【942】 スーパーナチュラル手のひらにしか解からない  (春霞 2005-12-07 02:19:06)


紅の十字架シリーズ(くま一号さん命名) 
【No:934】『超鬼畜なお姉さま!山百合会で一番怖い紅の十字架』の時間的には少し前の話です。 
が、単独でもご賞味いただけるかと。 
なお、相変わらずオリキャラがノシてます。 苦手な方はスルーして下さい。 


                   ◆◆◆


 しずかにしずかに扉が開いてゆく。 日頃の手入れが良いという事も有るだろうが。 さらに蝶番に油をさした効果もあり、なにより侵入者の細心の注意によって実に滑らかな動きだ。 
 程なく、細身の人ならすり抜けられるだけの隙間が出来あがった。 
 すかさず床を這うほどに低く、不審者の影が室内に滑り込む。 1つ、2つ、そして3つ。 

 分厚いカーテンに遮られて、日の差し込まない室内はひどく暗い。 入り口もすぐに閉ざされ、僅かに差し込んでいた廊下の灯りも失われた。 鼻を摘まれても判らないほど濃密な闇が生まれ。 不審者たちは息を殺して毛足の長い絨毯の上に伏る。 まずは目が慣れるのを待つのだ。 

 やがて闇の中に、天蓋付きのクラシカルなベッドが浮かび上がってくる。 
 3つの人影は、ベッドの上から自分たち以外の呼吸音を2つ、聞き取って頷きあった。 1つはじつに穏やかに大らかな安心しきったもの。 1つは浅く、早く、ややくぐもっている。 

 先頭に立つ影が、人差し指を振って合図をすると、続く影は窓際にはいより、残る一つは懐からなにやら塊を取り出した。 指揮をとっている影はそのままジリジリとベットにむかう。 塊を持った影も背後に続き、なにやらスイッチを入れた。 
 キュイ。 電子音がしてインジケータランプが灯る。 ビデオカメラだったようだ。 それを眼前に構え、静かに立ち上がる。 
 ベットの中からは、まだ静かな寝息しか聞こえない。 
 指揮をとっている影がわざと小さく囁いた。 

 「ゆーみーちゃん。 とうこー。 起きなさーい。 朝ですよー。  …起きないと寝顔を撮っちゃうわよー。 」 
 ベットの中の気配が反応しない事を確認すると、綾子は窓際で待機するメイドB子こと別当和子ベリーザに合図した。 
 ジャッ。 カーテンが大きく開かれる。 春のうららかな朝日に室内が白く染めあげられ、すかさず綾子の背後に控えていた、同じくメイドのA子こと阿佐美彩子がビデオカメラをまわし始めた。 

 ベットの上には、普段のツインテールをほどいた祐巳が静かに寝息を立てている。 横向きになった体には、半分しか毛布がかかっていない。 くま柄のパジャマの背中が少しめくれ上がり、すべらかな肌が剥き出しになっている。 
 「祐巳ちゃんったら。 春とは言え、風邪を引いちゃうわよ。  …彩子、撮っているわね? 」 
 「もちろんです、綾子さま。 本当に可愛いらしいですね。 お嬢様が夢中なのも解ります。 」 
 「抱きしめて、頬擦りしたくなっちゃいますねー。」 全てのカーテンを開け終わったベリーザが枕元に戻ってきてコクコクと頷いている。 
 「まあ、駄目よ。 祐巳ちゃんは私のものなんだから。 抱きしめていいのも 私、だ、け」 
 「あの、綾子さま。  お嬢様の立場は… 」 汗ジトで突っ込む彩子さん。 
 「あらやだ。 間違えちゃったわ。 祐巳ちゃんは私の瞳子のものなんだから、私と、瞳子以外が抱きしめちゃ駄目なのよ。 良いことベリーザ? 」 
 「はーい。 了解です奥様。 私は姫様をお世話していられれば幸せですから 」 ヒョイと肩を竦めるベリーザちゃん。 
 「ところで、その姫様は? 」 
 3つの視線がベッドの上に集中する。 
 すやすやと寝息を立てる祐巳の横顔。 背中ははみ出しているものの、肩口からお腹、足元までは毛布の下に潜っている。 
 「向こう側には落ちていらっしゃいませんでしたよ。 」 カーテンを開けるときに窓がわから確認していたベリーザちゃんは、綾子の顔を伺う。 
 「昨夜はご一緒に休まれたのですから、お嬢様はこの毛布の下と言うことに… 」 

