がちゃS・ぷち
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No.3510
作者:ex
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2011-05-13 18:44:12
萌えた:7
笑った:6
感動だ:64
『優しい雰囲気の中の』
「マホ☆ユミ」シリーズ 第2弾 「祐巳の山百合会物語」
第1部 「マリアさまのこころ」
【No:3404】【No:3408】【No:3411】【No:3413】【No:3414】【No:3415】【No:3417】【No:3418】【No:3419】【No:3426】
第2部 「魔杖の名前」
【No:3448】【No:3452】【No:3456】【No:3459】【No:3460】【No:3466】【No:3473】【No:3474】
第3部
【No:3506】【No:3508】【No:これ】【No:3513】【No:3516】【No:3517】【No:3519】【No:3521】第3部終了(長い間ありがとうございました)
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。(カレンダーとはリンクしません)
※ 設定は 第1弾【No:3258】〜【No:3401】 → 番外編【No:3431】〜【No:3445】 から継続しています。 お読みになっていない方はご参照ください。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 7月9日(土) お昼−放課後− 一年椿組 〜
「ふん、ふ〜ん」 と、鼻歌交じりで2年生棟から1年生棟に向かう廊下を歩いているのは祐巳。
今日から祥子と瞳子に加え、藤堂志摩子と二条乃梨子の白薔薇姉妹、そして細川可南子が小笠原研究所での訓練に参加することになっている。
今日は祥子と祐巳、それに瞳子の3人の新コマンダードレスが完成しているはず。
まだ祥子と瞳子は二人とも基礎訓練の域を出てはいないが、自分専用のコマンダードレスが出来たらますます訓練に力が入るに違いない。
今日は乃梨子と可南子のコマンダードレス用の採寸を行う予定だった。
そして、二人の特性を把握し、よりふさわしい訓練方法を行う事も。
だが、もっとも重要なことは、瞳子を中心とした一年生3人による共同訓練。
祐巳が提唱し、祥子と江利子の二人が練り上げた ”トリニティ・プロジェクト” の発足だ。
☆
”トリニティ”
それは、「父と子と聖霊」の三位一体を表す言葉。
祐巳がこれを思いついたのは、「黄薔薇十字捜索作戦」で先代の薔薇様方である、水野蓉子、鳥居江利子、佐藤聖の3人で力を合わせた ”トリニティ” の大技、”マリア・エクスクラメイション” の発現が発端だった。
妖精王・オベロンの指導のもと、先代の三薔薇様は3人の覇気を融合合体させる方法を学び、「黄薔薇十字捜索作戦」において次元転移を可能とする力を示して見せた。
それは、それぞれが膨大な覇気を持ち、さらにその覇気を自由自在に扱えるまでその力を昇華させた3人の薔薇の力量あってこその覇気融合であった。
その基本は、
@膨大な覇気を爆発させる、
A放出される覇気を使用目的に合わせコントロールする、
Bコントロールされた覇気を使用し魔法又は特殊技能を発現する
という流れで行われる。
一人の力では到底無理な高度な魔法や特殊技能でも、三人の力を合わせれば不可能を可能とすることが出来る。
妖精王はこの秘術を歴史上初めて先代の三薔薇に授けたのだ。
妖精王も、史上最強の薔薇と言われた水野蓉子と、その蓉子に肩を並べる鳥居江利子、佐藤聖という史上稀にみる宝玉が揃ったからこそこの秘術を授けたのだ、と言った。
一人の力だけが突出しているのでは駄目なのだ。 三人の力がほぼ同等でなければこの技は発現しない。
おそらく、今後のリリアンで ”マリア・エクスクラメーション” を発現できるだけの薔薇が揃う事は稀だろう。
そもそも、覇気放出系とコントロール系を同等の力で扱える人間のほうが珍しいのだ。
それだけ発現条件が厳しい ”トリニティ”。
では、なぜ今この状況で ”トリニティ・プロジェクト” を立ち上げるのか?
