がちゃS・ぷち
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No.1086
作者:まつのめ
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2006-02-06 17:54:00
萌えた:1
笑った:3
感動だ:18
『どうしたいの菜々ちゃんに』
【No:1074】のまつのめのコメントをご参照ください。(文句があったら一本書く)
「……残念ですが…お断りさせていただきます」
菜々は深々と頭をたれて由乃に謝った。
入学式の後、銀杏並木で菜々を捕まえた由乃は『私の妹になってほしい』とロザリオを差し出したのだった。
時としてかなり無理やりな理由をつけて菜々と会っている由乃だったが、毎回それなりに菜々を満足させられたと自負していた。
そう。姉妹の契りを結ぶには十分なだけのお付き合いはしているつもりだったのだ。
ただ、菜々に初めて出会ってから四ヶ月余り経った今でも、彼女のベクトルがいまいち由乃の方を向いていないこともまた事実であった。
だから今回の申し出は、菜々の中でいつも自分が主役でないことが面白くない由乃にとっては、一撃必殺の奥義あるいは抜き放った伝家の宝刀、受けてみよ我が快心の一撃なイベントだったのだが……。
「……理由を……聞かせてくれるかしら?」
由乃の一撃はいとも簡単にかわされて、手痛い反撃を食らってしまった。
笑顔を引きつらせつつ理由を問う由乃に菜々は冷めた目で言った。
「私が由乃さまの妹にならない理由ですか?」
「そうよ。 私の何処が気に入らないわけ? それとも黄薔薇のつぼみになるのは嫌なのかしら?」
選挙は無事に済み、由乃は黄薔薇さまになっていた。
そのときも確か菜々は祝福の言葉をくれたはずだ。
「由乃さまが黄薔薇のつぼみであるかどうかは問題ではありません」
「じゃあ、私自体にに問題があるのね?」
「……」
流石に菜々といえども面と向かっていきなり上級生に『貴方は問題がある』とは言えないであろう。 菜々は由乃の問いに沈黙した。
しかし沈黙したということは肯定したも同然である。
由乃はいつのまにかきつく握り締めていた。
「選挙のとき由乃さまは言いましたよね? 私が薔薇さまのつぼみになってみたいかということを」
「ええ、確かに聞いたわ」
あの時はそんなに真剣な雰囲気ではなかった。
選挙の結果を受けて祝福ムードの中、お決まりのお祝いの言葉のお返しとして菜々に言ったのだ。
確か話の流れで菜々はそのまま高等部に進学するのか聞いて、菜々がそのつもりだと答えたので「じゃあさ」と。
「……菜々は薔薇さまのつぼみになってみたい?」
「そうですね……」
そのとき菜々が何を考えているのか由乃には読めなかった。
菜々はまるでお昼ご飯に何を食べたいか聞かれて考えているような屈託の無い表情で視線を上に向けて考えていたのだ。
結局、菜々は「高校に入学してから考えることにします」と答えた。
ここに至ってじらされた由乃は「この娘どうしてくれよう」と思ったが、「なりたくない」とは言わなかったのでなんとか爆発するのをこらえることが出来たのだった。
「今のがあの時の答えってわけ?」
「いいえ、薔薇さまのつぼみになることについてはまだ考えていません。 私が考えていたのは由乃さまの妹になることです」
「でも断るって言ったじゃない」
なんとか平静を保っている。 でも、そろそろ笑顔でいるのは限界かもしれない。
「……由乃さまは、去年のクリスマス会でのこと、覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、当然でしょ」
これはまたずいぶん前のことを、と由乃は思ったが、そのときのことは良く覚えている。
菜々を山百合会のみんなに会わせるべく画策して祐巳さんや乃梨子ちゃんにまで迷惑をかけてしまったのだ。
「会自体は大変楽しかったです。 お招きいただいたことは今でも感謝しています」
菜々は言った。
「ただ、あの時、支倉令さまが他の大学を受験されると由乃さまに告白された時……」
「……ああ」
あのとき、由乃は思い切り取り乱した。
令ちゃんがあんな重大なことを由乃に話さずにいたことがものすごくショックだったのだ。
でも由乃は泣きそうな声で「ごめん」を繰り返す令ちゃんにあれ以上追求することなんて出来なかった。
