「ヴぁ〜〜〜…」
虚ろな目付き+鼻声のコンビネーションで、放課後の薔薇の館を訪れた、紅薔薇のつぼみ福沢祐巳。
のろのろとした足取りで階段を上がり、ビスケット扉を開ければ、そこには人気が全く無い薄暗くガランとした会議室。
「あ゛〜、まだ誰も居ないのね…」
窓を開けてやや肌寒い外気を取り込み、だるい身体で軽く掃除し、ポットで湯を沸かす。
いつもの席に座り、天井を見上げながらボ〜〜〜っとすることしばし。
ポットが吐き出すしゅわしゅわという音だけが、祐巳の耳朶を打つ。
誰かが階段を上がる音が微かにしているが、祐巳には聞こえていない様子。
「ごきげんよう」
姿を現したのは、黄薔薇のつぼみ島津由乃。
「ごぎげんようよじのざん」
「…随分酷い鼻声になってるわね。大丈夫?」
「ざあどうだろうね」
「熱は?」
言うなり由乃は、祐巳の額に自分のオデコをくっ付けた。
ドキンと心臓が跳ね上がった祐巳、こころなしか体温が上昇したような気がした。
なにせ相手はリリアン屈指の美少女。
どアップでその顔を見た日には、同性であってもドキドキせずにはいられない。
「う〜ん、ちょっと熱っぽいかな?」
「…ぞのようだね」
「早く帰った方がいいんじゃない?」
「ばだ大丈夫だどおぼうよ」
「そう?」
その時、誰かが階段を上る、規則正しい足音が聞こえてきた。
「ごきげんよう」
姿を現したのは、白薔薇さまこと藤堂志摩子。
「ごきげんよう」
「ごぎげんようじばござん」
「どうしたの祐巳さん。風邪?」
「びだいだんだよね」
「熱は?」
言うなり志摩子は、祐巳の額に自分のオデコをくっ付けた。
ドキンと心臓が跳ね上がった祐巳、更に体温が上昇したような気がした。
なにせ相手はリリアンでもトップクラスの美女。
どアップでその顔を見た日には、同性であってもドギマギせずにはいられない。
「少し熱っぽいようだけど?」
「…ぞのようだね」
「早く帰った方がいいんじゃないのかしら?」
「まだ大丈夫だどおぼうよ」
「そう?」
その時、誰かが階段を上る、結構ウルサイ足音が聞こえてきた。
「ごきげんよう」
姿を現したのは、黄薔薇さまこと支倉令。
「令ちゃん」
「ごきげんよう令さま」
「ごぎげんようべいざば」
「どうしたの祐巳ちゃん。風邪?」
「…ぞのようでず」
「熱は?」
言うなり令は、祐巳の額に自分のオデコをくっ付けた。
ドキンと心臓が跳ね上がった祐巳、もっと体温が上昇したような気がした。
なにせ相手は、ミスターリリアンとまで言われた宝塚系の美女。
どアップでその顔を見た日には、同性であってもズッキンドッキンせずにはいられない。
「結構熱っぽいようだけど?」
「…ぞのようでずね」
「早く帰った方がいいんじゃないかな?」
「ぼうずごじ大丈夫だどおぼいばず」
「そう?」
その時、誰かが階段を上る、おとなしい足音が聞こえてきた。
「ごきげんよう」
姿を現したのは、白薔薇のつぼみこと二条乃梨子。
「乃梨子」
『ごきげんよう乃梨子ちゃん』
「ごぎげんようのりごぢゃん」
「どうしたのですか祐巳さま。風邪ですか?」
「…ぞのようだの」
「熱は?」
言うなり乃梨子は、祐巳の額に自分のオデコをくっ付けた。
ドキンと心臓が跳ね上がった祐巳、もっともっと体温が上昇したような気がした。
なにせ相手は、白薔薇のつぼみという肩書きに恥じないクールな美少女。
どアップでその顔を見た日には、同性であってもドッキンチョせずにはいられない。
「かなり熱っぽいようですね?」
「…ぞうみだいだね」
「早く帰った方がいいんじゃないですか?」
「だぶんもうぢょっど大丈夫だどおぼう」
「そうですか?」
その時、誰かが階段を上る足音は聞こえなかったが扉が開いた。
「ごきげんよう」
姿を現したのは、祐巳の専属助っ人松平瞳子。
『ごきげんよう瞳子ちゃん』
「瞳子ちゃんごきげんよう」
「ごきげんよう瞳子」
「ごぎげんようどうごぢゃん」
「どうされたのですか祐巳さま。風邪ですか?」
「…あい、ぞのどおり」
「熱は?」
言うなり瞳子は、祐巳の額に自分のオデコをくっ付けた。
ドキンと心臓が跳ね上がった祐巳、かなり体温が上昇したような気がした。
なにせ相手は、ドリルに目を奪われがちだが、大きくトンがった瞳の結構美少女。
どアップでその顔を見た日には、同性であってもムラムラせずにはいられない。
「だいぶ熱っぽいですわよ?」
「…ぶん、わがっでるよ」
「早くお帰りになられた方がいいとおもいますが?」
「だいぞうぶ、だいぞうぶだがらぼうずごじだげ」
「そうですか?」
その時、誰かが階段を上る、静かな足音が聞こえてきた。
「ごきげんよう」
姿を現したのは、紅薔薇さまこと小笠原祥子。
「ごきげんよう祥子」
『ごきげんよう祥子さま』
『ごきげんよう紅薔薇さま』
「ごぎげんようおでえざば」
「どうしたの祐巳。風邪?」
「いえ、だだだんにあだばがいだぐでさぶげがしで、のどがいだぐではだびずがでで、かんぜつがいだぐでねづっぼいだげでず」
「それを風邪って言うのよ。熱は?」
言うなり祥子は、祐巳の額に自分のオデコをくっ付けた。
ドキンと心臓が跳ね上がった祐巳、めちゃくちゃ体温が上昇したような気がした。
なにせ相手は、慕って止まない先輩であり憧れの美女であり大好きでたまらないお姉さま。
どアップでその顔を見た日には、平静を保つことなんて不可能だった。
「熱っぽいどころじゃ…」
ちーん。
都合六人の美女軍団?にデコ当てされた祐巳、ラストの最も強力な破壊力の祥子によって限界に達してしまったのか、もたれかかるようにしてダウンしてしまった。
「祐巳?祐巳!」
「保健室に!急いで!」
「祐巳さま!」
「祐巳さん!?」
急に慌しくなった薔薇の館。
意識を失った祐巳は、心配そうな一同の心境とは裏腹に、ヤケに幸せそうな顔をしていた。