がちゃS・ぷち
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No.2254
作者:杏鴉
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2007-05-09 05:39:10
萌えた:1
笑った:0
感動だ:1
『なんでかな?なびく心一寸先は闇』
『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズ
これは『ひぐらしのなく頃に』とのクロスオーバーとなっております。本家ひぐらしのような惨劇は起こりませんが、気の毒なお話ではあります。
どうぞご注意を。
【No:2006】→【No:2025】→【No:2032】→【No:2038】→【No:2055】→【No:2087】→【No:2115】→【No:2125】→【No:2212】→【No:2247】→コレ
*注* このSSには一部グロテスクな表現がございます。
――木曜日・宵――
凍った思考と同調するように……身体がちっとも動いてくれない……。
早く……早く、閉めなきゃ……。
「祐巳?」
「――っ!?」
ドアノブを握った手が冷たい汗で滑り、間抜けな私の身体は見えない力で室内に押し戻された。
ヨロヨロと後ずさった足が上がりかまちにとられ、私はすとん、と尻餅をついた。
私というストッパーを失ったドアの隙間から、夜のヒヤリとした風と流れるような黒髪が我が家に入り込んできた。
「大丈夫、祐巳?」
「…………だ、大丈夫です」
私はふらつきながらも精一杯の素早さで立ち上がった。
「起きていて平気なの? ずいぶん顔色が悪いわよ」
「た、ただの風邪なので……もう平気です……」
お姉さまは「そう?」と言って、私をジロジロと見つめた。
「……お姉さま。……どうしてこんな所に?」
「どうしてって、お見舞いに来たに決まっているでしょう?」
「…………え?」
お見舞い……? 私の……?
「あの……私の事、心配してくれてたんです……か?」
「あたりまえでしょう? 妹を心配しない姉がどこにいるっていうの」
そう言って呆れたように笑うお姉さまは先週までと変わらない、私の大好きなお姉さま≠ナ……。
私は不覚にも泣きそうになってしまった。
私を拒絶したお姉さまと……今のお姉さま……いったいどちらが本当のお姉さまなのですか……?
……もう分からないよ。
「祐巳。あなた本当に大丈夫? なんだかとても辛そうに見えるわよ?」
「……大丈夫です。お姉さまのお顔を見たら、どんな病気だって治っちゃいますよ」
お姉さまはほんの少し目を見開いた後、ちょっと怒ったような顔で私から視線を逸らしてしまった。耳が真っ赤になっている。
ダメだ……やっぱり私、この人が大好きだよ……。
「――ニヤニヤするの気持ち悪いからお止めなさい」
「はい。お姉さま」
私がうつむいてごまかしていると、頭の方でお姉さまの「あ、いけない」という声が聞こえた。
「どうかしましたか?」
「私、お見舞いの品を渡すのをすっかり忘れていたわ。もう、祐巳が変な事言い出すから……」
「私の所為なんですか?」
「祐巳の所為よ」
とても理不尽な事を言われているのに、ぜんぜん嫌じゃない。むしろ嬉しい。私、変なのかなぁ。
「おはぎなんだけれど……祐巳、好き?」
「はい! とっても!」
「そう。良かったわ。母がもの凄く大量に作ってね……今、家はおはぎだらけよ……」
「そ、それはまた……」
遠い目をして「ふふっ」と笑うお姉さまにかける言葉なんて見つからない。おはぎ好きの人でも、そればっかり大量に食べ続けるのは苦痛だろう。
お姉さまに近い将来訪れるであろう苦難を思って、心の中で合掌しておいた。
「まぁ、母があんまり楽しそうに作っているから、私も試しに一つ作ってみたんだけれどね」
「えっ? そ、そのお姉さまが作ったおはぎは……?」
「もちろん、この中に入っているわ」
そう言って差し出されたお見舞いの品、というかおはぎは上品な柄の風呂敷に包まれていて、全容は明らかではない。
受け取ってみると大きさの割に、いやに重い。まさか漆塗りの重箱とかじゃないよね……?
