注:オリキャラ出ます。
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「ご、ごきげんよう、ロ、紅薔薇さま!お願いがあります!」
放課後、薔薇の館からの帰り道、枯葉舞う並木道を抜けマリア様の前で手を合わせている時、下級生らしき娘に呼び止められた。
久しぶりの姉妹水入らずでの帰り道を邪魔されて、紅薔薇のつぼみである私の妹は不満気な顔を隠そうともしていない。
「今度の日曜日にお付き合いください!」
ちょ、ちょっと待った、今ここでそんなことを言ったら妹の怒りが爆発するから。
「何ですのあなたは!無躾にも程がありますわ!
妹である私を前にしてお姉さまをで、で、で、デートに誘うなど、何様のつもりですの!?」
ぶるんぶるんと頭の両脇にあるドリルが回って危ないことこのうえない。
「・・・へ?でーと?えーーー?ち、違います!紅薔薇さまとデートなんて畏れ多いこと出来ません!」
両手をぷるぷる振って必死な様子はちょっと可愛いなぁ。私の妹もこのくらいの可愛さがあれば良いんだけどなぁ。
人が見てる前だと小言が多くて可愛げが無いんだから・・・。
それはともかく、ここは私が助け舟を出さないとだめか。
「まーまー、落ち着いて。それで、どう言うこと?」
「は、はい、今度の日曜日にお姉さまの試合があるんです。
都大会の準決勝で事実上これが引退試合になると思うんです」
今度は両手を握りこぶしにしてファイティングポーズ?そうやって迫られると引くんだけど。
「それで、紅薔薇さまにお姉さまの応援に是非お越し頂きたいのです」
ふむふむ、泣かせるわね。お姉さま想いの見本のような妹ね。
でも、私の妹は簡単には落とせないわよ。
「何を考えていらっしゃるの?
やれ試合だ、やれ大会だとその度に薔薇さま方が応援に駆けつけて居たら、いくつ体があっても足りないではありませんか。
黄薔薇姉妹のようにお二人が剣道部所属とか、私のように演劇部所属という事情があれば別ですが」
「分かっています。ですが、お姉さまの最後の試合を紅薔薇さまに応援して頂きたいのです!」
紅薔薇のつぼみの言葉にも一歩も引かない度胸、気に入ったわ。この子のお姉さまに会ってみたいわ。
「最後の大会で準決勝進出という晴舞台に慣れておられず、お姉さまは舞い上がってしまっているのです。
このままでは折角の実力の半分も出せないまま終わってしまうかもしれません。
そこで荒療治に紅薔薇さまからお姉様に渇を入れて頂きたいのです」
んー?都大会の準決勝?なんだか覚えがあるような。どこの倶楽部だっけ?
「どの倶楽部でも同じようなことはあります。
あなたのお姉さまがどなたか存じ上げませんが、お姉さまと縁の薄い方にまで・・・」
「お姉さまが言っていました、紅薔薇さまとは『最近は付合い減ったけど親友だったんだ』って」
私の親友だった?あれ?それって・・・、
「楓!何をしているの!?」
「お姉さま」
彼女のお姉さまが良いタイミングで登場・・・って、え?まぁ、久しぶり。
「桂さん!
あ、じゃあ楓ちゃん?あなた桂さんの妹なのね?」
「はい!」
と言うことはこの子もテニス部なのかな?
桂さんが大舞台を前に悩んでいる姿に暴走しちゃった訳だ。
「桂さまですか?あまり存じ上げないのですが」
「あー、うん、瞳子を妹にする頃からあまり顔を合わせることが無くなったから知らないかもね。
中等部からの大事なお友達なんだよ」
桂さんはテニス部の部長じゃないから薔薇の館に来ることも無いし、2年生の時にクラス替えがあってからあまり桂さんと話をすることが無かったから、瞳子とは面識が無いんだったわね。
「楓、余計なことはしないで。祐巳さんは薔薇さまだから忙しいんだし、出来ないこともあるの」
桂さんが楓ちゃんの肩に手を置いて見つめ合うように説得している。
でも、『薔薇さまだから忙しい』って、桂さん私を美化してない?薔薇さまだからって特別じゃないんだよ。
「で、でも、お姉さまが心配で・・・」
「だからって祐巳さんに迷惑かけて良いわけないじゃないの」
「そうですわ、一つ前例が出来てしまうと、次から次とお姉さまに応援依頼に来る倶楽部が出てしまいます」
うーん、瞳子の言うことは尤もだね。でもね・・・。
「そうねぇ、頼まれたら薔薇さまが応援に来てくれる、なんて広まるとまずいよね。
で・も、紅薔薇さまでなく、福沢祐巳個人が親友の応援に行くのはかまわないと思うんだよね」
「祐巳さん?!」「お姉さま!」
楓ちゃんの頭を軽くポンポンと撫でてあげて聞いた。
「で、楓ちゃん。桂さんの試合ってどこでやるの?」
「日曜日にK区テニスの森公園で10時からです!祐巳さま、よろしくお願いします!!」
あなたの気持ち受け取ったよ。お姉さまのために自分が出来ること、何でもしてあげたい。私だってそう言う気持ちは持っていたことあるんだから。
「うん、OK!桂さん、私が応援に行くからには優勝しないと許さないからね!」
こういう時ははったりでも良いから発破かけてあげないとね。
びしっと親指立ててバチコーンとウィンクしてみせる。
「祐巳さん・・・わ、わかったわ!私頑張る!」
「お姉さま・・・」
「楓、戻って練習よ!」「はいっ!」
桂さんもやる気が出たのかガッツポーズで応えてくれた。
そしてすぐにでも走りだそうとする楓ちゃんをギュッと抱き締めると、
「ありがとう、楓」
と小さく呟いた。桂さんの腕の中で楓ちゃんも嬉し恥ずかし気にコクリと頷いた。
桂さん、お姉さまのためなら薔薇さまも恐れずに突撃するような立派な妹を持ったね。
「桂さん、良い妹が居て幸せだね」
「まったく、お姉さまは甘すぎます。日曜日は私とデートしてくださるはずでは無かったのですか?」
瞳子ったら不満気に頬を膨らましている。そんなところが可愛いんだけどね。
「ん?んー・・・行き先変更、ってことで。
たまにはスポーツ観戦というのも良いんじゃない?」