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せめて後5分だけ祥子様の贈り物  No.3147  [メール]  [HomePage]
   作者:クリス・ベノワっち  投稿日:2010-03-11 22:30:08  (萌:26  笑:0  感:5
ぽかぽかと、背中に受ける秋の日の

心地よいその、ぬくもりに

いつしか瞼も、降りてきて

『5分だけならいいのよ』と

その優しげな声色(こわいろ)に

お姉さまのぬくもりに

包まれ、私は夢を見る


―――――――――――――――――――――――――――

「あれ?」
ビスケット扉を開けた瞬間に感じた違和感に、つい声をあげた。
すると、目が合った志摩子や乃梨子ちゃんが、人差し指を立てて口に当てるポーズをとる。
俗に言う「お静かに」の合図。
何故?と考える間も無く、私の制服の肘を由乃が軽く引っ張る。
「見て見て」
由乃が嬉しそうに指差す先には祥子がいて、驚くことに、あの祥子が床に座っている。
そして、その祥子の膝を枕代わりにして眠る祐巳ちゃんが居た。

「ごめんなさい。後5分だけ、いいかしら」

祥子が柔らかく微笑みながら言う。あまりに幸せそうなので、見てる私達もつい顔が綻ぶ。
思えばここ数日、学園祭の後片付けやら反省会やらで、祐巳ちゃんは頑張っていたし、疲れもあったのだろう。

「祐巳ちゃんへのご褒美?」

クスクス笑い問う私に、祥子が返す。

「違うわよ」

自分の膝の上で眠る天使の頭を撫でながら、祥子は『後5分』の真意を告げる。


「私へのご褒美」



クリス・ベノワっち > 一年ぶりーに書いてみた。リハビリって事で短めです。 (No.18453 2010-03-11 22:31:51)
earwinelaw > era driven controls variability roughly start (No.18454 2010-03-12 02:42:18)

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遠く遥かなアクシデント  No.3146  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2010-03-09 17:03:14  (萌:2  笑:5  感:3
※クロスオーバーですが、ネタばらしは最後にします。


 リリアン女学園高等部マリア像前。

「待ってください」

 祐巳はその場にいた生徒が自分だけであると確認すると、立ち止まり、お姉さまである小笠原祥子さまのような優雅さをイメージしながら全身で振り返り、天使のような笑顔で「ごきげんよう」と挨拶した。
 面識はなかったが、なんとなく上級生のような雰囲気の生徒がそこにいた。

「私にご用でしょうか?」

「ええ。呼び止めたのは私で、その相手は祐巳さんで間違いないわ」

 どこかで似たような経験があったなあ、と思いつつ、祐巳は話を聞く。

「あの、実は。直接的ではないけれど、祥子さんに危機が迫っていて、あなたには多少の危険が伴うけれど、努力次第で祥子さんの危機を救える可能性がある、というお話よ」

 「祥子さま」「危機」という言葉に祐巳は敏感に反応した。

「待ってください、私のお姉さまがピンチだというんですか!? 一体何がどうしたんですか? お姉さまはどこに?」

 祐巳はその生徒を問い詰めた。

「落ち着いて。もし、祐巳さんが私の言うとおりにしてくれさえすれば、祥子さんは危機を回避できるの」

 その生徒は両手で祐巳の肩を軽く押さえて静かに言う。

「私が!? 私があなたのいうことを聞けばお姉さまは無事なんですか?」

「え、ええ。まあ……とどのつまりは……」

 その生徒は目をそらしながらそう言った。

「一体、何をどうすればいいんですか?」

「……一週間ほど、ちょっと体を動かしてくれればいい。それだけ」

「わかりました。それぐらいでしたら。私にできる事があったら協力します」

 祐巳は言った。
 このやり取りだけで返事をしてしまった祐巳を軽率というのはいささか言いすぎであろう。
 大切な人を守りたい、祐巳のその思いを利用して、重要なことを極力隠して話を進めるその生徒のいう「多少の危険」の内容は、通常では想像できないような内容だったのだし、また、この時点ですべての状況を把握しているのはこの生徒しかいなかったのだから。

「では、早速私と一緒に来て」

「あ、待ってください。私、薔薇の館に──」

 祐巳は慌てた。

「心配無用よ。私の方から連絡しておくから」

 そう言うと、その生徒は強引に祐巳の手をとった。

「あ、あのっ」

「怖がらないで。大丈夫」

「な、何を──」

 ぐらり、と祐巳の視界がゆがむ。
 くらくらとめまいのような感覚に襲われる。

「大丈夫。ちょっと時空を超えるだけよ……」

 祐巳は意識を失った。

 ◆◇◆

 祐巳がぼんやりと目を覚ますと、目の前にいる生徒は祐巳と同じリリアンの制服を着ていたはずなのに、今は着物姿に変わっていた。場所もどこかの室内に移動したようだった。

「祐巳さん、目が覚めたわね。さあ、これに着替えて」

 生徒はリリアンのものではないセーラー服を祐巳に差し出してきた。

「時間がないの。着替えながら聞いてね。さあ、祥子さんのためにも」

 有無を言わさず生徒がまくしたてる。

「あの、私がこれを着る事と、お姉さまの危機を救うことについて何の関係があるんでしょうか?」

 着替えながら祐巳は聞く。

「一週間だけ、祐巳さんにはここ、東邦星華女学院の生徒になってもらって野球の試合に出てもらいたいの」

「はっ!?」

 祐巳は聞き返す。

「ここはね、大正時代なのよ」

「た、大正時代!?」

 どんどん突拍子もない方向に話が進んで行き、祐巳は仰天する。

「そう。この東邦星華女学院には祥子さまのご先祖様がいてね、彼女は自分の許嫁と来週野球の試合をする事になっているの。ところが、ちょっとしたトラブルからメンバーの一人が怪我をしてしまって、このまま試合が出来ないと歴史が変わってしまって、祥子さまが生まれてこなくなるのよ」

「ええええええええええぇーっ!!」

 祐巳の頭の中は超展開のあまりスパークした。
 まず、ここは大正時代って? 時代を超えてきたとでもいうのだろうか? そんな事があるはずがない。
 次に東邦星華の生徒になれと? リリアンと同じミッション系お嬢様学校だが、そんな事は考えられない。
 更に野球の試合!? 弟の祐麒が肩を痛めるまでの間野球に打ち込んでいたから、それがいかに大変なことであるかよく知っている。
 それを一週間で! 無理で無茶な注文だ。
 そして、そうしなければ祥子さまが生まれてこなくなる!?

「あの、これってドッキリか何かですか?」

 とりあえず、下着姿でいるのが嫌だったので、セーラー服に着替えた祐巳はそう聞いた。

「ドッキリじゃないわ。信じられないでしょうけど、今は大正十四年、西暦でいうと1925年。ヒトラーの『わが闘争』が出版されたり、ラジオ放送が始まったり、橋田壽賀子が生まれたのがこの年よ。リリアンの創立が明治三十四年、1901年だから、リリアンが出来てようやく25年ってところかしら」

「ちょ、ちょっと待って! 意味がわかりません! どうして平成時代の私たちがここにいるんですか! それって、無理がありすぎますよ!」

 祐巳は突っ込んだ。

「祐巳さん、来る時に時空を超えるって言ったでしょう?」

 生徒は真顔でそう言った。

「え……」

 まさか。
 そんな事があるはずがない。

「そろそろ行きましょうか。あ、みんなにはもう野球に興味のある転校生って説明してあるから」

「そんな!」

「あら、祐巳さん『できる事があったら協力する』って言ってくれたじゃないの」

 何を今さら、というように生徒は祐巳の手を引いて、部屋を出た。
 木で作られた廊下を通って、玄関から外に出ると、生徒の一団が集まってきた。

「ごきげんよう、皆さま。昨日お話しした転校生の福沢祐巳さんを紹介いたします」

 生徒は祐巳の両肩に手を回すと、そおれ、と生徒たちの前に突き出した。
 あっという間に取り囲まれて、品定めをされるようにじろじろと見られる。

「あなた、野球に興味がおありなんですって? 経験はあるの?」

 メガネをかけた生徒がじろりと祐巳を見て聞いてきた。

「いえ、弟が野球をやっていて、キャッチボールくらいしか」

 とっさにそう答えて、しまったという顔をした。

「まあ、では、球を投げた経験があると?」

「即戦力だ。マリア様は私たちに救世主を使わせた」

「鏡子さんが怪我をした時はもうだめだと思いましたけど。これで九人揃いましたわね」

 生徒たちはそう言って盛り上がる。
 集団の中から、一人の生徒が出てきた。
 説明されなくても、祐巳にはこの人が祥子さまのご先祖さまではないか、とピンときた。

「福沢祐巳さんだったわね? 本日浅黄中学と練習試合をする予定なのですが、九人必要だというのに、一人が怪我をしてしまいましてちょっと困っていましたの。でも、経験がおありという事なら私たちは喜んで祐巳さんを『桜花会』に迎え入れますわ」

 いきなり試合かい。
 しかも、私はキャッチボールをやった程度だと言っているのに。
 八人しかいないでどうしようとしてたんだ。
 さすが、ぶつかってきた直後にロザリオを渡そうとしたお姉さまのご先祖様だ。
 祐巳は心の中で突っ込んでいた。
 その時、不意に祐巳は背後から抱きしめられた。

「ぎゃあっ!」

 聖さまから、「きゃ」ぐらいにして、と言われてたのに完全な不意打ちだったから、怪獣の子供のように叫んでしまった。だが、相手は構わずに、祐巳の体を揉むように触る。

「な、何するんですかっ!?」

「ふむ。筋肉は一応ついている……これならば試合に出しても問題ないでしょう」

 そこには本当に外国人がいた。

「ミス・アンナのお墨付きもいただいたことだし、参りましょうか」

 ご先祖さまはそう言う。

「あ、あの……」

「自己紹介がまだでしたわね。私は小笠原晶子と申します」

 ご先祖さまは本当に祥子さまそっくりだった。

「私は鈴川小梅、よろしくね」

 晶子さんの隣で笑っている小梅さんは庶民的な親しみやすさがあってほっとした。
 そして思った。
 祥子さまの隣にいる自分はこんな感じに見えるのだろうか、と。
 自己紹介を済ませると、車に乗せられて相手の学校に連れて行かれた。

「じゃあ、これを履いて」

 メガネをかけた、川島乃枝さんからスパイクを渡される。
 グローブは怪我をしたという桜見鏡子さんが貸してくれた。

「あの」

「何?」

 乃枝さんが振り向く。

「この格好で、試合するの?」

 祐巳はセーラー服のままだった。

「試合の制服は本番には間に合うようにするわ」

 宗谷雪さんが静かに微笑んでいる。

「せめて、体育着みたいなものを」

「御冗談を」

 滅相もない、というように小梅さんが両手を振る。
 祐巳の方からすると、制服のまま野球をする事の方がはるかに問題だと思うのだが、大正時代の乙女たちの感覚は違うらしい。中には着物にはかま姿のものもいる。

「祐巳さんは二塁をお願い。打順は九番で」

「はい」

 乃枝さんに指示されて、まずはこちらの攻撃である。
 練習試合なので、三回までしかやらないという。
 一回は月映巴さんのホームランもあって二点が入った。
 いよいよ出番になる。
 こちらのピッチャーは晶子さん、キャッチャーは小梅さんだった。

(ふうん、あの二人がバッテリーなんだ)

 晶子さんがゆったりとした球を投げ、バッターはそれを捕らえる。
 だが、当たりがよくないのか、へろへろと祐巳の方に飛んできた。

「はーい」

 祐巳は楽々キャッチする。ワンアウト。
 二人目、今度はゆったりとした球が打ちつけられて祐巳の方に走ってくる。
 ドジョウをすくう要領でキャッチして、ファーストに投げる。

「アウト」

 余裕で打ち取り次のバッターを迎える。

──カキーン

 ホームランで一点返される。次のバッターはアウトでチェンジ。

「祐巳さん、なかなかやるわね」

 乃枝さんがキラリとメガネを光らせる。

「はは、そりゃ、どうも」

 祐巳は適当に返事をする。

「打撃の方も見せてもらいましょうか」

 六番の菊坂胡蝶さんが二塁、七番の石垣環さんが一塁で、八番の雪さんが三振した場面で祐巳の番になった。

「アウト一つ取られても、走者が生き残れば次の小梅が何とかするから、ためしに振ってみて」

 乃枝さんがそう言って祐巳にバットを渡した。

「ん、これ……」

 大正時代なのに、金属バット!?
 一体、本当にここは大正時代なんだろうか。
 一度軽く素振りをして、祐巳は打席に入った。
 相手ピッチャーの投球モーションに合わせて心の中で一、二、三……とカウントする。

(六、でミットの中に入ったから、『五』で振れば……」

 二球目。

(一、二、三、四、五)

「ストライク」

 ちょっぴりタイミングが早かった。
 ならば。

(一、二、三、四の、五)

──カキーン

 祐巳の打球は思いの外飛んだ。全速力で走って一塁を回ったところで相手が追いついたので止まる。
 ワンアウト満塁で小梅さんの番になった。

「君、結構筋がいいね」

 相手のファーストが話しかけてきた。

「あ、ありがとうございます」

「女の子も結構やるもんだね」

「女の子だって、頑張る時は頑張らないと」

──カキーン

 小梅さんが打った。
 全速力で祐巳は走った。
 二塁ベースを踏んでホームの方を見ると、胡蝶さんがホームインしたところだった。
 それが決め手になって試合は東邦星華の勝ちとなった。

「祐巳さん、この調子よ! 一週間後の本番の試合もがんばりましょうね!」

 試合終了後、晶子さんが声をかけてきた。
 嬉しそうに笑う晶子さんには祥子さまの面影があった。

「はい!」

 元気よく返事をした祐巳だったが、その日は疲れた。

(そういえば、お姉さまはどうしているかな?)

 ◆◇◆

 平成。
 祐巳が失踪してから丸一日がたとうとしていた。
 祥子は一睡もしないでソファーに腰掛けて指を組んだりしていた。

「祥子さん、一度休みなさい。祐巳ちゃんが戻ってきたときに倒れたらどうするの?」

「いえ、もう少しだけ」

 昨日、祐巳は薔薇の館には来なかった。
 由乃ちゃんの話では休んでいるとの話だったので、帰ってから電話をかけた。
 そこで祐巳のお母さまに祐巳は学校に行ったと聞いて、失踪が発覚したのだ。
 知り合いの家に電話をかけたが、どこにもいなかった。
 バスに乗ったのを弟の祐麒さんが証言しているが、いつも降りるリリアン女学園前のバス停から先の足取りがよくわかっていないのだ。
 この時間、登校風景をとっている蔦子さんに聞いたが、その日は祐巳を見なかったという。

「祥子さん!」

 慌てたり走ったりしない母が部屋に駆け込んできた。

「お母さま、どうなさったんですか?」

 震える手で、母は手紙のようなものを差し出してきた。

『福沢祐巳さんは預かっています。騒がないでください。すぐにお返しします』

 と書かれていた。差出人の名前はない。

「な……!」

 祥子は絶句して、穴があくほどその紙を眺めた。

「祐巳ちゃんが、誘拐だなんて……」

 真っ蒼な顔になってお母さまが絞り出すように言った。

「お、お母さまっ!」

「『騒がないでください』って、警察に届けるなって意味でしょう? 『お返しします』にはきっと身代金の要求とか……」

「え、縁起でもないことをおっしゃらないでくださいっ!」

 祥子は声を裏返しながら懸命に母の発言を否定する。

「祐巳ちゃん、小笠原家の人間だと思われて巻き込まれてしまったのかしら」

 祥子は立ち尽くした。
 学校では一生徒と一生徒として親しくしているが、外部のものから見るとそうは思われなかったのだろうか。

「そうだとしたら、これはうちの責任だ。すぐ手を打たなければ」

「お父さま!」

 いつからいたのか、祥子のお父さまがそう言った。

「祥子、祐巳ちゃんはどんなことをしても助け出す。心配するな」

 その時、小笠原家に一本の電話がかかってきた。
 祐巳のお父さまだった。

「祥子さん? 実はさっき手紙が届きまして、『福沢祐巳さんは預かっています。騒がないでください。すぐにお返しします』という」

 同じ文面の手紙が祐巳の家にも届いていた。

「小父さま、実は全く同じ文面の手紙がうちにも届いているの……」

「えっ、祥子さんの家にも!? うちと学校だけじゃなくて?」

「が、学校にも!?」

 祥子は思わず声を上げた。

「祥子さん!?」

 祥子の声に小笠原家の人間は事態を察した。
 お父さまは素早く祥子から受話器をとって祐巳のお父さまと話し始めた。

「もしもし、小笠原祥子の父の小笠原融と申します。この度は大変なことになってしまいまして。ええ。祐巳さんは小笠原グループが絶対に助け出します! はい。はい。ええ。自宅の方には警視庁の友人を向かわせます。身代金も10億ならすぐにだせます。ええ。はい。はい。とにかく一度そちらにうかがいますので。はい」

 まさか、祐巳が野球のために大正時代に連れて行かれたとは思わずに騒ぎはどんどん広まっていった。




【マリア様がみてる派へのフォロー】
『大正野球娘。』
 トクマ・ノベルズedge(徳間書店)から刊行されている神楽坂淳著のライトノベル。
 この物語は、カトリック系お嬢様学校に通う少女達が女性の社会進出が一般的ではなかった大正末期に野球を始め、「欧化」のための「桜花会」を結成し、青春を謳歌する姿を描いたコメディである。通称『たいやき』。
 百合というジャンルの作品ではなく、異性愛も存分に描かれている。まだ3冊しか出てないので今なら追いつけるかも。ちなみに新書なのに文庫コーナーで探しまわった馬鹿は私だ(←オイ)なにはともあれ読んでいただきたい。
 たぶん、『マリア様がみてる』とは関係ない。……と思いたい。

鈴川小梅:主人公。洋食屋『すず川』の娘で一般庶民。小笠原晶子に誘われ野球をすることになったばっかりにいろいろと大変な目に遭う。許嫁がいたり、誤解から告白されたりと結構モテモテ。毎朝洋食屋の仕込みの手伝いのために牛骨をのこで引いているため見た目より力持ちである。

小笠原晶子:貿易商小笠原家の娘。容姿端麗。岩崎荘介という婚約者の態度に腹を立て一同が野球を始めるきっかけを作る。プライドが高く負けず嫌い。今回の「小笠原祥子の先祖」はこのSS作者の捏造なので安心していただきたい。


【大正野球娘。派へのフォロー】
『マリア様がみてる』
 集英社コバルト文庫から出版されている今野緒雪著のライトノベル。
 この物語は、カトリック系お嬢様学校に通う少女達が平成の時代にありながら「姉妹制度」「山百合会」という独特のシステムを持つ学園で成長する姿を描いたコメディである。通称『マリみて』。
 百合というジャンルを語るにおいて真っ先に説明される作品であり、この掲示板はこの作品の二次創作がメインなので、ぜひ、読んでいただい。37冊も出ていて困る人は『チェリーブロッサム』『レイニーブルー』あたりでも読んでほしい。(←知らない人にそれを薦めるか、あんたは)
 もちろん、『大正野球娘。』とは関係ない。

福沢祐巳:主人公。平均的な一般庶民、愛嬌のある子だぬき顔の持ち主。小笠原祥子の「妹」になったばっかりにいろいろと大変な目に遭うが、祥子が好きすぎて本人は大変だとあまり思っていない。とんでもない人たらしで絡んだ登場人物は九割ぐらい陥落させる。安来節が踊れる。

小笠原祥子:由緒ある小笠原財閥の一人娘。成績優秀、容姿端麗、習い事を一通りやっていたので何でもできる。柏木優という婚約者がいたが、ひと悶着あって仲間の前で平手打ちした事がある。やっぱり負けず嫌い。祐巳の事が大好きすぎる。今回の「小笠原晶子の子孫」はこのSS作者の捏造なので安心していただきたい。

bqex > 続きは書けますが、これ以上私の連載ばかりにして、みんなで使う掲示板を占拠し続けるのはいかがなものかと思うのです。皆さんはどうお考えなのでしょう。ご意見お待ちしております。 (No.18449 2010-03-09 17:05:59)
加藤 > 大正野球娘。アニメはみてました。祐巳の中の人と、志摩子さんの中の人が、でてましたね。続き待ってます。 (No.18450 2010-03-09 23:13:39)
琴吹 邑 > 最近はかけていないので買いたいなあと思いつつなかなか筆が進みません。だれも何も書かない掲示板よりは、使っている人がいる掲示板の方が、いいのではないかと個人的には思います。 (No.18451 2010-03-10 22:50:40)
砂森 月 > 個人的には気にせずどんどん書いちゃっていいかとー。楽しみにしている人も居ますし☆ (No.18455 2010-03-12 02:50:53)

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お茶飲んでます全力で  No.3143  [メール]  [HomePage]
   作者:RS  投稿日:2010-03-07 00:17:25  (萌:7  笑:1  感:4
【No.3132】の続きっぽいものです。





 体育祭が終わり、薔薇の館にお手伝いが来るようになって何日か経った。
 その日は、三人のつぼみと助っ人二人が、校内のあちこちで予定されていた打ち合わせのために外回りに出ていた。
 春から六人で仕事をしてきたけれど、それでは学園祭の準備に人手が足りないことは明らかだった。そこで、二学期に入ってすぐ、二年生である紅薔薇のつぼみと白薔薇のつぼみに、その姉である二人の薔薇さまから、一年生のお手伝いをさがしてくるようにという指示があったのだ。
 二人のつぼみはその指示にこたえて、一年生を二人連れてきた。二人は仕事の呑み込みも早く、基本的なことを教えただけで、充分に薔薇の館の新戦力となった。