鳥居江利子は、自らが参加した ”トリニティ” のさらなる発現条件を解明したのだ。
3人の類まれな薔薇十字所有者が揃っていなくても ”トリニティ” が発現できるようになれば、この先、世界に危機が訪れても十分対処することが出来る。
たしかに、 ”マリア・エクスクラメイション” のような超絶技は無理かもしれないが、祐巳の特殊攻撃 ”ファイナル・ブレイク” や ”癒しの光” 、祥子の高難度妖精真言呪文 ”マハラギダイン” や、すべてを灰燼に帰す ”メルト・ダウン” のような魔法に匹敵する技を使えるようになるのではないか、と。
そして導き出した答え。
それは、 ”トリニティ” を、覇気放出系、覇気コントロール系、技能発現者3人に役割分担し、3人の合同で行う、というもの。
膨大な覇気を爆発させることが出来る者、放出される覇気を取り込み使用目的に合わせてコントロールすることが出来る者、そして高度な技を発現できる者。
薔薇十字を所有していないものであっても、3人が心を合わせ、その力を一つにすることで、 ”トリニティ” を発現できるのではないか、と考えたのだ。
鳥居江利子も、小笠原祥子も、祐巳の ”癒しの光” の力が無ければ、魔界のピラミッド事件で命を落としていたに違いない。
すでにこの世に存在してはいなかっただろう。
これから先、大きな事件が起こった場合、唯一人 ”癒しの光” を使うことの出来る祐巳が闘いに倒れるようなことがあれば、この世は闇に包まれてしまう。
”癒しの光” は、その魔導構築をするだけで普通の魔法使いであれば一生かかっても解けるかどうか、というほどの難解なもの。
まして、その構築が出来たとしても膨大な魔力が必要であり、その魔力を放出できるだけの覇気があることが条件となる。
膨大な覇気を爆発させることが出来る細川可南子、放出される覇気を取り込み使用目的に合わせてコントロールすることが出来る二条乃梨子、そして祐巳の後継者たる発現者、松平瞳子。
未だ薔薇十字を所有していない3人の一年生であっても、それぞれの特性を生かすことで、”癒しの光” のような高度な技能を使用できるのではないか。
瞳子とて、世界最高の魔術医師、松平医師がその魔力を認め、祐巳が自らの後継者と望んだほどの逸材である。
膨大な魔力に恵まれ、美しく覇気を研ぎ澄ました様は、何者にも媚びぬ誇り高い女豹を思わせる。
しかし、いくら祐巳が精魂込めて ”癒しの光” を瞳子に伝授したとしても、たった一人で使用できるようになるには無理がありすぎる。
だが、その瞳子に、膨大な覇気を十分に供給し、体力を支えることが出来たら・・・。
山百合会最大の覇気を持つ島津由乃に匹敵する覇気を持ち、祐巳の指導とエルダーの導きにより覇気を一旦収めたあと爆発させる力を身につけつつある細川可南子。
清廉な雪解け水のような覇気を持ち、あらゆる覇気を静かにコントロールする術を身につけた二条乃梨子。
奇跡のように一年椿組に揃った次代を担う3人の若き ”リリアンの戦女神” たち。
この3人が力を合わせれば、その時には必ず ”癒しの光” すら使いこなせるに違いない。
そんな夢物語のようなことを語った祐巳。
そして、そのアイデアを耳にしたとたん、恐ろしく鋭敏な頭脳を回転させて解決策を考えぬいた江利子。
そして、江利子の考え付いた解決策に従い、必要な人材を選び抜く方法を考えすべてをプロデュースした祥子。
祐巳はこれまでのことを思い返しながら、自然に笑みがこぼれるのを押さえきれないでいた。
水野蓉子が、佐藤聖が、そして鳥居江利子が残してくれたこの世の、そしてリリアンの平和。
この平和を守り、そして守る力を次代に繋げることができる。
(ほんとうにリリアンって素晴らしい!)
