がちゃSレイニーシリーズ〜火の七日間編
【No:965】舞い込む確信犯選挙管理委員会 の続き
令が心当たりのある中立の子は……
(他の人バージョンとかもありそうなので分岐っぽくしてみます)
> 林浅香
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「単刀直入に言うわ。今回の騒ぎに関して貴方に中立の立場での演説をして欲しい」
人気のないところに私を呼びだしたその人は突然そんなことを頼んできた。
今回の騒ぎというのは、三奈子さんと一緒に号外を配ったあの騒ぎのことだろう。
しかし、何故私なのだろうか?
演説会や投票の流れを簡単に説明してもらった私は、だから黄薔薇さまに尋ねた。
「何故、私なのですか?」
「それは自分でも分かっているんじゃないかな?」
その通りだった。
私がこの騒ぎに乗って誰かと姉妹関係になることは有り得ない。
寧子さまと真純さんとの三角関係を経験した私がそう気軽にこの馬鹿騒ぎに乗るわけがないのだ。
だからといって多姉多妹制なら悩まなかったかというと決してそんなことはなかっただろうし、逆に一姉一妹制派かと言われればやはりイエスとは言えないだろう。
故に私は中立の立場に立つことが出来る。もっと言うなれば私だからこそ言えることもあるだろう。
「この騒ぎの中で冷静に状況を見られて、なおかつ中立な立場を取れる人はそう多くはないからね」
「それもそうですね」
「だから貴方に頼みたいんだけど」
「黄薔薇さまの言うことは分かります。ですが私は……」
やはり怖い。
演説に立つ以上は私の考えをしっかりと伝える必要がある。
でもそのためには嫌でもあのことに触れなくてはいけなくなる。
それなりに時間がたって、今ではそれなりに落ち着いて思い返せるけれど、やはりあまり触れたくないと言うのが本音だ。
下手なことを言って残り少ない高校生活を壊してしまいたくないし。
そんな私の気持ちを察してか、黄薔薇さまはこんなことを言いだした。
「浅香さんの気持ちも分かるけど、考え方によってはチャンスだとも思うんだ」
「チャンス?」
「そう。私が言うのもなんだけど真純さんと今の関係のまま卒業まで過ごすのは嫌じゃない?」
「それは……」
「上手くやればこの演説で関係も修復出来るし、周りの微妙な視線もなくせるし」
「……少し考えさせて下さい」
「わかった」
そう言いながら立ち去る気のない黄薔薇さまは、何があってもこの場で解答を聞くつもりなのだろう。
私は視線を外して今までの話を整理してみた。
はっきり言えば、私達の関係については余計なお世話だと思う。
でも同時にそれも1つの選択肢だなとは思えるわけで。
考えてみれば私はあの頃何もせずに耐え続けていた。
変化が起こるのを待ち続けて、良い妹を演じ続けて、その裏で疑い続けて、とうとう何も変わらないまま寧子さまは卒業を迎えて、私は寧子さまとの関係を終わらせてしまった。
最悪だったな、と今でも思う。
人生にもしもはないけれど、それでももしあの時ああしていればと思うことはいくらでもある。
黄薔薇革命に乗じて姉妹関係を解消するとか、そうじゃなくても2人の関係をはっきり訊いておくとか。
実は真純さんはただの下級生の親友だったのではないかと思った時には激しく自己嫌悪に陥る時もあった。
あるいは3人で上手くやっていけたかもしれないのにって。
あれから姉妹制度自体についても考えるようになった。
もちろん制度を否定する気はないのだけれど、例えば姉妹以外の上級生や下級生とは親密になったらいけないのかとか、もちろん上手くやってる人もいるけど、そうじゃ無い人もいるわけで。
一姉一妹の今の制度は悪くないけど、それにがんじがらめになってる部分もあるような気がして、多姉多妹も悪くはないけど、少なくとも今の騒ぎは絶対に何かが違う。
姉妹制度で一番大事なのはきっとその関係であって、2つの制度はあくまで選択肢でしかないのだと私は思う。
……なんだ、言いたいことは山のようにあるじゃないか。
そう思った私は顔を上げた。
「どうするか決めた? 無理強いはしないから嫌なら嫌って言ってくれても良いよ」
黄薔薇さまにそう言われたけど、やってみようと思った。
あの時は何もせずに後悔したから、同じ後悔するにしてもやって後悔しようと。
それに今回は舞台を用意して手を引いてくれる人もいる。
「いえ、やります」
「そう。引き受けてくれてありがとう」
そうだ。どうせやるのなら私にしか言えないことを言おう。
それで今までのわだかまりが解けるなら最高じゃないか。
もし駄目でもきっと三奈子さんや黄薔薇さまにフォローを入れてもらえるだろうし。
もし全てが上手く行ったなら、その時は……。
「月曜日、ですよね」
「うん。明日からそれぞれの演説が始まるからそれも聴いておくと良いよ」
「もちろんです。そうじゃないと的はずれな演説になってしまうかも知れませんから」
「そうだね。それじゃあ頑張って」
「はい」
他にも用事があるのか急いで立ち去る黄薔薇さまの背中を見ながら、私は自分がなんだかわくわくしていることに気付いた。
「去年生徒会役員選挙に立候補したロサ・カニーナもこんな気持ちだったのかしら?」
誰にも聞こえない独り言を呟いて、私は波乱を迎えるであろうこれからの一週間に思いを馳せた。