 予定されていた最後の来客が、打ち合わせを終えて会議室から出て行ったところだった。
「今日はもう打ち合わせの予定はないから、ちょっと休憩にしようか」
 祐巳がそう言って立ち上がると、由乃が椅子にすわったままでちょっと背伸びをして、肩をトントンとたたくまねをした。
「そうだね。打ち合わせばっかりで疲れちゃった」
「由乃さん、このあとは劇の小道具の修理よ。目先が変わっていいでしょう?」
「わかってるわよ。自分でこわしたんだから、自分で修理する。当然じゃない」
 小道具をこわしたのは由乃だけではないけれど、自分が使うものは自分で手入れするのは当たり前のことだと言いたかったようだ。
「修学旅行前はしかたないよ。ある程度は打ち合わせの予定をこなしておかないと、二年生が帰ってきてから大変な目に遭うもんね」
 祐巳は相づちを打ちながら流しに立って、手早く三人分の紅茶を入れた。
 いつもは、下級生たちがいれてくれる紅茶を、久しぶりにいれてみたくなったのだ。
 紅茶を配り終えて祐巳が席に着くと、お礼を言って志摩子がカップを手に取り、由乃はカップに二つ目のパウダーミルクを入れた。
 祐巳が紅茶に口をつけるのを待っていたかのように、由乃がベージュ色になった紅茶を一口すするように飲み、うんうんと軽く頷いた。
「祐巳さんがいれた紅茶も久しぶりだけど、三人だけってホントに久しぶりじゃない?」
「そうね。……一年生のとき以来?」
「うーん、どうだろう。でも、すぐに思い出せないくらい前みたい」
 いれたての紅茶が入ったカップをそれぞれ手にして、少しの間自分たちが一年生だったときのことを思い出していた。
「あの子たち、紅茶を入れるのも上手だよね」
「一年生のこと?」
「うん」
「祐巳さんの腕は落ちてないわよ」
「自分じゃもっと上手くできたような気がしたんだけど、カンが鈍ったかな。……でも、紅茶だけじゃなくて、仕事も呑み込みが早いよね」
「ほんと、ずいぶん助かってるわね」
「つぼみたちが、持ち帰り残業しなくなったみたいだものね」
「あ、気がついてた?」
「まあね。乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんが菜々の分まで持ってっちゃうから、菜々はほとんどしていなかったはずだけど」
「分量はそこそこなんだけど、クラブや委員会と打ち合わせに出たりすると、学校にいる間に整理がつけにくいのよね」
 打ち合わせた結果が、口頭での報告や連絡だけですませてかまわないようなこともある。たいていは、その場限りで終わることだ。そうではなくて、他のところにも影響するような内容であれば、ある程度の記録が必要になる。ときにあやふやになってしまう記憶ではなく、記録にとどめておくことは、前例として後の者の助けになることも多かった。
 しかし、学校にいるうちに記録すべきものの整理を済ませるのは、なかなか手間のかかることであった。
「うわっ。明日の打ち合わせ、今日より多いんだ」
 壁に貼ってある学園祭のスケジュール表を見ていた祐巳が、さっき自分が言ったばかりのことを忘れたようにつぶやいた。
「修学旅行前に入れられる予定は全部入れたからね。しかたないわよ」
「そうなんだけど……」
 スケジュール表を見ながら指を折って何かを数えていた祐巳が、メモ用紙に数字を書き始めた。
「祐巳さん、なにしてんの?」
「うん、ちょっと……仕事は増えてるんだけどなあって思って」
 そばにあった電卓も使ってメモ用紙に数字を書いていた祐巳が、その紙を由乃に見せた。
「ね? 仕事は以前より三割り増しなのよ。でも、感覚的にはずいぶん楽になってると思わない?」
「うーん。仕事は打ち合わせだけじゃないから、その数字で比べるのは……ちょっと待ってね」
 メモ用紙を見せられた由乃が「念のため」と言いながら、そばにあった別のメモ用紙で計算を始める。
「二人が来る前の仕事の量を一として、六人でやっていたから、一人当たりは六分の一。三割り増しだっていう祐巳さんの意見に従えば、三割増えた後の仕事を二人増えた八人でこなしてるとして、一人当たりは……」
 筆算をやめて、電卓に数字をタタタッと打ち込んだ由乃が、計算結果を祐巳に向ける。
「仕事は確かに増えてるけど、楽になってるのは単純に人数が増えたからよ」
「計算上はそうかもしれないけど……」
 納得しきれていないようすの祐巳を見ながら、志摩子が声をかけた。
「由乃さんも、前より楽になってる感じはするでしょう? あの二人には助かってるもの」
「でしょーっ。数字は数字だけど、助かってるよね」
 うれしそうに言う祐巳に、由乃の声が重なる。
「助かってるのは確かにそうだけどさ、人数が増えてるからね」
「一人当たりの仕事は、単純に計算すればその電卓のとおりだとして、そこから言えるのは……」
「言えるのは?」
 祐巳も電卓を持ったままの由乃も、志摩子の次の言葉を待った。
「あの二人が、とても優秀だということよ」
 それを聞いて、祐巳と顔を見合わせた由乃が尋ねた。
「優秀なことに異議はないけど、どうしてその結論?」
「もしも、二人があわせて一人前だったら、と考えたらどうかしら? あの二人が来てから、薔薇の館の仕事の効率は、落ちるどころか上がっているわ。それは、二人がほかのメンバーと同じくらいに仕事ができるということよ」
「ああ、それはそうね」
「だから、さっきの計算は、二人が前からのメンバーと同じだけ仕事ができることが前提だということ。そして、わたしはみんなはとても優秀だと思っている。そこに加わった二人が、みんなに引けをとらないなら、やはり優秀だということになると思うわけ」
「ということは、由乃さんの計算は、二人の優秀さを証明したことになるのかも」
「つぼみのレクチャーもよかったのかもね」
「どっちがどっちに教えたのかしら?」
「来てすぐは、いつも四人でいたから、どっちがってことはないんじゃない?」
 お手伝いの二人が来てからも仕事は増え続けていたけれど、つぼみが仕事を持ち帰るようなことはなくなっていた。仕事は増えているのに、滞ることがない。それどころか、メンバーの負担は軽くなっている。
 それに、お手伝いは、劇に参加することを含めてであることもつぼみから充分に言ってあったので、配役についても不安無く決めることができた。劇は、このまま練習を続けていけばだいじょうぶ。きっと成功する。それは確信に近いものとして、みんなが共有している思いだった。
 二人の一年生は、つぼみの妹になるならないは別にして、一緒に仕事をして気持ちがいい人物であることは確かだった。
「わたしね、あの二人が来た日か次の日に、どっちがどっちの妹になるのって聞いたのよ」
「それはまた、由乃さんらしいストレートな聞き方ね」
 志摩子が冷やかすように言うと、由乃は気にしていないように答える。
「志摩子さん。答えを知ってるわね?」
「乃梨子から聞いたもの」
「まー、姉妹仲のおよろしいことで」
「どういたしまして。それより、祐巳さんが続きを聞きたそうよ」
「祐巳さん、気になる?」
「うん。私もそのことは聞くつもりでいたんだけど、どうやって聞こうか考えてるうちに由乃さんに先を越されてたってことね……。教えて」
「それがね、答えは無しっていうかノーコメントだったの。照れるでもなく、笑ってごまかされた感じね」
「それで引っ込むとは、由乃さんらしくないわね」
「わたしだって、そういうときの引き際は心得てるわよ。妹候補をつれて来いって言ったわけじゃないから、なんのことですかって反応されても仕方なかったのよね。先輩が冗談を言ったんだけど、はずしてしまったってことにしてもらったんだから、それ以上言うのは野暮ってモノよ」
「ふーん。どっちがどっちというわけでもない……か。つぼみの二人は、一年生はあくまでも助っ人だというのを崩さないつもりなのかな……」
「たぶん、学園祭が終わるまではね」
 祐巳に答えるように、志摩子がぽつりと言うと、由乃も祐巳もつぼみたちの考えがなんとなく分かったような気がした。
「つぼみの妹のことは置いておくとして、あの二人似てると思わない?」
「置いておくって、いつまで?」
「あら、祐巳さん、意外とせっかちね」
「だって、妹の妹候補っぽい存在が現れたのに、今忙しいからって放っておくのも……」
「今年の茶話会に影響しちゃうから、早くはっきりしたらいいのに、とは思うんだけどね。あせらなくても大丈夫だって」
「祐巳さんがせっかちになって、由乃さんがのんびり構えてるのは面白いわね」
「志摩子さんはあんまり変わらないわね。……わたしがのんびりして見えるのは、わたしの妹の妹は、まだ中学生なのは間違いないからよ。あせっても仕方がないのがハッキリしているから、せっかちになりようがないわ」
「ですって、祐巳さん」
「わかったわ。由乃さんを見習って、のんびり構えるようにする。……で、似てるって誰のことだっけ?」
「一年生にね、仕事を頼むときに間違えたのよ。そっくりに見えて」
 ときどき、双子でもない二人の一年生が瓜二つに見えることがあった。身長はそんなに変わらないけれど、顔かたちが似ているわけではない。髪型も違っている。よく見なくても別人なのはわかるのに、間違えたことが一度ならずあるのだ。
 書類仕事の最中に、みんなに紅茶を配っている二人を見て、一瞬区別が付かなかったことがある。お茶のお礼を言おうとして間違いそうになったこともある。資料を渡して仕事の指示をするときに、急に自信がなくなり一呼吸置くようにしていたこともある。それは、意識が仕事に集中していたから、新しくこの部屋にいる人に慣れていなかったから、そういうことがあったと思うようにしていた。
 助っ人がいる状況に慣れてからも、名前を呼ぶのは控えめにしている。それでも、あまりにそっくりに感じて、劇の練習の時には、観客から一人二役だと思われないだろうかと心配する気持ちになって、自分でも妙だと思ったくらいだった。
「見慣れないうちはしょうがないけど、今でも似てるなって思うの。祐巳さんも志摩子さんも、そう思ったことない?」
 由乃の勢いに、祐巳と志摩子は顔を見合わせた。
「言われてみれば……そうかも」
 祐巳に志摩子も同調する。
「わたしは、自分が間違えるようなことはないと思うけれど、誰かが間違えても不思議ではないくらいに似ていることがあると思うわ」
「間違えても仕方ないってことね」
 由乃が要約して言うと、志摩子が「そうよ」と頷いた。
「ここに出入りする前から、あの二人はあんな感じだったのかしら……」
「菜々は同級生だけど、ずっと知らなかったって言ってたわ。中等部でも特に目立っていたわけじゃないみたい」
「どっちも成績はいいって、菜々ちゃんは言ってたよね」
「祐巳さん、気になるの?」
「……ちょっと」
 成績がすべてではないけれど、同級生の弟がいることもあって、進路のことが家族の話題になることが多い祐巳には、確かに「ちょっと」関心のあることだった。
「安心して。菜々の情報では、二人とも学年のトップグループだそうよ」
「それは、たいしたものね」
「志摩子さんだって、一年の時からベストテンの常連じゃないの」
「そのうえ、妹は首席入学の学年トップ……。そういえば、それについても情報っていうより、噂があるんだって」
「なになに?」
「新入生代表は、本当はあの二人のどちらかだったらしいって噂」
 由乃が声を潜めて言うと、祐巳も志摩子も「ほんとかしら?」という表情になった。
「だから噂よ。二人とも最高点で同点だったけど、強く辞退したんで他の人にお鉢が回ったっていうの」
「本当とは思えないわ」
 志摩子が言うと、祐巳も同意するように大きく頷いた。
「きっと、一学期の定期試験で二人が同点トップでもとったんじゃないかしら? それが続いたのかもしれないわね。だから、入試の時のことにさかのぼって、そんな噂が出てきた。そんなところじゃないかしら……」
「わたしも、そう思うわ」
 由乃があっさり言うと、祐巳が驚いたように声をかけた。
「由乃さん、信じてたわけじゃないの?」
「信じちゃいないわよ。わたしは、そんな噂が出るくらい成績がいいんだなって思っただけ。噂というのはね、祐巳さん。現実と違っていても、そのギャップが小さいほど受け入れられやすいものだから、放っておくと事実と同じ扱いを受けることもある。そういうことよ」
 由乃と祐巳は幼稚舎から、志摩子は中等部からリリアンにいるけれど、学年を超えての情報はほとんど持っていない。特別な有名人でもなければ、学年を超えて知られることもないのは校風と言えるかもしれない。一学年下のこともよく知っているとは言えず、二学年下ともなると皆目分からないというのが実情だから、それについては黄薔薇のつぼみの情報に頼ることが多い。
 同じ学年の菜々にしても、中等部で同じクラスになったことがない同級生の情報は、間接的に集めるしかなかったのだ。
「祐巳さんのときは、ちょっと違ったけどね」
「どちらかというと、祐巳さんが薔薇の館に来るようになって、みんなホッとしてたみたい。あの頃は、薔薇さまがみんな優秀すぎて、近寄りがたかったみたいだから」
 由乃が言い出して、志摩子が引き取った。
「そうだよね。わたしなんか、下のドアをノックするのに、手に汗握って、ドキドキして、足まで震えてたもん」
 志摩子が微笑んだ。
 それは、二年近く前のこと。薔薇の館の前で、祐巳に声をかけたときのことを思い出したようだ。
「でも、祐巳さんが来るようになってからは、祐巳さんのことを自分たちの代表みたいに思っていた人も多かったみたいよ」
「なにぶん、わたしは平均点が売りの一般人でございますから」
「あら、祐巳さんが自慢するなんて珍しいわね」
「由乃さーん。志摩子さんがいじめるー」
 由乃は、祐巳の泣きまねにとりあわない。
 成績が上位というのは悪いことではない。それは、成績は良いに越したことはない、という一般論以上に、薔薇の館に出入りする際に意味を持つかもしれないからだ。
 それでも、あまりに薔薇さまたちが優秀であるというイメージが強くなれば、自分のことをごく普通だと思っている生徒からは、薔薇さまや薔薇の館と距離があることを当然のこととされてしまうだろう。そんなときに、薔薇の館に出入りしている祐巳のことを、自分たちの代表のように受け止めたのは、ある意味自然なことだったのかもしれない。
 成績のことだけが理由ではないだろうけれど、一年生の二人が薔薇の館に来るようになっても、菜々から聞く限り、反感めいたことを言う人はいないようだ。中等部の頃から、高等部に進学したらどちらかが、または二人ともが薔薇の館に行くことになるのではないか、いずれは薔薇さまになるのではないか、ということを言う人もいたらしい。本人がなりたいと言ったのではなく、周囲の人が、いずれは薔薇さまになっても不思議ではない人物だと思っていたということだろう。
「でも、なんでああも目立たないのかしらね?」
 泣きまねを相手にしてもらえなかった祐巳が推理する。
「目立つのを避けてるんじゃない?」
「なぜ?」
 本当に不思議そうに由乃が言う。
「さあ? 目立つとまずい事情があるとか?」
「薔薇の館に出入りしたら、いやでも目立っちゃうじゃない」
「さっきの話とも関係するんじゃないかしら」
 ちょっと考えている風だった志摩子が由乃に答えた。
「どういうこと?」
「成績が良くて、薔薇の館に出入りして不思議じゃないって思われている人が、これみよがしにとは言わないけれど、目立ってしまっては、いまの薔薇の館が進んでいる方向と合わないことを知っているから、とか……」
「薔薇の館と生徒たちの距離、か……」
 由乃のつぶやきに、祐巳の口調もつぶやくようになってしまった。
「いまの薔薇さまたちがその距離を縮めているところなのに、自分たちのせいで、薔薇の館は普通の生徒からは縁遠い、一部の成績優秀な生徒のたまり場みたいに思われたら困る、ってことなのかなあ……。こっちからそんなことを言った覚えはないし、わたしを見てれば、成績優秀なのは一部だってわかりそうなもんだけどなあ」
「出入りするうちに感じたとか……?」
「つぼみたちから、目立たないように言ったという線もあるわね」
「以前から目立たなかったっていうじゃない。わざわざ言うまでもないと思うけど」
 なんとなく三人とも黙ってしまった。
 もともと目立ちたくないだけなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。薔薇の館に出入りするだけで注目を浴びることになるのは、祐巳も自分の経験としてよく知っている。
 新聞部が二人を追いかけ回したらしいことは真美さんに聞いた。真美さんに、記事の扱いをあまり大きなものにしないようにお願いしたら、それは快く了承されて恩に着たのだけれど、あとで薔薇の館に助っ人が現れただけであまり大きな記事にすると、つぼみの妹が決まったときにバランスがとれないという、とても現実的な理由があったということを聞かされた。それでも、つぼみたちが助っ人探しをしているときに、事態をややこしくするような記事が出なかったことは感謝している。
 目立つことが望ましいわけではないけれど、意図的に目立たないようにしているのでは、という気持ちは消えない。たいしたことではないような気もするし、考えておかなくてはいけないことのような気もする。

 ふと、志摩子が顔を上げて、椅子から立ち上がり、窓のところに立って外を見下ろした。
「どうしたの」
「さっきから、乃梨子の気配がしてるのに、いつまでも来ないから……」
 祐巳が、追いかけるようにして志摩子のそばに立って外を見ると、一階の扉からいくらか離れたところに、乃梨子と菜々がいて、その向かいに生徒が二人立っている。声は聞こえないけれど、二人組がつぼみの二人に何かを訴えるような身振りで話して、乃梨子と菜々がときどき顔を見合わせながら聞いているように見える。
「もめごとかしら……?」
 祐巳が言うと、お茶を飲み干して立ち上がった由乃が二人のところに来た。
「作業の場所のことか資材のことで注文付けに来たんでしょ。そうでなかったら、日程のことか、学校に残れる時間を延ばしてほしいってところじゃないかしら」
「実行委員会に窓口があるのに、どうしてこっちに来るかなあ?」
「薔薇さまは実行委員を兼ねてるから、こっちに来たからといって、たらい回しするわけにはいかないわね」
「あれっ、帰ってくよ」
 祐巳が言うとおり、つぼみを残して二人の生徒が校舎に歩いていく。二人は中庭側の昇降口に入る前に振り向いて、つぼみに会釈をした。
 見送るように立っていた菜々が、軽く手を振ってから薔薇の館の方に歩きだすと、乃梨子が二階に視線を向けるように窓を見上げた。
「見てるのがわかったのかな? あそこからだと見えにくいはずだけど」
 志摩子が、乃梨子に向かって軽く手を振って頷いた。
「とりあえずは解決したみたいね」
 そのまま志摩子は流しに向かい、あとに続こうとした由乃が、一度立ち止まって祐巳の肩をツンツンと指で突いた。
「うん?」
 祐巳が由乃の指さした方を見ると、瞳子がまるで二人の一年生を引率するかのように歩いてくる。身長は二人の方がやや高いけれど、態度を見ればどちらが上級生かは一目瞭然だ。
「あっ、……わたしもお茶いれるね」
 振り向いた祐巳に、流しに先に着いてカップを取り出していた由乃が「座っているように」という手振りをした。
「こんどは、わたしと志摩子さんにまかせなさいって」
「瞳子ちゃんもすぐ来るわよ」
 ポットを持とうとした志摩子が言うと、祐巳がテーブルから答えた。
「うん。もう窓から三人で帰ってくるのが見えたの」
「あら、そう。順番に帰って来てくれてよかったわね、由乃さん」
「そうね。菜々たちが来たら、すぐ祐巳さんに替わってあげましょ」


††† おまけor蛇足 †††

 戻ってきた者たちは、薔薇さまが自分たちのために紅茶をいれておいてくれたことをとても喜んで、打ち合わせ結果の報告にも熱が入った。熱が入りすぎて、お茶を飲みながら始めた報告が終わる頃には、下校時刻が迫っていた。
 早々に一年生を帰すと、つぼみたちがそれぞれの姉に、何かを見せてくれと言うように手を差し出した。
 真っ先に気がついた志摩子は、申し訳なさそうに小道具を乃梨子の手のひらに載せた。
「打ち合わせが終わったあとに、ちょっと休憩したら修理するつもりでいたんだけど……」
 次に気がついた祐巳も、面目なさそうに下を向いたまま、瞳子の手にこわれたままの小道具を載せた。
「すぐできると思ったんだもん……」
 二人のようすを見ていた由乃は、菜々が差し出す手を無視するように、こわれた小道具を握りしめてそっぽを向いた。
「明日までにできてれば、問題ないでしょう。今日はまだ終わってないんだから、今日中にやるわよ」
 菜々は差し出した手を引っ込めて椅子を離れ、由乃の後ろに立つと、そのまま背中にしなだれかかって抱きしめた。
「ちょっ、菜々。みんなが見てるじゃない」
「見てたっていいじゃないですかー」
「自分でこわしたんだもの。自分でやるわよ」
 顔を由乃の肩にのせた菜々が、自分の頬を由乃の頬にくっつけ、手は由乃の胸の辺りでぶらぶらさせながら、ゆらゆらと体を動かす。
「ねー、おねえさまー、わたしも小道具の修理がしたいですー」
「だから、自分でやるって――あっ、こら、どこ触ってんのよ」
 動き回る菜々の手を押さえ、振り向いた由乃の動きが止まってしまった。菜々の大きな目から、涙がポロポロとこぼれている。
「なっ、なっ、なに泣いてんのよ。されたのはわたしなのに、なっ、なっ、菜々が何かされたみたいに見えるじゃないっ」
「お姉さまは、意地悪です」
 菜々は、その場で地団駄を踏むように足をバタバタさせた。
「乃梨子さまも瞳子さまも、おうちに小道具を持って帰れるのに、わたしだけがお姉さまの小道具を持って帰れないなんて。お姉さまの意地悪ー」
 乃梨子と瞳子は、二人のようすを見てそっと顔を見合わせた。
「菜々ちゃんは、泣きまねが上手だね」
「泣きまねより上手いのは、由乃さまの扱い方よ。令さまからいろんなことを聞き出したそうだけど、たいしたものだわ」
「それが、令さまだけじゃなくて、江利子さまからもいろいろと聞いてるらしいわよ」
「黄薔薇姉妹が仲睦まじいのは、薔薇の館の平和のためには大事なことだわ」
 祐巳と志摩子も話に加わって四人で見ているうちに、あっさりと勝負はついたようだ。
「あーもう、わかったわよ。渡すわよ。渡せばいいんでしょう。ほら」
 菜々は、由乃から受け取ったものを大事そうに胸に抱えた。涙をぬぐおうともしない。
 由乃は立ち上がり、「もう泣きやみなさい」というように、菜々の肩をやさしくポンポンとたたき、そのまま抱き寄せた。
「あんなふうに泣けるのは、才能としか言いようがないわね」
「瞳子だって上手いでしょ」
「姉の前で瞬時に泣けるのがすごいわ。わたしは、お姉さまの前では無理だもの」
「そっか、菜々ちゃんとは逆なんだ。……だけど、どっちもすごいや」
「菜々ちゃん、同級生の前ではお姉さまに甘えにくかったのかしら……。乃梨子も甘えていいのよ」
 志摩子がささやくように言うと、乃梨子の顔が瞬時に赤くなった。
「瞳〜子〜」
 祐巳が不満そうに妹を見ると、瞳子は耳を赤くしながら「あとで」と言うように小さく首を振った。

 マリアさまの前で手を合わせる三人の薔薇さまたち。
 その後ろで同じように手を合わせているつぼみたちは、久しぶりの持ち帰り残業に、我知らず笑みが浮かんでくるのを止めることができなかった。



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新たなる神話  No.3142  [メール]  [HomePage]
   作者:keteru  投稿日:2010-03-06 20:26:05  (萌:0  笑:3  感:0
  取り合えず、一本だけ書いて見る……。 あとは……時間無いしな〜…。


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――


 星歴0104年07月21日13時06分……第3都市ジュライ消滅から11時間



 二つの灼熱の太陽に焼かれる第3都市ジュライの廃墟。

 その瓦礫の山の中に1人の少女が光を失った双眸で虚空を見つめていた。


 ボロボロの布をマントのように纏い、埃っぽい風にはためくに任せている。


 巨大な爪に引っかかれたように、地面に深く穿たれた傷跡。

 衝撃波になぎ払われた無数の建物。

 焼き払われた、平和な暮らし。


 倒れかけている建物の柱に虚ろな目をして膝を抱えて腰掛けている。



『 そ〜う〜〜♪ 一つ目の夜に〜♪ いずこから小石が世界に落ち〜る〜〜♪ 』



 虚ろだった目に意思の光が戻り始める。



『 そ〜う〜〜♪ 二つ目の夜に〜♪ 小石の子が手を取り〜 ワルツを〜描く〜〜♪ 』



 脳裏をよぎる懐かしい唄に、涙が一滴頬を伝った。



『 そ〜う〜〜♪ 三つ目の夜に〜♪ ワルツの子は〜 世界(よなも)にウエーブを打〜つ〜♪ 』




     HIGH NOON AT JULY



 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



 熱気と火傷する様な光を投げつけ、撒き散らす二つの太陽。

 『アイプリル・シティ』

 かつてはそれなりの大きさの街だったが、”プラント”と呼ばれるロストテクノロジーが、維持システムのバグにより死んでいき、砂漠に飲まれてしまうのを待つばかりの片田舎と言える街。

「ねえ、母ちゃん、鉄砲買ってよォ〜鉄砲〜」
「だったら今手に持ってるのは何なんだい?」
「ちがうよ〜、こんなのじゃなくて、ちゃんとしたエアガンがいいの〜!」

 昼下がりのカフェ&レストラン。 客は母親と子供、コーヒーをすすっている老人。 そして、顎の辺りまで襟のある赤いロングコートを着た少女が1人、真っ赤なコートは左腕が半袖になっていて、腕は黒い皮の長い手袋で被われていて肌は見えない。

「お待たせしました〜」
「お待ちしてました〜♪」

 ウェートレスが厚いステーキとサラダ、ドレッシングや調味料を、コートを着た少女の前に並べる。 待ってましたと、ナイフとフォークを手に取る少女。

「ダメですガマンしなさい」
「ねえ買ってよ〜、トマ小屋の掃除毎日やるからさぁ〜」

 カウンターに戻ったウェートレスはコップを棚に戻し始めた、子供は母親におねだりしながらサンドウィッチに手を伸ばす、その親子の会話を楽しそうに聞いている老人、店に流れる明るい曲を聴きながら付け合せのパスタに何を掛けようと考えつつステーキを頬張る少女。

 平和な昼下がり。

「ねえいいでしょ〜? ねえったら〜? ねえねえねえ〜?!」

 ドゥガァァン!!!

 蹴り開けられた入り口の扉に、平和な光景は打ち砕かれた。

 蹴り開けた男は散弾銃を構えて店内に入り込む。 続いて手に手に銃器を持った男が三人乱入してくる。
 母親は子供を抱き寄せ床に伏せる。 ウェートレスはカウンターの影に身を低くしゃがみ込む。 老人は頭を抱えて店の隅に転がるように退避する。 まるでそのようなことが日常茶飯事だと言うように。
 男達が手に持った銃を構える中、少女は肉を刺したフォークを咥え左手にケチャップを持ってパスタに掛けようとしていた。 男達が銃を少女に向けた頃になってようやく向けられた散弾銃の銃口に目をやる少女。 そして…。

 ドパァァン!!!

 ダダダダン!! ドゥゥン! ドォゥン! タンタンタタン!!

 銃弾が雷雨のようにバラ撒かれ、無数の弾痕が店内に破壊と言う絵画を描く。

 キ〜ン キ〜ン キ〜ン

「フ…フヘッ フヘヘヘヘヘ〜」
「やった…! はははははっ!!」
「やったぜ!! 600億$$(ダブドル)だ!!!」

 空薬莢が落ち硝煙と埃が舞う中、床に赤い液体を流して倒れている少女を見て男達が喜悦の混じった笑い声を上げ出す。

「ぅぅぅうわ〜〜〜〜ん〜〜〜! あああ〜〜〜ん!」

 火がついたように子供が泣き出す、店内の者は倒れている少女に目をやる。

「ふふ〜ん。 ヒューマノイド・タイフーン、アイプリル・シティーの片田舎に堕つか」
「「「「ふぁははははははは!!!!」」」」
「やったぜ! これで俺達の名前も星中に轟くってもんだ!! ははははは……。 ああぁ?」

 1人の男が銃を構えなおして床に倒れる少女に近づく。

「なんだよ? えらく慎重じゃあねえか?」
「大丈夫、仕留めたって!」
「ふふっ…相手が相手だからね〜…」

 そう言いながら、銃口を少女の頭に着けようとすると……。

 ”ぱすっ”

 銃口に入れられた指が一本。 男の表情が強張る。
 男の体の陰に隠れていて、他の三人にはそれは見えていない。

「よお〜、姉ちゃん達! しけた面すんなって! こんな店建て替えてやってもいいんだぜ〜! え〜〜?」
「ホント〜?」
「あたぼ〜よ! こちとら600億$$(ダブドル)の億万ちょ〜…じゃ…」

 銃口に指を突っ込んだまま、近づいていた男の肩を友達のように抱きながら、何事も無かったようにニコニコ笑って立っている少女に、男達は驚愕の表情を浮かべる。

「それはよかったわ〜、気になってたのよ、お店こんなにズタボロになっちゃったから〜」
「(クン…クン…)…トマト臭ぇ?」

 頭から垂れている液体の匂いはトマトケチャップだった。

「逃げようとした拍子に頭から被っちゃったのよ…。 クリーニング代請求してもいいかしら〜?」
「いいや! 別な物くれてやる!」

 ジャキ!

「天国への片道切符だ!!」

 散弾銃を構えなおして少女の額に銃口を押し付けてくる。

 ピュポポン!

 店内の人々が息を呑む中、散弾銃の轟音よりも早く気の抜けた音が店内に響いた。
 表情を引き締めた少女の手には、先ほど男の子が持っていたおもちゃの銃が握られている。 そして男達の額、鼻やアゴ、頬に吸盤付きの矢が当たっていた。

「はあぁぁ〜…、せっかちすぎるわ…。 まあ、そう結論を急がずに話し合いましょうよ」
「な…なにモンだよ、あんた?」

 ナプキンで顔に付いたケチャップを拭った少女に悪びれる様子も無い、銃撃の事なんかすっかり忘れてますというような顔をしている。

「いや〜〜、自己紹介なんててれちゃいますけどぉ〜〜。 あえて言うなら……愛というカゲロウを追い続ける平和の狩人……みたいな〜感じ?」

 ”キラ〜ン ピカピカピカ〜ン” っと効果音がどこかから聞こえてきそうな表情を浮かべる少女。

「ぇえええ?」

 賞金稼ぎの四人は真顔でそんな事を言う少女に、一様に驚きの表情を浮かべるが、ただ、最初に店に乱入した散弾銃の男は何か気に食わなかったようだ。 ギリギリと歯噛みしたかと思うと、また少女に銃を向ける。

「ぅぬぬぬおぉぉ〜〜〜!!! てんめぇ〜! ぶち殺してやる〜!!」
「よせ馬鹿〜! 命がいらねえのかよ?!」

 銃口に指を突っ込まれて何も出来なかった男が、散弾銃を構えた仲間を羽交い絞めにする。

「さっきので俺達ゃあ死んでんだ!! 今度はモノホンが来るぞ!!」
「あらあら、撃つなら撃ちなさぁ〜い。 ド〜〜ンとね(ハート)」
「ぅうぅおおぬぅぐげいごぐはあぎがほるぅるを!!!」
「うだぁぁああ! 挑発すんなよ、あんたもよ!!」

 我を忘れた男を制止しきれず引き金が引かれる…が…。

「ええ…?」

 銃口からは消えかけの線香花火ほどの火も出てこない。

「無理無理〜、だってこの人以外さっき全弾撃っちゃってるんですもの!」
「えええ?!」


「………何で…わかるんだよ?」
「数えてたから!」



 二つの太陽からの灼熱が荒涼とした砂漠を焼いている、そんな中を歩く四人の賞金稼ぎ。

「何も身ぐるみ置いていかなくってもいいのに……ムサイ物さらして何しようってのよ…」

 要求した覚えもないのに銃や着物を置いていったのだ、下着も脱ごうとしたがそれだけは必死で止めた。

「へぇ〜〜……。 あはっ」

 子供が興味深そうに、その服と銃の山を見ている、が、少女の手元にあるものに気が付いてうれしそうに笑う。 少女はそれに気が付いた。

「ふふふ、はい、助かったわ、ありがとう」

 自分の持っていた物が役立ってうれしそうだ。





「いや〜たいした腕じゃの。 あんた、ああして撃たずに生きてきたのかね?」

 先ほどの労をねぎらうように、老人が注文したのか四段重ねのホットケーキが少女に振舞われる。

「むぐむぐ…、だって勿体無いじゃあないですか。 弾丸一発のお値段でホットケーキ四枚は食べられるんですよ?」
「ははは。 変わった人じゃ」
「まあ、それは冗談としても。 誰だって痛いのは嫌じゃないですか…人死にや怪我人は、出ない方がいいに決まってますよ…」

 少し陰のある笑みを浮かべる少女に、老人は優しげに笑いかける。

「しかし、それでガンマンが務まるのかい?」
「ダメですよねぇ〜? そんなんじゃあ……あは、あははははは」
「ふ、はははははは」

 ガチャ!

