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PCの前でずっこける  No.3275  [メール]  [HomePage]
   作者:bqex  投稿日:2010-09-03 00:26:06  (萌:3  笑:2  感:0
 薔薇の館。
 いつものように黄薔薇姉妹の支倉令さまと島津由乃さん、白薔薇姉妹の藤堂志摩子さんと二条乃梨子ちゃん、紅薔薇姉妹の小笠原祥子さまと福沢祐巳が揃って仕事をしていた。

「お茶のお代わり入れましょうか?」

「あ、そういえば」

 と祥子さまが鞄から小さな包みを取り出した。

「父が海外旅行のお土産にとくれたお茶を持ってきたの。私が入れるわ」

「お姉さま、私が」

「あら、たまにはいいじゃない」

 と祥子さまが皆にお茶を振る舞ってくれることになった。
 祐巳は隣でカップを温め、祥子さまの入れたお茶を皆の前に置く。

「素敵な香りですね」

「珍しい色。ハーブティー?」

「ええ」

 全員でお茶を口にする。

「あ、甘い」

「口中に香りが広まって……落ち着くなあ」

「あ〜、こんな事ならお茶菓子を用意するんでしたね」

「同感」

 六人は後の惨劇も知らず、幸せなひと時を過ごしていた──。


 十分後。

「……ん?」

「……え?」

「……あら?」

 惨劇の瞬間が訪れた。

「な、何!? ……ええっ?」

「あ、ああっ!?」

「ど、どうなってるのっ!?」

 オロオロとしながら仲間を見る六人。
 一瞬何が起こっているのか理解できなかったが、仲間の『変化』が自分自身にも同様に起こっていることを知って愕然とする。

「な、何てことだっ!」

「うわーっ!!」

「きゃあぁ!!」

 『変化』が落ち着いて、恐る恐る六人は自分の身体を調べ始めた。

「ああ〜っ」

「わたしもか……」

「やっぱり……」

「こんなことが あるなんて……」

「こどもに なっちゃった……」

 のりこちゃんが呟いた。

「よしの、だいじょうぶ?」

 れいさまが聞く。

「みてのとおり こどもになったわよ」

 よしのさんの返事に黙ってれいさまは胸の辺りを指した。

「ああ、それはへいき」

 よしのさんの返事にれいさまがほっとする。

「そっか、よしのさんは しんぞうの びょうきだったものね」

 ゆみが納得したように言う。

「なにが げんいんなのかしら?」

 しまこさんが考える。

「げんいんきゅうめいも たいせつだけど、いまは このダボダボの せいふくを なんとかしましょう」

 さちこさまの言葉に全員がうなずく。
 相談しながら、体操服のスパッツとシャツならば子供の間は丈が邪魔にならず、高校生サイズに戻った時にも問題なかろうということになり、着替えることにしたのだが。

「ブラジャーは どうしたら いいのかしら?」

 さちこさまはご自身のつけていたブラジャーを片手に思案している。

「このすがたのあいだは ないほうが すごしやすいけれど、もとにもどったときは つけてないと たいへんよね」

 確かに、というように令さまがうなずく。

「ニプレスでも はりますか?」

 思いついたまま、ゆみは言った。

「そんなの、ここには ないじゃない」

 不機嫌そうにさちこさまが返す。

「じゃあ、バンデージは?」

「え〜、ゆみさん それは……」

「なんだか……」

「ねえ……」

「うっ! よそういじょうに ふひょう!?」

 ゆみ案は否決され、結局。

「とりあえず、パンツひとつだと かぜひくから、ふくをきよう。ブラジャーは あとでかんがえよう」

 というれいさまの意見で全員がノーブラのまま体操服姿になった。
 ひざ丈のスパッツは七分丈、シャツはチュニック丈になったが、制服の時よりは随分マシになった。
 よいしょ、と席に着く。