それに、令ちゃんは別に由乃のことをのけ者にしようとしたわけじゃなく、令ちゃんなりのなにか考えがあってそうしたのだってことがなんとなく判ったから。
でも。
あのときの一部始終を菜々は見ていたのだ。
菜々は言った。
「私はそれを見てどう考えたと思います?」
正面から由乃を見据える、その強い意志を持った瞳に押されそうになった。
「この人の世界は“支倉令さま”なんだ、支倉令さまが中心なんだって」
その通りだった。
「黄薔薇革命」以来、令ちゃんの保護下から抜け出したつもりになっていた、対等な関係に進化したと思っていたけれど、それは令ちゃんと由乃の二人の関係においてであって、外から見れば「二人の世界」は相変わらず「二人の世界」なのだ。
“依存している”といわれれば確かにそうなのかもしれない。
そういう要素もあるだろう。 でもそんな単純な一言で表せるほど薄っぺらな関係ではないのだ。 由乃と令ちゃんは。
「……幻滅したのね」
由乃が自嘲気味にそう言うと、菜々は一寸表情を変えた。
「あの、由乃さま?」
「なに?」
「幻滅という言葉は前提にある評価があってのことだと思うのですけど」
「……つまり幻滅するほど評価されていないってこと?」
「そこまでは言ってません」
「言ってるわよ!」
それは薄々感じていたのだ。
あるときはアドベンチャーだったり、あるときは令ちゃんとのお手合わせだったり、菜々の関心事はいつでも由乃の外にある。
いまいましい。
いや、目の前の菜々が悪いわけではない。
腹が立つのは自分の不甲斐なさ。
出会ってからこれだけ時間があったにもかかわらず、今だに一度も菜々の関心のまんなかに居たことがないってことだ。
「違います」
由乃が怒鳴ったのに、菜々は全然動じた様子も無く言った。
「どこが違うのよ!」
由乃はもはや笑顔で居ることを忘れていた。
「たしかに由乃さまは不意打ちのように面白そうなことを私のところへ運んできてくれます」
不意打ちなのか。
由乃としては不自然なく、きわめて普通にアプローチしているつもりだったのだが。
怒っているのに、意外と冷静に分析している自分がいることに由乃は驚いた。
「そのことについては感謝してますし、これからもそうあって欲しいなんて図々しくも思っていました」
「だったらなんでなのよ」
「由乃さまは……」
「え?」
「黄薔薇のつぼみ、今は黄薔薇さまに成られた方。 剣道部に二年生の終わりの方で入部された方。 一昨年のリリアンかわら版に載っていたアンケートとは全然違うお方」
それは別に親しくならなくても外からの情報で十分わかることばかりだった。
「それがなに?」
「そして由乃さまの世界は支倉令さまを中心に回っていることを知りました」
「それが何だって言うのよ! 私は菜々が言いたいこと全然判らないわ!」
その後、なにか決定的なことを言われたような気がする。
でも何を言われたのか良く覚えていない。
ただ、気が付くと由乃は菜々の頬を張っていた。
負けたと思った。
菜々はその運動神経を持ってすれば由乃の平手を容易に捕まえることが出来たはずなのにそれをしなかったのだ。
その直後の菜々の瞳。
それが由乃を哀れんでいるように見えてますます敗北感に輪をかけていた。
「馬鹿にしないで!」
その叫びが負け犬の遠吠えであることは由乃自身が判っていた。
菜々の口が何かを紡ぎ出すまえに由乃は駆け出した。
怒りと悔しさと悲しさと、いろんな感情が綯い交ぜになった涙が由乃の頬を濡らしていた。
もう、菜々の言葉はひとことも聞きたくなかった。
(コメント)
まつのめ >というわけで、書いてしまいました。 あそこで異議を申し立てた方は冒頭二行をお題に一本書きましょう。 いや、もちろん強制はしませんよ?(No.6140 2006-02-06 18:18:08)
にゃ >なるほど……あえて理由を曖昧にしたと。これもまた一興、ですな。 (No.6142 2006-02-06 18:24:42)
投 >ぬぅぅ、難しくなってきました。一読者としてただ単純に続きを読んでみたい。書く側ならば今後、菜々が動くかそれとも由乃が動くか、今の令と自分中心の由乃の世界を変えるべきか変えないべきかとか…(No.6153 2006-02-06 19:22:30)
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