「……ごめんなさい…」
「……えぇぇ?」

 後ろに控えていたウェートレスが、小型の拳銃を構えて少女の後頭部に狙いをつける。 正面に座っていた老人もゆっくりと良く使い込んだ銃を構える。 訳が分からぬまま少女はゆっくりと両手を上げる。

「あんた、ヒューマノイド・タイフーン。 祐巳・ザ・スタンピードさんなんじゃろ?」
「…はあ…まあ……一応…?」

 祐巳の額に銃口が向けられる。 後ろからも、そして窓の外にも銃だけでなくいろいろな得物を持った、見るからに普通の市民と思われる人々が集結している。

「すまんが、何も言わずに死んでくれ」
「えぇ〜…」
「ごめんなさい。 祐巳さん…」

 さらに近づく二つの銃口に、祐巳は引きつった笑顔を浮かべる。

「あぁぁのぉ〜〜〜。 な、なに、これは?」


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――


 OPENING SONG ”H.T ”

 http://www.youtube.com/watch?v=NzHe4U5c5Oc&feature=related


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――




 巨大な電球。 それの形はまさにそれで表現できる。 ロストテクノロジーの塊。

 水も資源も少ないこの星に辿り着いてしまった人類が、生きていくために頼っている独立生産システムである。

「なるほど、船(シップ)から飛ばされた『プラント』が偶然にも生きてるって訳ね」
「ちょうどいいですわ、寄って行きましょう」

 このプラントをオアシス代わりに街道が延びている。
 ベルナルデリ保険協会の瞳子・ストライフと可南子・トンプソンは、ある人物の調査のため、この場所までやってきた。
 都市部から少し離れた場末ともいえる場所に女性の姿は珍しい、それはこの場でも同じだった。 瞳子達が酒場の安っぽい扉から入ると、中にいた数人の男達の視線を一斉に受ける。
 視線に気づかない風を装いつつ、白いマントをひるがえしカウンター席に着く瞳子、インバネスコートの裾をパタパタ叩いて砂埃を落としながら、無表情のまま瞳子の後に続く可南子。

「……注文は?」
「…バナナサンデーをお願いしますわ!」
「ガトーミルフィーユとアイスミルクティーをセットで」

 マスターは肩をすくめて、注文に近い物が在庫にあったか確認しに裏へと下がる。もちろん瞳子たちも、こんな場末の酒場にそんな物がある訳が無いのは分かって注文したのだ、後ろで聞き耳を立てていた男達が一斉に笑い出す。

「へへへへっ、お嬢ちゃん達よォ、そーゆーのは『ミルク』で行くのがお約束だろうがよォ〜?」
「はっはっはっ! そーすりゃ『俺様の濃くって暖かいのをたんまり飲ませてやるぜ!』 ……ってこ〜なるんだよなぁ?!」
「『あああ! 混ざり物が多くって喉に絡まる所がおいしいわぁ〜』ってか?!」
「ははははは!! 裏声使ってんじゃね〜よ、きもちわりぃ! そ〜いうのはそこの嬢ちゃん達に言ってもらいてえな!」

 瞳子は『またか…』と言うように溜息を吐きつつ額に手を当てる。 この手の場末の店に来るのは何度目になるか? 何度同じ事を聞いたのか? 最初のうちこそ顔を赤らめたりもしていたが、相手を楽しませるだけだと分かった今、そんなものに乗ってやる気なんかさらさら無い。

「っとに下品なんだから、これだから男は!」
「?! なんだとぉ〜?!」
「下品を下品といったまでよ」
「およしなさいな、可南子さん」
「だってそうでしょ? 瞳子さんだってそう思…」

 げへげへ笑っている男達に向かって文句を言った可南子が瞳子の方に向き直った時、”ブチッ”っと言う音がしたかと思うと”ゴトッ!”と重そうな音を立てて、金属の塊が床に落ちた、その拍子に床板が勢い良くめくれ上がり、近くのテーブルと椅子の跳ね上げてしまう、飛ばされた椅子は不運な男にブチ当たってしまう。

「あら? またスリングが切れちゃったわ」
「替えはありますわよね?」
「ええ」

 床に転がるスタンガンを軽々と持ち上げる可南子に、店内の男達は言葉を失いすごすごと引き下がる。

「…悪いが、お嬢ちゃん達の注文には答えられねえな。 これでガマンしてくれねぇか?」

 そう言いながらマスターは瞳子と可南子の前に、ミルクティーとパンケーキを出す。 肩をすくめて見せる可南子、瞳子は特に気にも留めずにマスターに微笑みかける。

「かまいませんわ。 ……あら? 意外といいお味ですわね」
「そうかい? ずいぶん久しぶりだな、紅茶を淹れるなんて」
「…ところでマスター。 『アイプリル・シティー』までは、まだだいぶありますの?」

 瞳子はショルダーバックから地図を取り出して、マスターに目的の地を告げる。

「東へ10アイルも行けば船(シップ)が見えてくるよ。 だけど、ほれ……あそこは今〜、ヒューマノイド・タイフーンが来てるって話しじゃねぇーか」
「そうなんです。 その人に用があって私達…」
「やめときな!」
「え?」

 さっき男達にからかわれていた時、何も言ってこなかったマスターが、真剣な顔で瞳子と可南子に向き直る。

「あそこにゃ近づかねえ方がいいよ、ちょーど今頃、凄い事になってる…」



 凄い事の内容を聞いた瞳子は、代金をカウンターに叩きつけるように出すと、乱暴に戸を開けて店から飛び出していく。

「ちょっと、瞳子さん!!」

 飛び出した瞳子を追って可南子も駆け出してくる。

「急ぎますわよ、可奈子さん!!」
「分かってるけど、お腹空いたわ」
「ダイエットだと思えばよろしいですわ!」
「必要ないと思うけど、私達には」

 この砂漠の星で移動に広く使われる”トマ”と言う大型の鳥のような生物を駆って、あわただしく出発する二人。
 カウンターのコインを拾い、カップと手が付けられていないパンケーキを片付けるマスター。

「……いいのかい? 行っちまったぜ、お嬢ちゃん達」
「自ら危険な所に行こうってんだ、止めたって無駄だよ。 ……警告はしたからな俺は…」



 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



「街の半分が砂に飲まれているわね…」
「きっと壊れて機能停止したプラントがあるんですわ」

 酒場からアイプリル・シティーの途中にある街が一望できる崖の上で、瞳子と可南子は双眼鏡を片手に街の様子を観察していた。
 街の南東側に大きなかつての移民船の残骸がある、多くの街がそうであるように、この街もそこにある生産装置のプラントに依存していたのだろう。 制御する事は出来ても、プラントそのものを製造するすべは失われてしまって久しい。 プラントの機能停止は、水資源そのものが乏しいこの乾いた惑星では、街の、人々の死に直結する。

「直せばいいのに」
「プラントのメンテナンスに、いくら掛かるか知らない訳ではありませんでしょう?」
「そうね、ポンと出せる額だったらとっくに出してるでしょうね」
「そうですわ。 ポンと出せるような金額ならば、こんな命知らずなことも考えないですわね」
「…命知らずって…、脅かさないでよ…」
「情報収集してましたでしょ? 子供が核弾頭で野球をするようなものですわ、下手をすると街そのものが消し飛びますわよ」
「………」
「どうしましたの、可奈子さん?」
「…今辞表書いてもいいかしら?」
「書くのはかまいませんわ。 でも、受理されて有効になるのは、本部の人事部に届いてからになりますわね」


  ドッカ〜〜〜ン!!!


 二人がいる所まで轟音が響いてきた時には、街の一角から煙が上がっているのが見て取れた。 警戒警報のサイレンも鳴り響いている。

「始まっちゃったみたいね」
「っにへっ……」
「なに笑ってんのよ」
「え? ななな何でもありませんわ! それより早速情報の確認とリスク回避に掛かりますわよ! こんなことしても無駄になったっていうのに!! 行きますわよ可南子さん!」

 そう言いながら、トマに鞭を入れてアイプリル・シティーへと駆け出す瞳子。

「危険任務手当てって、無かったわよね……、はぁ〜、しょうがないわね…」

 少し遅れて可南子も、トマを駆け出させた。



 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



「にゃ〜〜〜?! お! あ! あ〜あ〜〜!!!」

 逃げ回っている拍子に、祐巳は建物と建物の間に頭を下にして落っこちていく。 両足を壁に踏ん張ってブレーキを掛け……られなかった。

 ゴォイ〜〜ン!!

「うぁたたたぁぁ〜っ〜〜……」

 祐巳は頭から地面に落っこちて頭と首を押さえて蹲る。

「いたぞ! 賞金首だ!!」
「まわり込め! そっちだ!!」
「ひょ? えぇっぇ?!! まっずぅぅ〜!!」

 パパパン パパパ 
          ドン パパンパンパパパン
   ドパパ パパン ドドン 
          パパパ パパパ  パンパ パパン


 変なダンスを踊るように、祐巳は乱れ撃たれる弾丸をギリギリで避けつつ建物の間から駆け出す。

 パパパンパパパン ドン パパンドン パパン

「あたれ! あたれ! あたれ〜〜〜〜!!!」
「わわわ〜〜?!」 


 通りを突っ切って建物の中に逃げ込み、必死で階段を屋上まで駆け上がる。
 別の出入り口が勢い良く開け放たれる。

「いたわ!」
「見〜つけたっ!!」

 隣の建物との間に何本も洗濯物を掛けてあるロープの内の一本を綱渡りよろしく渡っていた祐巳は、背後の女性達の声に振り返る。

「あらら〜、見つかっちゃいましたね〜。 え?! わたったっ?!」

 ダダダン パンドン パン ドダダダ
   パパパドン パパパダダン

「ちょったったっ?! た〜〜〜〜〜〜〜?!」

 ピョンピョンピョンと後ずさったが、弾丸の一発が祐巳の足元のロープに当る。 下のロープと洗濯物といっしょに下に真っ逆さまに落ちていく。 途中で絡まったロープが足に引っかかって、振り子のように窓を突き破り中に転がり込んでしまう。

 ダダダン パンドン パン ドダダダ
   パパパドン パパパダダン ダダダン パン
      ドン パンドダダダ パパパドン パパパダダン

「こっちだ〜! こっち! そこにいるぞ〜!!」
「殺せ殺せ〜!!」
「逃げたぞ〜!」

パパパンパパパン ドンパパンドン パパン
     パパドパパ パパン ドドン  パパパ パパパンパパパン

「何やってんだ! そこだそこ!!」
「追え! 追え〜〜!!」

ドン パパンドン ドパパ パパン ドドン 
  パパパ パパ   パパン ドパパ パパン ドドン パパパ パパ


 街中の人々を敵に回しての追いかけっこで、追われに追われた祐巳は教会の中に逃げ込む。

「なぜ私がこんな目にあうのママン?! 何も悪いことしてないのに、みんなが私をいじめるのよママ〜ン!! ……な〜〜んて ”おフランセ語”で、泣きいれてる場合じゃあないわね…って、うぎゃё×○おぉж☆うぅぅあω@!?」

 階段を駆け上がりながら、微妙な独り言を言いつつ汗を拭っていた布がトランクスだったのに気が付いた、それに気が行ってしまい鐘突き堂の一番上に吊ってある鐘に勢い良く頭をぶつけた祐巳は、フラフラと手摺に寄りかかる。

「あそこだ〜〜! あそこにいるぞ〜〜!!」

「He`s mine!!」

 グレネードランチャーを構えた男が、躊躇せずに祐巳のいる塔に向かってグレネードを発射する。


 ドッグウゥゥアァァン!!!


 狙いがいい加減だったのか、塔の下の方に命中したグレネードが炸裂。 倒壊した塔から祐巳は放り出される。

「も〜う! いや〜〜〜〜〜〜!!!!」


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



 ドグウゥゥン グゥアァァン

 街の中に到着した瞳子と可南子は、爆風をあびて誇りまみれになる。 二人の足元に男が1人吹き飛ばされてくる。

「ぐぉぉぉああ! いてええええ〜〜! 体中無茶苦茶イテェェ〜〜〜!!!」

 男は手首を押さえて喚きまくっている。 少し離れた所では、出来たての建物の残骸をバリケードにして、市民が数名戦争よろしく銃器を撃っている。

「だれだ?! グレネードなんか使ったやつは?!」
「仕留めても誰だか解んなくっちゃ、意味ねぇんだぞ!!」

 殺気立って銃を撃ちまくっている市民達に、瞳子と可南子は完全に腰が引けている。

「ど、どうすんのよ? この人達理性無くしてるわよ?!」

 可南子に肩を叩かれた瞳子はハッっと我に返ると、意を決してマントの下から拡声器を取り出すとスゥ〜っと息を吸い込む。

『ご町内の皆さま! お取り込み中大変申し訳ございません!! わたくしベルナルデリ保険協会の、瞳子・ストライフと申します!!』

 ドグウァゥゥンバァ〜ン

パパンドン チュチュゥチュチュゥン ドドドパパン

「わひゃあぁぁ〜〜?!」

 及び腰に前へ前へと進んでいた瞳子と、瞳子を盾代わりにして後に続いていた可南子が、近くで起こった爆発と目の前で交錯していく流れ弾の群れに後ずさる。 しかし、すぐに自分の使命を思い出した瞳子は、再び息を大きく吸い込むと拡声器を構えなおす。

『皆様が追っている”祐巳・ザ・スタンピード”は…、大変な危険人物です! 皆さんの大切な生命や財産を守るためにも……』

 あまり効果の無い拡声器での呼びかけを続けている瞳子、すぐ近くでは相手の存在が確認できていないにもかかわらず、相手の名前のため撃たずに居られない市民が銃を散発的に撃っている。

 ―――その時、緊急時連絡用の町内会のスピーカーから、緊張感に掛けるチャイムが鳴り響く――

『対策本部より連絡します!』

 瞳子がいくら拡声器で呼びかけても反応が無かった市民が、一斉に聞き耳を立てる。 瞳子も拡声器を口元から離して連絡に耳を傾ける。

『祐巳・ザ・スタンピード捕獲作戦は一時中断します! 皆さん本部に集合してください!』

「一時中断?! 冗談じゃありませんわ! 『即刻中止ですわ!!』」



 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



 街の広場に設えられた本部と言う名の簡易テントを中心に三々五々市民達が集まって来ている。

「どうするんです会長?! このままでは怪我人や被害が増える一方です!」
「うぅ〜〜〜〜ん……、4時間以上追い掛けているのに、いまだに捕獲できんとは…」

 各種連絡係を担当している助役に問い詰められて、町内会長は机に肘を突いて頭を抱えてしまっている。

「それどころか、あの女は、我々に対して一発も撃ち返さずに逃げ延びています」
「…格が違いすぎたか……もしあの女が本気になったら…」
「会長、街が形のあるうちにやめるべきでは?!」
「う〜〜ん…」
「当然ですわ!!」
「ああん?」

 突然聞こえてきた意志の強い声に会長は目を向けると、腕組みをして会長を見下ろしている瞳子と、その後ろに控えている可南子の二人が目に映った。

「責任者の方はいらっしゃいまして?」
「誰だ君達は?」

『責任者を出してください!』

 どこからとも無く拡声器を取り出した瞳子は、躊躇せずにヴォリューム最大で叫んだ。


 ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―


 ダダ〜ン     ダダ〜〜ン      ダダ〜ン


 なにか重くて、大きな者の足音が響き渡った。


 ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―


「なんて大それた事をするんですの?!」

 祐巳・ザ・スタンピード捕獲作戦の為に、急ごしらえで作られたらしいジオラマのアイプリル・シティーに掌を叩きつけて、瞳子は町内会長を相手に作戦の即時中止を訴えた。

「ヒューマノイド・タイフーン相手に、あなた達が何千人集まったところで勝ち目なんかありませんわよ! いままで戦ってきてその事は分かりましたでしょう?!」
「た、確かにリスクの高い賭けかもしれん…。 しかし、ワシ達にはどうしても600億$$(ダブドル)が必要なんじゃ…」
「……あっ………プラントのため……ですわね?」
「その通りだ、維持システムのバグで半分以上のプラントが使い物にならなくなった。 その修理修正保守に莫大な金が掛かる。 今の町の予算にはそのような余裕は無いんだ」
「でも、祐巳・ザ・スタンピードに手を出して街がメチャメチャになったら、プラントどころの話では無くなるんじゃないかしら?」
「……やばい…もう手遅れかもしれん……」
「「…え?」」

 ダダ〜ン     ダダ〜〜ン      ダダ〜ン

 大きな者の足音が近づいてくる中、再び頭を抱えた町内会長に視線が集まる。

「わし、”毒には毒”と思って、最後の手段使っちゃったよ…」
「え? 最後の手段って、何なんですか?」

 助役が町内会長に詰め寄る。

「……あれ?」
「「「あれ?」」」

 下を向いて足音の方を指差す町内会長、その先には……。


『ぶうぅぅぅ〜ん ぶぶぶうぅぅぅ〜 ぶぶぅ〜〜ん ぶ〜〜ん!♪』

 身の丈30mはあろうかという人間の形をした者が歩いていた。 いや、人間ではあるのだが、生体改造とサイボーグ手術を施されている巨人が歩いていた。
 額は大きく前に迫出し目はサングラスに覆われて見る事は出来ない、なぜか頭の後ろには煙突が付いていて、そこから水蒸気を時々盛大に噴出している。 使い道は分からないが背中に円盤の様な物を背負っていて、右腕は肘の辺りで機械が露出している何か細工があるらしい。
 瞳子も可南子も、通りを闊歩していくわけの分からない巨人に目を奪われてしまう。 

「…終わりだ……終わった、この街は終わった……」

 町内会長の呟きなどもちろん知るはずも無く、巨人は足元など気にもせずに前進する。 足元の車の後部を踏みつけ跳ね上がった前部が向こう脛を強打するまでは。

『ぶるるるぐうぅおおあああああああ〜〜〜?!』

 脛の部分は強化されていなかったらしい、盛大に涙を流して痛がっている。

「な、ななっな〜! 何者ですの?!」
「ね、ネブラスカ親子?!」

 巨人の胸にホルスターをしつらえてそこに乗っている白衣を着た老人ががなり声を上げる。

「だ〜〜れだ〜〜?! こんな所に車止めたのは!! 息子が蹴躓くだろうが! どけどけ〜〜! 愚民あ〜んど愚車両ども〜!!」 

「ちょ、ちょっとお借りしてよろしいですか?」
「え? ええ…」

 助役が瞳子から拡声器を受け取り、脛を押さえて跪いている巨人に向かって怒鳴り出す。

『おまえ達なんでこんな所に居るんだ?! 700年の懲役で二人とも塀の中のはずだろ?!』

「じゃ〜か〜し〜わ〜〜!! 昨日自主的に切り上げてきたのよ!!」

『だ、脱獄だろうそれは!!」

「ひっへへへっ! せっかく静かな所でのんびりしてたのになぁ〜。 600億$$(ダブドル)が転がってくるとなりゃのんきに寝てる場合じゃあね〜よなぁ〜?! そうだろ、ゴフセフ?!」

『ぶああおおぉぉぉぉぉ〜〜!! (ブシュゥゥゥ〜〜ッ)』

 ゴフセフと呼ばれた巨人は、煙突から盛大に水蒸気を噴出して肯定の意を表しているようだ。

「…ね、ネブラスカ・ファミリー……A級犯罪150を数える重犯罪人…って?!」

 瞳子は町内会長の元へ飛んで行き、首を絞める。

「ま〜さか、あのビックマンをぶつけよ〜ってんじゃ…?」
「いい〜アイデアだと思ったんだよねぇ〜、思ったんだけどなぁ〜」

 あんまり悪びれずに言う町内会長に、瞬時に青筋を3っつぐらい浮かべた瞳子は町内会長を胸倉をつかんでブンブン振り回す。

「許せなぁ〜〜〜い!! 何でこ〜〜状況が悪い方へ行くんですの〜〜〜?!?!」
「祐巳・ザ・スタンピードを捕まえました!!」
「……え?」

 不意に飛び込んできた少女の声に、瞳子は町内会長をその辺に放り出す。
 
「祐巳・ザ・スタンピードを捕まえました!!」

「ああん?」

 ネブラスカ親子のじいさんも、少女の声に聞き耳を立てる。

「祐巳・ザ・スタンピードを捕まえました!!」
「え…つ、捕まえました…って…」


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



 ――― 少し前のこと ――――……

 市民達に追われていた祐巳は、建物の壁を背もたれに荒い息を吐いていた。 さすがにハンデの大きい追いかけっこを4時間逃げ回るのは、ヒューマノイド・タイフーンと言えども辛いものがある。 しかも相手はこちらを殺す気満々なのだ。 一時中断のアナウンス後、周りは妙に静かになっている。

「はぁ…はぁ…はぁ… みんな…諦めてくれたのかしら? ……ん? ああ^▽^」




「ぷぁはぁぁぁぁ〜〜〜生き返ったぁぁぁ」

 ジョッキに満たした水を一気飲みして、テーブルに上体を預ける祐巳。 通りを隔てた所にサロンを見つけた祐巳は、そこに飛び込んで一息ついた。

 ジャキッ

「へっ?」

 コメカミに銃口を押し付けられ、目を開けてみれば、そこにはカフェ&レストランのウェートレスが、あまり慣れていない様子で祐巳のコメカミに銃口を押し付けていた。

「動かないで!」

 その声に反応するように、カウンター内から3人、店内の貯蔵用の箱の中から女性1人と少女が1人飛び出してくる。 一斉に銃を構える女性達に祐巳は両手を上げる。

「あらら……? あららら〜……?」
「サンディー! ”祐巳・ザ・スタンピードを捕まえた”って本部に伝えてちょうだい!」
「は〜い!!」
「急いでね!!」

 ウェートレスのお姉さんに言われて、サンディーと呼ばれた少女は、祐巳・ザ・スタンピード捕獲作戦本部に向かって駆け出した。
 扉が閉まり駆けて行く少女を見送ったウェートレスのお姉さんは、改めて銃を構えなおす。

「――……寒い光景よね…」
「本当に御免なさい。 なぜあなたみたいな人が600億$$(ダブドル)の賞金首なのか分からないのだけど…」
「………エプロン姿の賞金稼ぎ…ね……。 子供には見せられないわよね…」

 雰囲気を変えて言う祐巳の言葉に、カウンター側にいる三人の女性が及び腰になる。 しかし……。

「そうさ! 見せたくなんか無いよ!!」

 少女といっしょに貯蔵用の箱の中に隠れていた母親が祐巳に近づく。

「でもね、私達にはお金が必要なんだ! 家には病気の息子が寝てるんだよ、でも、死んでいくこの町を捨てて医者はどこかへ行っちまったんだ! あの子を診る人間がこの町には居ないんだよ!! だから…だから!」
「プラントの異常で、人も土地も何もかもダメになったの!!」
「だからと言って、街を出られる人間はそう居やしない! プラントを治す技師を呼ぶのにお金が要るのよ!」
「治さなければこの街は終わりよ! この街の皆もね!!」
「あなた1人でこの街を救えるの……、だからお願い、捕まって!」

 震える手で銃を握るウェートレスの声を聞いた後、祐巳はゆっくりと上げていた手を下ろして立ち上がった。

「動かないで!!」

「…事情はとても良く分かるわ……でも……」

 赤いコートに深く入っているスリットから覗いている銃架を握り締める。

「お願い! 動かないで!!」

 ゆっくりと引き抜かれる、祐巳の体格に不釣合いなほど大きな銀色のリボルバー。

「……あの人に…あの人に会うまで…」

 ”鬼気”を感じ取った女性達は後ずさる。

「私は……立ち止まるわけには行かないのよ!!」

 顔の前に掲げた銀色の銃と、狂気とも取れる目を見せつける祐巳に、その場に居る者すべてが凍りついたように動けなくなった。

「お願い…お願いよ……後生だから………撃たせないで」

 誰一人として動く事が出来ない店内、外でふく風の音が耳につく。

「……お願い…」

 静寂が支配する店内。 しかし、店外の雰囲気が変わる。

 ズシ〜〜ン

「…あぁ…」

 店全体が揺れる、棚の酒瓶やグラスがカタカタ鳴り、天井から木屑や埃がパラパラと落ちてくる。

「!! みんな伏せて!!!」

 祐巳がそう叫ぶと同時に表側に面した窓がブチ破られ、巨大な握り拳が飛び込んできた。
 店内の者達は、スローモーションのようにその光景を見入っていた。


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――


 ドグァゥゥァ〜ン

 街の一角から轟音と煙が上がる。
 騒ぎを聞きつけて市民達が現場に駆けつけていく、瞳子と可南子も騒ぎのあった方へと駆け出していた。 地面が大きく揺らいで瞳子たちはバランスを崩しかける。

「…あそこに……」
「瞳子さん!」

 煙を見上げていた瞳子は再び走りだす。

(あそこに、祐巳・ザ・スタンピードがいる……)

 ある種の期待と不安を胸に、瞳子はひたすらに走る。



 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――



「ビンゴ〜〜〜〜〜!!!!」

 ネブラスカ親子のじいさんが、歯が三本しかない口をあごが外れるほど大きく開いて、喚起の声を上げていた。

「ちょろい! ちょろすぎるわ〜!! この一発でお陀仏か〜?!」

 ゴフセフの右腕、肘から先が無くなっていて太いワイヤーが崩壊した店に向かって伸びている。

「笑う! 笑うよなぁ〜!! にやははははははは〜!!」

『ぐぁあぁははははぁぁああ〜〜〜』

 ゴフセフは笑っているようだ。 背中の機械が動き出し、伸びているワイヤーを巻き取り始める。 店の残骸から肘から先の腕が凄い勢いで引っ張り出されて戻ってきた。 ”ガキッ”っと上下が逆さに繋がった腕が正常位置に回転して戻る。

「ああ〜ん?」

 手の甲にこう書いてあった。


『 BEAT ME JUST DO IT ! 』


「なんじゃぁ〜〜? ええ?!」

 崩壊した店の、大きな元壁だと思われるパネルが、土煙の中ゆっくりと動き出す。
 その場にいる全員が注視する中、押し倒されたパネルの向こうで人影が立ち上がった。

(居るんですわね……。 百万人都市を灰に変えた悪魔の使い…伝説の賞金首…祐巳・ザ・スタンピードが……あの向こうに!)