……ちゃんと洗って返そう。
「どれが私の作ったおはぎか、祐巳に分かるかしら?」そう言ってイタズラっぽく笑うお姉さまに、私は「きっと分かりますよ」と微笑を返した。
すると次の瞬間、お姉さまはニヤリと笑った。
……何なんですか? その落とし穴にまったく気付かず、転落ルートをのんきに鼻唄歌いながら歩いてくる狸を見るような目は。
「言い切ったわね、祐巳」
「言い切ってしまいましたが……それが何か?」
「そこまで自信満々に言っておいて間違える、なんてありえないわよねぇ、祐巳?」
「えっと……」
「というわけで、間違えたら罰ゲームよ」
「……は?」
「おはぎ一つ一つにアルファベットが振ってあるから、どれが私の作った物か当ててちょうだい」
うまくハメられた様な気がするのは私だけだろうか……?
「じゃあ、私はそろそろお暇するわ」
「え?」
どうしよう……。お見舞いに来てくれたのに玄関先で帰すなんて……でも……。
私が悩んでいる間に、お姉さまはドアの外に身を移していた。
「あっ! せめてそこまで送ります!」
「いいのよ。車で来ているし、それにあなたは病み上がりでしょう? 家で大人しくしていないとダメよ」
そう言ってお姉さまは私を内側に残したまま、ドアを閉めようとした――
――が、お姉さまの整ったお顔が半分程しか見えなくなった時、不意にドアの動きがピタリと止まった。
どうかしたのかな、とお姉さまを見上げると、さっきまでの笑みを含んだ視線とは違いすぎる、ジットリとした視線とぶつかった。
……え?
「あぁ、そうそう祐巳。今日のお昼はどこで食べたのかしら?」
……え?
「病院に行ったついでに……外で食べましたが……」
「そう。とても綺麗な女性と一緒だったみたいねぇ?」
手に持った重箱の蓋が、風呂敷越しでも分かる程カタカタと音を立てている。
「な……なんでそんな事を……」
「さぁ? 私に分からない事なんてないもの」
……知っている。……この人はすべてを知っている。
「明日、リリアンで会いましょう」
ドアが静かに閉められた。
鍵を……早く鍵を……っ!
震える足を無理やり動かしてドアに近づき鍵を閉めようとしたその時、突然ドアが私の手から逃れるように遠ざかっていった。
開け放たれたドアからぬっ、とお姉さまが顔を出した。
「――祐巳」
「ひっ!!」
「ごめんなさい。驚かしてしまったわね」
お姉さまは心底可笑しそうに「くっくっ」とノドを鳴らして笑った。
「本当にごめんなさい、祐巳。でも言い忘れた事があって……」
「な、なんですか……?」
これ以上私に何を言う気なのだろう……?
「あなた私が来た時、確認もせずにドアを開けたでしょう? ダメよ。きちんと相手を確認しないと」
「は、はい。……すいません」
それは今、死ぬ程後悔しているところです。
「本当に……お家の方がいらっしゃらない時は、特に気を付けていないとダメでしょう?」
「……え?……今、なんとおっしゃいました?」
「お家の方がいらっしゃらない時は特に気を付けていないとダメでしょう。と言ったのよ」
な、なんで……なんで……?
「あ、あの……どうして家の者がいないなんて……? ちゃ、ちゃんといますよ……?」
「何を言っているの、祐巳。今日の午前中から、このお家にはあなたしかいないじゃないの」
えぇ、そうです。確かにその通りです。……でもお姉さま? どうしてあなたがその事をご存知なんですか?
「じゃあ、今度こそ帰るわ。ごきげんよう、祐巳」
――パタンっ
――ガチャ!!