「しごとはむりね。もとにもどるほうほうを かんがえなくては」

 さちこさまが言う。

「もとにもどると いわれましても……なにが げんいんで こうなったのでしょう? げんいんが わからなければ それをとりのぞいたり、なおすことができません」

 のりこちゃんはそう言った。

「そうね……ぜんいんがこうなった ということは おそらく、ばらのやかたでの なにかが げんいんよね?」

 考えるようにしまこさんが顎に手を当てた。

「ぜんぜん こころあたりないし」

 と、よしのさんはカップに残っていたお茶を飲んだ。

「これ、もどらなかったら このまま いえにかえって、またあした このすがたで がっこうにくるのかな?」

 ゆみの言葉に全員が固まった。

「どうしよう……ようちしゃのころの ふくなんて、しょぶんしちゃった」

 両頬に両手を当てて由乃さんが呟く。

「リリアンのせいふくじゃなくても いいのかしら?」

 ピントがずれた心配をし始めたしまこさん。

「ちばからおくってもらう……いや、そのまえに ちばのりょうしんに なんてせつめいしよう」

 ガッカリとした表情ののりこちゃんはそう言うと頭を抱えた。

「そのまえに、このかっこうで いえにかえるばめんを そうぞうしてみて」

 真っ青な顔でさちこさまが言うと、全員がそれを想像する。

「うわあ……いちょうなみきで つたこさまに げきしゃされちゃった!」

「マリアぞうまえで まみさんに インタビューされちゃった!」

「どうしよう……こうもんまえで せいさまに……」

 真っ赤になったゆみは机に突っ伏した。

「ゆみさん、おねえさまが どうかして?」

 しまこさんが聞いてくる。

「とにかく、げんいんを さがしましょう」

 その時。

 ──ギシギシギシ……。

 誰かが階段を昇ってくる音がする。
 ど、どうする!? ちびっこ山百合会!


「ごきげんよう! 写真部です」

 ビスケットの扉を開けて、蔦子がサロン兼会議室に入ると、そこには誰もいなかった。

「あらら、お留守みたいね。失礼しました」

 と、戻りかけて、中に戻ってくる。

「窓が開いてるよ。物騒な」

 と窓を閉めて、蔦子は出ていった。


 階段を降りる音、その後、玄関の扉が閉まる音がすると、それを合図のように六人は出てきた。
 紅薔薇姉妹はテーブルの下から出てきた。
 白薔薇姉妹は戸棚の中から出てきた。
 黄薔薇姉妹はカーテンの裏から出てきた。

「びっくりした〜」

 全員が一斉に言った。

「もどってきたとき、もう、どうなることかと……」

「こっちにきたとき、バレたのかと……」

「つたこさんが でていきそうになったとき、こっちもそとへ でようとしてたから ほんとうに あぶなかったわ」

 やれやれ、と六人は席に着く。

「とにかく、こんなこと なんども くりかえしてはいられないわ」

「でも、どうしましょう?」

 六人は知恵を絞った。
 そして……。

A.とにかく薔薇の館にあるものを調べることにした
B.とりあえず薔薇の館から脱出することにした

 さて……。

【ここまで読んでくださった皆さまへ】
 続きを読みたい人だけ下のコメントにA.B.どちらの続きが読みたいかコメントしてください。コメントが多かった方の続きだけ書きます。コメントが少なかった方の続きは華麗になかったことになります。
 また、A.B.のコメントが入っていないと書きようがないので続きません。
 もちろん、皆さまのコメントがないと続きません。
 読みたいですか? やめますか?

【締め切り】(書き忘れた追記)
うp日の一週間後です。

bqex > 我ながら酷い手抜きだ。 (No.18943 2010-09-03 00:27:42)
奈々氏 > ニプレス・バンテージが出てきた際、心の中で“そこはバンソーコだろ!”と突っ込んでしまったのは…内緒です  続編希望:Bバート (No.18944 2010-09-03 00:43:01)
美影 > Bをお願いします (No.18945 2010-09-03 01:20:33)
kyouko > Bでお願いします。シリーズ名は「ちびっこ山百合会」で。 (No.18946 2010-09-03 11:17:27)
クゥ〜 > 流石は蔦子さん、山百合会(祐巳?)に対しての嗅覚すご!で……Bをお願いします。 (No.18947 2010-09-03 15:29:50)

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夢の実現に注がれる力1000%  No.3274  [メール]  [HomePage]
   作者:ex  投稿日:2010-09-02 22:22:29  (萌:14  笑:7  感:8
「マホ☆ユミ」シリーズ 第1部(過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

「マホ☆ユミ」シリーズ 第2部 (本編)
【これ】4月11日(月) 【次回】4月15日(金) 【次々回】4月16日(土)・・・・・・・・・・・・・【No:3257】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜第2部スタート〜


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 けがれをしらない心身を包むのは深い色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
 もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
 私立リリアン女学園。
 明治三十四年創立のこの学園は、もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統ある魔法・魔術学園である。

 東京都下。武蔵野の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。
 時代は移り変わり、元号が明治から三回も改まった平成の今日でさえ、十八年通い続ければ日本中で、いや世界各地で活躍する魔法使いや魔術騎士が巣立っていく貴重な学園である。


☆★☆ 4月11日(月曜日) ☆★☆

リリアン女学園の入学式の翌日、ロサ・ギガンティア、佐藤聖は、早朝の学園を散策していた。
「ごきげんよう、聖さん」
「ごきげんよう、ロサ・ギガンティア」
 二人連れの生徒が、足早に聖を追い越してゆく。
 おそらく、新3年生、新2年生のスールだろう。
「ごきげんよう、これから朝練?」
 聖も、気軽に返す。
「ええ」
「そ、がんばってね」

