【899】 甘い猫語で  (気分屋 2005-11-22 20:16:03)


「ゴホッ、ゴホッ」
由乃さん風邪かなぁ、さっきからずっと咳き込んでるし、
「ねえ、ねえ由乃さん大丈夫?」
「う、うん」
涙目で答えてくる。なんだか可愛いな。…ハッ、ダメだダメだ!
ここは薔薇の館放課後で、今は由乃さんと私しかいない。

「それより皆遅いね」
「そうね皆遅い…ゴホッ…わね」

由乃さん何だか苦しそうだ。保健室に連れて行こうかな。

「大丈夫?由乃さん」
「だ…大丈夫よ」

必死に咳きをこらえているようだ。

「む…無理なんかしなくていいからね」

「無理ニャんかしてないわ」

………え?今なんと?

「由乃さん、もう一回言って」
「だから、無理なんかしてないって」

なんだ、空耳か。そうだよね。紅茶でも飲みながらみんなが来るのでも待とうかな。

「へんニャ祐巳さん」
「…っ!」

うわ!危うく紅茶を噴出すとこだった。

「今由乃さん『へんニャ』って言わなかった?」
「え?そんな事いってニャいわよ」

どうやら本人には自覚がないらしい、どうやら、咳き込むのを我慢して声が裏返ってるみたいだ。
しかも、無理しているのか目がかなり潤んでいる。ほっぺたも少し紅潮しているようだ。

「………由乃さん可愛い…」
「ななな、ニャに言ってるのよ!」

ああ、何だか今なら私をからかう聖さまの気持ちがわかる気がする。

「だって、由乃さんさっきから『ニャ』って連発してるよ」
「…そんな事ニャいわよ」
「ほら、言ったでしょ?」
「言ってニャい!」
「また、言ってるよ」
「言ってニャいってニャん回も言ってるでしょ!」
「わあ、今度は二連発!」
「…………」

あれ?怒っちゃったかな?

「祐巳さんのバカァ!」

由乃さんはやっぱり怒っていた。
けど、風邪の所為かいつもの令さまにぶつけているような迫力はない。
よ…由乃さんが…………涙目で…頬が紅潮していて…ネコみたいな言葉……江利子さまが見たらそりゃもう涙を流しながら喜ぶ光景だろう。

「由乃さん、風邪ひいてるんだから、興奮しちゃダメだよ」
「祐巳さんが意地悪するからでしょ!」

ああ、私にも江利子様と同じ血が流れてたんだろうか。
由乃さん可愛いなんだか無性にいじめたくなって来ちゃう。

「由乃さん…落ち着いて」
「いやよ!祐巳さんどうせ私のことネコみたいって言うつもりでしょ!」

ネコ…………とタチ……ハッ!違う違う!
ダメだ、だんだん思考が聖さまになっていくみたい、言動は蓉子様…そして行動は…………江梨子さまに…

「由乃さん静かにしてくれないと怒るよ」
「祐巳さんが怒ってもちっとも怖くなんてニャいわよ!」

私の最後の忠告を無視して…どうなっても知らないの由乃さん。

「由乃さん」
「ニャによ!って、うわっ!」

私は由乃さんを押し倒した。

「ちょ、何するのよ!」
「由乃さんを静かにするのよ」
「祐巳さん…ニャんでか解からないけど怖いわよ」
「あら、さっき怖くないって言ったのは誰だっけ」
「祐巳さん…ニャんだか蓉子様みたい」
「またネコみたいだよ」

その言葉に由乃さんがまた少し怒り出した。

「祐巳さん放しなさいよ!」
「ああ、またうるさくなってきちゃったなぁ」
「な…何よ、それ!祐巳さん今日なんだか変よ!」
「キスしたら静かになるかなぁ?」
「いや、ならないから!」

私は由乃さんにキスをしようとした。すると、階段がきしむ音がした。
その時私は正気に戻った。

「うわっ!ごめんなさい由乃さん!」
「…いいのよ」

そして由乃さんは席についた、不穏な言葉を残して…

「明日がとても楽しみね」

と…

翌日風邪をひいた祐巳が由乃に仕返しをされたのは言うまでもない。









==了==


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