※最初に謝っときます。下品ですいません。
それから、聖さまファンの方々にも謝っときます。セリフすら無いのに思いっきり汚れ役です、すいません。
冬の寒さが厳しくなってきた薔薇の館で、私、二条乃梨子は、いつものようにお茶の準備をするべく、流しでカップを出しながら、お湯が沸くのを待っていた。
私の後ろでは、志摩子さん祐巳さま由乃さまの2年生トリオが何やら真剣に議論している。
何だろう? みんなヤケに真剣な顔で悩んでるな。
「・・・・・・きっと・・・・・・越冬隊の・・・・・・」
「奥さんが・・・・・・・・・」
「・・・・・・寒さに負けず・・・・・・・・・」
何だろう? 漏れ聞こえてくる単語が意味不明だな。
いや待て。盗み聞きはリリアン生としてはしたない。私はとりあえず沸騰したお湯をポットに入れ、茶葉が開くのを待った。
「そこで正式に隊員番号が与えられたのよ!」
「ああー・・・そうかもねー」
エキサイトする由乃さまと納得する祐巳さま。
何だ? 隊員番号って。盗み聞きする気は無くとも聞こえてきちゃうから、気になって仕方ないな。
そろそろ飲み頃な紅茶をカップに移し、私はテーブルへと向かった。
「どうぞ」
「ありがとう乃梨子」
「わ、良い匂い。乃梨子ちゃん、最近一段と紅茶入れるの上手くなったね」
「ありがとうございます祐巳さま。由乃さまミルクは?」
「ありがとう、自分で入れるから置いといて」
そんな会話を済ませ、私は志摩子さんの隣に座る。3人とも紅茶を楽しんでいるので、さっきまでの気になる会話は途切れたままだ。
おや? テーブルの上に何か紙切れが置いてあるな。しかも良く見てみれば、3人とも紅茶を飲みながらもその紙切れに視線が集まっている。どうやら、さっきの話題の中心は、この紙切れみたいだな。
しかし、さすがに「さっきは何の話だったんですか?」と聞くのも、盗み聞きしてましたと白状するようで、切り出しずらいな・・・
「え〜と・・・ じゃあ、さっきまでの推測をまとめてみましょうか」
「そうね、もう一度整理してみましょう」
お、由乃さまがさっきの話題に戻るみたいだな。チャンス!
「・・・志摩子さん、何の話? 」
私はなるべくさりげない調子で、志摩子さんに聞いてみた。
「ああ、あの紙に書いてある事なんだけど・・・」
「紙? 」
やっぱり、あの紙について議論してたみたいだな。肝心の紙は由乃さまが持ってるんで、何が書いてあるのかは解からないけど。
「まず、オランダ人の人妻だって事は間違いないわよね」
「そうだよね、訳せばそうなるよね」
オランダ人? 人妻? 何の話だろう? 由乃さまの言葉に、祐巳さまはヤケに納得してるけど・・・
「そうね、そこまでは正解だと思うの。ただ、その後の南極っていうのが・・・ 」
南極? 志摩子さん、何が正解なの? ってゆうか何の話なの?
「だから、南極越冬隊員の旦那さんに同行した奥様だってば! 間違い無いわよ! 南極越冬隊の他に、わざわざオランダから南極まで行く人なんて考えられないわ! 」
「そうかもね。・・・で、実はその奥様、勝手に同行しちゃっただけの素人だったから、最初は隊員番号が無かったんじゃないかと? 」
「そう! それで、最初は他の隊員にも疎ましがられて認めてもらえなかったんだけど・・・ 」
「・・・いつしか活躍が認められて、正式に隊員番号も与えられたという事かしら? 」
志摩子さんまで会話に夢中だ。
でも何でイキナリ南極越冬隊の話になったんだろう?
「でも、隊員番号が若すぎない? 」
祐巳さま、若すぎる隊員番号って何ですか?