(新学期の早朝とはいえ、クラブ活動してる子もいるんだねぇ)
 気まぐれな聖は、たまに早起きをした日に学園内を散策することがあった。
 普段と違うことをすれば、何か面白いことが起きるかもしれない。
 ・・・・・・など、あまり期待もしないでふらふらと歩いていた。

 なにせ、昨日はあの小笠原祥子がプティスールを連れて薔薇の館に来たのだ。
 祥子といえば、名門小笠原家の一人娘にして、紅薔薇のつぼみ。
 ふつうの子羊ちゃんでは、恐れ多くてスールになることをしり込みするだろう、というのが江利子と聖の推論だった。

(蓉子だけは、祥子を信用してたみたいだけどね。その自信、どっからきてたのかなぁ?)
(・・・・・・まさか、エスパー?予知能力者なのか?)

 蓉子との付き合いは、蓉子が中学に編入してきたときからだからもう5年になる。
 蓉子は、武門の名家、水野家の一人娘であり、中学時代からその覇気はクラスでも抜きん出ていた。
 誠実、実直、いわゆる優等生であり、多分におせっかい。

 蓉子の父親は東海地方出身の高名な剣豪であり、その名声を買われ小笠原研究所の剣士部門の総括責任者として5年前に迎え入れられた。
 水野家は一家で東京に引っ越し、一人娘である蓉子は、トップの成績でリリアン中等部に編入してきた。

(あの剣技の冴え、それって予知能力も込みってことか?いや、いくらなんでも予知能力なんて空想の世界だよな)

 なにせ、5年たった今でも、蓉子の力の底が見えないのだ。
 絶対不敗の真紅の薔薇剣士。
 リリアン入学以前から元々の才能を日々の鍛錬で磨き抜き、努力をもって手に入れた最強。

(ま、味方にしておいてこれほど頼れる存在も無いか。なにせ『無敵』だからな)

 ぼんやりと蓉子のことを考え自問自答しながら講堂の裏手にいちょうに囲まれてたった一本だけ桜が咲いている場所まで来る。

(一本だけの桜・・・か)
 手首に巻きつけたロザリオをぼんやりと見ながら、卒業されたお姉さまのことを思い出していた。
(結局、妹を紹介できませんでしたね。すみませんでした)

 ・・・と、かすかな足音がして、ふわふわの巻き毛の少女が歩いてきた。
 さ〜っと風が吹き、まるで・・・まるで後光のように朝日を受けた髪が広がる。
「あなた・・・」
 まるで、天使のようだ、と思った。
「・・・失礼いたしました」
 一瞬、静止していた少女は、一声かけたとたん、お辞儀をして走り去ってしまった。



 新学期、最初のホームルーム。
 祐巳のいる一年桃組では、自己紹介がはじまっていた。
 と、いっても大概の生徒が自分の氏名だけを紹介し、お辞儀をして終わる。

 基本的にリリアンは持ち上がりの生徒が多い。
 そのため、高校1年ともなると、たいていのクラスメイトは小学1年から中学3年までのどこかで一緒になっていることが多かった。そのため自己紹介に力が入らない。

 ただし、中等部からの編入や、高等部からの編入の生徒も僅かながら居る。
 このような生徒は、たいていが小笠原研究所がらみ、ということが多く、成績優秀者ばかり。

 そもそも、リリアンの編入試験は都下で一番難関であるとされていた。
 もともとが都下ナンバー1の魔法・魔術学院であるため、幼稚舎や小等部から入学する生粋のリリアンっ娘も、それぞれが優秀な魔法使いや魔術騎士の子女が多かった。

 クラスの中で、高校編入組である祐巳の注目度は高かった。
 今年の総代。
 それだけでも注目されるのに、昨日紅薔薇のつぼみと手をつないでいた、という噂が既に一部で囁かれていたからだ。

「初めまして、 福沢祐巳です。リリアンは、小等部6年まで在籍していました。しばらく離れていたため、驚くことがたくさんありますが、頑張って慣れていこうと思っています。これから、よろしくお願いします」

 勢い良く、90度に頭を下げてから顔をあげると、クラス中から温かい眼差しで迎えられた。
 それに頬を緩ませた祐巳に、担任の渥美先生から声がかかる。
 外部入学なので気を使ってくれたのだろう。

「福沢さん、頑張ってお励みなさいね」

 クラス内でパチパチ、と拍手が起こる。基本的に優しい子羊ばかりなのだ。
 祐巳は、再度90度にお辞儀をし、照れたように笑った。



 お昼休み、昼食のためミルクホールに向かおうとした祐巳にクラスメイト数人から声がかかる。
「祐巳さん、わたしたちもミルクホールに行きますの。ご一緒しませんか?」
「わたくしたち、祐巳さんとお近づきになりたいの」