 土煙が治まって来る。
 こちらに背を向けている真っ赤なロングコート。
 小柄な体にもかかわらず、右手一本でウェートレスを軽々と抱え支えている。
 左足を一歩引き、クルリとこちらに向き直ると、何かを宙に放り上げた。 特に注視している様にも見えないが、落ちてきたその太いサインペンをしっかりとキャッチし、ネブラスカ親子を睨みつけながら、人差し指を挑発するように”クイックイッ”っと動かす。

「ふっ…へっへっへっへっへぇ〜!! そうこなくっちゃぁ〜!! 面白くねぇよな〜〜?!!!」

 ネブラスカ親子のじいさんが、狂気に満ちた笑いを上げているのを無視して、祐巳はウェートレスを抱きかかえたまま、瓦礫の中から歩き出し、少し離れた地面へそっと横たえる。

「どうする?! 祐巳・ザ・スタンピード〜?!」

 立ち上がった祐巳は、ネブラスカ親子を一瞥すると、またゆっくりと瓦礫へと歩き出す。

「ど〜した? え〜〜〜〜?! 逃げるのか〜?!」

 その声が聞こえていないかのように、残骸の中から適当な棒を見つけ出すと、折り重なっている瓦礫の一つの間に突き立てる。 棒に力をこめて瓦礫をどかすと、下から女性達が出てきた。 気絶しているらしく動かない。

「ひぃへぇぇ?」

 窮地とも言える中で一人一人女性達を助け出している祐巳の姿が、ある意味異常に見えるのか、誰もが見守るしか出来ずにいた。

「へぇぇ〜、やさしいんだねぇ〜?」

 ネブラスカ親子のじいさんは葉巻を取り出して、火力が強すぎるトーチで火をつける。 しばらく傍観を決め込むらしい。

 やがて、五人目を瓦礫の山の中から助け出して、女性達を寝かせている所へと抱えていく最中に、じいさんの吸っていた葉巻の灰がポトリと落ちた。

「タイムリミットだ! いっちょ脅したれゴフセフ!!」
『うぅぐおおおお〜〜!!』

 ネブラスカ親子のじいさんが号令を出す。 ゴフセフは何のためらいも無く女性を抱えたままの祐巳に向かって拳を発射した。

「お母ちゃ〜〜ん?!」

 本部に連絡に行った少女の目の前で、その母親を抱えたままの祐巳にゴフセフの放った拳がロケットのように飛んで行く。


  ドグオォァ〜ン


「ネブラスカのやつ無茶が過ぎるぞ!!」

 母親の元へ駆けて行こうとする少女を抑えている助役、しかし彼とてそれ以上の手出しは出来ずにいた。

「ああああ〜、死人だけは勘弁してくれ〜」
「なんてことを!!」

「ぎゃ〜〜ぁははははははははは〜〜……ああ?」

 土煙が治まる。 拳の狙いが正確だったらしいが、祐巳はしゃがみ込むことで拳をかわした。

「おお〜〜」「は、はははやった〜」「無事だったか」

 人々は喜びの声を上げる中、祐巳はネブラスカ親子を見据えたまま立ち上がる。

「なぁんだ、ピンピンしとるじゃないか〜。 いいとこ女を放っぽっといて逃げると思ったがな〜」

 祐巳は何も言わずに黙ってネブラスカ親子を見据えたままいる。

「あくまで”殺さず”ってわけかよ? 気持ち悪いヤツ!! だがな〜、おまえのそれは”偽善”だ!! 絶対どこかで、不都合並べて来たやつを消して来てんのさ! なぜなら! 現におまえは”消される側”にまわってねえ!! おまえに掛かってる600億$$(ダブドル)の賞金が何よりの証拠だ!!」

 ・
    ・
       ・

「えええ〜??!! どうなんだよ?!! 祐巳・ザ・スタンピード!!!」


「なんで彼女は黙ってる?」
「何であそこまで言われて何も言い返さないんだ?」

 何も言い返さず、黙ったまま、祐巳は少女の母親を他の女達と同様に、静かに横たえるとすっくと立ち上がる。 そして、彼女達から離れるように歩き出す。 左手で蔓が少し変わった形をした、プラチナゴールドの丸いシューティンググラスを取り出す。 安全な距離を取り、立ち止まると同時にシューティンググラスを掛け、ネブラスカ親子を睨みつける。

「やっとその気になったようだな〜?!」

 真っ赤なコートのスリットの間から、銃のグリップをあらわにする。

「おおお、抜くか〜? 意味ね〜ぞ! どんな大口径の銃でも200アイルで突っ込んでくる車は止められねぇ〜!! 2度も食らってんだ、息子の拳骨がそんなもんじゃあねえことくらい、てめえの薄ら頭でも分かるよなぁ〜?! 逃げるなら今のうちだぞ! 最もどんなに速く走ったって、気がついた次の瞬間バラバラだがなあ!!」

 祐巳は微動だにせず、ネブラスカ親子のじいさんの言葉を聴いている。

「いいか〜? これから俺様が、貴様がどれだけ愚かかレクチャーしてやる! ……こいつでな!!」

『ううるぉおおぉぉぉ!!』

 ネブラスカ親子のじいさんが指をパチンと鳴らすと、ゴフセフは拳を発射するために腕を上げる、そして、今度はその腕が高速で回転し始めた。 最初拳は祐巳を狙っていた、だが……。

「人間ミンチのスペシャルコースだ〜〜!!」

 狙いは祐巳から横へ。 離れて横たえられた女達の方へ向けられた。

「あぁ?!!」

「早く助けに行けぇぇ!! そして! 一番ミットモナイ死に様をさらせやぁぁ!!!」

『とぅおおおおおおお〜!!』



 迷うことなく高速回転する巨大な拳は発射された。


 スローモーションの世界で祐巳は地を蹴って走りだす。


 母の元へ行こうと、助役の手の中で暴れる少女。


 気がついて自分達に迫る危機に身を起こし逃げ始めた女性達。


 四歩、五歩、地を蹴った所で、祐巳は宙に身を躍らせる。


 銀色の銃が引き抜かれる、迫り来る拳と、女性達の間に割り込み、そのまま銃を撃つ。

 衝撃波を引いているのが見える弾丸が、吸い込まれるようにゴフセフの拳に命中する。


 ……二発……三発…。

 ほぼ同じ場所に当たったことにより軌道がわずかにそれる

 …四発………五発………。

 バランスを崩した拳は、完全に軌道をはずれた。



「う…うそ……」
「そ、そらせた?!」
「え? あぁぁ…あ〜……、な…て、鉄砲玉六発で息子の拳骨そらしやがった?!!」
「違うわ」

 驚愕しているネブラスカ親子に向かって、祐巳はあくまで冷静に銃を操作して、シリンダーから空薬莢”五発”をはじき出す。

「まだ一発残ってるわ。 スペシャルなのがね」

 そう言いながらシリンダーを弾いてクルクル回す。 中折れ式のリボルバー、しばらくシリンダーの回転を見てから少しい勢いをつけてバレルを起こす、シリンダーの回転も止まる、弾の位置は分かっている、周りから見ると無造作とも言えるほど簡単に狙いをつけてその弾を撃つ。 狙い違わずゴフセフの腕と拳の接合部に弾が吸い込まれていく。

『ぐぅうううがああああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!』

 これにはゴフセフもたまらず、雄叫びのような悲鳴を上げるともんどりうって倒れてしまった。

「やっ…やっちまった……あの…ネブラスカ親子を…たった六発の銃弾だけで…」

 追い回され逃げ回っていた少女が、市民に対して一発も撃ち返していない事を助役は思い出した。

「……今ハッきり分かったよ…あの娘がヒューマノイド・タイフーンっと呼ばれている訳が……」

 カフェ&レストランで鉄砲を母にねだっていた男の子と、サンディーが祐巳の元へと駆けてきた。

「ありがとう! お母さんを助けてくれて!」
「すごいや〜!」
「すごくなんか無いわよ、ぜんぜんすごくなんか無いわ

 さっきネブラスカ親子と対峙していた時とはうって変わった、少しはにかんだような笑みを子供達に向ける祐巳。

「まだだ!! まだ終わってねえぇ〜!!」

 そう叫んでネブラスカ親子のじいさんは、杖に使えるほど長大なバレルの銃を構える。

 ひゅぽぽぽん

 気の抜ける音とともに、吸盤付きの矢がじいさんの顔に数発命中する。

「……え? …あ、あれ?……」

 呆然としているじいさんを他所に、祐巳は男の子に笑いかける。

「…今日、二度目ね!」
「へ、へへへへっ!」
「む、無視するな〜〜、おら〜! て、てめ〜…これで勝ったと…勝ったと!」
「え〜? もうやめましょうよ〜」

『はい! そこまで!! そこまでですわ!!』

 わざわざ屋根の上に登って出番を待っていたらしい瞳子が、拡声器で両者にストップをかける。

『取りあえず、皆さんわたくしの話を聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか? あ、そこのビックマンとおじいさん、あなた方には退場していただきますわ!』

 瞳子が指を”パチン”っと鳴らす。 息子はひっくり返って気絶している、じいさんは喚き散らしているものの、どう話をつけていたのか、任務を思い出した保安官達に二人は取り押さえられた。


 ―― * ―― * ―― * ―― * ―― * ―― *―― * ――


「え?! な、何だって?!」
「もう一回言ってくれ姐ちゃん!!」

 瞳子は溜息をついて、もう一度話を繰り返す。

「ですから、昨日付けで連邦政府は、祐巳・ザ・スタンピードを局地的な”災害”として扱う決定をしたのですわ。 人間の範中ではとても扱いきれませんもの。 それに伴い、騒ぎの元の600億$$(ダブドル)の賞金は、その時点で失効致しました。 地震や台風に賞金なんてかけられませんもの」

「い、い…やったああああ〜〜〜〜〜!!!!」

 賞金の失効を聞いた祐巳は小躍りして喜ぶが、市民達はそれどころではない。

「ちょっと! そういう事ははやく言えよおぉ!!」
「手遅れもいいとこじゃんか!!」
「弾丸のストック空になっちまったよぉ〜」
「どうすんだよ〜? 賞金あてにして車買う契約しちまったよ〜」
「また洗濯物し直しだよ」
「建物壊したのは、この嬢ちゃんじゃないんだけど…」

「保険屋さんなんとかならんのかねぇ〜?」

 最初に拡声器を使って呼び掛けた時、説明しようとしたのに聞いてもらえなかった瞳子は、震えながら拳を握り締める。

「取り合えず、耐えなさいね瞳子さん」
「……分かって…ます…わ……」



『 そ〜う〜♪ 四つ目の夜に♪ 波の子は 岸辺にしぶきを上げ〜る〜♪ 』



「自由よおぉぉ〜!! わ・た・し・は!! 自由なのよ〜〜〜!!!!」
「チョッと、チョッと!! お待ちになってくださいませ祐巳・ザ・スタンピードさま」
「へっ?」
「浮れられては困りますわ、あなたが慢性的なトラブルメーカーであることに変わりは無いのですから」
「好き好んでそうなわけじゃあないんだけどなぁ〜」



『 そ〜う〜♪ 五つ目の夜に♪ そのかけら 幾度も世界面(よなも)を たたく〜♪ 』



「その割には収集された情報は、半端無い量なんですけど」
「そういうわけで………ベルナルデリ保険協会の瞳子・ストライフです」
「可南子・トンプソンです」
「お会いできた事を、星のめぐりに感謝するとともに、この仕事を回して来た人事部に怨嗟を送ることにしますわ」
「それは〜、私に言ってもしょうがないんじゃないかな?」
「これからは! 私達二人が24時間体制で祐巳さまの監視とリスク回避の任に付きますので…」
「…へ?!」



『 そ〜う〜♪ 六つ目の夜に♪ その合図に 旅人は集い合〜う〜♪』



「よろしくおねがいしますわ!!」
「よろしく…って! ちょっと待って! 何の話なのそれ……?!!」
「あら、最初から説明しなければいけませんの?」
「いいですよ、何度でも瞳子さんが説明してくれますから」
「いやいや、話は聞いて理解してるんだけどね…」
「ご理解いただけたんですわね、それは良かったですわ」



『 そ〜う〜♪ 七つ目の夜に♪ 重さの無い船は 空間(そら)へと走〜る〜♪ 』



「いやいやいや! そうじゃあなくてね!! 24時間監視ってそんなこと……え〜〜と……わ、私のプライバシーは?! 私の人権とかそれっぽいものは?!」
「ありません!」
「台風や地震に人権はありませんわ」
「そんなあぁ〜〜!!? 犬やアザラシに住民票発行する世の中なのよ?! 一応”ヒューマノイド・タイフーン”よ! ”ヒューマノイド”なのよ人権くらい認めてくれたっていいじゃない!! じゃ、じゃあ、あなた達はいいの? 24時間なんて労働基準法とか何とか、そんなものに違反じゃあないの?!」



『 そ〜う〜♪ 八つ目の朝に♪ いずこからの歌が 耳へと届〜く〜♪ 』



「なんですか? 労働基準法って?」
「昔々そういう法律があったのですわ。 心配は要りませんわ、サービス残業というものなのですわ、祐巳さま」
「ん? なんかいいわね、祐巳さまか…、フフフ、私もそう呼んでいいですか、祐巳さま?」
「もう呼んでいるじゃありませんか。 そうですわね、かつてそう呼んでいた様な気がするのです」
「いやいやいやいや! ちょっと二人とも私の言い分とかは? ねえちょっと! もしも〜〜し!!」



『 さ〜あ〜♪ 新しい空に♪ すべてを記した 組曲が響〜く〜♪ 』






                ―――――――…… 終劇 …――――

ケテル > 4月24日、映画 『TRIGUN 』 公開ってことで。  祐巳・ザ・スタンピード。 瞳子・ストライフ。 可南子・トンプソン。 由乃・D・ウルフウッド。 志摩子・ブルーサマーズ。  あともう1人も決めるだけ決めてるんですけどね・・・。 単なる”焼き起こし”ですからねぇ〜、マンガとアニメ混ぜてますけど。 (No.18448 2010-03-06 20:36:21)

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どうしてこうなった  No.3141  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2010-03-03 22:27:51  (萌:1  笑:5  感:1
※2010年4月1日『お釈迦様もみてる 自分応援団』発売告知SSです。
 恒例の各種宣伝とネタバレの嵐です。


 薔薇の館。

「令ちゃん、令ちゃん。『釈迦みて』の出番の事なんだけど……」

 由乃は菜々の腕を引っ張りながら令ちゃんのところへ歩いていく。

「出番? ……そんなものないよ」

 令ちゃんはそっけなく答えた。

「……え?」

 言ってる意味がよくわからないんですけど。

「だって、『マリみて』ではずっと」

「『マリア様がみてる 私の巣』でさえ出番がなかった」

「ち、ちょっと待ってよ」

 何だ、何だ、頭の中が整理できない。
 それって、それってどういうことだ?

「『黄薔薇ファミリー』は一人も出演してないってことだよ」

「嘘」

「本当」

「祥子さまっ、令ちゃんが!」

 駆け寄ってすがりつく。

「由乃ちゃん、落ち着いて」

「これが落ち着いてなんて」

 いられますか、そう言おうとして、由乃ははたと気がついた。祥子さまは落ち着いているのだ。
 まさか。──まさか!

「祥子さまは、知ってらしたんですか?」

「ええ」

 あくまで冷静に、そして少し同情を含んだ表情で、祥子さまはうなずいた。
 由乃は、後ずさりで祥子さまから離れた。『私の巣』で何が起きているのか、よくわからない。

「まさか、由乃さまは」

 背後から菜々の声がした。

「山百合会のメンバーなら無条件に出番があるとでも思っていたのですか」

「……何ですって?」

「そんな『マリみて』の新刊で何で私たち『黄薔薇ファミリー』だけ出番がないのよ!」




──ぶつり!

 江利子はリモコンで再生されていたDVDを止めた。

「お、お姉さま」

「くどい! 『「私の巣」は黄薔薇ファミリー全滅』とだけ表現すればいいものを『未来の白地図』のパロディにしてまで表現する必要はなくってよ!」

 江利子はバシン、とテーブルを叩いた。
 令はビクリ、と体を震わせ、由乃は視線を合わせないようにしている。

「いい? 次の『釈迦みて』ではようやく花寺学院の学園祭で三薔薇さまご降臨で『マリみて』サイトがワッショイワッショイ。久々の高校生時代のエピソードで私もワッショイワッショイって感じになるはずだから、『マリみて』新刊では『黄薔薇ファミリー』の存在感を見せつけてはずみでトントントントン行きたかったのにっ!!」

「由乃にしてみると、妹がいない世代とは絡みづらかったんですよ」

 令が江利子に言うが、これがいけなかった。

「何言ってるのよ!? 祥子を見なさい! 志摩乃梨の生みの親と言われるくらい春は頑張り、夏の可南子ちゃん問題では格好良く駆け付け、秋から冬にかけての瞳子ちゃん問題では通りかかるはずのない一年生校舎をうろうろ……あの祥子がよ? あなたがその間にしていた事といえば部活に出て『令ちゃんのばか』呼ばわりされてただけじゃないのっ! 由乃ちゃんはほとんどからんでいない世代に対して『称号』の方ではなく『名前』の出演は頑張った方よ。名前だけだったけど」

 令は小さくなった。

「江利子さま、落ち着いてください。『お釈迦様もみてる』の新刊情報が各地に上がっていたのでコピーしてきました」

 菜々がそっと言う。

「また祐麒くんの誕生日に来たわね、『釈迦みて』新刊。まあいいわ。ミス花寺の女装問題はどんな感じなのかしら?」

 江利子が楽しそうに促すが、菜々は一瞬言い淀んだ後に、淡々と機械的に言った。

「いえ、それがですね、新刊タイトルは『お釈迦様もみてる 自分応援団』で、あらすじはまんが王によると『体育祭』だと……」

「はあっ!? 学園祭じゃないのっ!? じゃあ、じゃあ……」

 黄薔薇ファミリー、やっぱり出番なし確率90%を超えました。

「たぶん、全員が『ウェットorドライ』のラストで次は我らが三薔薇さまのお出ましだとはしゃいだのが天の邪鬼なところのある神(と書いて原作者と読め)の気に障ったのではないでしょうか?」

「す、推測でものを言うのはどうかしら? それに、花寺とも打ち合わせしていたのであれば、向こうに行った描写もあるかもしれないし……私は病弱すぎて出番なし確定だけど」

 由乃がフォローを試みるが失敗する。

「何てこと……何てこと……全世界の黄薔薇スキーに至急、援軍の要請を!」

「がちゃがちゃSS掲示板にいる全黄薔薇スキーはただちに『プレミアムCD2』を購入して黄薔薇を支援せよ!」

「江利子さまっ! お小遣いが足りません!」

「月末の事など考えるなっ! お年玉の残りもつぎ込めっ!」

「ば、馬鹿なッ……足りない、だと!?」

「我らがフェティダに栄光あれっ! 特攻を開始するっ!」

「私たちの生きざまを見せてやるっ!」

「お姉さまっ! 死ぬ気ですかっ!!」

「ジーク・フェティダ! ジーク・フェティダ!」

「先行するっ!! 私の背中を守れるのは、あなたしかいないっ!!」

「お姉さまあぁ〜っ!!」

「あなたは生きて還りなさい! 最後の命令よっ!!」

「お姉さまとなら地獄の釜の底までお供いたしますっ!!」

「この、積み立てられし『五百円玉貯金』を使う日がこようとは……」

「ひるむなっ! そのためらいが命取りになるっ!!」

「生きて還ったら、熱いお茶を入れますね……」

「ええ、あなたこそ生きて還るのよ……」

「江利子さまっ! このままでは火の車ですっ!!」

「順次撃墜! 何やってるの、弾幕足りなくってよっ!!」

「ターゲット、ロックオン! うわあぁ〜!!」

「何をしているっ!! 死にたくなければ全弾発射!!」

「そうやってあなたはいつもいつも私たちを捨てゴマにするのですねっ!!」

「ここでこうして戦ってるのが私の存在理由。べ、別に令ちゃんとは関係ないんだからっ!!」

「私たちの背後にはファンがついているっ! 今はその守るべきものの事だけを考えるんだっ!!」

「この戦争が終わったら私、ファンの人に『令ちゃんは俺の嫁』って言われるんだ……」

「やってやるっ! 黄薔薇の未来を守るためにっ!!」

「第三艦橋大破っ!」

「もう、ゴールしてもいいよね?」

「逃げちゃ駄目だ! 逃げちゃ駄目だ!」

「隊列を崩すなあっ!! 買い続けろおぉっ!!」

「なに……こんなのかすり傷よ……ぐふあっ!」

「由乃っ! 今助ける!!」

「来ちゃ駄目っ! 必ず後から行くからっ、私に構わず先に行ってっ!!」

「こ、ここから先には絶対に行かせません!」

「大丈夫、私のお姉さまは正義の味方だもの。お姉さまは、絶対に負けないもの……」

「私が合図したら走りなさいっ! どんなことがあっても振り向いちゃ駄目よっ!」

「うわああぁぁ〜っ!!」

 肩で息をする四人。

「ま、待って、これってやっぱり全滅してるんじゃない?」

「き、気づいてはいたけれど、楽しくなって……つい」

「と、途中で変な事言ってる人いなかった?」

「お、面白い事言うのに夢中になっててもう、覚えてない……」

 全員が冷めてしまったお茶を飲む。

「菜々ちゃん、ところで有馬道場の門下生に『釈迦みて』メンバーはいないの? 『釈迦みて』って剣道やってる人、いるじゃない」

「さあ? 仮にいたとしても、姉が3人もいますからそちらとのフラグになるかもしれません」

「とにかく、この程度で負けていては駄目ね。もっと頑張らないと……」

「ああ、それで『自分応援団』につながるんですか……」

「……」

 落ちなかった。すみません。

通りすがり > 途中の台詞、死亡フラグ満載で吹いた。何はともあれ黄薔薇ガンバレww (No.18446 2010-03-04 21:32:12)
bqex > 『リトルホラーズ』の栄光が嘘のように『私の巣』では最後まで登場しなかった黄薔薇ファミリー。全コメが泣いた(?) (No.18447 2010-03-04 22:49:16)

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真美、なんでだよ  No.3140  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2010-03-03 00:18:07  (萌:0  笑:4  感:1
もしも桂さんが勇者だったら

※今回は『マリア様がみてる 私の巣』のネタバレのようなものがありますが、重要なネタバレではありません。(たぶん……)

 最初から【No:3054】
->セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】【No:3085】【No:3098】【No:3104】【No:3114】【No:3116】【No:3118】(黄)【No:3119】(白)【No:3120】(紅)【No:3124】【No:3136】

【これまでのあらすじを蓉子さまに対抗して祥子さまがやるようです】
 桂さん、蔦子さん、真美さん、ちさとさんは勇者としてリリアンを救うため山百合会と戦うが、敗北してしまったため、現在逆行中。
 二年前の世界で強すぎる助っ人たちと組み、見事山百合会に勝利して、次のポイントに進んだ。
 しかし! この私が負けたままでいると思って? 次のポイントではそうはいかなくってよ! 首を洗って待ってらっしゃい!



 桂たち四人はバトルを終え、古い温室に飛び込んだ。

「……あれ?」

 桂はとんでもない変化に気づいてしまった。

「レベルが、上がってる……?」

「それは、山百合会を倒したから──」

「違う、その経験値はまだ消化してないじゃない。それなのに……レベル49になってる!」

 バトル前は桂たちは全員レベル40だった。

「あ、私も」

「私もだ……」

「ステータスが変!」

 自分のステータスを見て驚く。
 そこには、取った覚えのないスキルや、クラスの名前があった。

「いつ、私、こんなスキル取ったのかしら?」

「私もシーフのスキルがある……」

 四人は首をかしげる。
 そのうち、桂はとんでもないものを発見した。

「あれ、『アヴォイドダンス』のレベルが16にもなってる!? なんだ、これ?」

 システム上、桂のスキル『アヴォイドダンス』はレベル8が最高のはずであった。
 しかし、その倍の数値になっている。
 これは一体?

「それは、皆さんが『一度山百合会に勝った世界の勇者』になったからよ」

 背後から声がして、振り向くと三年生らしい生徒がいた。

「ごきげんよう。フェは卒業してしまったので、今度は私が力を貸すわ。私は温室の妖精の一人、シー。よろしく」

 そう言ってシーは微笑んだ。四人は挨拶した後に切り出した。

「あのう、よくわからないんですけど……」

「何か、思い出せない?」

 四人は頭をひねるが、さっぱり思い出せない。

「……山百合会に敗れると、『すべてを忘れる』というペナルティを課せられる事があるの。それまで山百合会と戦ってきた記憶も、覚えたスキルなんかもね」

 と、シーは説明してくれた。

「え……じゃあ、私たちは一年生の時に山百合会と一度対戦していた!? そして、忘れてしまったスキルがあって、でも、その過去を『書き変えた』から、『すべてを忘れる』というペナルティを受けなかったことになったと?」

「でも、思い出せない……」

 四人には心当たりがない。

「まあ、仕方がないわ。とりあえず、おかしくなってしまったスキルやステータスを組み替えて、ついでにゲットした経験値を消費してレベルアップするといいわよ。これからもう一回去年と同じルールで戦わなくてはならないんだから」

「去年!?」

 四人は同時に聞き返す。

「あれ、フェは卒業したって言ったじゃないの」

 シーはクスリと笑う。

「すみません、今日の日付を教えてくれませんか?」

 シーに日付を教えてもらった。二年生の時に行われた茶話会の直後のようである。

「な、なんですって!?」

 真美はドキリとした。

「どうしたの? 真美さん」

「な、何でもない。さあ、それよりもステータスとスキルの組み換えと成長よ!」

 四人はおかしくなったデータを直して、ステータスとスキルを組み替えた。
(このレベルになると細かいステータスを掲載するだけでSSが終わってしまうので割愛。どうしてもステータスなどが見たい、という方は下コメでリクエストください。考えます)

【○○桂の変更点】
器用値、敏捷値を重点的に成長させ、他のパラメータは最低限に抑える。
クラスは『シーフ』、『ガンマン』、『カマドウマ』のものを習得。
『勇者スキル』をいくつか習得。
『花寺エディション』のスキルを得る際の属性は『白』を選択し、『紅薔薇スキル』にペナルティーを受けることになる。

【武嶋蔦子の変更点】
知力値、敏捷値を重点的に成長させ、精神値を少し高めに。他は我慢。
クラスは『メイジ』、『シーフ』をメインに『ガンマン』、『イリュージョニスト』を経由。
『花寺エディション』では『紅』を選択し、『白薔薇スキル』にペナルティーを受けることになる。

【山口真美の変更点】
精神値を重点的に成長させ、他のパラメータは前回よりも戦闘向きに。
クラスは『プリースト』、『シーフ』が多く、『モンク』、『サモナー』のものも習得。
姉妹スキル習得。
『花寺エディション』では『紅』を選択。

【田沼ちさとの変更点】
筋力値を重点的に成長させ、敏捷値、器用値を高めに。知力値は無視。
クラスは『スレイヤー』、『シーフ』、『モンク』、『イリュージョニスト』のものを習得。
『花寺エディション』では『白』を選択。

【全体の傾向】
全員が『シーフ』を経由し、スキル取り消しスキル『お蔵入りパン事件』、隠密スキル『シャドウ』、隠密攻撃スキル『サプライズ』、入れ替わりスキル『チョコレートコート』を習得。全員現在レベル57。
ここからは、ステルス勇者パーティーの独壇場ッスよ(笑)


「さて、まずは朝拝までの時間だけど……」

──カチャリ

 その時、古い温室に一人の人物が現れた。
 山村先生だった。
 そして、その手にはお約束の『忌まわしき黄金の箱』があった。

「またきたあぁーっ!!」

 四人は思わず絶叫した。

「『並薔薇ポイント』、いらないの?」

 ご都合主義の権化、神秘の力『並薔薇ポイント』はレベルが10上がるごとに罰ゲームとしか思えない指令をクリアすることで、ボーナスとして多くもらえるのだった。

「いります!」

 山村先生に聞かれ、蔦子が真っ先に叫ぶ。

「では、お約束通り、ここから引いて、そして、指令を成し遂げるのね」

「うっ、朝の貴重な時間が……」

「あの〜、相談があるのですが」

 ちさとが申し出る。

「何? 田沼さん」

「朝、もう少し活動したいので、指令を四人まとめて済ませることはできませんか?」

「いいわよ」

 山村先生はあっさり了承した。
 代表して、桂が指令を引いた……。


 二年藤組前の廊下。
 四人はある人物を待った。

「ごきげんよう」

 白薔薇さまこと藤堂志摩子さんが登校してきた。

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 四人は素早く志摩子さんを取り囲む。

「……あの、何か?」

 四人は「あなたが言いなさいよ」「あなたこそ」と目で押し付け合い、最終的に三人に押しつけられる形で桂が口を開いた。

「志摩子さん! 事情は話せないのだけど、これから私たちがパフォーマンスをするから、ちょっとだけ見ていただけないかしら?」

「え、ええ」

 志摩子は思わず頷いてしまった。
 蔦子がラジカセのスイッチを入れて四人はスタンバイする。
 ナレーションが流れる。

──あらゆる困難が科学で解決するこの平成の時代、人々の閉ざされた心の闇に蔓延る魑魅魍魎が存在していた。科学の力ではどうしようも出来ないその奇怪な輩に立ち向かう珍妙不可侵にて胡散臭い男が一人……

「ストオォーップ!」

 志摩子さんは真っ青になって停止ボタンを押した。

「うわっ! イントロのナレーションのところで止められたっ!」

「どっ、どうしてこんなものを私が見なくてはいけないのっ!?」

 志摩子さんの口調にははっきりとした怒りがにじんでいた。

「そ、それは……ま、マリア様にはないしょ」

 真の理由。それはもちろん先程、桂が引いた指令にあった。

 今回の指令
「レッツでゴー的な陰陽師が坊さんダンサーズと踊るあのパフォーマンスを小寓寺住職の娘である藤堂志摩子の前でやれ」(投稿者:最近白薔薇姉妹のイチャ×2に胸やけ気味なのよ。こっちは凸のせいで必死なのにさ。ちょっと、誰!? お前に胸があったのかって言った人はっ! さん)長っ……

(まずい、このままでは本当に地獄に流される……)

 その時、クラスメイトの筒井環さんが通りかかった。

「ごきげんよう。あら、何をやってるの?」

「べ、別に……」

 志摩子さんがそそくさとその場を立ち去ろうとした時に、環さんがラジカセに気付いた。

「志摩子さん。これ、忘れ物?」

 ラジカセを渡そうとして、環さんは手を滑らせた。落とすまい、とラジカセをつかんだ時に再生ボタンが押される格好になった。

──悪霊退散! 悪霊退散!