 キラーン。 二人のメイドには、綾子の目が光ったように見えた。 

 「彩子、準備は 」 
 「もちろんです 」 まわしっ放しのカメラを構え直す。 
 「ベリーザ、静かに、丁寧に。 だけど大胆にね。 おやりなさい。 」 
 「はーい。 奥さま。 」 

 静々と毛布がめくられていく。 祐巳の方が露わになり。 2の腕が見えてくる。 その隙間に波打つ髪が見てとれる。 どうやら祐巳は瞳子の頭を抱え込んでいるらしい。 
 と、ベリーザちゃんの手が止まった。 
 「どうしたの? ベリーザ」 
 「ええと…」 僅かに躊躇してから、ベリーザちゃんは腹を決めた。 「すいませんね。姫様 」 
 がばっと一気に引っぺがす。 
 そこには、予想通り頭を抱え込まれた瞳子が居た。 
 予想と違っていたのは、瞳子の目が既に開いていた事だった。 

 頭を祐巳の胸元にきゅっと抱え込まれて、どうやら身動きが取れないらしい。 手は祐巳の肘の辺りにあるが、指先だけでパジャマの生地を摘んでいる。 腰回りは、はしたない祐巳の両足に絡み着かれ、がっちりとロックされている。 下ろした巻き毛の隙間から見える、耳の端や頬は真赤に染まり、目はまるで徹夜でもしたかのように血走っている。 息は速く、浅く今にも絶えそうなほど弱々しい。 

 それらの全てをつぶさに見て取った綾子は、ニヤニヤしながら愛娘に訊いた。 
 「瞳子、あなた若しかして一晩中起きてたんでしょう。 愛しいお姉さまの柔い部分を感じてはあはあしちゃってたのね? どうせなら、折角の祐巳ちゃんの胸の中なんだから、そのまま夢うつつの桃源郷にでも逝っちゃえば良かったのに。 」 
 くすくす笑いながら、綾子は内心不審にも思っていた。 
 いつもの瞳子なら、この位からかえば激烈な反応が返ってくるはずである。 自慢のドリルをぶん回して、女優稼業で鍛えた声量を存分に発揮するところなのだが。 きょうは反応が無い。 
 まあ、今朝はまだツインテールにしていないのだから、ドリルは回しようが無いのだが。 

 そうこうしていると ようやく、か細く くぐもった声が届いた。 
 「助けてくださいまし。 お母様。 お姉さまの手と足を除けて下さい。 後生ですから〜 」 
 「変な娘ね。 自分で除ければ良いじゃないの。 祐巳ちゃんって、別に怪力って訳でもないのでしょう? 」 
 「出来ないからお願いしているのです。 押し退けようと何所に触れても、ふにふにのヤワヤワのすべすべで。 もう、もう! 」 

 泣きそうな声と言うか、鳴きそうな声というか、微妙に艶やかな声音である。 
 どうやら一晩中何度となくトライしては、自分の煩悩に撃退される状況であったらしい。

 本気でテンパッて居るらしい娘の姿に、綾子はようやく母らしい態度で応じてあげた。 
 祐巳の手と足を そうっと剥がしてあげたのだ。 が、剥がしたそばからグリュンと抱きつき直してスッポンのように離れない。 3回試しても駄目な事を悟ると、綾子は手の空いているベリーザちゃんに手伝わせて、手と足を分担する事でようやく瞳子を祐巳から離すことに成功した。 
 彩子さんは、もちろんその一部始終をビデオで撮影中である。 

