベルトを外し、レ○ロのフルバスケットシートから、もたつきながら降り立ったのは、おめーそりゃやり過ぎだ、と言われても仕方がないような、無駄にマッチョな男。
 元花寺高校生徒会役員の一人、高田鉄。
 彼の挨拶?に、半分呆れ顔で応じたのは、これまた元花寺生徒会役員、小林正念。
「これが、お前の言ってた車か?」
「ああ。中古車を買って、俺好みにカスタムしたんだ」
「…良くは知らないけど、カスタムにかかった金で新車が買えるんじゃ?」
「言わないでくれ」
「…やっぱりそうか」
「きれいさっぱりスッカラカンだよ。お陰で、中…」
 ブッブー!
 後のタクシーが、クラクションを鳴らした。
「いけね。移動するから乗ってくれ」
「はいよ。しかし、大丈夫なんだろうな?」
「任せろよ。これでも免許は持ってるんだぜ?」
「当たり前だろ!」
 助手席側も、ご丁寧にも○カロのフルバケ。
 セダンに比べ、異様にホールド感が高く異様に低いシートに、小林もビックリ仰天。
「それじゃ行くぞ」
 いきなりクラッチミスでエンストを起こしながらも、たどたどしく走り出す、高田の愛車?『ニッ○ンスカイラインGT-R』。
(今日が俺の命日になるんじゃないだろうな…)
 外観の割にはヤケに静かな音の車内で、不安を抱きながら半分覚悟を決めた小林だった。

 めずらしく交通量が少ない日曜日ゆえか、結構余裕で軽快に走るGT-R。
「でよー、………だったんだぜ?」
「マジ?そりゃー………だなオイ」
 他愛の無い話で、久しぶりに盛り上がる二人。
 小林は花寺大学に進学したが、高田は別の大学に行ったので、会うのは数週間ぶりだった。
「そしたらさぁ…」
「待ておい、あの車」
 交差点で、目の前を通り抜けようとしている赤い車。
 どこかで見た人物が、助手席に見えた。
「…俺の見間違えでなければ、志摩子さんに見えたんだが」
「ああ、間違いなく白薔薇さまだ」
「誰と乗ってるんだ?男か?男なのか?」
「落ち着け鉄ちん。男とは限らないだろ?ともかく、追いかけろ」
「あ、ああ」
 信号が替わるのももどかしくアクセルを踏み込めば、案の定エンストしながらも、例の赤い車を追いかける。
 幸いにも、間に挟まってた一台がコンビニに入っていったので、すぐ後に着くことが出来た。
「インテグラか、良い車に乗ってるな…。どうだ?」
「うーん、よく分からないな、もうちょっと寄せてくれ。ぶつけないようにな」
「おう」
 車間距離約2mまで近づける高田。
 絶対にブレーキが間に合わない距離だ。
「小さいな…、男じゃなさそうだ。髪の色は黒みたいだから…」
「と言う事は、乃梨子ちゃんか?」
「みたいだな。どうやら、白薔薇姉妹が仲良くドライブってところか」
「…オイ、チャンスじゃないのか?」
「チャンスって、お前まさか…」
「ああ、お近づきになれるチャンスじゃないか。いや贅沢は言わない。お茶ぐらいでいいから」
「随分積極的だな。とりあえず、もうちょっと距離を取れよ」
「志摩子さんは綺麗だし、乃梨子ちゃんは可愛いし、どっちにしようかな」
「っておい、人の話を聞けよ」
「いや待てよ?この状態でどうやってコンタクト取るんだ?」
「だから危ないって。もうちょっと離れろよ」
「ああそうだ。こうすれば…」
 なんの前触れもなく、パッシングをかます高田。
「これで向こうも気付いて…」
 次の瞬間、インテグラが凄まじいスピードで加速した。
「く…れる…?」
 呆然としている間に、更に距離が開く。
「追いかけろ!」
「お、おう!」
 アクセルを踏み、6速までシフトアップするも、速度は頭打ちなのか、メーターは120の辺りで止まったままだった。
「もっと出ないのか!?」
「これが限界なんだ!中身は全くいじってないから!」
「なにー!?」
 既にインテグラは見えなくなっていた。
「なんてこったい…」
 速度を50kmまで落とした車内で、呆然と呟く小林。
「だから言っただろう?外装で資金が尽きたから、中身は全然変わっていないって」
「聞いてねーよ!ったく、お前と一緒だな。見かけばかりで中身が全然伴ってねぇよ」
「どう言う意味だよ!?」
「プロテインで腫れただけの筋肉なんざ、飾りにもならねーって言ってんだ!」
 はっきり言って、口では朴訥な高田に勝ち目はない。
 車内の口論は、高田が完全に凹み切るまで続いた。
 その結果、いじけてしまった高田に車から降ろされた小林は、電車で帰るハメになったのだった。

 後日、二人の友人福沢祐麒から姉の祐巳を通じて、例の赤いインテグラに乗っていたのは、予想通り元白薔薇姉妹だったことが判明した。
「あぁ、惜しかったなぁ。もっと親しくなれたかもしれなかったのに」
「そうだな。誰かが短絡にもパッシングさえしなかったら、予定通りお茶ぐらい飲めたかもしれんな」
「俺のせいだっていうのか?」
「100%そうだと思うぞ」
「なんだと?」
「大体だな…」
 やっぱり口論では、小林に勝てない高田だった。


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