大きな希望に背を押され、踊り出したいほどの興奮に包まれて祐巳は一年椿組の教室に急いだ。
☆
「祐巳さん」
一年生棟の入口で声をかけたのは藤堂志摩子。
「あ、志摩子さん。 早いね〜」
「ええ、掃除当番がこの渡り廊下だったの。 かばんも持ってきてたのでここで祐巳さんを待ってたのよ」
「そう。 待たせちゃってごめんね?」
「ううん、いいのよ。 それじゃ行きましょうか」
今年、藤組と松組に別れてしまった2人は掃除の担当場所も違うのでどうしても時間差が生じてしまう。
「祐巳さんが下校時間に金剛杖を持っていない姿、というのも珍しいわね」
鞄だけを持って歩く祐巳を志摩子が感慨深げに見る。
「えへへ。 昨日由乃さんに叩き折られちゃったからねぇ。 でも由乃さんが決心してくれてよかった」
「昨日のあの技、ほんとにすごかったものね」
「由乃さんの ”猛虎三連撃” でしょ? あれは、八相発破と冥界波のいいとこどりの技だからね。
連続して覇気を乗せる八相発破の打撃数を3発に抑える、っていうか、一撃必殺の冥界波を3発に分けた、っていうか・・・
基本は衝撃虎砲なんだけど、それを左右の2連撃を出してから、最後に両手を合わせて攻撃する、とかよく考えついたなぁっていうか実行できるのがすごいって思う。
あんなの覇気がありあまっている由乃さんだから出来る技だよ」
「冥界波一発なら避けられてしまうけど、衝撃虎砲ほどの技を2発も捨て技にすることで最後の攻撃を確実に当てる作戦、ね?」
「うん。 さすがにあの3連撃だと体捌きだけで3発目を避けるのは無理だしね〜。 どうしても杖で受けちゃうからね」
昨日の夜、支倉道場で島津由乃は福沢祐巳に挑戦した。
支倉令、小笠原祥子、藤堂志摩子、そして二条乃梨子が見守る中、最後にして最大の試練を自分に課したのだ。
リリアン3強、と言われる支倉令、藤堂志摩子、そして福沢祐巳。
しかし、祐巳の強さは志摩子とは桁が違う。
1年生にしてあの水野蓉子と互角に渡り合った志摩子ほどの実力を持ってしても未だに祐巳から一本を取ることはかなわない。
その祐巳から一本を取る、ということを由乃は目標に掲げていた。 それを成し遂げるまで薔薇十字の顕現をすることはない、と。
正直、誰もがそれは不可能と思っている。 わずか1年しか修業をしていない由乃と子供の頃から過酷な修行を積み重ねてきた祐巳では基本的に差が大きすぎるのだ。
それでも、あえて由乃はその高い壁に挑み続けた。 高い壁があることこそ自分を高みに引き上げることが出来る それはとても幸せなことなのだと。
それを乗り越えることが出来れば遥かな成長がある、ということを信じて。
そして遂に行われた祐巳と由乃の互角試合。
圧倒的な力量を誇る祐巳の魔神斬、震天紅刺などの攻撃をすべて瞬身のみで避けきって見せた由乃は、新技、”猛虎三連撃” を祐巳に向け放った。
それは獰猛な猛虎が左右からパンチを繰り出し、最後に巨大な牙で獲物にとどめを刺すような攻撃。
超速の衝撃虎砲を左右から繰り出すことで逃げ場を奪い、最後に必中の攻撃を相手に叩きこむもの。
祐巳の金剛杖は由乃の猛虎三連撃の攻撃を防ぎはしたものの、真中からへし折られてしまったのだ。
「でも、結局祐巳さんが勝ったわ」
「まぁ、それは実戦経験の差だよ。 あの状態なら由乃さんが気を抜いても仕方ないと思う」
最初の猛虎三連撃で祐巳の金剛杖をへし折った由乃は、決着をつけるため、再度同じ攻撃を放った。
自身を守る杖が無くなった祐巳についに一本を入れることが出来る、そう由乃が思ったのも無理はないだろう。
だが、無手となった祐巳のスピードは杖を持っていた時よりもさらにアップすること。 それが由乃の予測の範囲を大きく超えていた。
祐巳は、フェイクとして放たれた最初の二連撃をわざと受け止めて見せたのだ。
最初の左手から放たれた衝撃虎砲を右手で巻き上げる。 次の右手からの攻撃は左手で巻き落とす。
その結果、由乃の体は空中で捩じり上げられ、背中から床に叩きつけられた。
「いくら祐巳さんでも無手であの3発目を受けたら大怪我することになるから・・・。
それにしても、由乃さん悔しがってたわね」
「それは、ちょっと、ね。 でもあの攻撃が薔薇十字で出されたものだとしたらきっとすごい攻撃力だよ」
「間違いない、って信じてるのね?」
「もちろん! 由乃さんが顕現する薔薇十字はきっとすごいものになるよ。 明後日が楽しみ!」
今この瞬間。 由乃は古い温室に行っている。 令が見送りに行くと言っていた。
由乃はたった一人で妖精王・オベロンのもとに赴き、薔薇十字を顕現させて見せるのだ。
