【920】 どうしよう大混乱だけでなく  (朝生行幸 2005-11-27 20:03:01)


**第一章**

志「お姉さま、一体何処に行ってたんですか!」
聖「いや、何処って…」
志「さあ、急いで帰りますよ、ええ、帰りますとも。帰るともさ」
聖「し、志摩子?なにをそんなに慌ててるの」
志「なにを仰ってるのですか。すぐに実力テストですよ、勉強しないと」
聖「大丈夫よテストぐらい…」
志「なんてことを仰るのですか!」
聖「あなた、いつに無く強気ね」
志「いいですか、今回のテストでお姉さまの命運が別れるんですよ。留年して、もう一度白薔薇さまになりたいですか?私はそれでも構いませんが、留年生が生徒会長というのは、ちょっと、いいえ、かなり恥ずかしいことですよ」
聖「い、いや、それは困るなぁ」
志「ですよね?留年はイヤですよね?だから勉強するんです。留年しないために。なんとしてでも、お姉さまを卒業させるために!留年させないために!」
聖「留年留年言わないでよ。だいたい、それ以前に、出席日数の方が気になるんだけど…」
志「そんなもの、気長に補習を受けていればなんとでもなると、鳥頭の人が言ってます。とにかく、なんとしてでもいい点数を取らないと」
聖「いやあの、卒業って実力テストで決まったっけかな…?」
志「赤点でもとった日には、とても卒業なんておぼつかないです!」
聖「そりゃそうだけど、なんか納得いかないわね」
志「薔薇さま方にもお願いして、お姉さまにもうみっちりと叩き込んであげます。そうです、叩き込んであげます!」
聖「ええと…、聞いてる?」
志「聞いてます!こうなったらお姉さま、私の家に泊りこみで…」
聖「勉強以外にも、目的を持ってそうだな」
志「いいえ、勉強一筋!テストが終わるまで、食事もお風呂もトイレも寝るときも一緒です!」
聖「おい、風呂どころかトイレまでか?」
志「お姉さまに卒業証書を持たせるのが、わたしの目標です!」
聖「いや、そんな大層なことじゃないと思うんだけど」
志「そんなこと言っていいんですか?卒業出来ないと、紅薔薇さまに笑われますよ」
聖「くっ、嫌な名前を出したものね」
蓉「呼んだかしら?」
聖「よ、蓉子!?なんでここにいるの!」
蓉「そんなことはどうでもいいの。でもあなたは、どうやら留年決定本決まりのようね」
聖「くそう、まだ決まってないけど、スゲエ腹立つわね」
蓉「あら、腹はたつけど悔しくないワケね?そうなのね?」
聖「ぐぅ、この握り締めた拳骨のやり場はどこにある…?」
令「あ、紅薔薇さま。ごきげんよう」
蓉「あら令、ごきげんよう」
聖「ここにあったわ、でえええええい!」
(どがし☆)
令「あ痛!?何をなさるんですか聖さま!」
聖「私の愛のムチよ。しかし、頑丈ねあなたも」
令「え、愛?愛なんですか?でもでも、私にはお姉さまと由乃が…、ううん、でも聖さまもいいな」
聖「あ、あれ?マジに受け取ってるんじゃないわよ」
令「でも聖さまには、志摩子がいるのに…。ひょっとして二股ですか?」
聖「サラっと、とんでもないこと言わないでよ!」
志「そんな!お姉さまが浮気しているなんて!相手は誰なんです!」
聖「浮気なんかしてないわよ!(とは言い切れないけど)」
志「ひどいです。今まで一生懸命に尽くした私をほっぽっといて、ほかの女に手を出すなんて」
聖「だから、(表向き)浮気なんてしてないってば」
蓉「相変わらず、往生際が悪いわね、聖は」
聖「知らないって行ってるでしょう。ねぇ志摩子?誤解間違い勘違いよ」
志「いいえ、聞く耳持ちません。こうなったら紅薔薇さま黄薔薇さまに協力して頂いて、半ば強制的に相手を聞き出します。覚悟はいいですね!?」
聖「なんでそうなるの!」
祐「あれ、なんの騒ぎですか?」
由「ごきげんよう紅薔薇さま」
蓉「ごきげんよう、祐巳ちゃん由乃ちゃん。良いところに来たわ」
祐「随分とにぎやかですけど」
由「何かあったのですか?」
蓉「どうやら聖が、浮気をしているらしいの」
祐「ええ!?白薔薇さまが浮気を?」
由「白薔薇さまが、そんな鬼畜で外道なことをなさっていたなんて…」
聖「違うって言ってるだろおがあ!」
由「女の敵ですね。そんな輩は、とっちめて差し上げないといけません」
祐「白薔薇さま、私見損ないました」
聖「なんで私ばっかり、よってたかっていじめられなきゃならないのよぉ」
志「さあ、あらいざらい白状してもらいます。薔薇の館へゴー!」
聖「まま待って、止めてくれー!」
由「白薔薇さま、自業自得というものです。志摩子さんを手伝ってあげないと。令ちゃん、動けないように押さえつけて差し上げて」
令「はいな。聖さま、私を怨まないで下さい。身から出たサビってやつです」
祐「白薔薇さま、キリキリ歩けです」
聖「どおしてみんな、私の話が聞けないのよー!」
蓉「やっぱり、日ごろの行いかしらね」
聖「私がなにをした?」
蓉「自分の胸に、手を当ててみれば?」
聖「だうううう」