「うん!ありがとう。知り合いがいないんで寂しかったところなの。よろしくお願いします」
 と、答えて立ち上がろうとする祐巳の視線に、一人きりでお弁当を広げようとしている生徒が目にはいった。
 ふわふわとした髪で、横顔だけでも美少女であることが伺える。

「ねえ、彼女は?」
「ああ、志摩子さん?」
「志摩子さん?」
「ええ。藤堂志摩子さん。彼女がどうしたの。って、聞くまでもないかしら」

 祐巳の表情を見て、クラスメイトたちは苦笑を浮かべた。
「彼女、浮いているのよ」
「ちょっと、近づきがたい雰囲気があるのよね」
 その答えを聞いた瞬間、祐巳は志摩子のもとへ近づいていた。

「えへへ、良いかな?」
 えっ?という表情で祐巳を見上げる志摩子。

「一緒にお昼ご飯食べよう。一人は寂しいから」
「え・・・でも」
「ね、一緒に食べよう?一人で食べても美味しいかもしれないけど、みんなと食べたほうがもっと美味しいよ!」

 そう信じて疑わない、といった祐巳の表情。
 祐巳は知っていた。
 清子や祥子と別れたあと、修行の合間にたった一人で食べていたときの味気ない食事を。

 独りで食べる食事に、味なんてない。
 誰かと食べた料理は、とても美味しいものだ。

「・・・私が一緒で迷惑じゃない?」
「迷惑なわけないよ!だから、一緒に食べよう?」

 恐る恐る問いかけてきた志摩子に、祐巳は輝くほどに眩しい笑顔で頷いた。
 そんな祐巳に目を細め、志摩子も嬉しそうな笑顔を返した。

「ありがとう、祐巳さん」
「いいの。こっちだよ」
 祐巳は、2人のやり取りを見守ってくれていたクラスメイトたちの中に、志摩子を引っ張っていく。

「さぁ、ミルクホールへ出発〜!って、みなさんご案内をお願いします。」
 号令をかけた後、「あっ」、という表情を浮かべ、ぺこりと頭を下げる祐巳。
 先頭を切るのか後ろからついていくのか、わけのわからない号令をかける祐巳に、志摩子を始めクラスメイトたちは顔を見合わせて笑いあうのだった。



 リリアンの時間割は、午前中に一般教養である数学、国語、英語、社会系、理科系を終わらせ、午後には専門の教室や道場での実技指導が行われることになっている。

 実技指導は、剣術部門、弓道部門、格闘技部門、魔術部門の4つに分けられ、選択科目となっている。

 魔術部門だけは、個人面談と担任教師の推薦状により特に選ばれた生徒だけが受けられる攻撃魔法部門が存在し、実質5つに振り分けられる。
 なお、1年生の1学期には攻撃魔法部門はなく、2学期になってから選抜された生徒だけが在籍し、エリート教室として羨望を集めている。

 剣術部門は、両手剣、片手剣、大刀、2刀、短剣、なぎなた、棍棒、木刀、などを使用する。使用する武具の種類は多いが合同訓練であり、『武道場』での授業となる。

 弓道部門は、アーチェリー、弓、弩を基本とする。基本的に『弓道場』で活動が行われる。

 格闘技部門は、柔術、空手、小林拳、サンボ、など世界各地の体術がある。素手の格闘だけでなく、ナイフ、ヌンチャクなどの武器もあり、一部剣術部門と授業内容は重複する。基本的に『闘武場』での授業である。

 魔術部門はもっとも生徒が多く、専用道場が必要ないため、各クラスに魔法障壁を設けて授業が行われる。

 攻撃魔法部門は、校舎の地下に設けられており、徹底的なセキュリティ管理がされている。



 午後の時間割開始前、祐巳は志摩子と共に、剣術部門の武道場に向かっていた。

「祐巳さんは、剣術の心得があるの?」
「小学生の頃に半年ほど有馬道場に通っていたんだよ」
「あら、半年だけ?」
「うん。志摩子さんは?」
「わたしは、実家で父や兄に剣の修行を施していただいたの・・・
 うちの実家は、お寺なの。おかしいでしょ?リリアンにお寺の娘で、しかも剣術をしてるなんて」
「う〜ん、それを言ったら、わたしなんて巫女だしね〜。いいんじゃないの?」
「祐巳さんって巫女だったの?!」
「うん、山梨で3年ほど巫女の修行をしてたの」
「それで、外部入学なのね」
「えへへ、まぁ、そういうこと。あ、あれが武道場だね」