 本当にふにふにで、良い感触ね。 自分の手のひらを見下ろしながら、いまの素敵なスーパーナチュラルヤワヤワを反芻していると、荒い息を吐きながらベッドサイドに腰掛けていた瞳子が、助け出してもらった礼も言わずに、慌てて続きのバスルームに跳び込んでいった。 

 足元に視線を落とすと、毛足の長い蒼い絨毯の上に、ポツリと血の後がにじんでいた。 

 「あの娘、もしかして一晩中鼻血をこらえていたの? 」 我が娘ながら、随分と可愛くなったものだと感心していると。 ベッドの上で祐巳が 「ふにゅ」 と唸った。 

 「まあ、たしかに、こんな素敵なところにずっと密着していたのなら解らなくは無いけど。 」 
 綾子は、はだけた祐巳の胸元にそっと手を延ばして止めた。 そこに触れていいのは、やっぱり瞳子だけのような気がしたのだ。 
 「惜しいわねー。 」 呟きながら、代わりに祐巳の頬をぷにぷにすると、何が嬉しいのか眠りながらクスクス笑いを始める。 
 「うわ。 本気で堕ちちゃいそう。 拙いわ。 …彩子、彩子。 ビデオはもういいから、祐巳ちゃんが風邪を引かないようにね。 ベリーザは瞳子のほうを。 お願いね? 」 

 「はい、綾子さま 」 
 「はい、奥さま 」 


  …………………… 
  ……………… 
  ……… 

 
 指示こそしたものの、祐巳の寝顔から目を離すに離せなくなった綾子がふと傍らの気配に気が付いた。 瞳子の世話を言いつけたはずのベリーザちゃんが、なにやら生唾を飲み込みながらベットの上を凝視している。 先程、スペシャルホールドを2人掛かりで解除され、大の字に寝ている当の祐巳はと言えば、ふみゅふみゅと鳴きながら、なにやら体の周囲をまさぐっている。 
 はっと何かに気がついたベリーザちゃんは、お仕着せのメイド装束の内、ピカピカに磨き上げられた黒のローファを脱ぐや、やにわにベッドの上に上がりこみ、そうっと祐巳の隣に寝転がった。 
 よくよく躾られている筈のベリーザの無作法な振る舞いに、綾子があっけに取られていると、傍らの彩子も何かに気がついたように、再びビデオカメラをまわし始める。 
 室内には、かすかな電子ノイズと、もふもふという 祐巳がベットの上をまさぐる音だけがしていた。 

 その祐巳の手が、ベリーザちゃんの肢体にパフっと当たる。 パフパフ。 2、3度叩いて確かめるや、やにわに祐巳がくるりと丸まり、ベリーザちゃんを抱きかかえた。 右手と左手でしっかり抱き込み、両足でも密着ホールドする。 先程と全く同じコアラさん状態になってしまった。 
 今回はさらに、ヘッドドレスで飾られたベリーザの頭部に、自分の頬をすりすりし始めるし。 

 「もしかして、祐巳さまは普段、抱き枕か、ぬいぐるみと一緒に眠ってらっしゃるのでしょうか? 」 実はクールにヒートアップしている彩子が、カメラの向うで掠れた声で呟いたが、彩子の脳には、もはやてんで届いていなかった。 
 一人至福を味合うベリーザちゃんを前に、 綾子の意識は”ずるいずるいずるいずるい、次は私が私が私が……” というフレーズだけに満たされていたのだから。 

 その静かに均衡した状態は、鼻血の処置を終えて帰ってきた瞳子が絶叫するまで続いたという。 


 ここにまた1人、どころか3人纏めて『魔性の女』福沢祐巳に魅入られた子羊たちが生まれたのは、綾子達とマリア様だけの秘密です。 
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 v1.1:柊様の指摘を受け、A子=阿佐美彩子 に訂正。 さらに末尾を加筆。    2005/12/07 20:00 


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