 志摩子さんの前に四人は素早く回り込み、踊った。
 志摩子さんは、「あああっ!」と叫んで撃沈した。

(ごめん、志摩子さん……)

(私たちだって好き好んでやってるんじゃないのよ〜っ。許して〜)

(ああ、どっちが恥ずかしいのやら……)

(それにしても、あの恥ずかしがりようと素早い反応。あのお父さんに『踊ろう』って誘われたのかな?)

 環はラジカセを持ったまま、四人のパフォーマンスを見ていた。

(何だろう、この楽しそうな人たち……)

 四人は並薔薇ポイントを大量にゲットした。
 しかし、活動する時間はほとんどなくなってしまった。


「……ふうん、勇者も大変なのね」

 桂から事情を聞いた環さんはそう言った。

「もう、本当に罰ゲーム状態で。人間関係がおかしくなるよ」

 ちらり、と桂は志摩子さんの方を見た。
 志摩子さんの周囲は普段は白薔薇さまの通り名にふさわしく白くキラキラしているように見えるが、今日は真っ黒でどんよりとしていた。

「でも、今日対戦するんだ」

「うん。環さんも、用事がなかったら薔薇の館前に来てよ。助っ人随時募集中だから」

「いいわよ。あ、後輩も連れて行っていいかな?」

「いいけど、嫌がる子を無理やり連れてくるのはなしよ」

「そんなこと、しませんてば」

 朝拝の時間になって、環さんとの会話はそこで終わった。


 昼休み。
 桂は姉妹のところへ出向き、今日の対決の旨を告げ、その足で三年松組、鵜沢美冬さまのところに向かった。

「ごきげんよう。今日は山百合会と二度目の対決ね。私も友子さんと一緒に行くから」

「はい。いろいろとお願いします」

 桂は頭を下げた。

「ううん、こちらこそ」

 美冬さまは手を振って笑う。

「でも、あなたと組めてよかったわ。私だけじゃとても勝てないもの」

 美冬さまはそんな事を言い出した。

「そんな! 私は美冬さまに比べたら、全然──」

「私にはあなたが必要だったの。私が祐巳さんに比べて足りないもの。それは、髪の長さ、身長、そして──」

 美冬さまは力強く言った。

「『K』の文字よ」

 ウァレンティーヌスの贈り物(後編)あとがき参照。

「『K』の文字を持つ勇者であるあなたがいてくれて、ようやく私は戦う事が出来る」

「でも、山百合会は──」

「わかっているわ。祐巳さんだけじゃない。でも、それを倒すヒントがここにある」

 美冬さまは何かをとりだした。

「それは?」

「『前回のバトルのドロップ品』よ! 私は今年で卒業してしまうから、次の人に託そうと思っていたの」

「ありがとうございます!」

 桂はドロップ品を受け取った。

《前回のドロップ品》
『いばらの森』(勇者専用スキル)このスキル習得者は真実、偽りに関わらず、情報を学園中に流す事が出来る。ただし、使用は連載中に1回のみである。
補足:そりゃあ、知りたくない久保栞情報も『ロザリオの滴』のモノローグでしっかり知ってるぐらいに。
『美しいタイ』(勇者専用アイテム)このアイテムを装備しているものは紅薔薇スキル『タイが曲がっていてよ』の効果を受けない。
補足:物足りなくなって、「あなた、根性が曲がっていてよ」という言いがかりをつけられても知りません。

「もうひとつ、静さんからこれを託されたわ」

 そう言って、美冬さまが取りだしたのは『白いカード』だった。

「こ、これを……私に……」

 桂は手が震えた。

「ええ。有効に使いなさいって」

「大切に、使わせていただきます」

 桂は『白いカード』をゲットした。


 その頃、ちさとは職員室にいた。
 前回、図書館の禁帯出本の中に『黄色いカード』があった。と、いう事は……

「やっぱり……」

 図書館の外壁に、『黄色いカード』が貼りついていた。ちさとはそれをゲットした。

「あら、田沼さん」

 背後から声をかけてきたのは、香取先生だった。

「ど、どうしました?」

「どうしたもこうしたも……ああ、『黄色いカード』をゲットしたのね。おめでとう」

 その時、ちさとはなんとなく思い浮かんだ疑問を口にした。

「あの、このカードって、誰が外壁に貼ったんでしょうか?」

「誰が? 不思議なことを聞くのね。カードを隠すのはブゥトンでしょう?」

 ちさとは、この香取先生の答えで薄々感じていた事に確信が持てた。


 同時刻。
 蔦子は一年椿組の前にいた。

「可南子ちゃん、山百合会との一戦に力を貸してほしいの」

「でも、私は……」

 可南子ちゃんは気乗りしないというように目をそらす。

「ここだけの話、山百合会は……私たち勇者の勝利を望んでいるのよ」

「えっ!?」

 可南子ちゃんは驚く。

「いや、『勇者が山百合会を倒す事』を望んでいると言い換えた方が正確かもしれないわね」

「何を根拠に!?」

「だって、勇者たちが負けた場合、『全てを忘れる』っていうペナルティを課すでしょう? それっておかしくない?」

「あ……」

「そう。本当に歯向かって欲しくなければ、そんな手間のかかるペナルティを課したりしないわよ」

「では、山百合会の意図は何なのでしょう?」

 可南子ちゃんが逆に聞いてくる。

「まだ、私にはわからないわ。でも、戦えばきっと答えが見えてくるはずよ」

「なるほど……」

 可南子ちゃんは何事かを思いつつ、空を見上げた。


 一方、クラブハウスでは、真美が悶々として机に突っ伏していた。

(なんで? なんで今日なの……)

「どうしました? 部長」

 日出実が声をかけてくる。

「なっ! ……何でもないわよ」

 真美は慌ててパソコンに向かって作業するふりをする。

「そうですか」

 日出実は作業に戻った。

(なんで、なんで今日は……『日出実を妹にした日』なのよっ!!)

 真美は頭を抱えた。

(お姉さまとは『上司と部下』みたいな関係だったから、前回妹にした時はその延長だから、あっさり『私の妹になりなさい』って言えたけどさあ……今、改めてってなると……うわあ、よくロザリオ渡せたな、私……)

 真美はため息をついた。
 その様子を見た日出実は思った。

(部長、具合でも悪いのかな? あっ、それとも何か私がミスしてて、取り返しのつかない事になっちゃったとか? ああ、それならどうしよう……)

 日出実もため息をついた。
 真美が顔をあげる。
 日出実はとっさに視線をそらす。
 真美は再び思考を巡らせる。

(でもでも、今さら他の子を妹になんていうのは絶対無理だし……明日にしようかなあ……いやいや、私たちは歴史を変えるためにここにきてるから、ちょっとしたことで歴史が変わって日出実が他の人の妹にならないとも限らないし、そこは変えたくないし……)

(あんなに髪をかきむしって……あんな部長は見たことない。深刻なぐらい取り返しのつかない事になってて、でも、部長は責任感が強いから、一人で責任をとろうと……まさか、部長辞任なんてこと……)

 真美の悩みの内容を知らず、どんどん嫌な妄想を膨らませる日出実。

(やっぱり、今日は約束だけをとりつけるっていうのは……う〜ん。どうしようかなあ)

 無意識のうちに真美は考えていた事が口に出てしまった。

「……やめようかな……」

 日出実は真美の元に駆け寄って叫んだ。

「やめないでください! やめないでくださいっ!!」

 真美がみると、目に涙を浮かべて腕にすがる日出実の顔がそこにあった。

「日出実……」

(妹にするのをやめるだなんて、どうかしていたわ。だって、私の妹はこの子しかいないじゃないの!)

「お願いですから、やめないでくださいっ!! だって、私は──」

「わかった。もういいから。心配しないで、日出実」

「何がいいんですかっ!?」

「ちゃんと聞きなさい。涙を拭いて。大事な事なんだから」

 真美は深呼吸すると、言った。

「私の妹になりなさい」

「へっ!?」

 日出実は予想外だったのか、驚いていた。

「あなた、何だと思ったの?」

 真美は聞く。

「い、いえっ! そのっ……」

 日出実はまさか「真美さまが部長を辞めると思っていた」などとは言えず、言い淀む。

「まあいいけど。それより、返事は?」

「あ、は、はい!」

 それを聞いて、真美は黙ってポケットからロザリオを取り出すと、日出実にかけた。
 日出実はしばらく茫然としていたが、真美の言葉と、自分がそれに答えたことを理解した。

「ぶ、部長!?」

「違うでしょう?」

 日出実はうつむいて、真っ赤になった後、意を決したように顔をあげて言った。

「お姉さま」

「そう。これからはそう呼ぶのよ」

 真美は最大の難関をクリアできたことにホッとして、この後の事を忘れていた。

──うっ……うっ……

 扉の向こうから泣き声がする。

「な、何!?」

 恐る恐る日出実が扉を開くと、そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにした築山三奈子さまが立っていた。

「うう……真美がようやく妹を作ってくれた……これでようやく肩の荷が下りたわ……」

(そうだ、あの時もお姉さまが一部始終を聞いていたんだった……)

 日出実をきつく抱きしめてわんわんと泣く三奈子さま、三奈子さまの怪力で抱きしめられてじたばたと暴れる日出実。

(ははは……どうしよう)

「助けてくださいよ、お姉さまあ」

(あれまあ、早速甘えた声なんか出してきちゃって……そんなに甘える子だったっけ? ……チョコレートクッキーくれたり、デートしたり……結構甘えてくる子でした、日出実は)

「うう……日出実ちゃん……」

(しょうがないなあ、もう)

 真美は妹が窒息しないようにそっと三奈子さまの手を離そうとして、今度は自分が捕まった。そして、予鈴が鳴るまでの間、三奈子さまにギュッと強く抱きしめられていた。


 放課後。

「勇者さま」

 桂たち四人の他、笙子ちゃんが加わって薔薇の館に向かっている時に一人の一年生が声をかけてきた。

「はい?」

「私を勇者さまの仲間にしてください! 私、どうしても山百合会に一矢報いたいんです!」

「……ええと、あなたは一体?」

 桂は誰何した。

「キョウコです」

「今日子? ああ、『降誕祭の奇跡』の?」

「それは、三田今日子さまです。私は、『銀杏の中の桜』で乃梨子さんに声をかけた恭子です」

「恭子さん!?」

 真美は驚く。

「知ってるの?」

「恭子さんには疑惑があって……恭子さんはコバルトに『マリア様がみてる』が初めて掲載された時からいる古参キャラなんだけど、その時は『蓉子』って名前だったって噂があるのよ」

 真美の告げた衝撃の噂に一同は凍った。

「え、ええっ!? ま、まさかそんな……」

「作者が『蓉子』って名前を気に入って、後に登場させた紅薔薇さまにその名前を与えて、恭子さんに『恭子』という新たな名前を与えたという……あくまで噂と推測の域を出ない疑惑なのだけどね」

「なんという事!? それが事実だとしたら、名前を奪われていたという事になるじゃないのっ!!」

 桂はおののいた。

「そんな、竹輪みたいな事ってあるのね」

 ちさとがボソッとつぶやいた。

「竹輪? あの、魚介のすり身で出来た、穴のあいた、よくオデンに入ってる、あれ?」

「ええ。伝承では、竹輪はそもそも形状が蒲の穂に似ていたため『蒲鉾(かまぼこ)』と呼ばれていたのだけど、板の上にすり身をのせた形状の板蒲鉾(いたかまぼこ;現代のかまぼこ)が現れて、そっちの方が『かまぼこ』として有名になったため、『竹輪』って名前に落ち着いたという説があるの」

「ちょ、ちょっと、ちさとさま! 今、わざわざそんな話を持ち出さなくてもいい事じゃないですかっ!? もし、私が今後『竹輪の恭子』だなんて呼ばれるようになったら、どう責任をとるおつもりですかっ!?」

 恭子ちゃんは泣いた。

「いや、私は事態を読者の皆さんにわかりやすく説明しようとしただけで……」

「余計な事しないでくださいっ!!」

「ところで、竹輪さんのステータスは何?」

「つ、蔦子さまっ! さらっと『恭子=竹輪』で話を持っていこうとしましたねっ!!」

 恭子ちゃんは血を吐く思いで突っ込んだ。

「ねえ、山百合会に一矢報いたい理由は竹輪問題なの?」

 笙子ちゃんが聞く。

「違いますっ! 『私の巣』で乃梨子さんに出番を奪われた無念をぶつけたいんです」

「ちょっと待った!」

 割って入るように二人の一年生が登場した。

「『不器用姫』の三池さゆりです!」

「同じく、雅美です! 『私の巣』に出番がない件なら、私たちだって!」

「ちょっと落ち着いてよ。そんな事言ったら、もうこのSSでは絶対に出番のない私の実の姉の内藤克美、佐々木克美さま、佐藤信子さま、白川寧子さまの立場は?」

 笙子が尋ねた。

「うっ!」

 さゆりちゃん、雅美ちゃんは絶句した。

「そうよ。それに、出番を増やしてほしいのであれば、作者に直談判しなさいよっ!」

 ちさとの言葉にがっくりと一年生たちは落ち込んだ。
 結局。

「やっぱり、どうしても戦いたいんです!」

 と恭子ちゃんのみがついてきた。
 薔薇の館の前には美冬さま、友子さま、桂のお姉さま、瑞絵、三奈子さま、日出実ちゃん、可南子ちゃん、環さん、と。

「朝倉百です。よろしくお願いします」

 百ちゃん。そして。

「ごきげんよう。松平瞳子です。勇者さま、微力ですが一向に加えてください」

 不敵な笑みを浮かべる瞳子ちゃんがいた。
 山百合会の面々が出てきて、ちさとさんが令さまを見てうっとりする。

「ごきげんよう。今朝は白薔薇さまがお世話になったようね」

 祥子さまが氷のような笑みを浮かべた。

「いえいえ、こちらこそ」

 惚けて蔦子が返す。

「始めようか」

 令さまが身構える。

「待ってください。バトル前のセーブは基本です。特にボス戦の前のセーブは」

「……そうだね。じゃあ、認めよう」

->セーブして、あと3〜4回で終わりたいなあ
 ここまで来て投げだすのは、なし、よ




【お知らせ】

 毎度ご愛読ありがとうございます。

 以前に募集した「この連載内でやってほしい事のリクエスト」は、誠に勝手ではありますが、2010年3月14日の00:00をもちまして締め切りとさせていただきます。
 これは、話が終盤に差し掛かり以降の回収が難しいためです。ご了承ください。
 それ以外のリクエストは時間がかかりますが、出来そうなものは頑張ります。(現在リクエストいただいている『紅薔薇仮面』はこの連載との兼ね合いでこちらの最終回前後になります)

 あと、今回のSSに登場した「恭子の名前が奪われた疑惑」について何かご存知の方がおられましたら、交流掲示板か下のコメント欄で教えてください。お願いします。

 以上でした。

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歩道を3列で歩くほんとに自然に衝撃的で  No.3139  [メール]  [HomePage]
   作者:砂森 月  投稿日:2010-03-01 00:28:32  (萌:3  笑:1  感:2
※ものすごくお久しぶりな未使用キー限定タイトル1発決めキャンペーン第15弾
 趣味全開で色々混ざっています。ロリータファッションは出てきませんが。
 登場作品が全部分かる人はいるかなぁ?



「祐巳さん、あれ……」
 とある休日、ふとしたきっかけで祐巳は桂と二人で出かけることになった。
 お互いの用事も済んで、せっかくだからと適当にブラブラしていたら、2人の歩く先に見知った顔が。
「あれ、笙子ちゃん?」
「あ、紅薔薇さまに……えーと、桂さま」
 ごきげんよう、とお互い挨拶を交わす。笙子ちゃんは写真の現像待ちついでにお店の近くを散策していたみたいで……って、あれ? 写真部って自分で現像までやっていなかったっけ?
「今日はモデル時代の知り合いに色々教えて貰っていたんです。だから早く現像しないといけなくて」
 なんでも先日久しぶりに会った人に写真部に入った話をしたら、だったらということであれよあれよと話が進んだらしい。
「そっか。じゃあ頑張ってね」
 そういうことなら、あまり引き留めるわけにもいかない。早々に立ち去ろうとした祐巳達だったが。
「笙子ちゃんおまたせー。あら、そちらの方々は?」
「学校の先輩です、準さん」
 タイミング良く笙子ちゃんの知り合いらしいロングヘアの美少女が出てきたのでひとまずその場に留まった。準さんは高校生ながら現役のモデルということだけあってとっても可愛らしい。
 お互い軽く自己紹介をして、今度こそ立ち去ろうとした祐巳達だったが。
「あ、そうだ。せっかくだから2人も来ない? 学校での笙子ちゃんの話も聞きたいし。もちろん無理にとは言わないけれど」
「いっいいいいいんですか?」
「ちょ、桂さん落ち着いて」
 祐巳は知らなかったが、準さんはかなりの人気モデルらしい。憧れの人に偶然会ってしまったせいか桂さんは興奮している。
 そんなわけで笙子ちゃんと準さんを加えた4人で近くのレンタルスタジオに向かうことになった。のはいいのだけれど。
(うーん、なんだかなぁ)
 桂さんは憧れの人に会えた興奮で準さんしか見えてないし、笙子ちゃんも久しぶりに会ったらしい準さんとばかり話しているし。当の準さんは多少仕方ないなーって視線送ってくれたからまあいいのだけれど。
 と、そんな時。
「あわわっ」
「あ、祐巳さんっ」
「うわっと」
 前の方から柄の悪い人達に追いかけられて走ってきたのは、謎の美少女に手を引かれた女の子の格好の涙目のアリス。いきなり腕を捕まれたものだからちょっとよろけた。
「ど、どうしたの? 何かあったの」
「そ、それが……」
 錯乱気味だったアリスの話を要約すると、すれ違いざまに柄の悪い人達にお尻を触られて思わず軽い悲鳴を上げてしまったら逆ギレされて襲われそうになったところを偶然通りかかった女の子に手を引かれて走って逃げてきた、らしい。
 ――って、それってひょっとして私達も危ないんじゃ。
「あの、その方のお知り合いですか」
「え? あ、うん、そうだけど」
「よかった。お願いしていいですか」
「うん。……え?」
 アリスを助けてくれた女の子はそう言って私にアリスを預けると、多分不良な人達と口論している準さんの所へ。
「巻き込んでしまってすみません」
「気にしないの、困ったときはお互い様よ」
 入れ替わりで、桂さんと笙子ちゃんがこっちに来る。
「あの、準さんが合図したらダッシュ、だそうです」
「笙子ちゃんについていって先にスタジオ行って、って」
「わかった。アリス、走れる?」
「うん、何とか……」
 念のため、息の上がっているアリスの手を掴みながら準さん達の様子をうかがう。準さんはどうにか宥め諭そうとしているみたいだけれど、不良達は聞く耳持たないというか、上玉だの何だのあまり聞きたくない卑しい言葉を並べているみたいで。
「まあ何考えているか大体予想ついているんだけど、ボ――」
「何、してるの?」
「げ」
 一緒にいる美少女さんがため息混じりに苦笑しながら何かを言おうとしたところで、通りがかった女の人が割って入ってきた。見かねたのかなと最初は思ったのだけれど、やりとりを聞くにどうやら前にも不良達と何かあったらしい。明らかに迫力負けしていた不良達は、捨てゼリフを吐いてどこかに行ってしまった。

「ありがとうございます、助かりました」
「気にしないで、私がああいう手合い嫌いなだけだから」
 準さんのお礼に女の人はさっきの怖い声とは違ってハスキーがかった優しい声でそう言った。なんでも付き合っていたサッカー選手の足を試合前に傷つけられた事があったらしくて、運動部の桂さんなんて話を聞いたときは自分の事のように怒りを感じていたみたい。由乃さんがこの場にいたら逆に不良達を追いかけていたかも。
 それはともかく。
「あの、もし良かったらご一緒しませんか? お礼になるか分かりませんけれど、撮影の合間に外に出ていたので今なら見学できますよ。あ、私モデルをやっている渡良瀬準です」
「私はユキ。ただのユキよ。お誘いは嬉しいけど、私も用事があるから。ゴメンね」
「ひょっとして撮影か何かですか?」
「うん、まあね」
 笙子ちゃんがそう訊ねたのはユキさんがカメラケースを持っていたから。時間があれば色々聞けたかもしれないけれど、それなら仕方ないよね。
「そうですか。そっちの2人はどうする? えーと、まだ名前聞いていなかったかしら」
 準さんはアリスと一緒にいた美少女さんにも声をかけた。いいのかなって思ったけれど、アリスが私の知り合いだからかな。
「あ、有栖川です」
「藍川絆です。でもいいんですか? こう見えても男なんですけれど」
「えっ!?」
 全員、一瞬固まった。というか男の子? こんなに可愛いのに……ってよく考えたら。
「あの、私も一応男、です」
 アリスもそうだったよね。
「うーん、ま、可愛いし大丈夫でしょ」
 一足先にフリーズが解けた準さんはあっさりそういった。っていうか、いいんだ!?
「悪い子じゃなさそうだものね」
 同じく一足先にフリーズが解けたユキさんも同調してるし。まあアリスの性格なら大丈夫だろうし、藍川さんもアリスを助けてくれたくらいだからいい人だよね、多分。
 ちなみに桂さんは準さんがOKならいいみたい。いいのか、それで。

 途中の写真屋さんで笙子ちゃんが現像された写真とフィルムを受け取って、ユキさんとはそこで別れた。
 笙子ちゃんは少しだけユキさんと話をしていたけれど、ユキさんはあまり他人を撮ったことがないらしくて。為になる話になったかどうかは笙子ちゃんのみぞ知る、だ。あ、ユキさんもか。
「でね、その時の槙君の反応と言ったら……」
「へー、でもなんかいいな、そういう人」
「でしょ? ついからかいたくなっちゃうと言うか」
 で、祐巳はアリスと藍川さんと一緒に歩いていた。3人とも高校生という事もあって話は自然と学校の話に。普段は男子の話題なんてほとんど出ないからなんだか新鮮。
「そうそう、テツとショーネンったら1年生の時ね……」
「あはは、わかるー。そうなった時のこと考えないで食いついちゃうんだよね、男子って」
 そして話してみて分かったんだけれど、藍川さんってかなり小悪魔。祐麒だと槙君って人みたいにいじられそうだなあとかリリアンだと誰に似ているかなーとか考えてながら話しているとすぐにスタジオにたどり着いてしまった。うーん、イタリアに行ったけど静さまとか?
「あら、麻衣子ちゃんに安那ちゃん。2人はこれから?」
「はい、準さん……そちらの方々は?」
「笙子ちゃんの先輩とそのお友達。さっき偶然会って」
 外に出ている間にやってきたらしいモデルさん達と挨拶をする準さん。そして興奮する同級生が1名。
「あ、あの、後でサイン貰ってもいいですか」
「ちょ、桂さん、向こうはこれから仕事……」
「合間に時間が有れば」
 2人も相当な人気モデルらしくて桂さんは興奮している。あ、でも祐巳も麻衣子さんの名前は聞いたことあるかも。

 準さんのご厚意で撮影の見学をさせて貰ったり、合間のセッティングの間に笙子ちゃんへのカメラ講義があったり、祐巳達も笙子ちゃんの被写体になってみたり。程なく撮影を終えた準さんも交えて雑談をしていると、こちらはセッティング待ちらしい安那さんが準さんの所へ。
「あの、ちょっと折り入って相談したいことがあるのですが」
「いいけど……ここじゃまずそう?」
「出来れば」
「そう、ちょっと席外すね」
 安奈さん、随分深刻そうな顔していたけれどどうしたのかなと思っていると、程なく準さんは戻ってきた。でも相談が終わった訳ではなさそうで。
「絆ちゃんにアリスちゃん、ちょっと来てもらってもいい?」
 何故か藍川さんとアリスを連れて再び何処かへ。でもどうしてあの2人なんだろう? 共通点は……男子絡みなのかな。
 図らずともリリアンの3人が残ったので、話題も自然とリリアンのことに。笙子ちゃんとは普段あまり話す機会がない事もあってこれまた新鮮な感じ。今日の写真の話とか、蔦子さんの話とか。桂さんに運動部的に撮って欲しいタイミングとか聞いていたあたり、なかなか勉強家だったりもするのかもしれない。この辺りはお姉さんに似たのかな?
 準さん達が戻ってきたのは安那さん達の撮影再開のタイミングで、安那さんは絆ちゃんとアリスにお礼を言いながら麻衣子さんと一緒に全員分のサインを書いてくれた。何の話をしたのかは聞かない方がいいんだろうな、わざわざ席を外したくらいだし。