**第二章**

全『ごきげんよう』
江「あらまあ。総出でどうかしたの?」
志「黄薔薇さま、聞いてください!」
江「どうしたの志摩子。目が真っ赤よ」
志「お姉さまが…グス」
令「どうやら聖さま、浮気しているらしいんですよ」
江「まぁ」
祐「志摩子さんが可哀相です」
江「ほんと、可哀相にねぇ、志摩子(なでなで)。こんな極道娘は、ちょっとばかりヒドイ目に会わないと分からないものなのよ」
聖「誰が極道だ!?私はホントに何もやってない!」
江「ねぇ聖?しらばっくれるのも、大概にした方がいいわよ?」
由「まあ江利子さま、血に飢えた野獣が獲物を見つけたような、野卑で野蛮なその目つき、久しぶりに見ました」
江「…なんだか気になる言い方だわね」
令「あの目付きは怖いんだけどね」
由「あら、どうして?」
令「由乃も、よく同じ目付きしてるのよ」
由「そんな、令ちゃんったらお上手ねぇ」
令「誉めてないんだけど…」
祐「紅薔薇さま、黄薔薇さま。ちゃっちゃと始めましょう」
蓉「そうね。さあてそれじゃ、志摩子のためにもとっちめてあげましょう」
江「ええ。主に私の暇つぶしのためでもあるけど、気持ち良く歌ってもうらおうかしら。くすくす」
聖「うわ、こいつら目がマジだわ」
江「みんな、手伝ってもらえるかしら?」
由「もちろんです。志摩子さんの無念を晴らして差し上げましょう」
令「同情しますよ、白薔薇さま」
祐「どきどき。どんなことになるのか、ちょっと楽しみ」
聖「祐巳ちゃん、覚えてなさいよ…」
蓉「そんな台詞も、しばらくは言えなくなりそうね」
聖「ぐぅ…」
江「んっふっふっふ〜♪こんな時のために、秘密兵器を用意してたのよね〜」
聖「秘密…兵器?ひょっとしてそれって、すごくイヤな気分になるんじゃ…?」
江「もちろん。あ、でも意外とイイ気分になるかもね」
聖「だあ〜、やめろ、やめてくれー!」
江「暴れちゃダメよ。令、この手錠でテーブルに拘束して」
令「はいお姉さま」
蓉「祐巳ちゃんは、ドアの鍵を閉めて来て」
祐「はい」
江「蓉子、窓は閉まってる?」
蓉「OKよ」
江「由乃ちゃん、流しの棚から例のクスリを…」
由「はーい」
江「志摩子、隣の部屋にカメラがあるから取って来て」
志「はい」
江「では、ショータイムの始まりね♪」
蓉「どう?まったく動けないでしょ」
聖「いったい、なにをする気なんだよう」
江「もちろん決まってるじゃない。聞きたい?」
聖「うう、聞きたくないけど、聞かないのもアレだし…」
江「うふふ、教えてあ・げ・な・い♪」
聖「クソー、殺せ〜!いっそ殺してくれ〜!!」
蓉「まぁ、見て見て、志摩子。感極まって泣いて喜んでるわ」
聖「喜んでなんかいねー!」
蓉「もっと、自分に正直になった方がいいわよ」
志「お姉さま、最後のチャンスです。素直に白状すれば、ここまでにしておいてあげます」
聖「知らないって、言ってるでしょ〜!あなたは私の事が信じられないの!?」
志「聞く耳持ちません。さあ、白状するか否か!」
江「すごい迫力ね、志摩子」
志「わたしは本当は、こんなことしたくないんです。でも…」
江「そうよねー。ねぇ聖、素直になったら?」
聖「だから、全く知らないって言ってるでしょ!?」
由「どうやら、一筋縄ではいかないようですね」
令「交渉決裂ですか」
江「仕方がないわね。んでは、プスッとな」
聖「うえっ、な、何を…?」
蓉「筋弛緩剤よ。すぐに動けなくなるからね」
祐「ああ、なんだかどきどきしますね」
聖「にゃ、にゃらにゃがうにょかにゃひ…」
蓉「さすが、良く効くわね。祐巳ちゃん、もういいから手錠を外して」
祐「はい」
江「それではまずは、秘密兵器第一段!『モヒカンかつら』よ!」
聖「にゃにぃ!?」
江「これを頭に被せると…」
全『ぶわはははははははははははは!!』
令「似合いますよ、白薔薇さま。マッドマックスみたい」
由「令ちゃん、たとえが古いわよ。でも、素晴らしいわ。これはもー永久保存版にするべきです」
祐「カッコいいです白薔薇さま」
江「うくくくくく、ダメだわもう、うぷぷぷぷぷ」
志「………(必死に笑うのを我慢している)」
蓉「くすくすくす。ね、ねえ志摩子、笑っていないで写真を…」
志「は、はい。でも手が震えて、うまく撮れないかも…(パシャパシャ)」
聖「ようぇー、やうぇよよー」
江「じゃ、じゃあ次。秘密兵器第二段!『髭メガネ』よ!」
聖「にょえ!?」
江「これをこうして、と…」
全『ぎゃははははははははははははは!!』
祐「最高です。下手な芸人真っ青」
由「道行く人たちが、皆振り返るわね」
蓉「江利子、パッチと腹巻はないの?(パシャパシャ)」
志「………(顔が真っ赤)」
江「それはさすがに無いわね。でも、うふふふふ、こんなに似合う娘は初めてだわ」
聖「はふひてふへー…、にゃのふー」
江「さあて、それでは最後の仕上げと行きましょうか」
由「どうするんですか?」
江「その前に、聖を裸にしないとね。眼鏡とモヒカンも取って頂戴」
蓉「それじゃ、スパッと脱がすわね」
由「うふふ、白薔薇さまの肌って綺麗ですね」
令「一度、相手してもらえば?」
蓉「あら令。面白い冗談ね」
令「あ、いやその…」
祐「脱がし終わりましたよ」
蓉「江利子、それで最後のは…?」
江「じゃじゃ〜ん!これよ!」
志「そ、それは!
江「そう、ピンクのフリル付きエプロンよ!」
蓉「ま、まさか!禁断の裸エプロンを!」
令「くっ、恐ろしい、恐ろし過ぎます!」
祐「や、やめてください。それだけは!」
由「あまりにも危険です!」
江「ダメ、やると言ったらやるの。ホイ!」