 武道場を見上げる祐巳と志摩子。
「すごい立派な武道場だね!」
「結界と魔法障壁が2重に張り巡らされているそうよ。覇気での攻撃を得意とする生徒も多いから、普通の建物ではすぐ壊れてしまうわ」
「なるほどね〜」

 リリアン高等部には従前からの武道場のほか、この新武道場の2つの武道場がある。
 新武道場は、祐巳が小学6年生のときに完成したもので、もちろん小笠原家の財力の支援の賜物である。
 余談であるが、リリアン中等部にも、高等部よりは規模が小さいものの、剣道場、弓道場、道場(格闘用)の各道場がそろっている。

 祐巳と志摩子が武道場の扉から中に入ると、正面右の天井近くの壁に水野蓉子の写真が飾られていた。
「あ、ロサ・キネンシス」
「ええ、各道場の壁には、現在その道場の最強の使い手が飾られているわ。
 剣術のトップは水野蓉子様、弓道場は鳥居江利子様、闘技場は佐藤聖様、攻撃魔法は小笠原祥子様がそれぞれ飾られているそうよ」
「祥子様、すごいんだねぇ。一人だけ2年生だ」
「そうね」

 祐巳と志摩子が雑談をしていると、予鈴が鳴り響いた。
「さ、整列しましょう」
 武道場に、各クラスから剣術を専攻した38名の新入生が並んだ。



 リリアン高等部の戦闘訓練は、1対1の訓練だけではなく、1対多、多対多、など、より実戦に即して行われる。
 実際の戦闘では、剣士、アーチャー、武闘家、魔術師などがチームを組み、複数の魔物との戦闘がおこなわれるのが通常だからである。
 一年生の間は、同種の専攻科目内での多対多の訓練が中心となり、異種科目の生徒との共同訓練は2年生時から行われることになっている。

 1年生1学期時の剣術部門は4人でチームを組み、多対多の訓練が中心となる。
 今回、1年剣術部門の教官である山村先生は、前に並んだ38名の生徒を4人ずつのチームを指名することになる。

 山村教官は最初に、4名×9チームの36名をAチームからIチームまで指名した。
 そして、残った2名の名前を読み上げる。
 「藤堂志摩子!」
 「はい!」
 「Jチーム。福沢祐巳!」
 「はい!」
 「Jチーム。以上2名は、2名1チームとする!」

 とたんに、武道場に静かな緊張が走る。
 さすがに武道場の中ではひそひそ声すら発せられないものの、不審気な雰囲気が覆う。
 (なぜ、この2人だけ人数が少ないの?)
 38名の視線が山村教官に向かう。
 チームの指名を終えた山村教官が、にこっと笑って一同を見渡した。
 「中等部主席だった藤堂志摩子、それに1年総代の福沢祐巳、この2人のチーム、・・・いやペアか、これを残り9チームで潰してみせなさい。それができたらチームの再編成を行う!」

 思わず、山村教官を睨み、次いで横の祐巳を見る志摩子。
 その視線を感じたのか、志摩子を微笑んで見返す祐巳。
「パートナー、よろしくね。がんばろ〜」
 まるで何も心配していないかのような祐巳に、
「はい、お願いします」 としか志摩子は言えなかった。



 まさに、圧倒。

 AチームvsBチーム、CチームvsDチーム、と5つの模擬戦闘が武道場で始まった。
 1年生とはいえ、そこはリリアンの生徒。
 どの生徒も、一癖も二癖もある使い手である。
 激烈なチーム戦が繰り広げられる中、IチームvsJチームの戦闘だけがあっけなく終わっていた。

 開始の合図とともに、正面の相手に突っ込んだ志摩子は気合と共に、模擬剣を斜めに切り上げる。
 正面の生徒はそれで手にしていた木刀を跳ね飛ばされ、続いて振り下ろされた模擬剣にショルダーパットを叩かれ蹲る。
 しかし志摩子はそれに気を緩めることもなく、振り向きながら模擬剣をまっすぐに突き出した。
 すぐ側で構えていた相手が、胸元に切っ先をもぐりこまされて悲鳴をあげる。
 ・・・その間わずかに2秒。

「なんだ、割とやるね〜。志摩子さん」
 のんきな声が聞こえる。志摩子は対戦相手の闘気がなくなったのを確認して、声の主に目を向けた。
 そして彼女は息を飲んだ。
 祐巳の横に2人の生徒が転がっている、というか祐巳に膝枕をされている。
「いや、倒れて頭を打ったらかわいそうだからね」
 打撃音も聞こえなかったのに、先ほどの一瞬で2人の生徒を気絶させていた祐巳。

「祐巳さん、何をしたの?」
「ん?うん、ちょっと覇気を送り込んだだけ。それより志摩子さん、これくらいの人数なら・・・」
 と、周囲で戦い続ける32人の生徒を見る。
「あなた一人で十分じゃない?」
「まさか」