「じゃ、私はこっちだから」
「それじゃまたー」
 瑞穂坂の準さん、また別方向の藍川さんと別れて帰りの電車に乗り込んだ。
 今日は色々あったなあ。笙子ちゃん繋がりで色んな人に出会えたり(ついでに興奮する桂さんを観察したり)、アリスに会ったり藍川さんと知り合ったり、ユキさんに助けて貰ったり。あ、考えてみたらユキさんからは名前しか聞いてないや。
「凄かったよね、今日。星占いとか1位だったのかな」
「あはは、どうだろうね」
 桂さんはまだ興奮気味で話している。あれ、でも桂さんの星座って何だっけ?
「でも祐巳さんってほんと人の縁を持っているよね」
「へ、私?」
「そうですね、蔦子さまと再会できたのも紅薔薇さまのおかげでしたし」
「祥子さまとの出会いも運命的だったし」
 アリスったら何を言い出すんだろうと思ったけど、笙子ちゃんに桂さんまで言われるとそんな気がしなくもない。どうなのかな、実際。
「お姉ちゃん達羨ましがるかなー」
 ティーン向けの女性誌モデルのサインだから年齢的に微妙かもとか言っているけれど、アリスはお礼に貰ったサインだから自慢してもいいと思う。
「写真部でストスナ企画してもいいかもですね」
 笙子ちゃん、久しぶりにこっちに出てきたからかもだけど、リリアンだとみんな制服だよ? 鞄やヘアスタイルには個性出ていそうだけれど。
 うん、でもまあ、今日は楽しかった。



<おまけ>

(んーっ、それにしても今日は色んな人に会ったわねぇ)
 瑞穂坂に帰る電車で、準は今日会った人達のことを思い返していた。
 笙子ちゃんの先輩にあたるリリアンのお嬢様達(しかも片方は学園のアイドルみたいな人)とそのお友達の花寺の可愛い男の子。私立緑乃丘の美少女少年。それに、ユキさん。
(でもあの子達は気付いていないんだろうなぁ)
 どこからどう見ても完璧な美少女の準も実は男だと言うことに。それと。
(多分、あの人も……)
 不良達から助けてくれたユキさんも、実は男の人な気がする。絆ちゃんの衝撃発言の時の反応がなんかそれっぽかったし。
(雄真が居たら何て言ったかなぁ。あ、絆ちゃんと一緒にハチを騙しても面白いかも)
 準がそんなことを考えて、ハチが思わずくしゃみしたかどうかは定かではない。




※登場作品
マリア様がみてる
お釈迦様も見てる
はぴねす!
プラナス・ガール
ゆびさきミルクティー
放浪息子

kyouko > なぜ「おとぼく」の瑞穂がいないの? (No.18438 2010-03-01 08:40:31)
砂森 月 > kyoukoさま>おとぼくは手元に原作資料が少ないので書く自信がないのです (No.18443 2010-03-02 01:58:22)

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モラトリアム姉妹  No.3138  [メール]  [HomePage]
   作者:杏鴉  投稿日:2010-02-28 18:36:02  (萌:5  笑:12  感:17
つづいています。
【No:2557】【No:2605】【No:2616】【No:2818】【No:2947】【No:2966】【No:3130】→これ。



「――ゆみ」
「はい。どうかされましたか? お姉さま」

誰もがつい微笑んでしまうような愛らしい声と仕草で「あのね」と見上げてくる祥子さまに、祐巳は慈しみを込めた瞳を返す。

祐巳が小笠原家に滞在するようになってから二週間以上が過ぎ――、

祥子さまの心は、今では身体年齢と同程度まで若返っていた。
祐巳が何度も夢に見た、あの幼い祥子さまが現実となってしまった。

このことは清子小母さまを始めとした小笠原家の人々にもすでに知られている。
止まっていると思われていた祥子さまの若返りが、違うかたちで進行していたと知れた時の周囲の動揺ぶりは見るに忍びなかった。
しかし意外なことに清子小母さまだけは落ち着いているように見えた。
清子小母さまは祥子さまから話を聞いたり、医師に現状を伝えたりと実に冷静だった。

けれど祐巳と二人きりになった時、清子小母さまは「どうかあの子を支えてあげて」と祐巳の手を握りしめて泣き崩れた。

大人たちの動揺が祥子さまの心をどれだけ不安にさせるか、小母さまは理解していたのだ。
だからこそ叫び出したいような気持ちを押し殺し、いつもと変わらぬ小母さまでいつづけた。祥子さまを愛しているからこそ。

小母さまの手を握り返した祐巳も、一緒になって泣いた。
「祥子さんには内緒よ」と泣きながら微笑む清子小母さまを見ていると、祐巳はなんだかお母さんに会いたくなってしまった。

「あらあら大変。祐巳ちゃんの目、ウサギさんみたいだわ」

祐巳の涙をそっと拭ってくれる清子小母さまの手は、祥子さまと同じくらいやさしかった。
されるがままになっている祐巳の頭の中に、おかんむりの祥子さまが浮かぶ。

『ごめんなさいお姉さま。これも二人だけの秘密なので話せないんです』





「――ゆみ。ゆみったら、きいているの?」
「あっ……えっと……」

数日前に思いを馳せていた祐巳は、ずいぶん長い間ぼんやりしていたようだ。
見ると、祥子さまがほっぺたをぷくっと膨らましている。

「す、すみませんお姉さま……」
「まったく。どうしてあなたは、そうぼんやりしているのかしら」

おろおろする祐巳に「もういいわ」と祥子さまはそっぽを向いてしまった。
お風呂上りの祥子さまの髪を乾かして、いつものように抱っこでベッドの上に移動したところまでは良かったのに。

二人で過ごす大切な時間なのに、自分の不注意で祥子さまのご機嫌を損ねてしまったと祐巳は落ち込んでいる。

しょんぼりしている祐巳をチラリと見た祥子さまは「もういいっていっているでしょう」となんだか拗ねたような表情で言った。
この頃、祥子さまは今みたいな表情をよくするようになった。
それはうまく自分の気持ちを伝えられないもどかしさを抱えた幼子そのものの顔で……。

もともと祥子さまはご自分の気持ちを口にするのが苦手な方だ。子供に還ったことで、その傾向はより強くなっていた。
伝えたいことがあっても、どう言えばいいのか分からなくなってしまっているらしい今の祥子さまは、自分自身を持て余しているように見える。

緩く結ばれた小さな手を、祐巳は自分の掌で包んだ。祥子さまはまだちょっぴり拗ねた顔をしていたけれど、祐巳の手をキュッと握り返してくれた。

「もうお休みになりますか?」
「イヤよ。もうすこしおきているわ。だって、ゆみはあしたおやすみなのでしょう?」
「確かに明日は日曜日ですけど……、あまり夜更かしすると朝起きるのが辛いですよ」

正論を言う祐巳を、祥子さまが睨みつけてきた。怖い顔で自分の主張を通す作戦らしい。
けれど祐巳にしてみればそんな祥子さまの仕草は可愛いだけだった。睨まれているというのに頬が緩んでいる。

「なにニヤニヤしてるの!」
「わわ、すみません」

結局、祐巳は祥子さまに付き合ってちょっとだけ夜更かしをすることになった。祥子さまのお願いを祐巳が断るなんてそうはないので、これは順当な結果だ。
だったら最初から素直にお願いを聞いてあげればいいのにとも思うが、祐巳は朝起きるのが苦手な祥子さまを心配してああ言ったのだ。
けして祥子さまの可愛らしい怒り顔を見たかったからではない。……と信じたい。

「えっと、じゃあ起きている間、何をしましょうか?」
「いっしょに、ほんをよみましょう」

パッと笑顔になった祥子さまが、ベッドサイドの本に手を伸ばした。
祥子さまが両手で「はい」と祐巳に差し出したのは絵本だった。
一瞬、祐巳の胸に哀しみの風が吹いた。

ここ数日、祥子さまの若返りは止まっている。身体的にも、精神的にも。
つまり、身体は祐巳が小笠原家に来た日のままで。
身体の年齢を追いかけるように若返っていった心は、見た目と釣り合いがとれるようになったところで若返るのをやめた。

――あるいはそう思わされているだけかもしれない。

抱えきれないほどの不安と心配が、関係者全員の胸中で渦を巻いていた。
ただ、その二つ以外の感情を胸に秘めている人間が関係者の中でひとりだけいた。
――祐巳だ。
それは誰にも知られてはいけない感情……。
祥子さまや清子小母さまはもちろん、祐巳自身にも、けして気付かれてはいけない想いだった。





祥子さまが清子小母さまと検査に出かけている間に、祐巳は実家に戻っていた。
といってもそれは一時的な帰宅で、着替えの交換と両親への挨拶が目的だった。

これまでにも祐巳は何度か一時帰宅をしている。その度に、そろそろ帰ってくるようお父さんからは言われていた。
それでも祐巳が小笠原家に居つづけられているのは、お母さんと祐麒のおかげだった。

祐巳を行かせまいとするお父さんを、お母さんたちは毎回、一生懸命説得してくれた。
祐麒なんて、
「祐巳はちゃんと毎日学校に通って、一日一回は家に連絡をするっていう父さんとの約束を守ってる。それなのに連れ戻すのはフェアじゃない」
そう言ってお父さんに立ち向かってくれたくらいだ。

祐巳だって、お父さんが意地悪をしているだなんて思ってやしない。自分のことを心配してくれているんだって、ちゃんと分かっている。
それでも祐巳には譲れないものがあった。
だからお父さんには、まだ戻るわけにはいかないとはっきり告げていた。

お互いの気持ちは分かっているからケンカなんかにはならないけれど。
それでも祐巳が家を出る時はいつもちょっと気まずい雰囲気になってしまっていた。

今日もたぶんそうなるんだろうなぁ、と祐巳は覚悟していたのだが――、

これまで散々、家に戻るよう働きかけてきたお父さんが、どういうわけか今日は何も言ってこない。
慣れない環境で体調を悪くしていないか、ご飯はちゃんと食べているか、なんて祐巳を気遣うようなことは言われた。
でも祐巳が小笠原家に滞在していることについては、結局一言もふれなかった。

着替えの入った旅行鞄を手に、玄関を出たところで立ち止まった祐巳は振り返って首を傾げる。

さっきも「いってくるね」と声をかけた祐巳に、お父さんは黙ってうなずきを返しただけだった。
怒っている、というのとは違う。言いたいことを我慢している、という感じでもない。
言いたいことはあるけれど、言わないって決めたから黙っている。……そんなふうに祐巳には感じられた。

まだ首を傾げている祐巳の目の前で、玄関の扉が急に開いた。
自分に向かって勢いよく迫ってくる扉を、祐巳はぎりぎりのところでかわす。慌てて飛び退いたせいで、なんだか一度も闘ったことがない拳法家みたいな変なポーズになっている。
扉を開けた方もまさか祐巳がそんなところで立ち止まっているとは思っていなかったようで、祐巳とよく似た驚き顔で固まっていた。

「……なんて格好してんだよ祐巳」
「そっちが急に開けるからでしょう」
「いつまでもそんなところでボーっと立ってるなんて思わないだろう?」

呆れたようにため息をついた祐麒は、祐巳の持っていた旅行鞄をひょいっと取り上げ歩きだした。

「ちょっと祐麒」
「途中まで持ってってやるよ」

そのまますたすた歩いていくから、祐巳は置いていかれないように小走りで祐麒を追いかけた。
追いついた祐巳には視線を向けず、祐麒は少し前の地面を見ながら口を開く。

「今日さ、父さん祐巳を引き止めなかっただろ?」
「うん」
「……この間、祥子さんのお母さんがうちに来たんだ」
「小母さまが? いつ?」
「先週。オレは学校行ってたから、直接会ってはいないけど」

清子小母さまがどんな話をお父さんとお母さんにしたのか、祐麒も詳しくは教えてもらっていないそうだ。
ただ、その日からお父さんは何か考え込んでいるようだったと祐麒は教えてくれた。

――清子小母さまが祐巳の両親に会いに。

それはたぶん、祥子さまの若返りが心にまで及んでいたと分かった後の話だろう。
きっと清子小母さまは祐巳が祥子さまの傍に居つづけられるよう、頭を下げに福沢家を訪れたのだ。祐巳にも内緒で。

ひょっとすると祥子さまの状態を祐巳の両親に話したのかもしれない。もちろん若返りのことは伏せているだろうが、より危険な状態になってしまったことだけは打ち明けたのかもしれない。

「なぁ、祐巳」
「なに?」
「もしもオレで役に立てることがあったら、いつでも言ってくれよ」

だって詳しい話を聞かされていないはずの祐麒までもが、こんなに心を痛めているのだから。
祐麒は「オレじゃ荷物持ちくらいしかできないけどな」と自嘲気味に笑うけれど、旅行鞄を軽々と運ぶ弟の姿は祐巳にはとても頼もしく見えた。

「でも、ちょっと安心したよ」
「なにが?」
「祐巳が意外と元気そうだったからさ」
「……え?」
「正直、もっとまいってるんじゃないかって心配してたんだ」

その時、M駅行きのバスが祐巳たちを追い越していった。バス停はもう目の前だ。
今日は日曜日だからバスの本数が少ない。これを逃すとしばらく待たされることになる。

「やばい! 走れ祐巳!」

そう言いながら祐麒は駆けだした。
だから気付かなかっただろう。祐巳の表情が強張っていたことになんて。





祐巳はひとり、広い小笠原家の中を歩いていた。
祥子さまは部屋でお昼寝中だ。
さっきまで祐巳にピアノを弾いてくれたり、祐巳の膝に座っておしゃべりしたりしていたのだけれど、ちょっと疲れてしまったらしい。
うとうとしだした祥子さまは眠るのを嫌がっていたけれど、すぐに祐巳にもたれて可愛らしい寝息をたて始めた。

――で。
祥子さま専用安楽椅子になっていた祐巳がどうしてひとりでウロウロしているのかというと……、
いかに祥子さま大好きな祐巳といえども、自然の法則には逆らえなかったのだ。
……ようするにお手洗いに行っていただけ。

用が済んだ祐巳は脇目も振らず、まっすぐ祥子さまの眠る部屋へ向かっている。
早く戻って祥子さまの隣に添い寝しちゃおう、とか考えている顔だ、あれは。

「あら、祐巳ちゃん」
「あ。小母さま」
「ちょうどよかったわ。今ね、二人をお茶に誘いに行こうと思っていたところなの」

清子小母さまは「祥子さんは一緒じゃないの?」と不思議そうに小首を傾げている。

「祥子さまは今、お昼寝中なんです」
「そうだったの。あぁ、そうよね。そうじゃなきゃ祐巳ちゃん、ひとりきりになれないものね」

ちょっと答えに困ってしまった祐巳は曖昧に笑った。
祥子さまと祐巳は、小笠原家にいる時は常に一緒にいる。
祐巳は祥子さまの妹だから、小笠原家を訪問している祐巳の相手を祥子さまがするのはごくあたりまえのことだ。
けれどそんな理由付けも難しくなるくらい、最近の祥子さまは祐巳にべったりだった。

「あの子、我がままを言って祐巳ちゃんを困らせてないかしら」
「そんなことないです! お姉さまはとっても優しいです!」

力いっぱい言う祐巳に、清子小母さまは「祐巳ちゃんはいい子ね」と微笑んだ。
でもすぐにその微笑みはしぼんでいく。

「せっかくお茶の準備をしたのに、祥子さん寝ちゃってるのよねぇ。残念だわ……」

つい慰めずにはおれなくなってしまうような、しょんぼりした声を出す清子小母さま。
さすがは祥子さまの母親だ。ベクトルは違えど強力なのは変わらない。
後で祥子さまと伺いますから、と祐巳が口にする前に、清子小母さまはパッと表情を明るくした。

「そうだわ。じゃあ、私と祐巳ちゃんとでお茶にしましょう」
「へ? でも……」
「祥子さんが起きてきたら、改めて三人でのお茶会をすればいいじゃない」

清子小母さまのお願いならば、普段の祐巳であれば何も考えずにうなずいてしまうところだが……。
祐巳はちょっと迷っていた。祥子さまをひとりにしておくのが心配だったのだ。

でも、清子小母さまに悲しそうな顔で「ダメ?」とか言われちゃうと、断ろうと考えること自体が悪い事のように思えてくる。

祥子さまはついさっき眠ったところだから、たぶんしばらくは起きないだろう。
部屋を出る前に、ちゃんとベッドに寝かしつけてきたから風邪をひくこともない。

――小母さまにとっても祐巳にとっても、これはいい機会かもしれなかった。
最近の祥子さまは祐巳と離れるのを極端に嫌がる。だから小母さまと祐巳の二人きりで話すのは、とても難しいことだった。
少しの間だけなら大丈夫だろう。そう考えた祐巳は清子小母さまとお茶を飲むことにした。





「今日、福沢の家に行ってきました」

祐巳がそう切り出すと、清子小母さまは「祐巳ちゃんには不自由をかけて申し訳ないわね」と心苦しそうな表情になった。
祐巳は慌てて首を横に振る。勢いよく振ったものだから危うく紅茶を零すところだった。

「違うんです! 私のことなんてどうでもいいんです。ただ、清子小母さまが先週うちにいらしたって聞いたから……」

清子小母さまは、たぶんまた祐巳の両親に頭を下げたのだろう。
穏やかに祐巳の言葉を聞いている、このおっとりした女性の強さが逆に祐巳は心配でならなかった。
意志が強固であればあるほど、折れてしまった時のダメージは凄まじい。
祥子さまへの愛情からくる小母さまの強さを疑うわけではないけれど、それでも祐巳には気がかりなことがあった。

祐巳は知っていたのだ。
普段どおりに振舞う清子小母さまが一部の人から非難されているのを……。

『どうしてそんなに笑っていられるのだ』
『自分の娘が心配ではないのか』

――なんて的外れな言葉だろう。
我が子を心配しない母親なんていないのに。
涙を見せないからといって、その人が泣いていないことにはならないのに。

大声で泣き叫ぶことが祥子さまの為になるなら、なんのためらいもなく小母さまはそうするだろう。
けれど実際にそんなことをすれば、祥子さまを悲しませ、苦しめるだけだ。それが分かっているから小母さまは微笑んでいるのだ。必死の思いで。

祐巳の視界が滲んでいく。
隣に席を移した清子小母さまが、祐巳をふわりと抱きしめてくれた。そのまま幼子を宥めるように背中をポンポンしてくれる。

「祐巳ちゃんが何を気に病んでいるのか分からないけれど、私は私にできることをしているだけよ。だって、私は祥子の母親だから」

この人の支えになりたい。祐巳はそう思った。
清子小母さまは、世界で一番大好きな人の大切な人。だから傍で支えよう。せめて自分だけは、この人の笑顔を曇らせないようにしよう。

今、思ったことは祐巳の本心だ。それは間違いない。
けれど自らの本心に胸をえぐられていることにも、祐巳はそろそろ気付き始めていた……。





bqex > 毎回毎回ドキドキするう…。どうなっちゃうんだろう? (No.18436 2010-02-28 20:57:07)
杏鴉 > いつもコメントありがとうございますbqexさま。あと2話で終了(予定)です。もう少々お付き合いくださいませ。 (No.18437 2010-02-28 22:44:10)
れい > 祥子さまかわいいですね☆切ないけど・・・本当、どうなるんだろう。続きが楽しみです! (No.18439 2010-03-01 20:29:05)
monkeyヤス > サスペンス劇場よりドキドキします (No.18440 2010-03-01 21:49:57)
杏鴉 > れいさま、コメントありがとうございます。祥子さまが登場する場面は、基本的にニヤニヤしながら書いています。>monkeyヤスさまもコメントありがとうございます。残念ながら崖のシーンは予定されていませんが(笑)次の話で、とある登場人物の心臓がかなりの勢いでドキドキする予定となっております。 (No.18441 2010-03-01 22:42:24)

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ロザリオ由乃捕物帖にゃんこの手  No.3137  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2010-02-24 23:41:42  (萌:3  笑:31  感:2
 薔薇の館。
 由乃は学園祭の脚本をチェックしていた。
 まだ一学期だが、今日は薔薇さま三人で今年の学園祭で使う脚本を決める予定になっていたのだ。部活や委員会をやっているメンバーが多いので早めに進めようと、そう決まった。幸い、花寺学院の生徒会の顔触れは祐巳さんが祐麒さんに聞いてきたので大体把握でき、かなり細部まで進められた。
 由乃は好きな時代小説でいきたいと考え、そのために脚本を書き下ろした。しかし、どうしても納得いく出来にはならない。
 その時、扉がノックされ、「失礼します」と言って入ってきたのは漫画研究部の水奏さんだった。

「提出の書類、今日までだったわよね」

「あら、教室で渡してくれても良かったのに」

 そういう二人はクラスメイトだった。
 水奏さんはふふ、と笑う。掃除の後慌てて書いていたのだろう。

「あら、それは?」

 水奏さんが由乃の手にしていたノートを見つける。

「これ? 学園祭で使う舞台劇の脚本の候補の一つよ」

「見せてもらうわけには……いかないわよね」

 ダメ元、というように水奏さんは言った後、自分で否定した。

「……水奏さんって、漫画描いたりするくらいだから、ストーリーとか作るの得意よね?」

「得意というか、慣れてるというか」

「じゃあさ、ちょっとチェックしてくれない?」

「え!? いいの?」

「うん。実はちょっと物足りない感じがしてて。いろいろな意見を聞こうと思ってて」

 どれ、と水奏さんはノートを受け取り、一通り読んだ。

「うーん、あくまで個人的な意見だけど、『にゃんこの手』っていうのがご禁制の薬で、老中水野を陥れようとする南町奉行鳥居の仕業ってわかるまでが少しはしょりすぎかしら。ミスリードと思わせて実はオチへの伏線っていうのは素晴らしいから、そこをうまく処理すれば面白くなると思う」

 水奏さんは問題のページを開いて指摘する。

「あ〜、やっぱりそこか。その辺が実は長くなりすぎて切ったのよ。じゃあ、いくつかやり取りを復活させて、時間内に収まるように頑張ってみるわ。ありがとう。ごめんなさいね。忙しいのにつき合わせてしまって」

「いいのよ。私も面白かったし。じゃあ」

 水奏さんはそう言うとクラブハウスに戻っていった。
 由乃は早速昨日カットした台詞や描写をいくつか書き足す。

「あ、いたいた」

 そう言って入ってきたのは祐巳さんだった。

「何?」

「さっき、ちさとさんが呼びに来てたわよ。何か打ち合わせがあるんじゃないの?」

「あ、いけない」

 由乃は扉を開けて武道館に向かった。

 ◆◇◆

 由乃さんが扉を開けて出て行った。残された祐巳はお茶を入れて席に着く。
 机の上には由乃の書いてきた脚本が書かれたノートがあった。

「なになに『ロザリオ由乃捕物帳 にゃんこの手』……由乃さん、自分で主演する気なの?」

 三年生は忙しいので出演は控えるという暗黙の了解があったはずなのに、と思いながら祐巳はページをめくった。
 内容は、由乃親分が子分の菜々と一緒に南町奉行鳥居の悪行を暴くという捕物帳にありがちなストーリーだった。

「水野、鳥居って……歴史上の人物まで出すんだ……あれ? 瞳子の出番これだけ?」

 祐巳は不満だった。
 瞳子は演劇部を背負い立つ女優で、本人は演劇部も山百合会の劇もメインをやる気でいるだろうし、忙しいからと気を使って端役なんかにしたらプライドが傷つくだろうと思った祐巳も山百合会の劇でも主役級をさせるつもりでいたのだった。

「うーん……そうだ。瞳子の出番増やしちゃおうっと。なんか、書きたしてあるから、筆跡をまねれば気付かれないよね。これなら私の脚本が採用されなくても、大丈夫でしょう」

 祐巳は瞳子の役を貧乏御家人の三男坊のふりをする正体は将軍というどこかで聞いたようなキャラクターに勝手に書き換えた。
 作業が終わった直後にぽん、と祐巳の肩を叩くものがいた。

「うわあっ!」

 不意に声をかけられ祐巳は思わず声をあげた。

「な、何!?」

 声をかけた相手、蔦子さんはびっくりして扉の所から覗いていた。

「『何?』はこっちの台詞よ。祐巳さんってば、さっきから声をかけても全然反応しないし」

「ご、ごめんなさい。集中してたもので」

「まったくもう。それより、頼まれてた山百合会の写真の打ち合わせで部室の方に来てもらう必要があるのだけど、いいかしら?」

「ああ、今行くわ」

 祐巳は蔦子とともにクラブハウスに向かった。

 ◆◇◆

 志摩子が薔薇の館に到着すると、誰もいなかった。

「あら、みんなどうしたのかしら?」

 テーブルには飲みかけの紅茶の入ったカップが置いてあった。
 一度ここに来たが、何らかの用で外しているという事だろう。
 志摩子は自分のお茶を入れようとして、誰かが階段を上がってくるのを聞いた。
 扉を開いたのは演劇部の典さんだった。

「今日提出の書類を持ってきたの。あと、ちょっと相談があって」

「どうぞ」

 志摩子は典さんにもお茶を出して席に着いた。

「ありがとう。実は来週の全国大会の予選のためにセットを組んで稽古していたら一部不具合があって。作り直そうかとも思ったのだけど、もしかしたら昔山百合会が使ったセットが残ってないかとも思って」

「どんなセットかしら?」

「西洋風の宮殿のセットよ。おととしの学園祭で使ってたから。でも、処分してしまったわよね?」

「いえ、今年の劇の内容によっては使いまわそうかとも思っていたから、捨ててはいないはずよ。ただ、どこにしまったかしら……ちょっと待っててくださる?」

「手伝いましょうか?」

「いいえ。見てくるだけだから大丈夫よ。取り出す時は人手が必要かもしれないけれど」

 そう言って志摩子は階下の部屋に入っていった。
 典さんは始めは大人しく待っていたが、思ったより時間がかかっているらしく、暇を持て余しだした。
 そして、由乃の脚本の書かれたノートを見つけた。

「あら、これって……まあ、山百合会の劇の脚本かしら」

 他のものだったらそっと閉じたであろう。しかし、演劇人として脚本を見てしまうといけないとわかっていても手が勝手にページをめくる。

「何よ、これ。取ってつけたような瞳子ちゃんの出番。祐巳さんが、め組の頭? そして瞳子ちゃんと……いくら山百合会の劇がドタバタ学芸会レベルだからって、これは芸術的によくないわ。うん、嫉妬じゃないのよ、嫉妬じゃ。ここだけ浮いてるし……でも、ここを削ると瞳子ちゃんの後半の台詞が生きないから……そうだ、どうせ演劇部も協力するんだからここはこうして、こうして、こうやって……」