**最終章**

『……………………』
 全員、聖の裸エプロンに絶句していた。
 予想を遥かにブッちぎった、あまりにも可愛い姿なので、二の句が告げなかったのだ。
「ほねがひ、もう、やめへ…」
『うっ…』
 涙を溜めながら懇願する聖の姿に、思わず呻き声を上げてしまう。
 全員、現代風に言うところの、聖に萌え萌え状態だった。
「たれか、らすけれ…」
「聖、今すぐ助けるから!」
 耐えられなくなったのか、一番に蓉子が動く。
「待ちなさい蓉子、聖を助けるのは私よ!」
 それを止める江利子。
「白薔薇さま、私がついてますから!」
 駆け寄る祐巳。
「祐巳ちゃんには無理よ。聖さまを救うのは私!」
 祐巳を押し退けようとする令。
「令ちゃんは引っ込んでて。聖さまは私が!」
 令を蹴り倒す由乃。
「お姉さまを助けることができるのは私だけです。手出し無用!」
 普段の物静かな雰囲気とは裏腹に、やたらと強気な志摩子。
「何よ、そもそも志摩子の行動が原因じゃないのよ!」
「最初は私とお姉さまだけの問題でした。口出ししてきたのは紅薔薇さまでしょう?」
「その割には、薔薇さまに手伝ってもらおうとか言ってたじゃない」
「嘘も方便です。紅薔薇さまは、私とお姉さまの仲を引き裂くおつもりですか?」
「引き裂くもなにも、あなたに聖は渡さないわ!って、ちょっとあなた達!」
「お姉さまをどうするつもりなのです!」
『ばれた!?』
 他の4人は、口論中の2人に気付かれないように、こっそり聖を運び出そうとしていたのだが、見付かってしまった。
「こうなったら、実力で排除するわ。覚悟なさい!」
 三年生から一年生まで、立場を超えた大乱闘が始まった。

「大丈夫ですか?聖さま」
「え?ああ、うん、ありがと…って祥子?ここは?」
「私の部屋です」
「へーそう。で、なんで祥子の部屋に?」
「いやですわ聖さま。あなたが誘ったのでしょう?」
「はい?」
「だって、そんな姿で、私をすがるような目付きで見ていらっしゃったじゃないですか」
「はぁ?」
「だから、皆が凄まじい殴り合いをしている中から、聖さまをお助けしたのです。大丈夫、もう何も心配は要りません。私が一生面倒見て差し上げますから…くすくすくす」
「いや〜!おウチに帰して〜!」
「ダメですよ聖さま。逃がしませんからフフフフフ」
「たーすーけーてー!!!」
 あまりにも広大な小笠原の敷地、聖の叫び声は、何処にも、誰にも届かなかった…。


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