がちゃS・ぷち
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No.3059
作者:パレスチナ自治区
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2009-09-11 02:16:50
萌えた:1
笑った:3
感動だ:0
『開幕を告げる』
ごきげんよう。【No:3056】の続きです。
夏休みははしょります。
長いようで短い夏休みが終わり、昨日から二学期です。
今日はみんなが嫌いな課題試験。
まあ、宿題をしっかりやってきている人なら簡単に高得点が取れる試験なんですが…
その反面、さぼっていた人は壊滅的な点数になってしまう訳です。
私はお姉さまや美影さんたちと計画的に進めていたおかげで全く問題ありませんでしたが、お嬢様といえどやはり人間です。
ごく少数、さぼっていた子もいたようで、試験前に泣きながら(実際には泣きそうな顔)でお友達に課題を見せてもらって(悪あがきをして)いました。
そのテストは明日にも返却されるそうです。
順位も発表されるそうで、既に暗い表情の方を時々見受けます。
夏休みはそれなりに楽しかったです。
お姉さまとデートしたり、部活のみんなと撮影の練習に行ったり、お姉ちゃんの恋人恵那さんに襲われかけたり(これははっきり言って余計なのですが…)しました。
そろそろ学園祭の準備が始まりますから、忙しくも楽しい時期に入っていきます。
…………
テストが返却されました。
出来は上々、今回も上位5番をキープです。
全体としても悪くない結果だったのですが、花音先生はあまりいい表情はしていません。
「今回は、みなさん、課題をしっかりやってきてくれたようですね。当たり前なのですが…全体の平均点も上々です。ですけど、今回の試験でトップの成績を収めたのは椿組に入った編入生です。はっきり言ってこの結果は悔しい結果です。貴女たちの勉強方法が他校の生徒よりも劣っているということですから」
普段は優しい花音先生がかなり険しい表情になっていきます。
「先生」
「はい、千夏さん」
「その編入生の子ってどのくらいの点数だったのですか?」
千夏さんの質問は地雷だったようで、花音先生はさらに表情を険しくしました。
「編入生は四季潟出雲さんというのですが…彼女は編入試験代わりに今回の課題試験を受けたのですが、はっきり言いますけれど、ほぼ満点でダントツの成績でした」
ザワザワ…
ほぼ満点、というのを聞いてみんな驚きを隠せません。
私だってそうです。
今回の試験問題にはかなり意地悪な問題もあって(それも全教科)、それに引っかかった人がたくさんいました。
私は古文と数学Aの意地悪問題に引っかかってしまいました。
それさえ無ければ四季潟さんといい勝負が出来たかもしれません。
「はい、みなさん静かになさって。今回の結果だけでこのような事を言うのは良くないのかもしれませんが、受け止めなければならない事に変わりはありませんから、今後、もっと精進するよう心がけてください。なお、成績の悪かった方には来週追試を行いますから、心に留めておいてください」
何人かの人が軽く項垂れました。
あ〜あ…結果が悪いのがばれちゃいましたよ…
「ねえ、雪美さん。どうだった?」
「そうですね。悪くはありませんでした」
私はそう言ってユセスさんに答案を見せる。
「古文と数Aさえよければ四季潟さんに負けなかったかもしれないですけど…」
「確かに…でもこんな引っかけ、先生たちって性格悪いよね。課題をやってきただけじゃ答えられない問題を出すなんてさ…まあそうじゃなきゃ試験じゃないんだろうけど、課題試験なんだからそんな問題出さないでほしいよね」
「そうですね…ユセスさんは?」
「ボクもまあまあ」
ユセスさんも答案を見せてくれます。
「私といい勝負ですね」
「うん。美影さんはどうだったんだろうね。ねえ美影さん」
ユセスさんは席に座ったままの美影さんに声をかけます。
「……はい?」
一呼吸おいて美影さん。どうしたのでしょう?凄く悪かったのでしょうか…
「どうしたの、美影さん」
「それが…」
暗い表情で世界史の答案を差し出す美影さん。
24点?!どうしたんですか?!!