 典さんはこっそりといくつかの部分を手直しした。
 ギシギシと階段が鳴り、慌ててノートを閉じる。

「お待たせしてごめんなさい。セットはあったのだけど、希望に添えるものかどうか、ちょっと見てもらえるかしら?」

「ありがとう。今行くわ」

 志摩子は典さんの様子を疑うことなく下の部屋に案内しようと階段を下りた。
 一階でちょうど由乃さんと環さん、桂さんという珍しい組み合わせに出会った。

「さっき言ってた明日の授業の発表で変更があって。あの、今いいかな?」

 環さんは言う。

「あら、どうしようかしら?」

「どうしたの?」

 由乃さんが声をかけてくる。

「演劇部でおととしに使ったセットを借りたいって相談に来てて……由乃さん、お願いしていいかしら?」

「いいよ……どうぞ、典さん」

 由乃さんと典さんは一階の部屋に入っていった。

 ◆◇◆

 環と桂さんがテーブルに着くと志摩子さんがお茶を入れてくれた。
 クラスで決まったことを二人は説明してくれる。

「で、これが新しく用意したプリントよ。一応間違いがないかどうか確認してくれる?」

「ええ」

 志摩子さんはプリントをめくる。

「ええと……私はここの部分の担当になったのね」

「うん」

 三人は明日の授業について真剣に打ち合わせを続ける。
 階段を上ってくる音が聞こえた。

「ごきげんよう」

 現れたのは真美さんだった。

「あら、真美さん」

「志摩子さん。昼休みにお願いしてた件なんだけど……」

「いけない、失念していたわ。二人とも、ちょっと待ってていただける?」

「ええ」

 志摩子さんは真美さんとともにいなくなった。
 二人はなんとなく机の上にあったノートを広げた。

「何、これ?」

「『ロザリオ由乃捕物帳 にゃんこの手』? なんじゃこりゃ」

 二人はノートを読み始める。
 台本のような形式で書かれていた。

「これ、誰か書いてるのかな?」

「リレー小説かしら? いろんな人の筆跡がある」

「凄い内容ね。め組の頭の典さんと将軍の瞳子ちゃんのラブシーンって」

「水野、鳥居って先々代まで出るのね」

「それにしてもパンチが足りないわね」

「たしかに」

「いっそ、ここをこうしてこうしてこうしてやろうかしら?」

 環は適当に鉛筆でメモ書きする。

「あー、環さんずるい。自分だけ『仕事人』で出るなんて。どうせ小説なんだから、私だって山百合会のメンバーとご一緒したいわ」

「じゃあ、桂さんも仕事人仲間で……どうせなら、何人か知ってる人、出しちゃおうか」

「いいわね」

 二人とも、時期が時期なのでまさか山百合会の劇の脚本候補だとは思わずに適当な事を書きたす。
 その時扉が開いた。

「あら、珍しいわね」

 祐巳さんとちさとさんだったのだが、環と桂さんは慌てた。

「ええええと、志摩子さん、は?」

 挙動不審になりながら、桂さんは聞いた。

「さあ? 会わなかったけど?」

「あ、ああら、もうこんな時間。申し訳ないけれど、帰らなくては」

「そ、そうね! 志摩子さんには用事があるからお先に失礼するわって言っておいて」

 環と桂さんは逃げるように立ち去った。

 ◆◇◆

 二人きりになると、祐巳さんはカップを片付けて、お茶を入れてちさとに出してくれた。

「由乃さん、どこへ行ったのかしらね?」

「ここを出るときは心当たりがあるみたいだったんだけどね。途中で誰かに捕まってるのかもしれないけど、今日はここで三人で集まる予定だったから、待ってたら来るとは思う」

 祐巳さんはそう言った。
 そのとき、階下で何かが崩れるような音がした。

「え?」

「何だろう?」

 二人で階下の部屋に入ると派手に段ボール箱が崩れていた。

「あちゃ〜」

「手伝おうか?」

「いや、いいわ。私たちじゃないとわからないようなものばかりだし、もうすぐ誰か来ると思うから。ちさとさんは上で待っててくれる?」

 そう言われてちさとは上の会議室に戻った。
 机の上のノートがなんとなく目に入って、ちさとはそれを読み始める。

「誰よ? こんな小説書いちゃってる人は? ……げっ、いきなり典さんと瞳子ちゃんのラブシーン? 『ロザリオ由乃捕物帳 にゃんこの手』ってくらいだから時代劇よね? なんで二人がロミオとジュリエットなのかしら? ……ああっ! 令さまと由乃さんが夫婦になってる! 理解できるけど、納得は出来ないわ! ここをこうして……そうだ、折角だから令さまをもっと活躍させよう。蓉子さま、江利子さまは……出てるのね。じゃあ、ここは祥子さまと聖さまに登場してもらいましょう……」

 ちさとは更に書き加えた。
 ギシギシと階段を上ってくる音がしたので、ちさとはノートを閉じた。

「あれ、田沼部長?」

 顔を見せたのは菜々ちゃんだった。

「菜々ちゃんか。じゃあ、菜々ちゃんにお願いしておこうかしら」

 ちさとは部の連絡事項を菜々ちゃんに伝える。

「わかりました。必ず伝えておきます」

「じゃあね」

 立ち去ろうとして、ちさとは思い出した。

「あ、そういえば一階の部屋が大変なことになってて、祐巳さん一人で片づけてるみたいなんだけど」

「気づきませんでした。それは大変」

 菜々ちゃんはちさとを追いこして階段を駆け降りた。

 ◆◇◆

 真美は志摩子さんと一緒に再び薔薇の館を訪れた。

「ごめんなさいね。結局こちらに来てもらう事になって」

「ううん、こっちこそ、クラブハウスに呼び出したりして」

「あら、二人とも帰ったのかしら?」

 二階の会議室に入った時に志摩子さんが呟いた。
 そういえば、クラブハウスに来る前にお客さまがいたはずだった。

「誰もいないなんて、不用心ね」

「誰か、来たのーっ?」

 階下で声がした。祐巳さんの声だった。

「あら、どうしたのかしら? ちょっといいかしら」

 志摩子さんはそう言い残すと階段を下りて行った。
 真美は勝手知ったるなんとやらで席に着くと、何気なくノートを手に取った。

「『ロザリオ由乃捕物帳 にゃんこの手』……何かしら? あ、もしかして舞台劇の脚本かしら?」

 真美はこっそりとノートを読み始める。

「これは舞台劇の脚本じゃないみたいね。祥子さま、令さまの他に蓉子さま、江利子さま、聖さまもでてるし、関係ない人達もでてるし。……でも、どうしてこんなに出てるのに、どうしてお姉さまが出てないのかしら? 時代劇にかわら版売りが出るのは自然でしょうが。……これだけたくさんの人の字があるなら、ちょっとくらいいいわよね……」

 真美は辺りをうかがってからかわら版売りを登場させた。

「なんか、お姉さまの嫌なところが似てきちゃったかしら。あれ、ここ途中で切れてる。気になるからちゃんとつないで……ああ、ここもおかしい。ここをこうして……よし」

 階下が騒がしくなったので、真美は下に降りた。

 ◆◇◆

 瞳子が到着すると、真美さまが「ごきげんよう」と挨拶してクラブハウスに戻るところだった。
 由乃さまと典さまが運んできたセットは少しいたんでいたため修理が必要だったので時間がかかったが、なんとかなりそうだった。
 一階の部屋に全員が集合していた。

「どうしたんですか?」

「由乃さんがセットを運ぶ時にずらした段ボールが崩れちゃって」

「移動させた時は大丈夫だったのよ」

「それは、申し訳ありません」

 瞳子は原因が演劇部にあるのだからと頭を下げた。

「瞳子ちゃんが謝る事はないわよ」

 由乃さまが笑って言う。

「まあ、片付いたからいいじゃないですか」

 乃梨子の言葉で納まり、全員で上に向かった。
 瞳子は菜々ちゃんと一緒にお茶を入れて席に着く。

「誰よっ! こんな事したのはっ!!」

 突然由乃さまが叫んだ。

「ど、どうしたんですか?」

 びっくりして乃梨子が聞く。

「私が山百合会の劇にと思って用意してきた脚本に誰かいたずら書きした人がいるのよっ!」

 ドキッ! っと、お姉さまである祐巳さまが揺れた気がした。
 一体何をしたんですか。

「時代劇なのに、なんでロミオとジュリエットが出てるわけっ!」

(私はそこまで無茶してない……)

 小声で祐巳さまが呟いたのが瞳子には聞こえた。

「しかも、なんで卒業した祥子さまや令ちゃんが出てるのよ〜」

(それは踏みとどまった。さすがに……)

 瞳子はじろじろと祐巳さまを見ていては気付かれる、となるべく見ないようにした。

「なんで花寺のメンバーの役が蓉子さまと江利子さまになってるわけ!?」

(それ、やらせたら思いっきりオカマだよね)

 祐巳さまのつぶやきに気付いているのは瞳子だけらしい。

「この、蔦子さん、典さん、環さん、桂さんの仕事人って、何なのよ〜」

(桂さんなんか出すくらいなら可南子ちゃんを出すよ)

 瞳子には脚本の内容より、祐巳さまのつぶやきが気になる。

「ああっ! 令ちゃんと田沼ちさとが夫婦になってるしっ! オマケに、令ちゃんと江利子さまってば任侠映画の親分子分じゃない!!」

(活躍度で桂さんに負けてる人達ばっかり活躍させて、どうするの?)

 瞳子は吹き出しそうになるのをこらえた。

「かわら版売りなんて、いらないわよっ! しかも、なんで築山三奈子さまなわけ!?」

(まあ、真美さんじゃ地味だからね〜)

 容赦なしの祐巳さまのつぶやきに、瞳子は危険なレベルに達しそうだった。

「誰よ、こんな事したの〜! 典さんと瞳子ちゃんのラブシーンなんて──」

「なんですって!?」

 祐巳さまの声のトーンが今までとは全く違う低く、ドスのきいたものに変わった。
 ビクリ、と瞳子は反応する。

「誰! 誰がそんな事書いたの!? 私と瞳子のラブシーンはどこへ行ったのっ!」

「ちょ、ちょっと待った! 祐巳さんが犯人なのっ!?」

「私が書いたのは瞳子が暴れん坊将軍になって美味しいところを持ってくぐらいよっ! それより、そこ、書き直すからノート貸して!」

「ゆ、祐巳さん!? 何言ってるのよっ!」

 紅と黄の薔薇さまがモメだして、やれやれ、と瞳子はため息をついた。
 いろいろな役があり、いろいろなストーリーがある。問題はその脚本が面白いものかどうかというところではないか、瞳子は我を失った姉を止めるための援軍、白薔薇姉妹の方に視線を送った。

「……ラストはギンナン長者になった私と乃梨子の駆け落ちシーンにしましょうか」

「はい、お姉さま。今書きますね」

 そこには、欲望のままシナリオを描き直す志摩子さまと、嬉々として指示に従う乃梨子の姿があった。

 ダメだ、こいつらなんとかしないと──

「菜々ちゃん、竹刀借りていいかしら?」

 自分のお姉さまとその親友の喧嘩をどうしたものかと見守っていた菜々ちゃんは瞳子に大人しく竹刀を差し出した。
 その後の事は当事者が怒り心頭のあまり記憶にないが、脚本が決まらなかった事だけは報告しておく。

bqex > 始めは時代劇の話を書いていたのに、気付いたら、脚本をみんなで書く話に……おかしいな。 (No.18426 2010-02-24 23:43:07)
朝生行幸 > 桂さん『なんか』ってオイ(笑)。 (No.18428 2010-02-25 21:12:19)
愛読者v > わらrった〜 (No.18429 2010-02-26 00:02:26)
keteru > さあ、この台本を元にSSwo (No.18430 2010-02-27 13:08:32)
keteru > さあ、この台本を元にSSwo (No.18431 2010-02-27 13:09:17)
keteru > やばいなんか変な事してしまった。 削除パス設定の前に二重投稿してしまうとは・・・・。 (No.18432 2010-02-27 13:11:13)
bqex > 朝生行幸さんへ> 書きながら「祐巳になんてひどい事を言わせるのよ」と思いつつもそのままあげてしまいました(笑)ごめん、祐巳。桂「あんた、その前に謝れよッ!」 (No.18433 2010-02-27 20:02:42)
bqex > 愛読者vさんへ> そう言ってもらえることが励みになります。ありがとうございます。 (No.18434 2010-02-27 20:03:36)
bqex > keteruさんへ> 台本を元にSSを書いてくださるんですか? ありがたや〜(-人-) (No.18435 2010-02-27 20:05:24)
kyouko > 今気付いた。瞳子−>松平−>徳川−>将軍ですね。しかしやっぱり脚本は瞳子がノって書いたの物を見たい。「名探偵瞳子の事件簿」ってのもありましたし。瞳子ホームズに祐巳ワトソンとか。ところで瞳子の剣道の腕はどんななんだろう? (No.18444 2010-03-02 09:07:56)
bqex > 瞳子は剣道は弱そうだけど、殺陣ロールってぐらいだから、そこそここなすと思われます。螺旋剣とか使って。松平姓の話は【No:659】が参考になります。 (No.18445 2010-03-03 00:25:52)
砂森 月 > 螺旋剣。。まどろみの剣ですか(マテ (No.18452 2010-03-11 04:21:19)

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右に祥子、左に蓉子  No.3136  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2010-02-23 09:47:20  (萌:1  笑:4  感:2
もしも桂さんが勇者だったら

 最初から【No:3054】
->セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】【No:3085】【No:3098】【No:3104】【No:3114】【No:3116】【No:3118】(黄)【No:3119】(白)【No:3120】(紅)【No:3124】

【これまでのあらすじをいつものナレーターがお休みなので特別に水野蓉子さまにやってもらう】(ナレーター、いたんだ……)
 桂さん、蔦子さん、真美さん、ちさとさんは勇者としてリリアンを救うため山百合会と戦うが、敗北してしまったため、現在2年前の世界を逆行中。
 2年前のリリアンで最強の水野蓉子をSRCの用意した『禁断の書のコピー』を使い帰順させた。……って、お姉さまなのっ!? あれ、用意したのっ! お、横暴ですわ。お姉さまの意地悪っ!
 え? 『禁断の書』の内容は何かですって? もし、あなたがそのことに触れるのであれば【がちゃがちゃSS掲示板に相応しくない内容のためカット】するわよっ!!



 一年桃組の前の廊下で桂と蔦子は声をひそめて話しあっていた。
 現在授業と授業の合間である。

「……志摩子さんは現在白薔薇のつぼみだけど、祐巳さんはまだ祥子さまのロザリオを受け取っていないから、山百合会メンバーじゃない。つまり、勝っても負けても影響はないって事よ」

 蔦子が言いだす。

「でも、勝負を挑んでこっちに引き入れようだなんて……」

 気まずそうに桂が呟く。

「大丈夫。授業中、こっそり『エネミー識別』したら、祐巳さんはレベル5、一般的な一年生だったから大丈夫。志摩子さんはレベル60になってるけど、個別撃破を狙って『不意打ち』するのは負けた時にやった事と同じだから、志摩子さんはここでは狙わない」

「だからってさ、なんで友達を襲わなきゃいけないわけ? せめて説得しようよ」

 桂は抵抗した。

「説得? 厳しいかもしれない」

「どうして?」

「温室で日付を確認したでしょう? 学園祭は次の日曜。祐巳さんはこの時期山百合会の劇に出るため薔薇の館に入り浸りの日々。そんな人に『山百合会と戦って』なんて説得きくと思う?」

「そ、それは無理かも……」

「この後の展開を考えたら、この時期祐巳さんはかなり祥子さまに気持ちが傾いているはず。ここは悪いけど、力づくでいきましょう」

「でもさ、今日は何故か志摩子さんがぴったりくっついてて、誘い出す隙がないじゃない」

 ちらりと教室に目をやると、祐巳さんと志摩子さんが何か話していた。

「気付かれてるのかな……そうだとしたら、マズイ。昼休みに強引に二人で祐巳さんを連れ出して倒すか」

「うう、拉致の上暴行だなんて。どんどん悪い人になっていく」

 桂はどんよりとした。

「まあ、正義という大義名分の下行われるから、大丈夫」

「その大義名分すらなかったらやらないわよっ!」

 次の授業を担当する先生が歩いてきたので、桂たちは教室に戻った。
 授業終了、昼休み開始と同時に桂と蔦子はダッシュした。

「祐巳さんっ!!」

 二人はほぼ同時に祐巳さんに声をかける、というより叫んだ。

「ふえぇ、何事!?」

 祐巳さんは目を白黒させている。

「ちょっと私たちに付き合ってもらえない?」

「なに、ちょっとでいいの、ちょっとで」

「あ、あの……」

「いいから。すぐに済むわ」

 祐巳さんの手をとろうとした時に、脇から出てきた手が、早く祐巳さんを捕まえた。
 手の持ち主、志摩子さんは静かに微笑んだ。

「申し訳ないけれど、祐巳さんには薔薇の館に来てもらう事になっているの」

 桂と蔦子にとっては志摩子さんの微笑みが恐怖だった。
 全て知っていて、その上で邪魔をしているとしか思えないタイミングだった。

「いや、でも、ちょっと」

「何かしら? 授業中にこちらを『見ていた』事と関係あるのかしら?」

 蔦子のエネミー識別がばれていた!?
 これ以上抵抗すれば力づくの展開になり、真美、ちさとが駆け付けるのと前後して仲間が来るだろう。

「いや、いい」

 引き際を察して桂と蔦子は折れた。

(志摩子さん……恐ろしい子!)


 お弁当を食べながら桂と蔦子は話しあう。

「さて、他の心当たりだけど……」

「う〜ん、フェが勇者が別にいるみたいなことを言っていたじゃない?」

「ああ、『美冬さん』って言ってたね」

「うん。彼女が気になるんだよね」

「じゃあ、その人は私が探す。桂さんはお姉さまを仲間に引き入れたら?」

 蔦子が言う。

「う〜ん」

 桂は姉を巻き込みたくはなかった。
 しかし、この状況を打破するために仲間が必要な事も理解していた。

「じゃあ、私はその人探してくるから、桂さん、頑張ってね」

 蔦子は席を立つととっとと教室を出た。

「お姉さま……か」

 桂も席を立った。



 同じころ、ちさとは図書館にいた。

(瞳子ちゃんは『紅いカード』を持っていた。と、いうことは……)

 禁帯出本の江戸の物価なんかが書かれている本を手に取った。

(あの時、ここに令さまの『黄色いカード』があったんだよね)

 ドキドキしながらページをめくる。

「あ」

 そこには『黄色いカード』が本当に挟まっていた。
 ちさとは『黄色いカード』を手に入れた!

「どうかなさったの?」

「な、なんでもないです」

 後ろから声がして、ちさとは慌てて『黄色いカード』をポケットに隠しながら振り向いた。

「そう? その本は禁帯出本だから、ここで読んでね」

 図書委員の人だろうか、黒く長い髪の生徒だった。

「はい」

 どこかで見たことがある、と思ってじっと見つめる。

「あの、何か?」

 声を聞いて不意に思い出す。

「ロサ・カ……!」

「は?」

 ちさとは慌てて口を塞ぐ。
 「ロサ・カニーナ」は選挙の時についたニックネームで、この時期はそう呼ばれていなかったという事を思い出したのだ。
 そして、同時に頭の中にいろいろなことが、まるでアブナいサイトで気軽にボタン押しちゃった時にウィンドウがパカパカ開きまくるかのごとく、次々と出てきた。

「あの、蟹名静さま、ですよね?」

 ちさとは頭の中に開きまくったたくさんの『静さま情報ウィンド』を整理しながら話しかけた。

「よくご存じね」

「もちろん。リリアンの歌姫、合唱部の静さまは薔薇さまと同じくらいの有名人ですもの」

「そうかしら?」

 よくある反応なのだろう。静さまは表情を変えずに答える。

「あのっ、その静さまを見込んでお願いがあるのですが」

「あらあら、何かしら?」

「静さまは、勇者をご存じありませんか?」

「……ここでお喋りはやめましょう。こちらへ」

 そっと静さまは合図して、カウンターの裏の方に二人は移動した。

「あなた、勇者といったわね? 勇者って、リリアンを救うあの勇者で間違いない?」

 静さまは聞く。

「はい。私は『負けた世界』の勇者桂さんとともに行動しているんですが、今日の放課後に山百合会メンバーを倒して古い温室にいかないと元の世界に戻れなくなるんです」

「それはお気の毒ね。でも、私はこちらの世界の勇者さんにも答えたのだけど、山百合会に盾突く気はないわ」

 静さまは冷静に答える。

「では、質問を変えます。静さまは、『佐藤聖さま』をどう思われてるんですか?」

「え?」

 急に静さまの表情が固まる。

「私は知っています。静さまの秘められた思いを」

 実はかなり後になってから噂で聞いた話なので裏付けはなかったが、ちさとはなりふり構わず話を持っていった。
 これは賭けだった。

「私、支倉令さまが好きです。大好きです。そして、今日の放課後、私のすべてをぶつけるつもりです」

「すべてを、ぶつける……」

「静さまの心の中には熱いものがおありなのでしょう? それをしまい込んだまま、イタリアに行くおつもりですか?」

「……よく知っているわね。まだ、留学の事は誰にも言ってないのに」

「静さまの実力があれば遠からずそうなるのはわかります。話を戻しましょう。たしかにこのままそっと秘めたままにしておくのも一つの方法です。でも、今の聖さまを作っている要素の一つに『蟹名静』はひとかけらもない。それでいいんですか?」

「別に私は──」

「今の令さまを作った要素は島津由乃さんと山百合会の仲間、剣道部の仲間で私はひとかけらもない。でも、私はひとかけらでもいいから令さまを作る要素になりたかった。そして、それに相応しい人間になろうと努力しました。もし、令さまが私の事を理解して、そして何か与えることが出来たなら、私はそのひとかけらになれるんです」

 令さまの卒業式の日、ちさとはそのひとかけらになれた気がした。

「静さまは聖さまにどれだけ理解していただいたのですか? どれだけのものを与えたと言えるのですか?」

「……言いたいことを言ってくれるわね」

「生意気なことを言っているってわかっています。でも、もし、私の始めの質問に答えて下さるのでしたら、放課後、私たちと一緒に戦ってください。薔薇の館の前で待っています」

 ちさとはぺこりと頭を下げて図書館を出た。

「本当に、生意気な……」

 静はフッと笑った。



 同じころ、真美はクラブハウスにいた。

「ああああ! 明日発行の学園祭直前特集号どうしようっ!!」

 目の前には机に突っ伏すこの時代の新聞部部長兼リリアンかわら版編集長兼真美のお姉さまの築山三奈子さまがいた。

「ど、どうなさったんですか?」

「バックアップしてたはずなのに、最終稿データが飛んじゃってたのよ〜っ!! うわああ!」

 リリアンかわら版に人生を捧げる女三奈子さまはマジ泣きしていた。

「落ち着いてください。今、サルベージします」

 真美はパソコンの前に座ると、過去に何度かやったようにデータの復元を試みた。

「そうだ、ここを押したとき──」

「あっ、そこを触ったら!!」

 三奈子の人差し指がボタンを押してしまった(とパソコンが判定した)ためデータはnのフィールドに消えた。

「……もうっ! 本当にデータが昇天したじゃないですかっ! 仕方ない……直前データを読みだしてなんとかしますっ! どいてください、お姉さまっ!!」

 三奈子さまをどかせて直前のデータ記事を読みだして直していく。
 一年の時の学園祭直前号。真美はそれをはっきりと覚えていた。
 メインの記事の学園祭特集は来たる学園祭を盛り上げる内容で、読んでいるだけで楽しくなってくる、三奈子さまの文章の中でもベスト3に入る名文だった。
 何度も何度もそれを読み返してそらんじることが出来るぐらいになって、いつか自分もこんな記事を書けたら、と思った。
 データには残っていないあの記事を真美は忠実に再現して、昼休み中にデータを完成させた。

「これで放課後に頑張れば明日の発行に間に合うわ。ありがとう、真美」

「まったく、気をつけてくださいよ」

 予鈴が鳴ったので教室に戻る。
 しかし、真美は本当は三奈子さまに山百合会と戦うので力を貸してほしいと頼みにいったはずだった。
 それが、リリアンかわら版史上最大のピンチに遭遇するとは。

(放課後、どうしよう……)

 自分が印刷作業を手伝えばリリアンかわら版は無事に発行できる。
 しかし。
 山百合会とのバトルに負ければ元の時代には帰れない。

(お姉さま……)

 三奈子さまの卒業からしばらくたったというのに、三奈子さまと一緒にリリアンかわら版を作り上げる楽しさがたまらない。
 真美は、午後の授業が全く頭に入らなかった。



 掃除の時間が終わり、桂、蔦子、ちさとはミルクホールで状態異常回復薬である『乳酸菌飲料』を10個ほど買い求めた。

「真美さん、来ないね」

「どうしよう。そろそろスカウトしてきた助っ人が薔薇の館に来ちゃうよ」

「仕方がない。薔薇の館に向かおう」

 三人は薔薇の館の前に移動した。

「ごきげんよう、美冬さま、友子さま」

 蔦子がすでに待っていた助っ人に挨拶する。
 こちらの世界の勇者、鵜沢美冬さまはシーフで、プリーストの久保栞さまと活動していたが、栞さまの転校で一人になってしまい、やっと協力を取り付けたスレイヤーの友子さまと活動していたという。

「ちょっと待ったっ!」

 そう言ったのはここまで忍耐強く連載に付き合ってくれた読者さんの一人だった。

「ど、読者が乱入って……」

「本当に、何でもありだね、このSS」

「登場してしまったものは仕方がない。ここは絡んでみましょう」

「あの、何でしょうか?」

 代表して桂が尋ねた。

「友子って、オリキャラですか?」

 読者さんはそう聞いた。

「何言ってるのよっ! 私はオリキャラじゃないっ!」

 友子さまは叫んだ。

「あ〜、読者さん。友子さまは原作では『ウァレンティーヌスの贈り物(後篇)』収録エピソードの『紅いカード』で美冬さまと一緒に日直だったのだけど、チョコレートを渡しに行った隙に出番がきてしまい、名前だけの出演に留まったという不遇な方だったのだけど、第一期アニメ化の折に、美冬さまの幼稚舎時代の友人及び、高等部でのクラスメイトとしてちょっとだけ台詞があったという方よ」

 蔦子が作者に代わって補足する。

「でも、これだけは言っておかなくてはならないのだけど、アニメ出演時に人気声優が担当だったのよ。『プレミアムブック』にもちゃんと書いてあるわ」

 真美もそれに加わる。

「『プレミアムブック』を持っていないという蓉祥派からブーイングが起きそうな人のために解説すると、その人気声優が担当したキャラは、シスタープリンセスの可憐、魔法少女リリカルなのはのアルフ、ローゼンメイデンの翠星石、魔法先生ネギまの綾瀬夕映、涼宮ハルヒの憂鬱の朝倉涼子、戦国BASARAのかすが……他にもいっぱい活躍されているけど、バトルが出来なくなっちゃうから詳しくは自分で調べてね」

「ちなみに、友子さまは以降出番はありませんでした」

 ちさとが余計なことを付け加える。

「あんた、鬼だっ!」

 友子さま、絶叫する。

「な、なんという声優の無駄遣い! でも、そうだったんですか。わかりました。では、引き続きSSを読みます」

 読者さんは戻っていった。

「応援ありがとう! これからもよろしくね」

 全員で手を振ってお見送りした。

「こういうエピソードを聞くと、CDの『フレームオブマインド』に出られた私は恵まれているのねっ! 私、自信が持てたわっ!」

 桂は何だかよくわからないが自信が出てきたようだった。

「そうだ、その意気だよ! 桂ちゃん!」

 桂の後ろから声がした。
 振り向くと、熱いオーラをたぎらせた三年生らしい生徒と、桂のお姉さまが現れた。

「お姉さまっ! 波留先輩っ! 来てくれたんですねっ!」

「当たり前よ。私はあなたのお姉さまなんだから──」

「みなさんごきげんようっ! 今日の私のテーマは本気!  本気になれば自分が変わる! 本気になれば全てが変わる! さあ皆さん! 本気になって!  頑張っていきましょう!!」

「はいっ!」

(な、何この人?)