 しかし目の前の、呼吸一つ乱していない少女なら、一人でそれくらい軽くこなしそうだ、と、なぜか確信を持つ志摩子だった。



 祐巳は、午後の剣術模擬訓練を終えたあと、帰りのホームルームと掃除を終え、薔薇の館に向かっていた。

 すると、目の前に虚ろ気な表情でゆっくり歩く聖を見かけた。

「ごきげんよう、ロサ・ギガンティア」
「ん?祐巳ちゃんか、ごきげんよう」
「あれ〜?何か考え事ですか?」

 とたんに、雰囲気を変える聖。
 ニカッ、と笑って、ばっ、と祐巳の横から祐巳の肩と、頭を抱きしめる。
 身長差があるので、小動物を襲う狼のようだ。

「ん〜〜、おねえさん、ちょっとセンチになってるの、慰めてほしいなぁ」
 ウリウリ、と、祐巳の頭に頬を擦りつける。

「ロサ・ギガンティア!!」 後ろから冷気の刃のような声がかかる。

「うちの妹であそばないでくださいますか!」 祥子である。

 腕の力が抜けた瞬間、パッと祐巳が聖の腕を抜け、祥子の背後に隠れる。

「祐巳も油断しないの! 聖様には気をつけなさい!」

 理不尽だ・・・。祐巳は世の無情を嘆いた。

「祐巳ちゃんが、かわいいからだよ〜ん。ほら二人とも、早く薔薇の館に行かないと面白いもの、見損ねるかもよ」
 聖は呆然と見つめる二人をあとにして、さっさと薔薇の館に駆けていった。
 ・・・この人の思考回路はどうなっているんだろう。ロサ・ギガンティア、気を抜けない人である。

 (それにしても、いま、回避できなかった・・・これもトリック?)
 祐巳は『トリック・スター』と言われる聖の動きに大いに興味を持った。
 でも、
「ごきげんよう、お姉さま」 とりあえず、本日最初のご挨拶。

「ごきげんよう、祐巳」 
 いきなり、祐巳の両肩を両腕でつかみ、ぐっと引き寄せる祥子。つまり、強制抱擁。

(え・・・・えええええぇぇぇ)

「お、お姉さま?」
「ふんっ、聖様の匂い、完全に消さないと気が治まらないわ」
 いやはや、清子さまだけではなく、祥子さまもパワーアップしていらっしゃるようです。



「お姉さま、今のロサ・ギガンティアの動き・・・」
 祐巳が祥子を振り仰いで見る。
「あぁ、あの方はね。『疾風』よ」
「『疾風』ですか?」
「ええ、今のリリアンでロサ・キネンシスに直接戦闘で勝てる可能性があるとしたら、あの方だけね」

 もちろん、お姉さま(ロサ・キネンシス=水野蓉子)が負けるなんて考えられないけどね、と祥子が誇らしげに笑う。

「ロサ・キネンシスのこと、信頼してるんですね。」
「もちろんよ。祐巳の次に信頼しているわ」
「あら、私は2番目?」

 急に横からかけられた声に驚きの表情を浮かべる祐巳。

「あ・・・、お姉さま!」 珍しくあたふたとする祥子。
「まぁ、いいわ。可愛い妹が出来たら、姉なんて・・・」
「そんなことはありません!わたしはお姉さまも大事です!」

 ぷっ、と噴出し、破顔一笑。
「冗談よ、ごきげんよう、祥子、祐巳ちゃん」
「ごきげんよう、ロサ・キネンシス」
「ごきげんよう、お姉さま、あの、これは・・・」

「うふふ、いいのよ、さぁ薔薇の館に行きましょう。きっと待ちくたびれてるはずよ」
 そう言って先頭に立ち、紅薔薇ファミリーの行進がはじまる。
 (まいったなぁ。聖さま、蓉子さま、二人とも気配を感じさせないなんて・・・山百合会、ほんとにすごい!)