「実は…回答欄が途中から全てずれていまして…」
「「それは…」」
あまりに悲痛な表情の美影さん。私もユセスさんも声が出せません。
「回答自体はほぼ満点だったのですが…先生もそれはわかってくださっているので問題はあまり無いのですが、追試は免れません…初めてですよ追試なんて…」
「でもさ、回答欄間違いなんてそうないだろうから。気にしない方がいいよ」
「そうですよ。それより他はどうだったのですか?」
「他は…古文と化学が満点だったので、リカバリー出来ていました。それだけに、世界史を落としたのは痛いですね…まあ、次で挽回します」
「そうですよ」
美影さんの世界史以外の教科は全て85〜100点の間で、これまた私といい勝負。
それだけにやはり世界史が…トラウマにならなければいいですが…
ユセスさんは現国と数Tが少し足を引っ張っているようです。
私たち三人、それぞれ足を引っ張るものがあり、なかなかうまくいかないものです。
「それにしても、四季潟さんって凄い人だよね」
「そうですね…椿組では大騒ぎじゃないですか?」
「どんな人なんでしょうね」
「そうだね」
「新聞部と協力して、彼女の取材でもなさいましょうか、雪美さん」
「そうしましょう」
いい時期に、面白い人が入ってきましたね。
そんな会話をしている私たちをよそに、クラスのみんなもテストの結果に一喜一憂しているようです。
“トップ3の方たちだって間違いがあるのですから、仕方が無いですわ”
“そうですよね。その四季潟さんって方が異常なだけです”
“もしかしたら、勉強だけしている暗い方なのかもしれませんわ”
“そうです。そうに決まってます!”
「なんだか四季潟さん。ひどい言われようだね」
「みなさん、捌け口が欲しいのですよ」
「そうですね。今回ばかりは仕方ないですよ」
「そんなもんか。でもさ、トップ3って言われ方してるんだね、ボクたちって」
「みたいですね。私は初耳です」
「私たちにも間違いがあるから仕方ないっていうのは、よくは無いですね」
「それも捌け口?」
「でしょうね。このような役回りの人間というのは必ずいるのでしょうね」
「まあ、それはそれでいいことだと思いますけど、逆恨みだけはしてほしくないですよね」
「「全くだよ(です)」」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
部室には既にキセルさんがいました。
「早いですね」
「ええ。今日はお掃除がありませんでしたから。美影さんはどうなさったのですか?」
「追試の説明を受けに職員室へ行ってから来ます」
「まあ、美影さんが追試なんて…どうなさったの?」
「世界史だけなんですけど、回答欄が途中からずれてしまったようで、ずれる前は全問正解だったんですけど…」
「それは…気の毒でしたね、美影さん」
「キセルさんはどうでしたか?」
「そうですね。いつもと変わらなかったです」
「それは良かったです」
「はい。雪美さんもいつも通りなのでしょう?」
「はい、古文と数Aさえよかったら最高でしたが」
「そうでしたか」
「それより、キセルさんは椿組ですよね。編入生の方はどんな方でした?」
「あ、そうですね。凄く可愛らしい方でしたわ。自己紹介の時、かなり緊張なさっていたようでした。フルフル震えていましたから」
「そうですか。うちのクラスでは会ってもいない彼女の事を勉強しかしない暗い人なんだ、なんて」
「そんな事が…まだ彼女の人となりが掴めているわけではありませんから、どうとも言えないのですが、表情を見た限りでは、ころころと表情が変わって、暗いという印象はありませんでした」
「それは良かったですね」
「ええ。可愛らしい方ですし、仲良くなりたいです」
「ふふ…」
そうこうしている間に、活動開始の時間です。
私たち一年生は新聞部の一年生の方たちと人数が同じなので、最近は二人一組になって活動しています。
親密な関係同士の新聞部と、とはいえ他の部活の方と一緒に活動するのは楽しいです。
私のペアは熱海さんです。
「今日はどうなさいます?」
「………そうね……」
熱海さんはいつものポーズで考え始めました。
仕草の一つ一つが美しい方なので、それだけでも見とれてしまいそうになります。
「……。行きあたりでいいんじゃないかしら」
「それもそうですね。外に行きます?」
「ええ。そうしましょう」
「わかりました」
最初、熱海さんとはちょっとしこりがあったのですが、最近ではそれもなくなってきました。
熱海さんと一緒に歩いていると、振り返って見てくる方が多いです。
「……どうして私を振り返って見るのかしら…」
「自覚なしですか?」
「自覚?」
「そうですよ。熱海さんは…」
「貴女までそんな事を…でも、貴女と一緒にいる時の方がそういう人は多いから、たぶん貴女が原因ね」
「……仕返しですか?」
「ふふふ」
どうやら熱海さんの方が一枚上手のようです。私の周りはこういう人が多いです。
熱海さんは外に出る前にお花を摘みに行ったので、私は先に外へ出て写真を撮ることにしました。
…うん?
