がちゃSレイニーシリーズです。
【No:776】貴女の心に と 【No:783】よりそう約束踏み出した一歩の間に入るお話です。
志摩子さんは今日は用事があるからと帰ってしまった。
私はどうすればいいのだろう。全ては瞳子のため、そう思ってがんばってきたのに、何でこうなったんだろうと、薔薇の館に向かいながらぼんやりと考える。
これからどうすればいいのだろう……と。
ビスケット扉を開けると、そこには可南子さんと令さまがいた。
私は二人にごきげんようと小さく挨拶して、紅茶を入れようと、流しの方に向かう。
「姉妹の複数人制の騒動に関しては、だいぶ沈静化してきたようです。少なくても、放課後校内をざっと回った感じでは、改めて姉妹の申し込みをしている人を見かけることはありませんでした。
」
「そうみたいだね。昼休みまでは結構あったけど、放課後は私も追いかけられなくなったし。ありがとう可南子ちゃん。助かったよ」
どうやら志摩子さんが提案した姉妹の複数人制の影響を可南子さんが令さまに報告しているようだった
私は大きくため息をつくと、3人分の紅茶を煎れた。
「乃梨子ちゃん、今日は志摩子は?」
しばらくして、私に声がかかった。
今日は寄るところがあるから、薔薇の館にはこないそうです」
「そう。可南子ちゃんちょっと出てくるからお留守番してくるから、祥子そろそろ戻ってくると思うし」
可南子さんはその言葉にこくりと頷いた、
「乃梨子ちゃん、ちょっとつきあって」
私はその言葉にのろのろと立ち上がり、外にでていく令さまの後に続いた。
令さまは、階段を降りると、1階の倉庫の扉をあけた。
「入って」
倉庫の整理でもするのだろうか? 少しは身体動かせば、この憂鬱な気分も晴れるかもしれない。
そう頭の中でちらりと思うけど、内心ではそんなことしても、気分は晴れないと理解していた。
だって、この気分をはらすには、きっといつものようにつんつんしながら祐巳さまの横に立ってなければならないのだから。瞳子が祐巳さまを姉として。
私も志摩子さんもその日が少しでも早く来るようにしたかったのに……。それが、このざまなのだから。
このままじゃいけない、どんどん気が滅入ってしまう。
気分を切り替えなきゃとぶんぶんと首を横に振った。
「乃梨子ちゃん。祐巳ちゃんたちは大丈夫だよ」
私の心を見透かしたように、令さまがそういった。
「でも……」
令さまは小さくほほえむと、私の手をとり、そのまま、私の身体を引き寄せた。
「え?」
次の瞬間私は令さまの腕の中にいた。
「よく、がんばったね。乃梨子ちゃん。本当はこの役目は志摩子の役目だけど、志摩子も今はいっぱいいっぱいだから」
「令さ、ま?」
「もうあの二人は大丈夫だから。そう、祥子が言ってるから大丈夫」
「祥子さまが言ってるからって、どうして?」
「祥子が言ってたよ。妹のためなら、どんなバカだと思えることだって出来てしまうって。私には祥子が何をやったかわからないけど、きっと、祐巳ちゃんと瞳子ちゃんのためになることだと思うよ」
「でも、でも………」
「もう大丈夫。お疲れさま」
そう言ってぎゅっと抱きしめられた。
「………」
反論したいことはいっぱいあった。でも、今はその令さまの優しさが心地よすぎて、張りつめた物が、一気にゆるんでしまった。
涙がどんどんこぼれ落ちてくる。
ぽん、ぽんと背中を軽くたたかれながら、私は声を殺して令さまの胸で泣いていた。
「おちついたかな」
「はい」
「えっと、済みませんでした令さま」
「べつに、たいしたことしてないよ。仲間が困っているときは助けるのは当然でしょ」
そういって、ぱちんとウインクを飛ばす令さまは見とれるくらいかっこよかった。
「じゃあ、温かくて美味しい紅茶を入れてもらえる?」
「はい!」
泣いたことですっきりしたのか。私の気持ちはずいぶん軽くなっていた。
もうここまで来たら、本当に瞳子と祐巳さまの問題だから。
今度瞳子を見るときは、瞳子の胸にロザリオがかかっているそう信じて待つしかないから。
私たちに出来ることはここまでだから。
だから、後は待つしかないのだ。瞳子と祐巳さまを信じて。
【No:783】よりそう約束踏み出した一歩 につづく