正式に祐巳から一本を取ることはできなかった。
だがそれに匹敵するだけの力量を由乃は薔薇十字所有者全員に示して見せた。
志摩子も、祐巳も、薔薇十字顕現後の再戦を約束したことで、ついに由乃は薔薇十字を顕現させるため、妖精王に会いに行くことを承諾した。
もちろん、祐巳も志摩子も由乃が薔薇十字を顕現させるに違いない、と信頼しきって送り出したのだ。
ただ、由乃は二人が同行することは断った。
たった一人、正式な薔薇十字所有者となれなかった去年のリベンジ。
そのリベンジに親友二人の同行も見送りもいらない。
二人からはたっぷりと修業をつけてもらった。
師匠・佐藤聖からも、姉・支倉令からも、そして祐麒=マルバスからも力を引き出してもらった。
多くの人の助力と、そして自らの努力で勝ち取ったこの力。
みんなには、晴れて正式な薔薇十字所有者となった時の笑顔だけ見てほしかった。
・・・ただ、さすがに令だけは姉の権限で見送りをすることを由乃に納得させたのだが。
☆
ロサ・ギガンティア=藤堂志摩子とロサ・キネンシス・アンブゥトン=福沢祐巳の二人が一年椿組の入口へ着いたとき、
「どうして可南子さんも一緒なんですの!?」
と、甲高い声が聞こえてきた。
「だから、ロサ・キネンシスの命令なんだって」 と、今度は疲れたような声。
「いくら祥子お姉さまの命令だからって! よりによって可南子さんなんかと・・・」
大声で文句を言っているのは松平瞳子。 そしてそれをなだめているのは二条乃梨子のようだ。
名前を出された細川可南子の声は聞こえない。
「あっちゃ〜。 瞳子ちゃん、怒ってるなぁ・・・」
「祐巳さん・・・。 瞳子ちゃんに可南子ちゃんも一緒に行く、って伝えなかったの?」
困った顔で見つめあう祐巳と志摩子。
「いや・・・、まぁ、その・・・。 忘れてた」
てへっ、と笑う祐巳にがっくりと肩を落とす志摩子。
どうも祐巳には、恨みや嫉妬という負の感情が欠落している気がしてならない。
それはそれで素敵なことだ、とは思うのだが、将来の祐巳のことが心配だ。 あまりにも人がよすぎる。
祐巳の欠落した感情。 それは同時に大きな祐巳の心の傷跡でもある。
幼い祐巳が他人の嘲笑にさらされ、忌み嫌われ、恐れられ・・・。
それでも笑顔でいることを強いられた祐巳の心は成長するにつれ、ほんのちょっとした嫉妬の感情程度では揺れ動かされないほど強くなった。
だがその強い心の故、微細な感情の動きに鈍感になってしまっているのか。
そういえば、祐巳の感情のコントロールは普通の人とはずれている。
それは、ある意味長所でもあるが、大きな欠点にもなりかねない。
今回のことでも祐巳は、瞳子と可南子の間にある嫉妬心などに全く気付いてもいない。
由乃から何度もそのことを注意されているのだが、祐巳の心にそれを感じるだけの繊細な感情が生まれてこないのだ。
それはとても危険なことだ、と志摩子は思う。
学業においても魔法や剣術などの実技においても全く欠点を見せない祐巳の唯一のウィークポイント。
(これがあとあと命取りにならないといいけど・・・。 杞憂であって欲しいわ)
それは志摩子の心の底からの願いだった。
☆
「ごきげんよう」 と、少しひきつった笑顔で一年椿組のドアを開ける祐巳と志摩子。
「あ、志摩子さん!祐巳さま!」 と、ほっとした声を出す乃梨子。
すっと教室内を見渡すと、少し上気した顔で睨みつけてくる瞳子と、少し離れてそっぽを向いている可南子がいた。
他の生徒は誰も残っていない。
瞳子の剣幕がすごくてみんな逃げ出したのか、それとも全員が帰ったので安心して大声を出していたのか。
まぁ、どちらにしてもとげとげしい雰囲気の教室内になっていた。
「リリアンの生徒が余り大きな声で騒ぐものではないわ。 廊下まで瞳子ちゃんの声、響いていたわよ」
志摩子が祐巳を後ろに庇うように立って瞳子に声をかける。
瞳子の怒りが収まることは期待できないが、少しでも冷静に話をしなければならない。
1対1ではめったに放つことのない純白のオーラでその場を包み込む志摩子。
”リリアンの守護天使” ロサ・ギガンティア=藤堂志摩子の圧倒的な覇気が一年椿組の教室全体を支配する。
「・・・ 申し訳ありません。お騒がせいたしました」
さすがに純粋なリリアンっ娘、松平瞳子は素直に頭を下げる。
上級生にしてロサ・ギガンティアである志摩子には逆らえない。
二条乃梨子と細川可南子は普段と全く違う厳しい雰囲気の志摩子を驚いたような目で見ていた。