(桂さんの憧れの人)

(熱すぎる……)

 その時、薔薇の館の扉が開いた。

「桂さん?」

 波留先輩の高温(騒音?)に気付いた祐巳さんが出てきた。

「祐巳さん……」

「おや、勇者さまのおでましかな? なら、始めようか」

 ぞろぞろと山百合会幹部が登場した。

(江利子さまと聖さまの制服姿、何もかもが懐かしい)

(久々に本物の令さまだあ。ヤバい、鼻血が……)

(志摩子さんが初々しい。一枚撮りたい……)

 最後に登場した蓉子さまはズンズンと桂たちの方に向かって歩いてきて、くるりと振り向いた。

「バトルの前にいっておくけれど、私はあなた達の敵よ」

 蓉子さまの宣言に祥子さまはびっくりした顔で蓉子さまの顔を見た。祐巳さんはオロオロと蓉子さまと祥子さまの顔を交互に見つめ、令さまと由乃さん、志摩子さんもきょとんとしている。

「またまた、紅薔薇さまったら冗談を」

 黄薔薇さまこと江利子さまが笑う。

「本気なの?」

 うっすらと笑みを浮かべて白薔薇さまこと聖さまが尋ねる。

「本気よ」

 蓉子さまは言った。

「紅薔薇さま、あなたがそっちへ行ったら、私が突っ込みをしなくてはならないのよ? 私は出来ればボケたいの。わかる?」

 江利子さまが渋い顔をして言う。

「紅薔薇さま、余興ならあとにしよう。さあ、こちらへ」

 聖さまが手を差し伸べる。

「わかってないようだからもう一度だけ言うわ。この紅薔薇さまこと水野蓉子は勇者桂さんとその仲間の一員として、あなた達を全員叩きのめす! 私を敵に回すのが嫌ならただちに降伏なさい。それが出来ないというのであれば……まあ、これ以上私に言わせるようなダメな子じゃないでしょう?」

 明らかに挑発するように蓉子さまは言った。

「そこまで言うなら……いいわ。返り討ちにするまで」

「仕方がないわね、紅薔薇さま。でも、降伏はしないから」

 江利子さまと聖さまは覚悟を決めた顔になった。
 その妹たちは動揺しているようだったが、黄薔薇さま、白薔薇さまを擁して敗北するはずがないと思ったのか、誰も降伏などしなかった。

「そっちはそれで全員? 紅薔薇さまがそっちに回ったところで敗れるような山百合会じゃないよ」

「はじめましょうか」

「お待ちください。勇者さま、助太刀します」

 登場したのは静さまだった。

「静さま!」

「生意気な一年生に私の本気を見せてあげようと思ってね」

 意味あり気にちさとを見て静さまは言った。

「これで全員かな? では、バトルを始めましょうか」



 同時刻。
 クラブハウスで校正も終わり、いよいよリリアンかわら版の本刷りが始まった。
 真美は今頃薔薇の館で戦っているであろう桂たちを思っていた。

(ごめん、桂さん。やっぱり、リリアンかわら版を捨てるわけにはいかない)

 プリンターは順調に稼働している。
 時計を見る。

(今なら間に合うかもしれない。でも……)

「真美」

 呼ばれて顔を上げると、三奈子さまの顔が目の前にあった。

「な、何でしょう。お姉さま」

「何かあったの?」

「何も……」

 ふう、と三奈子さまがため息をつく。

「真美、私を誰だと思っているの?」

「築山三奈子さまです!」

「それから?」

「新聞部の部長です! リリアンかわら版の編集長です! それから、私のお姉さまですっ!」

「よろしい」

 三奈子さまは他の部員には作業を続けるよう指示する。

「掃除の時間に聞いた話だけど、今日の放課後、勇者パーティーが薔薇さま方と戦うそうね」

「はい。今頃戦っていると思います」

「聞くところによると、薔薇さま方に『負けた世界の勇者』がこちらに来てこちらの世界の勇者とタッグを組んで戦うそうね」

「詳しいですね、お姉さま」

「ある人に聞いたから」

「蔦子さん、に?」

 真美は尋ねたが、三奈子さまは「ふふふ」と笑ってはぐらかした。

「でも、私は彼女に聞く前から今日の真美はちょっと違うと気付いていたわよ」

「どうしてですか?」

「昼休みに『復元』してくれた記事、あの記事を私はあの時最後まで書いていなかった。なのに、あなたは『復元』として最後まで書ききった。確かにあれは私が書きたかったことだけど、どうしてなのだろうって」

「……」

「もし、あなたが『負けた世界の勇者』の仲間としてここにやってきたのであれば、すべて説明がつくのよ」

「あ、あのっ」

 真美が口を開く前に三奈子は真美の両方のほっぺたをつねった。

「な、なにふるんでふかっ!?」

「失礼な子よね。私はあなたの書く記事だけが気に入って妹にしたんじゃないのよ」

 そういうと三奈子さまは手を離した。

「来なさい」

 三奈子さまは真美の手をとると走り出した。
 意外と運動神経がよく、足も速い三奈子さまにおいて行かれないよう、真美は必死に手を握り返した。



 薔薇の館前。

「紅薔薇スキル『温室に呼び出し』!」

 同時に蓉子さまと祥子さまが宣言した。
 『温室に呼び出し』は戦闘前に戦闘時と同じ行動がとれるようになる特殊スキルで、しかも行動済みにならないというズルイ、いやもとい、お得なスキルである。

「同じスキルを宣言した場合、敏捷値が高い方が優先する。先手は貰ったわよ。祥子」

「由乃ちゃん!」

 祥子さまが由乃さんに指示を出す。

「『黄薔薇☆絵日記』で紅薔薇さまの『温室に呼び出し』を取り消します!」

 山百合会はダメージを与えないスキルを取り消せるスキルで蓉子さまに先手を取らせまいとする。

「『お蔵入りパン事件』で『黄薔薇☆絵日記』を打ち消します!」

 美冬さまがそれをスキル打ち消しスキルでなかったことにして蓉子さまの先手を生かす。

「では、その『お蔵入りパン事件』を私の『黄薔薇☆絵日記』で取り消す」

 令さまが宣言する。蓉子さまの先手がなくなる。

「令さまの『黄薔薇☆絵日記』は私の『お蔵入りパン事件』でなかったことに!」

 桂が宣言して、蓉子さまの先手が生きる。

「では、私の『黄薔薇☆絵日記』であなたの『お蔵入りパン事件』をキャンセルするわ」

 江利子さまが宣言する。蓉子さまの先手がなくなる。
 もう、スキルを打ち消すスキルを持つものはいないはずだった。

「その『黄薔薇☆絵日記』は私の『お蔵入りパン事件』で打ち消す!」

「な、なんですって!?」

 スキルを使ったのは三奈子さまだった。

「ごめん、遅くなっちゃって」

 真美が息を切らせて謝る。

「真美さん! 三奈子さまもっ!」

 じろり、と蓉子さまが真美を見る。

「蓉子さま、ご安心ください。蓉子さまの名誉はつつがなく保持されています。それより、何かするのでは?」

「そ、そうだったわ」

 蓉子さまは宣言する。

「『温室に呼び出し』の効果で『カマドウマの領域』展開スキル『いたっ!』発動! これによりバトルフィールドはこちらが支配することになるわ」

 蓉子さまの勝ち誇った表情とは対照的に江利子さまは拳を握りしめた。

「黄薔薇スキル『黄薔薇真剣勝負』で攻撃力上昇! 逃がさないわよ」

 江利子さまが戦闘前に使える特殊スキルを発動する。
 相手の全滅以外は敗北という背水の陣スキルである。

「白薔薇スキル『銀杏の中の桜』! 全員を『魅了』状態にしてあげるよ!」

 やはり聖さまが戦闘前に使用する特殊スキルを使ってくる。
 白薔薇が咲き乱れ、さわやかに微笑む聖さまの姿に静さまはうっとりしていたが、判定は成功させて、スキルが使えなくなる『魅了』状態は回避していた。

「『ファーストブレイク』!」

 蓉子さまと祥子さまだけではなく、静さま、由乃さんまでもが同時に宣言した。
 『ファーストブレイク』は割り込みスキルで、ターンの最初に割り込める。
 同時にスキルを習得しているものが宣言した場合は、やっぱり敏捷値順に行動していくことになる。

「……取り下げます」

 祥子さまは作戦を変更してMPを温存することにしたらしい。
 まずは蓉子さまである。

「『カマドウマの領域』内にいる味方が私の習得している『カマドウマ』のスキルを1回だけ使えるようになるスキル『レディ、GO!』使用!」

「おおお! これであのスキルが自在に使えるんですねっ!」

「フン、ちょっと先手をとったくらいでいい気になるのは早いのではありませんか?」

 祥子さまは負け惜しみを言う。

「次は私。『黄薔薇注意報』で早速全体攻撃……の、前に。全パラメータ上昇スキル『病弱美少女』のペナルティで、判定を……」

 由乃さんは何やら判定を始めた。すかさず蓉子さまが宣言した。

「タイミングの違うスキルを使用できる『不在者チャンス』で『ビスケットの扉を開けたら紅薔薇のつぼみ』を使用! その判定を『ファンブル(自動失敗)』にする」

「ぐふあっ! 『黄薔薇真剣勝負』が発動した後なのに、『ファンブル』になったら、『退場』するから、私は負けになっちゃう!」

 由乃さんは頭を抱えた。

「まだよ。『黄薔薇☆絵日記』を限定スキルを復活させるスキル『リベンジ』で復活させて──」

 祥子さまが指示を出すが、黄薔薇ファミリーは。

「とってません、それ」

「スキル枠が足りなくて……」

「黄薔薇に『後戻り』とか『省みる』という言葉はなくってよ!」

(あー、黄薔薇一家なんかに一瞬でもそんな期待を抱いた私が愚かだった……)

 非情にも由乃さんは仕込みスキル『ビスケットの扉を開けたら紅薔薇のつぼみ』の効果で『ファンブル』となり、特殊効果『持病の発作』状態になる。

「うう、マジで発作が……」

 由乃さんはその場にうずくまった。

「あらあら。あんまり無理しちゃ駄目よ。『乳酸菌飲料』取ってるぅ?」

 蓉子さまは余裕で眺めている。

「状態回復薬『乳酸菌飲料』が効かない特殊効果と知ってて……紅薔薇さまって黄薔薇さま並のサディスト」

 由乃さんは意識を失った。

「由乃ぉ〜っ!」

 令さまが由乃さまをお姫様だっこした。

「令のスキル『由乃の騎士』の効果で、令も『退場』するから、黄薔薇ファミリーは黄薔薇さまだけ。ごっそり取った姉妹スキル無駄になるんじゃないの〜?」

「ちっ」

 江利子さまは舌打ちした。
 由乃さんと令さまは全く役に立たず、退場、敗北した。

「あ〜、久々の本物だったのに」

 ちさとがため息をついて現実に復帰する。
 次は静さまの番である。

「『サモン・ピグマリオン』で召喚獣を召喚! 追加スキル『静かなる夜のまぼろし』で召喚獣を同時に八体召喚!」

 佐藤聖さま病の静さまの召喚獣はやっぱり佐藤聖さまの姿をしていた。その隣に、ちょっと雑な作りの佐藤聖さまが現れた。更にその隣に(あと六回繰り返してください。略)。

「召喚獣は共有しているスキルがあるので、通常の行動している者がいない今なら『ファーストブレイク』で割り込み可能! 八体全部を割り込ませる! 一体目はパーティー全体の敏捷値が上がる『今すぐお茶を』を使用! 二体目は飛行状態になる『フライト』を魔術の対象を範囲に変更する『ブラスト』で拡大し……『フライト』効果を希望される方、います?」

「お願いできるかしら」

 蓉子さまが言った。

「では、『フライト』の効果を私と八体の召喚獣と紅薔薇さまに!」

 静さま、召喚獣、蓉子さまの背中に羽が生え、ふわりと飛んだ。

「三体目は飛行時に攻撃対象を範囲に変更できる強力攻撃スキル『バイオレンスブリザード』を『マジックサークル』で更に強力に! ……クリティカルね!」

 山百合会メンバーは必死に回避する。

「祥子さまっ! 避けられません!」

 レベル5しかない祐巳さんはクリティカル以外では回避できない。

「安心なさい! 私もファンブルよっ!」

 安心できません。
 回避に成功したのは白薔薇姉妹だけだった。

「ダメージ追加スキル『レイニーブルー』!」

 蔦子が宣言する。

「『羊の中の狼』でダメージを消します!」

 志摩子さんが宣言する。

「あらあら。でも、あと四回同じ事が出来るのよ。四体目の『バイオレンスブリザード』+『マジックサークル』!」

「祥子さま! ファンブルしてしまいましたっ!」

 祐巳さん、よりによってファンブル(自動失敗)である。

「私はあなたをかばえる『カバーリング』なんてスキル持ってないのよ! このロザリオを受け取ったら『姉は包んで守るもの』という姉妹スキルでかばってあげるから、とっとと私の妹になりなさいっ!」

 実は、祥子さまも回避失敗。今回は黄・白の薔薇さまのみ回避できたのだった。

「それとこれとは話が別ですよっ!」

「命中したので、『一体目の召喚獣』の『レイニーブルー』!」

「やむを得ない、『羊の中の狼』!」

 聖さまが宣言する。

「五体目も同じ構成! 『レイニーブルー』は二体目のを!」

「回避判定前にダメージをなかったことにする『白ポンチョ』発動!」

 聖さまがスキルを使う。

「六体目! 『レイニーブルー』は三体目!」

「『白ポンチョ』発動!」

 志摩子さんがスキルを使う。

「七体目! 『レイニーブルー』は四体目!」

「『リベンジ』で『羊の中の狼』をもう一度発動!」

「八体目! 『レイニーブルー』は五体目!」

「『リベンジ』で『羊の中の狼』!」

 白薔薇姉妹は静さまの攻撃を防ぎきった。
 しかし、ダメージを打ち消すスキルはすべて使い切り、切り札のスキル復活スキルも使いきった。
 ここで三奈子さまの番になる。

「紅薔薇さま、SL回連続攻撃スキル『来たっ!』の力お借りします! 祥子さんを攻撃!」

「なんですって!?」

 祥子さまは回避に失敗した。

「祥子にダメージ減少スキル『プロテクト』!」

 聖さまがスキルで止めてダメージなしとする。

「2回目も祥子さん!」

「『プロテクト』!」

 次は志摩子さんが止めた。

「合計8回可能? ならば、当たるまで祥子さんを狙う!」

「き〜っ!!」

「『カバーリング』!」

 聖さまがスキルで祥子さまをかばう。防御力でダメージを止める。

「『ご贈答用ハム』でダメージを増加!」

「『カバーリング』!」

 志摩子さんがかばう。防御力でギリギリダメージを抑える。

「五回目! 並薔薇ポイント5P追加!」

「行動を放棄して、かばうか……いや、築山三奈子が攻撃可能なのはあと、三回。しかし……祥子をつぶされたらまずいな……」

 聖さまが迷う。

「では、まだ行動していない私が祥子さまを『かばいます』!」

「何っ!?」

 祐巳さんが三奈子さまの攻撃を受け、戦闘不能になった。

「六回目! クリティカル!」

「祥子、いい加減に回避に成功して!」

「……ファンブル……」

「七体目の召喚獣の『レイニーブルー』!」

 チャンスと見て静さまが召喚獣にスキルを使わせる。

「ここで薔薇さま専用スキルを使えるスキル『四つ葉のクローバー』で『ハートの鍵穴』使用してはね返す! 更に、『ハートの鍵穴』は魔術なので『ブラスト』で拡大!」

 すかさず蓉子さまが動いた。

「祥子、『ブラスト』は余計だったわね。ダメージを一手に引き受けるスキル『両手に水道管』使用! そして、そのダメージを『ハートの鍵穴』ではね返し、『ブラスト』で拡大! これでダメージは一人当たり693Pになるわ!」

 蓉子さまは涼しい表情で言う。

「どうして先程から同じような手を使うんですのっ、お姉さま!」

 祥子さまがキレる。

「私があなたに教えたその通りの戦い方しかしてないからでしょう、祥子。さあ、諦めてジャンクにでもなってしまいなさい」

 蓉子さまは取り合わない。

「『両手に水道管』使用! 『ドラグーン』のスキル『ステゴザウルス』で知力値を0にしてダメージを打ち消す!」

 割って入ったのは江利子さまだった。

「『ドラグーン』?」

「隠しクラスよ。成長が難しいし、条件が細かいしで滅多に取る人がいないのだけど……しまった。江利子さまを甘く見ていた」

 蔦子が難しい顔をする。

「あと二回、築山三奈子の攻撃を残しているというのに、このスキルを使う羽目になるとは」

 江利子さまも難しい表情をしている。

「七回目は……江利子さまを狙います!」

「『不在者チャンス』で何でも知力判定にしてしまうスキル『ウィズダム』使用!」

 蔦子が宣言する。

「そんなものは読んでいるわよ! 回避率上昇スキル『ピプシロホドン』をとっているから避けられる!」

「ここで勇者スキル『私ごと殺れ』使用! この攻撃は防御、回避不可能攻撃として扱われる! 更に、『私の屍を越えていけ』効果で次からの攻撃は攻撃力が倍になる!」

 スキルを使ったのは美冬さまだった。そのまま美冬さまはスキルの効果で戦闘不能になる。
 江利子さまから余裕の表情が消えた。

「八体目の召喚獣の『レイニーブルー』!」

 静さまの召喚獣がスキルを使う。
 江利子さまにダメージが通った。

「大丈夫よ。まだたったの17Pダメージなんだし」

「八回目は祥子さま!」

「攻撃用にとっておいた天賦の証『紅薔薇ポイント』8P使用!」

 祥子さまは回避した。

「な、長かった……」

「熱血! 波留のタアアアアアン!」

 ラケットを構えて波留先輩が進み出る。

「うあ、この人か……」

「防御力無視の『ピンポイントショット』! 並薔薇ポイントは全部使用! この一球は絶対無二の一球なりっ!!」

「波留先輩、誰を狙うか言わないと……」

「白薔薇のつぼみだあああああああああああっ!!」

 波留先輩の攻撃はクリティカルした!

「じ、慈愛の証『白薔薇ポイント』10P使用! クリティカル狙いで……ああ、失敗!」

 志摩子さんは勢いに押されて失敗してしまう。

「ダメージ増加スキル『ダイレクトヒット』使用うううう!」

「『姉は包んで──』」

 聖さまが志摩子さんをかばおうとする。

「お待ちくださいっ! スキルだけで防ぎきってみせます! 『プロテクト』!」

「逃げない? ……堂々としすぎだね。怖がんないんだね」

「『リベンジ』で『レイニーブルー』を復活させる! 『レイニーブルー』!」

 蔦子が援護する。

「『白薔薇ポイント』……残りすべて使用!」

「志摩子、無茶するなっ!」

「そして、『妹は支え』でお姉さまに残りMPをすべて献上! 私の役目は終わりましたっ!」

「志摩子ーっ!!」

 志摩子さんはHP3で生き残った。

「って、中途半端に生き残って、MP0って……」

「あ、あ、あら!?」

「派手な演出だけで、全然強力な技じゃなかったし」

「……」

 志摩子さんはうつむいた。

「気にしない。くよくよしない。大丈夫、どうにかなるって。Don't worry! Be happy!」

 波留先輩が慰める。

「……波留先輩、どっちの味方なんですか?」

 桂のお姉さまが見かねて突っ込む。

「世間はさぁ、冷たいよなぁ。 みんな、思い感じてくれないんだよ。 どんなにがんばってもさ、何で分かってくれないんだって思うときがあるのよね。 熱く気持ちを伝えようと思ったってさ、あんた熱すぎるって言われるんだ。でも大丈夫、分かってくれる人はいる! そう! 私について来い!!」

「波留先輩っ、カッコイイ!」

「桂さん……」

 次はその桂である。

「蓉子さま、『決まるまで仮置き』って、どんなスキルなんですか?」

「『決まるまで仮置き』とは『カマドウマの領域』にいる者に任意の行動をさせられるスキルよ。ただし、対象が従うかどうかは『対決』が必要になるし、回数制限のあるスキルを使わせる事は出来ないわ」

「では、祥子さまに『決まるまで仮置き』使用! 祥子さまには『妹は支え』で蓉子さまに所持MPを全部献上していただきます! 更に、この判定には神秘の力『並薔薇ポイント』を全部使います!」

 桂はクリティカルを出した。

「べ、『紅薔薇ポイント』20P使用!」

 祥子さまはクリティカルしなかった。

「MP0!」

「あなたは側にいて、MPがたまに心細くなった時にMPを頂戴。ってところかしら?」

 蓉子さまは笑う。
 友子さまの番になった。

「『ライバルがいいの』で聖さまへの攻撃力を倍に! そして、狙うのは志摩子さん! 攻撃は防御力無視の『羅刹』で! 更に、蓉子さまのお力をお借りして『仮面のアクトレス』で、私がッ、ファンブルするまで攻撃をやめないッ!!」

「残りHP3を狙うとは……しかも聖さまへの攻撃力を倍にってところで『かばうな』と言ってるようなものよね」

 友子さまの攻撃はファンブルだった。

「と、友子さま……」

「ああああっ、もうっ! もうっ!!」

 友子さま、唯一かもしれない見せ場を失いorzの姿勢で涙する。
 波留先輩が優しく友子さまの肩に手を置いていった。

「諦めんなよ!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみなよ! ダメダメダメダメ諦めたら。 周りのこと思って、応援してる人たちのこと思ってみて。あともうちょっとのところなんだから。ずっとやってみて! 必ず目標を達成できる! だからこそNever Give Up!!」

「ああ、波留先輩のお言葉を聞くたびに勇気づけられ力が湧いてくる!」

 桂は感動する。が。

「システム的にやり直しできないんですよおお!!」

 友子さま、号泣。

「波留、うるさい。これ以上喋るならあなたを先に攻撃するわよ」

 蓉子さまに睨まれて、波留先輩はさすがに黙った。

「残っているのは私と、桂さんのお姉さま、真美さん、蔦子さんか……待機します」

 ちさとは待機を宣言。

「待機」

 桂さんのお姉さまも待機して、蔦子の番になった。

「攻撃力上昇スキル『ファイアウェポン』を『マジックサークル』で強化して、『ブラスト』で全員に拡大」

「志摩子さんを攻撃! ……あらら、クリティカル!」

 真美が適当に放った攻撃があたった。志摩子さんは回避できない。

「防御力と『プロテクト』で持ちこたえられるよ」

 ふふん、と聖さまが鼻で笑う。

「『涼風さつさつ』発動! 『カマドウマの領域』内のクリティカルで与えるダメージを更に強化する!」

 蓉子さまが宣言する。

「お姉さま、後はお願いいたします」

 志摩子さん、戦闘不能になる。

「よ、ようやく反撃出来るけど……うう、私と江利子とMP0の祥子だけ……」

「跪いて命乞いするなら、降参を受け入れるわよ」

 蓉子さまの高笑いに祥子さまは思わずハンカチをズタボロに引き裂いた。

(蓉子さま、ノリノリだね)

(あんなノートさえなければカッコイイのに)

(こうなった原因を考えると泣けてくる) 

(ノート取り返したいっていう必死さが伝わってきてちっともカッコ良くない)

「ええい、こうなったら最後まであがく! 攻撃力上昇スキル『ティラノサウルス』で筋力値を犠牲にして攻撃力をあげ、『黄薔薇注意報』に強さの証『黄薔薇ポイント』を全部乗せて、混乱効果を追加する『黄薔薇パニック』も使う!」

 江利子さまの一撃!
 クリティカル!

「さあ、どうする?」

「『四つ葉のクローバー』で『両手に水道管』を使用してダメージを集約! 攻撃に対して攻撃する『カウンターショット』で江利子さまに反撃! もちろん並薔薇ポイント全部使用!」

 桂さんのお姉さまの反撃はクリティカルした!

「『黄薔薇交錯』でリアクションスキルにリアクション!」

 江利子さまの宣言の直後、蓉子さまが宣言した。

「紅薔薇さま専用スキル『勝手にしりとり終了』はリアクションスキルを打ち消す事が可能! これで『黄薔薇交錯』を打ち消す!」

「そんなスキルあったのっ!? アニメにも使われたメジャーネタ以外は禁止にしてよっ!」

 江利子さま、無念の戦闘不能。

「白薔薇スキル『親切なサンタさん』でこちら側全員のMP全回復! って、もう私と祥子だけじゃん」

 聖さま、涙目。

「今、一番強いダメージを与えられるのは……『マジックサークル』で強化した『ヒステリックサンダー』を飛行状態ではないので『ブラスト』で拡大して、『紅薔薇ポイント』をすべて乗せる……クリティカルしないってどういう事よっ! 責任者! 出てきなさいっ!」

 祥子さまは逆ギレしながら、それでも桂たちを一撃で葬り去れるぐらいの強さのスキルを使ってきた。

「『プロテクト』を『守りの指輪』の効果で全体に使用! 更に、蓉子さまのお力をお借りしてリアクションスキルを強化する『乃梨突っ込み』で防ぎきる!」

 真美の活躍で全員が祥子のダメージを受けなかった。

「さて、待機していたので反撃しますか。『嫌っ!』で聖さまと祥子さまの防御属性を『水』に変更!」

 ちさとがそう言うと、桂さまのお姉さまが心得たというように出てきた。

「『マシンガンショット』で全体射撃攻撃! 『並薔薇ポイント』全部使用!」

 クリティカルした。

「『ビスケットの扉前』で回避。祥子を『カバーリング』してそのダメージは『あんた、その前に謝れよッ』でダメージをはじき返す!」

 聖さまの手には『乃梨ちゃんパペット』のヘアスタイルを真ん中分けにしただけっぽい『蓉ちゃんパペット』が握られていて、四人は「ああ、この人は間違いなく志摩子さんのお姉さまだ」と思った。
 しかし。

「クリティカルしない、だと!?」

 聖さま、属性の関係で大ダメージとなりついに戦闘不能。

「ここで『号外』! 蓉子さま、とどめをお願いします!」

「こら、そこの七三! 物騒なことを言うのはおよしなさいっ!」

 祥子さま、ブチギレる。

「あらあら、当たるなんてみっともないわね。さあ、引導を渡してあげる。確実に命中するよう『紅薔薇ポイント』を全部つぎ込み、『ヒステリックサンダー』を『マジックサークル』で強化。『カマドウマの領域』は失われてしまうけど、『や〜め〜て〜!!』でダメージを追加! 領域の支配者『カマドウマ』の真骨頂をその身に感じて果てなさい!!」

「念のため、六体目の召喚獣の『レイニーブルー』も」

 静さまがクスリと笑った。

「ぁぁあああ」

 祥子さまは避けることなどできなかった。

 勇者パーティー、山百合会に勝利である!

「おっと、時間がないっ! 早く古い温室に向かわないと!」

 桂、蔦子、真美、ちさとは全力でダッシュした!

「待ちなさいっ! 今度こそノートのコピーを──」

 必死の形相で蓉子さまが追いかけてきた。

「紅薔薇さま、ノートのコピーってなんですか?」

 三奈子さまも追ってくる。

「コピーはお返しします!」

 桂が『禁断の書のコピー』をばらまくと、蓉子さまは慌ててそれを追い、三奈子さまがコピーを拾おうとした時に蹴りを入れていた。
 桂たち四人は無事に古い温室に飛び込んだ。

「……あれ?」


->セーブして、ごめん、まだ【No:3140】に続くんだよね
 早く終わらせようよ

bqex > 始めローゼンネタで攻めたらわけがわからなくなったので『うみねこのなく頃に』ネタを考えた。 (No.18421 2010-02-23 09:51:13)
bqex > しかし、拾えなかった。私には無理だった。 (No.18422 2010-02-23 09:51:33)
bqex > と、いうわけでなんだかよくわからない松岡修造ネタとところどころにローゼンネタが残った。 (No.18423 2010-02-23 09:52:15)
bqex > というかんじでひと月以上空いてしまいました。お待たせしてすみません。 (No.18424 2010-02-23 09:52:51)

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