 祐巳は、右手を祥子の左手に絡め、嬉しそうに歩き始めた。



 薔薇の館に紅薔薇姉妹が到着すると、すでに残りのメンバー全員が集まっていた。

 「「「ごきげんよう」」」

「ロサ・キネンシスが一番遅いだなんて珍しいじゃない?なにかあったの?」
 ロサ・フェティダ=鳥居江利子が不思議そうな顔で尋ねる。

「ええ、前日武蔵野郊外で発生した異空間のひずみのことでちょっと職員室に呼ばれてね。
 魔術騎士の方々がゲート操作装置で異空間自体は消滅させたんだけど、リリアンの生徒の通学路でもあるし、生徒に危害があったら大変なので対策を講じてくださるそうよ」

「ふ〜ん、こりゃ、生徒にも武器の携帯が許可されるかもしれないね」
「さすがに、銃火器は無理だと思うけど、木刀とか短剣程度なら護身用に許可されるかもしれない、とおっしゃっていたわ」
「面白くなってきたじゃない」

 三薔薇様は、異空間のこと程度では驚きもしない。
 さすがの、豪胆さである。

「ちょっと、不謹慎よ。異空間をふさぐときに、魔物が数体現われて戦闘になったの。
 直接戦闘要員だった方が3名怪我をされたわ。まぁヒールベリーを2,3個食べたら完治したそうだけど」

「じゃ、怪我のうちにも入らないじゃない」 と、聖。

「で、そんなことよりねぇ」 と、嬉しそうな江利子。

 『そんなこと』なのか。まったく、危機感がないというか、なんと言うか。

「あなたたちを待っていたのよ。さぁ、ご挨拶なさい」

「はい」 と、長身短髪の女生徒と、三つ編みの可憐な少女が江利子の横に並ぶ。

「昨日、私、支倉令と島津由乃はロザリオの授受を行い、正式に姉妹になりました。皆さまの指導をよろしくお願いいたします」
 二人は、並んで深々とお辞儀をする。

「「「おめでとう!!!」」」 残りの全員から拍手が起きる。

 (この2人が昨日はなしていた、ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンと、そのプティスールの方ね)
 祐巳もにこやかに拍手をしながらお辞儀をする二人を見つめていた。

「では、初顔合わせの人もいることだし、自己紹介をしましょうか」
 ロサ・キネンシスの一言で、自己紹介を兼ねたお茶会が始まる。

 祐巳は祥子と並んでお茶の準備にとりかかった。



 支倉令は、リリアンから徒歩10分ほどの近郊に、支倉道場を営む支倉家の一人娘。
 すでに道場主である父親から支倉一刀流免許皆伝を言い渡された、剣の達人、とのこと。
 支倉一刀流は、舞うような歩法で有名な古流実戦剣術である。

「まだ、剣道は2段なんだけどね」
 と、本人は謙遜するが、高校2年生では昇段規定の年齢制限で2段が最高位なのである。

「令の得意な武器は日本刀なのよ〜」 と、なぜか令の事になると自分の事以上に饒舌になる江利子。
 令のことが可愛くて可愛くて仕方がない、といった雰囲気である。

「令の刀、見たら驚くわよ。刃渡り3尺を超える超長刀。あんなの扱えるのは令くらいよね」
 妹自慢をはじめたら、際限がなさそうである。

 そして、島津由乃。
 支倉令の従妹。 家は支倉家と同じ庭を共有するまるで2世帯住宅のよう。
 この2人は生粋のリリアンっ娘であり、本当の姉妹のように育ったそうである。

 (可憐なお姫様と、それを守るナイトみたいだなぁ)
 と、二人を眺めている祐巳であるが、由乃の放つ怒りの「覇気」に気付く。
 (うわぁ、この人、覇気駄々漏れだよ〜。危ないなぁ)

 どうやら島津由乃は、江利子に自慢されるたびに恥ずかしそうに笑う令に怒っているようだ。

「由乃ちゃん、入学式は残念だったわね」
 と、蓉子から声がかかると、
「はい、心配かけてすみませんでした」 と、素直に頭を下げる。
 
 (うわぁ〜猫かぶりも一流だぁ)
 そんなことを祐巳が思っていると、

「ぷっ」と、後ろから噴出す声。
「祐巳ちゃん、意外性があってなかなかよろしい。百面相してたよ」
 祐巳の横から、聖が小さな声でささやく。
 思わず、真っ赤になってしまう祐巳であった。

 島津由乃は、中学3年生まで心臓に欠陥があり、しょっちゅう発作を起こしていたそうだ。
 しかし、中学の卒業式の日に、「高校に入学したら妹になってほしい」、と令に言われ、ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンの妹になるのなら心臓の欠陥を克服しなければ、と令にだまって心臓手術を受けたらしい。
 令としては、体の弱い由乃を自分が守る、そのために妹に、と意図しての告白だったが。

 由乃は、ただ、守られるだけの存在にはなりたくなかった。
 令とともに、令の横に立って、自分の足で歩いて行きたかったのだ。
 そのために、それまで怖がっていた手術を決意し、丈夫な体を手に入れようとした。
 さすがに、手術から3週間しか経過していないため、まだ万全の体調ではなく、興奮しすぎた入学式前夜に熱を出した、ということらしい。

「心臓の欠陥もなくなって丈夫な体を手に入れました。
 傷口も、もう平気です。痛みもありません。これから修業に励み、姉を支えることのできるよう努力します」

 由乃は最後に決意表明をして自己紹介を終えた。

 (強い人だな、うん、友だちになりたいな!)

