【896】 リリアン大騒動初登場1位  (篠原 2005-11-21 04:09:15)



 ここはリリアン女学園。純粋無垢な乙女の園。だがしかし、ここ数年の間にリリアン女学園ではいろいろな『問題』が起こっていた。そして薔薇の館でも、議題の一つとして取り上げられることになった。

「それにしても、そんなにいろいろ『問題』があったのかしらね? 黄薔薇さまは聞いている?」
 首をかしげた紅薔薇さまは、黄薔薇さまに水を向けた。
「少しくらいは聞いてるけど……白薔薇さまはどう?」
「ええ、私もそれほど知りませんでしたので、少し乃梨子に調べてもらったのですけど、乃梨子?」
「はい」
 志摩子さんの言葉に、乃梨子は調査結果を手に立ち上がった。
「私が調べた範囲では、評判になっているもののほとんどは噂の域を出ないものばかりでしたが、話題性の高かったものから10大ニュースとしてまとめましたので、第1位から順を追って説明します」
「あら、1位から発表してしまうの?」
 紅薔薇さまの意外そうな声が割って入る。
「はい、たぶんその方がわかりやすいかと」
「そう」
 なんだか少し残念そうに見えるのは気のせいだろうか。まあどうでもいいのだが。

 第1位 妊娠堕胎疑惑

 さすがにこれはざわついた。
「これははっきりした根拠も無いようで、頬をはらして涙ぐんでいたとか、そのあと病院で見かけたとか、その程度のことからの憶測、あくまで噂のレベルでしかないようです」
 祐巳はオヤッと首をかしげた。どこかで似たような話を聞いたような……。見れば祥子さまは苦笑している。いや、他の皆も微妙な表情だった。

 第2位 援助交際疑惑

 紅薔薇さまの目が吊り上った。
「夜な夜な違う男性とデートをしていた生徒がいたという話ですが、どうもこれは相手が家族の方だったらしいというオチがついたそうです。
 それと別に本命がいて、その方と付き合いが始まったという話もありますが、やはり噂話の範疇ですね」
 ワンツーフィニッシュかよ。由乃は心の中で毒づいた。皆は何故か納得したように頷いていた。

 第3位 駆け落ち未遂事件

 一瞬、皆が固まったように見えたが、乃梨子は構わず説明を続けた。
「結局相手が待ち合わせ場所にあらわれず、未遂で終わってしまったそうです。この振られた方の人は一時期やさぐれていたものの無事に卒業されたそうですが」
 皆が複雑な表情をしている中、志摩子はゆっくりと目を閉じた。
「さすがにベスト3はインパクトのあるタイトルが続きますね」
 まだ微妙な雰囲気が漂っていたが、それを打ち消すように乃梨子は先に話を進めた。
「4位以降は少し小犯罪的なものが続きます」

 第4位 盗難事件

「人の鞄の中を勝手にあさり、中のものを持ち出した輩がいたようです」
 一人憤慨する乃梨子に白薔薇姉妹を除く全員が視線を泳がせた。その様子を一通り見渡して、今度は志摩子さんが口を挟む。
「乃梨子、先を続けてちょうだい」
「あ、はい」
 もう少し引っ張りたかったが志摩子さんが言うなら仕方ない。5、6、7はまとめていった。

 第5位 盗撮、第6位 セクハラ、第7位 ストーカー

「そういうことをするひとがいたようですね。セクハラはなんでも抱きつき魔みたいな人がいたとかで」
 あー、と全員(特に祐巳)が頷いた。

「8位以下は学校問題ですね」

 第8位 イジメ

「学園の憧れの人と仲良くなった1年生が嫌がらせで上履きを隠されたり靴の中にクリップを入れられたりという事件です」
 祐巳さまが申し訳なさそうな表情をしたのはいいとして、由乃さまが笑っていたのもこの際おいておくとして、志摩子さんが首をかしげているのはちょっと悲しい乃梨子だった。

 第9位 不登校

「登校拒否?」
「いえ、由乃さま。拒否というより痴情のもつれかなにかで引きこもり状態だったそうです」
 ああ、と黄薔薇姉妹は納得顔をし、紅薔薇姉妹は赤面した。

 第10位 下級生が上級生に反抗

 上下関係の厳しいリリアンでは、これもそれなりの事件らしい。
「具体的にはどんなことがあったの?」
「下級生が上級生にくってかかったというか、『最低』発言ですとか『年功序列反対』発言ですとか……」
 紅薔薇さまのもっともな疑問に応えながら、乃梨子は少し気まずそうに語尾を濁した。
「ああ」
 紅薔薇さまが笑う。祐巳さまは苦笑した。瞳子がここにいたらどんな反応をしたかちょっと興味があったが、志摩子さんの表情が翳ったのを見て、乃梨子は慌てて言葉を足した。
「もっと凄いのは妹が姉にロザリオを投げつけたという話もあるそうです。ちょっと眉唾な気もしますが」
 あ、笑っていた黄薔薇姉妹が固まった。
「私がざっと調べた範囲では、信憑性にかなり疑わしい部分もありますがここ数年のうちにこのような様々な『問題』が起きているということです」
 配られた資料に各々がもう一度目を通す。


 薔薇の館に沈黙が降りた。


 どうしよう。と祐巳は思った。だってこれほとんど薔薇の館発いやいやとっても身近に覚えがいやいやいや………
「と、とにかく、今更過去を振り返ったところで仕方ないですし、それよりこれからのコトを考えましょう」
「そ、そうね。祐巳、そのとおりだわ」
 祥子さまの賛同の声に、ようやく固まった空気がぎこちなく動き出す。
 この後、学園内の治安維持を目的とした組織の創設が検討されたりしたが、結局のところリリアン女学園は今日も平和なのだった。


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