私は今度こそ開けられないように、素早く鍵を閉めた。
どうしよう……このおはぎ。
私はリビングで高級そうなお重を前に、葛藤していた。
帰り際のお姉さまは正直言って恐ろしかった。あんな人が持ってきた物を食べるのは、ちょっと怖い。
でも……でも、おはぎを渡してくれた時のお姉さまは、いつもの……私が大好きなお姉さまだった……。
「…………」
……そうだよ。怖がる事なんてない。
お姉さまは私の事を心配して、わざわざお見舞いに来てくれたんだよ? 手作りのおはぎまで持って。
感謝こそすれ、怖がるなんて罰当たりにも程があるよ。
さっきお姉さまが怖かったのは……私がお姉さまに内緒で蓉子さまとコソコソ会ったりしたから……だから怒ってたんだよ……たぶん。
そうだ! 明日おはぎのお礼と一緒に謝ろう。
そうすればいつものお姉さまに戻ってくれる……きっと、戻ってくれる。
よしっ! じゃあ、さっそく食べよう。
夕飯前だけど、一つだけなら平気だよね。お腹ペコペコだし。
私は温かい緑茶を淹れ、お重の前に座りなおした。
「ちょっと暑いけど、やっぱりおはぎには緑茶だよねー」
私がワクワクしながらお重の蓋を開けると、そこには六つのおはぎが食べてごらんよ≠ニ言わんばかりに輝きを放っていた。
「うぅぁ、美味しそうっ。どれがお姉さまのかなぁ。……あ、本当にアルファベットが振ってある」
さっき言っていた事は本気だったのか……。できれば冗談が良かったな。
絶対当てよう。でないと、またあの恐ろしい罰ゲームをやるはめになってしまう……。メイド口調はともかく、スクール水着だけはもうイヤだ……。
――はっ! いけない。集中しないと。
「まずは見た目をチェーックっ!!」
ふむ。じっくり見るまでもなく、あきらかに大きさの違う物が二つ。他のおはぎよりも大きいのと、小さいの。
さすがにブービートラップを仕掛けるほどお姉さまは狡くない……と信じたいので、この二つの内のどちらかだろう……と思う。
う〜ん……どっちだろう? 他に何か判断材料になるようなものはないかなぁ。
それにしても(多少誇張はあるだろうけど)普通家がおはぎだらけになるくらい大量に作ったのなら、形は少々適当になると思うんだけど……どのおはぎも、たった一つしか作ってないお姉さまのおはぎと見分けがつかない程綺麗な仕上がりだ。
さすがは清子小母さま。でもこれじゃあ、どっちか分からないよぅ。
ふむぅ。もうこうなったらお姉さまの気持ちを推理するしかないか……。
う〜ん……。今日、私は体調不良で学校を休んでいたから、ちゃんと食べきれるよう、気をつかって小さいおはぎを作ってくれた……のかな?
「よーしっ! これに決めた!」
私は一番小さい、Fのおはぎを手に取った。
「いっただっきまーす」
――ぱくっ
うあぁぁ。美味しいよぅ。どっしりとしたコクがあるにもかかわらず、それでいてしつこくないこの上品な甘味といったらもう!……美味(びみ)!
これなら大きい方でも余裕で食べられたかも。
いやいや、慌てちゃダメよ祐巳。デザートは逃げない(蓉子さま談)両親と祐麒に分けてあげても、あと二つも私の口に入る計算になるのだから。
私は幸せと共におはぎをはぐはぐ≠ニ噛みしめた。
甘さの余韻が残る口中を、緑茶でリセットする。そして――
――がぶりっ!
再び、今度はさっきよりも大きな口でおはぎにかぶりつく。
また幸せを噛みしめようとした私の思惑とは裏腹に、おはぎはさっきとは違う表情を見せた。
……なんだろう? この食感……? 中にナニか入ってる? それに……なんだか……生臭い……?
かぶりついたまま固まっていた私はその正体を確かめようと、恐る恐るおはぎを口元から離した――
――ずるぅ……っ
「ぐっ!?」
私の歯に引っかかり、おはぎからズルリ……と姿を現したのは、気持ちの悪い色をした得体の知れないナニ≠ゥだった。
……グニグニとした食感……薄汚れたピンク色……そしてこの…………生臭さ……。
私はようやく理解した。
――これが何かの内臓だという事に。
「おうぇえぇえぇーっ!! げほっ! げはっ!! うあぁあぁあぁぁ!」
何故っ!? 何故こんなモノがおはぎにっ!?
私は口してしまったおはぎを指を突っ込んで吐き出した。
泣きながら手に持ったおはぎを流しに叩きつけ、残っていたおはぎもすべて流しにぶちまけた。
信じようと思った。もう一度だけ信じてみようと思ったのに――
――ナンテヒドイウラギリダ。
茶色くした部屋の中でずっと、私は目を開けたまま仰向けに寝転んでいた。
途中、祐麒やお母さんが部屋に来たみたいだけど、よく覚えていない。
お母さんがおはぎの事で何か言っていたような気もするが……これもよく覚えていない。
……べつに、どうでもいい事だから。
(コメント)
杏鴉 >良かった・・・。今度は投稿できた。(No.15062 2007-05-09 05:40:12)
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