「それは、凄い活躍をしたから、隊長に次ぐくらいの番号が与えられたって事でしょ。いわば名誉隊員扱いってとこじゃないかしら? 」
「そっかぁ・・・ 」
何だろう? 何か南極越冬隊に関する感動秘話みたいな話かな・・・
「そうね、それならこの隊員番号も納得できるわね」
あ、志摩子さんも納得してる。
「ねえ、元々隊長の奥様だった可能性は? それなら南極に行ったのも、隊長に次ぐ番号なのも納得できるし・・・ 」
「いや、隊長の奥様だからって南極までついて行くとは限らないし、仮に隊長の奥様だから同行できたんだとしても、それだけでこの番号を与えられたら、他の隊員が納得しないんじゃないの? 」
「そっか、優秀な人はいっぱいいそうだしね。“どうしてあの人が俺よりも番号が上なんだ!”とか言い出すかも・・・ いや待って!元々その奥様が越冬隊員として優秀な人だったとしたら? 」
「祐巳さん、仮にも南極越冬隊よ? やっぱり体力勝負になると思うし、そうなれば男性には敵わないんじゃないかな」
「ああー・・・ サバイバル能力とかも必要そうだもんねぇ・・・ 」
疑問の声を挙げた祐巳さまが、由乃さまの推測に納得する。何か結論が出た雰囲気だな。
しかし、疑問を放置せず切磋琢磨し合うのは良いけど、置いてきぼりは勘弁だなぁ。
う〜、会話についていけないからモヤモヤする・・・ 仕方ない、もう一度聞くか。
「志摩子さん」
「何? 乃梨子」
「何の話をしていたの? 」
「ああ、乃梨子だけ置いてきぼりにしてしまったわね。ごめんなさいね」
「いや、それは良いんだけど・・・ で、何の話? 」
「実は、山百合会の仕事の関係でお姉さま・・・聖さまに教えてもらう事があってね? 」
“聖さま”という名前を聞いただけで、私は何か嫌な予感がしてきた。
「その時、忘れてはいけないから教わる事をメモしてもらったのだけど・・・ 由乃さん、ちょっと良いかしら? 」
「何? 」
「そのメモを貸してちょうだい」
志摩子さんが由乃さまからメモを受け取る。
「このメモの裏に書いてあった言葉の意味が解からなくて・・・」
嫌な予感が益々膨らんでいくのを実感しながら、私はメモを見た。
その裏には、こんな文字が派手な色使いで書いてあった。
『ダッチワイフ 南極2号』
・・・・・・“性”さまめ。
良く見れば、メモは広告か何かの切れ端で、切れた部分には値段らしき文字の欠片が見て取れた。
何で普段からこんな広告持ち歩いてんのよ! あの変態エロ魔人!!
・・・しかし、リリアン育ちってこんな物も知らないのか・・・ この文字を見て南極越冬隊を連想するなんて、世間知らずの本物のお嬢様学校なんだなぁと、私はあらためて実感していた。
・・・まあ、それはそれとして。
「由乃さま」
「何? 乃梨子ちゃん」
「竹刀貸して下さい」
「え? 何よイキナリ。何に使うの? 」
「今ならヤツはたぶん隣りの敷地に・・・ いや、変な事には使いませんから」
「ヤツ? 隣り? 」
「とにかく、お借りします」
私は有無を言わせず竹刀をつかみ、バランスを確認するために2、3回素振りをしてみた。そんな私の様子を見て、由乃さまは何となく腰が引けている。
「ちょっと・・・ 何する気? 」
「大丈夫ですよ、乾いて凝固する前に濡れた布巾か何かで拭き取れば、シミは残りませんから」
「シミって・・・・・・ 何でもない」
おや。さわやかな笑顔で答えたつもりだったけど、由乃さまが黙り込んじゃった。
さて、セクハラ魔人を退治しに大学の敷地まで行きますか。