木の上に誰かいるようです。
あ、マチさんだ。
「マチさん。休憩ですか?」
上を向いてマチさんに話しかけます。
「…………そう…それと………スクープを待っている……」
「桔梗さんはどうなさいました?」
「………百合子様と…」
「そうですか。じゃあ木から落ちないようにしてくださいね」
「…………」
返事はありませんが、これはいつも通りなので気にしません。
最近のマチさんは私たちにも微笑んでくださるようになって嬉しいです。
ツバメ様は複雑な心境のようですが…
マリア像に続く道の途中で立ち止まっている方がいました。
私よりも頭一つ身長が低く、髪型はセミロング。
真新しい制服に身を包んでいます。
きっとこの方が四季潟出雲さんなのでしょう。
キセルさんが教えてくださった出雲さんと一致しています。
「なんだろう」
マリア像の方を見ながら出雲さんが呟いています。
マリア像の方を見ると白薔薇様こと小夜子様がいらっしゃいました。そしてその周りには白薔薇様に憧れている方たちが大勢いらっしゃいます。
「白薔薇様がいらっしゃるのですよ」
「え、あ、そうですか…ありがとうございます」
いきなり話しかけたのはいけなかったかもしれませんね。
かなり驚いているようでしたから。
キセルさんが教えてくださったように、感情が顔に出やすいようで、確かに可愛らしい方でした。
そんな出雲さんは少しボーっとした様子でマリア像の方へ歩いていきました。
熱海さんが来ました。
「遅くなってごめんなさい」
「いいえ」
「それより、今の子は…」
「たぶん出雲さんだと思います。キセルさんの言っていた通りでしたから」
「そう…それより彼女大丈夫かしら」
「どうしてですか?」
「少し呆けているわ」
「そうですよね」
「これは面白いことになりそうね。追ってみましょう」
「はい」
早歩きで移動し、マリア像の近くの木の後ろに隠れました。
「出雲さん、このままだと白薔薇様とぶつかるんじゃない?」
「どうせそれを望んでいるんですよね」
「……わかってしまった?」
「はい」
「私たちって性格悪いわね」
「そうですね。でも、記事のでっち上げよりはましですよ」
「それって三奈子様?」
「そうなりますかね」
「記事のでっち上げなんて三奈子様しかいないわ」
「そうですね」
出雲さんは結局白薔薇様とぶつかってしまいました。
“きゃっ、あらごめんなさい。あなた怪我はない?”