(なめていた訳じゃないけど・・・。 さすがにすごい。 祐巳さまを守るときにはここまでの覇気を出すんだ・・・。 志摩子さん)
二条乃梨子は久々に自身の姉の本気を見る。
それと同時に、祐巳をうらやましい、と思う気持ちがどうしても湧き上がってくる。
「え〜っと。 瞳子ちゃん、今日小笠原研究所に行くのは私たちだけじゃなくなったの。 事前に説明しなくてごめんね?」
キッとした眼で祐巳を睨みつける瞳子をなだめるように少し困った顔で祐巳が謝罪の言葉をかける。
「ロサ・ギガンティアと乃梨子さんは薔薇の館の住人なのでご一緒する、ということはわかります。
でも、どうして薔薇の館のメンバーではない可南子さんも一緒に行くことになっているのでしょうか?」
よりによって細川可南子が一緒に行くことが瞳子の最大の不満なのだ。
春先には一緒に薔薇の館で仕事をした仲間ではあるが、どうしても細川可南子のことが好きになれない。
本来、世話好きな瞳子は外部入学である二条乃梨子や細川可南子にリリアンの習慣などについて教えようとしてきた。
乃梨子は瞳子の押し売りのような態度にも、それが親切心から出ているのがわかっているので上手いこと付き合ってきたのだが、細川可南子はけんもほろろに断った。
瞳子はそれが許せなかったし、可南子は瞳子の押し売りが煩わしくて仕方なかったのだ。
それに、祐巳と祥子の間に割り込み、祐巳を追い詰めようとした態度を可南子は許せなかった。
いまだに瞳子の名前は可南子の粛清リストのトップに刻まれたまま。
乃梨子が薔薇の館でメンバーに語ったとおり、この二人、天敵のような関係を一学期の間ずっと続けてきたのだ。
「瞳子さんだって、薔薇の館のメンバーじゃないじゃないの」
と、小さな声でボソッ、と可南子が呟く。
その声に憎々しげな視線を向けた瞳子は、
「わたくしは直々に祐巳さまからお誘いされたんですっ!」 とピリピリした声で返す。
「わたくしだって直々に誘われたわ。 祐巳さまからだけではなくロサ・フェティダからも」
可南子は表情も変えず瞳子に応える。
「本当よ。 瞳子ちゃん。 可南子ちゃんが一緒に行くことは山百合会の決定事項なの。
可南子ちゃんの力は山百合会として絶対に必要なものだ、と全員一致で確認したわ。
だから令さまと祐巳さんが可南子ちゃんに一緒に来てくれるようお願いしたのよ。
もちろん瞳子ちゃんの力も絶対に必要なの。 乃梨子を含めて3人の一年生が選ばれた。
あなた達3人にこれからのリリアンを託したい、とわたしたちは思っているの」
瞳子を説得する志摩子の言葉に乃梨子も大きく頷く。
「瞳子、わたしは覚悟を決めたよ。 どんなにつらい修行になるかわからないけどわたしは志摩子さんの期待に応えて見せる。
わたしだって強くなりたいからね。 このままじゃ由乃さまたちの足元にも及ばないのはわかっているから。
可南子さんだって同じ気持ちだと思うよ。 ね、そうでしょ?」
「わたくしは祐巳さまに助けていただきました。 素晴らしい教えも受けてきました。 誰が一緒でも断る理由にはなりません」
「可南子ちゃん・・・」
少し頬を紅く染めて祐巳に微笑みかける可南子には寸分の迷いも無い。
祐巳を守護しその微笑を失わせることが無いようにすること。 それが唯一絶対の可南子の願いだった。
「・・・ 仕方ありませんわね。 乃梨子さんまでそうおっしゃるのでしたら。 わかりました、祐巳さま。 可南子さんと力を合わせることを承知いたします」
うつむいたまま、不承不承、を絵に書いたような顔で瞳子が呟く。
だが、一瞬の間をおいて決意した表情に変わった瞳子は、全員にすました顔を向ける。
さすがに大女優を夢見る瞳子。 さきほどまでの不満たらたらの顔から一転。
「では、乃梨子さん、可南子さん、これからよろしくお願いいたしますわ。 祐巳さま、ロサ・キネンシスもお待ちになっているのでしょう? そろそろ行きませんと叱られてしまいますわよ」
机の上に置いてあったかばんを両手で持つと、仮面で作った笑顔を向ける。
(瞳子・・・、あんたねぇ・・・) 乃梨子は心の中で頭を抱える。
こんな態度が可南子を怒らせていると言うのに。
だがまぁ、この場が収まったのでよしとしよう。 乃梨子と可南子もかばんを持って立ち上がる。
(繊細な心と、高いプライド・・・。 この子も一筋縄ではいかないわね・・・) 志摩子も態度さえ変えないが、一年生3人の険悪な雰囲気に不安な気持ちになる。
だが、そんなことを乃梨子と志摩子が思っているというのに、本当に能天気な人間が居る。
「よかった〜! さすが瞳子ちゃん! みんなで力を合わせて頑張ろうね!
可南子ちゃんの覇気、とってもすごいんだよ。 研究所で一回手合わせしたらわかるよ。
それに、乃梨子ちゃんも瞳子ちゃんと相性ぴったりのはずなの。 3人が力を合わせたら素敵なことが起こる、って信じてるんだ。
だから今日ここに来るのがほんとに楽しみだったんだからね!」
にっこりと太陽のような微笑を浮かべ、かばんを持った手ごと瞳子の両手を包み込む祐巳。
「またそのような無防備な顔を・・・」
ダメだ。またこの笑顔にやられてしまう。 瞳子はがっくりと肩を落とした。
「じゃ、みんな。 早く行こう! 瞳子ちゃんの言うとおりあまり遅くなるとお姉さまから怒られちゃうからね!」
祐巳は左手で瞳子の右手を掴み、反対の手でかばんを持ったまま可南子の左腕に手を絡ませて志摩子と乃梨子に背を向けて歩き出す。
呆然とその後姿を見送る志摩子と乃梨子。
「あの・・・、志摩子さん。 これが由乃様の言う 『天然下級生たらし』 なんでしょうか?」
「そうね・・・。 祐巳さんの度量の大きさというか・・・。 これが祐巳さんの魅力でもあるんだけど」
「志摩子さんも大変だね・・・」
「ううん。 乃梨子のほうがこの先大変かも・・・」
やはり、祐巳さんは何もわかってないわ、と心の中で呟いた志摩子は乃梨子を気の毒そうな眼で見る。
こんなにも優しい雰囲気の中に包みこんでくれる祐巳がいるというのに。
それなのに、どうしてその祐巳を奪い合うような形で大きな台風が吹き荒れるのだろう?
どうも今年の白薔薇姉妹は二人して大きな気苦労を背負いこみそうな予感がする。
(コメント)
ex >とっても長かったけど、やっと由乃の薔薇十字が顕現します。もうちょっとだけお待ちください。(No.20033 2011-05-14 01:26:33)
菊組26番 >マリア・エクスクラメイション・・・どこぞの聖闘士が思い浮かんだののですが、突っ込み無用ですか?なんにしても今後の期待と暗雲が垣間見えたお話。先が楽しみです。(No.20037 2011-05-14 20:45:52)
ex >菊組26番さま、突っ込みありがとうございます。この技は「黄薔薇十字捜索作戦」第1話で使用した技なのですが、エクスクラメイション=”!”、通常、ビックリマークと呼ばれているものですねぇ。三人で力を合わせて出す技として考えたらご指摘の技しか考え付かなかったので使用させていただきました。(No.20038 2011-05-14 21:23:01)
愛読者v >由乃がついに顕現っすか! きっと妖精王はまだ駄目っと言って、意気込んでる由乃を半泣きにしそうですね〜悪戯で(笑) というかそんな由乃が見たいwww(No.20043 2011-05-16 01:18:23)
ex >愛読者vさま、妖精王はたしかに悪戯好きなのですが・・・。 さすがにそこまでひどくはないです〜。 でもちょっと捻ります。(No.20051 2011-05-17 20:53:48)
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