“あ、すみません。私の方こそボーっとしてまして”
「なんだかいい雰囲気ですね」
「そうね。白薔薇様は一人身だからそろそろ妹が欲しいでしょうし。その証拠に白薔薇様、嬉しそうな顔をしているわ」
「じゃあ一枚撮りますね」
「ええ」
“いいのよ怪我がないのなら”
そう言って白薔薇様は出雲さんを抱きしめました。
これも一枚。
「ねえ、出雲さんの顔、やたらと紅いと思わない?」
「そうですね。ロマンスの予感ですね」
「ロマンスって…古い言い回しね」
「いいじゃないですか」
そして…
出雲さんは白薔薇様から解放されると同時に鼻血を吹き出してその場に倒れました。
その瞬間を何とかカメラに収めることができました。
「ねえ、あれってただ事じゃないわよ」
「じゃあ行きましょう」
「そうね」
そうして出雲さんに駆け寄ると、出雲さんはなんだか嬉しそうな顔をして気絶していました。
周りは突然の出来事に騒然としています。
「とりあえず、保健室ですね」
「そうですね、熱海さん」
「貴女たち、この子は私が保健室へ連れていくわ」
「そうはおっしゃいますけど、そのままではすれ違う方がみんな驚いてしまうと思うのですが」
白薔薇様は鼻血が掛かっていて真っ赤になっています。
「白薔薇様は先に鼻血を落とした方がよろしいと思います」
「それもそうね。ありがとう。それじゃあ私は水道へ行ってくるから、その子をお願いね。後で私も保健室に行くから」
「「はい」」
私は出雲さんをお姫様だっこする。
軽いですね。
お姫様だっこという光景に周りの方たちは凄い反応です。
「雪美さん。早くしましょう」
「はい」
鼻にティッシュを詰められた出雲さんはちょっと間抜けでこれまた可愛かったです。
彼女を保健室に預け、部室に戻ることにしました。
「スクープね」
「そうですね。でもいいんでしょうか」
「あれだけの騒ぎよ。真相を知りたい人は出てくるわ。その人たちのために私たちがいるのよ。問題無いわ」
「……早速現像ですね」
現像し終わった写真は、どれもよく撮れていました。
「ねえ雪美。この子誰かに鉄砲で撃たれたの?」
「それですか?鼻血を出して倒れたんですよ」
お姉さまが見た写真は、出雲さんが倒れた瞬間を収めたものでした。
光の加減で、被写体が黒くなっていますが、そのおかげで出雲さんが鉄砲で撃たれて倒れたように見えます。
この写真は後に、蔦子様から褒めていただけました。
「これは傑作ね、雪美さん」
「ありがとうございます、熱海さん」
「マチちゃんの写真は?」
「………これです…」
マチさんの写真はどうやら木の上から撮ったもののようです。
倒れた後の出雲さんが映っています。
「これもいい写真ね」
「…………ありがとうございます」
「残念ですね。私もその場に居合わせたかったです。追試さえなければ…」
「美影さん…でも今後出雲さんを追いかけていればいい場面に出くわすと思いますよ」
「それもそうですね」
「じゃあ出雲ちゃんはわたしが追いかけるわ!!」
「真理子様」
「真理子、ほどほどにね」
「そうですよ、真理子さん。彼女は編入したてなのですから」
「わ、わかってるわよ」
真理子様はお姉さまと芹穂様にたしなめられてむくれてしまいました。
この後真理子様はお姉さまたちの忠告を守らず暴走するのですが…
マチさんの写真を改めて見てみる。
出雲さんってやっぱり可愛らしいですね。
この人が今、学年トップなわけですか…負けてはいられませんね。
まあ、それは置いておいて、今回の事件が発端になり出雲さんは紅薔薇の蕾を振ったり山百合会の手伝いに駆り出されたりと、大変なことに巻き込まれていきます。
あとがき
出雲が編入してきた時、雪美は…というお話でした。
出雲と雪美が会話を果たしましたがしましたが、実は【No:2831】の時点で二人は会っているんです。出雲の方は雪美の事は知らないんですけど。
今後は出雲と雪美、ダブルの主人公でお送りしていきたいと思います。
主人公が二人いるって変な気もしますが…
出雲が鼻血を出すシーンは一番思い入れがあります。
このシーンを書きたくて書き始めたというのがありますから。
ここまでお付き合いくださいましてありがとうございました。
(コメント)
LAND >続きありがとう、だんだん登場人物が増えてきましたね。(No.18129 2009-09-13 01:25:59)
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