 祐巳は自己紹介を終えた由乃に近づき、両手を包みこんで、
「由乃さん、これからもよろしくね!」
 と、元気に声をかけた。


bqex > ちょっと、ちょっと〜令さまより蓉子さまの方が剣術強くなっちゃったら、令さまの存在理由が調理師以外なくなっちゃうじゃないのよ〜!!(笑)←超失礼なやつ。ま、蓉子さま好きだから私はいいけど。←更に失礼なやつ。 (No.18941 2010-09-02 22:43:50)

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優しさに包まれてまた逢いましょう  No.3273  [メール]  [HomePage]
   作者:ex  投稿日:2010-08-31 14:12:38  (萌:0  笑:0  感:34
「マホ☆ユミ」シリーズ 第1部(過去編) 「清子様はおかあさま?」

【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【これ 第1部過去編 完】……【No:3257】

時系列は、祐巳の視点で
【No:3258】高校1年 と 幼稚舎
【No:3259】幼稚舎〜小学1年 
【No:3268】小学1年 と 高校1年
【No:3270】小学1年〜小学6年 
【No:3271】小学6年          
【これ 第1部過去編 完】小学6年〜高校入学直前 で、【No:3258】の前半部分につながります。

はるか先に【No:3257】 となります。

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



事故から3ヶ月、すでに4月になり、祥子は中学2年に進級していた。
その頃、ようやく清子が退院し、小笠原家に帰ってきた。

清子は車椅子を押す祥子に、祐巳の様子を尋ねる。
「祐巳は、事故のあとからずっとベッドにくくりつけられたままです。
 いったん眠りについても、すぐに悲鳴を上げて飛び起きます。
 いえ・・・最近は飛び起きる体力もないのか、わずかに体を動かすだけです。
 体も土気色で・・・わたしにはどうしていいか・・・うっ・・・・」

「そう・・・」清子も悲しげな顔で祥子を見つめる。
「でも、祐巳ちゃんを責めないで上げてね。こんな事故が起きてしまったのも、私の不注意のせいでもあるわ」
「おかあさまは、祐巳のことを・・・」
「えぇ、もちろん許しているわ。あなたと同じ、私の大事な娘ですもの」
「でも、どうすれば祐巳をもとにもどせるでしょうか?」
「そうね・・・
 もう、元どおり、というわけにはいかないわね。祐巳ちゃんはどんなことがあっても自分自身を責め続けるでしょう。いくらわたしやあなたが許す、って言ってもね」
「それでも・・・わたしは元の祐巳にもどってほしいんですっ!」
祥子は涙ながらに清子に訴える。
「私は、祐巳の笑顔が好きなの。いつも祐巳に見ていて欲しいんです。祐巳のそばにいたいの!」
「わかっているわ。私も同じだもの」
「私は、祐巳がいて良かったと思わない日なんて、一日もなかった!
 祐巳が初めて私に言葉を返してくれた時、祐巳が初めて私に抱きついてきてくれた時、この世の中で一番の幸せ者になったような気がしたんです!」
「わかったわ。なんとか祐巳ちゃんを目覚めさせないとね。
 だって、私たちにはもう、祐巳ちゃんのいない生活なんて、考えられないんだもの」

清子は、たった一人だけ祐巳を救えるかもしれない人物を思い描いていた。



清子は、これまでの事情を手紙にしたため、使者に託す。
使者の向かった先は、山梨の祝部神社。
ここの神主は日本最初の女性神主であり、浄階の位を持つ女性。
祐巳の曾祖母にして日本唯一のサイコ・ダイバーである。

祐巳の現状を切々と訴える手紙の内容を一読した老女は、留守の間のことを一切家中のものに指示し、その足で小笠原家を訪れることにした。

「おばばさま、ようこそいらしてくださいました」
深々と頭を下げる清子に老女は、
「なんの。そなたのほうがよほど辛かったじゃろう。さっそく祐巳にあわせて下さるかの?」
と、小笠原家についた早々、祐巳のもとに向かった。

祐巳の寝ているベッドの横に立った老女は、しばらく祐巳の額に手を当て瞑想していた。
「ふむ、これはよほど根が深い・・・かなり壊れておるようじゃ」

数分後、瞑想を解いた老女に清子は問いかける。
「おばばさま、祐巳は目覚めますでしょうか?」
「うむ、目覚めさせるだけならば、そう難しい話ではない・・・。
 じゃがな、このまま目覚めさせてどうする?このままだと、すぐに祐巳はまた壊れてしまう。それどころか、自ら命を絶ちかねん」
「では、どうすれば?」
「そうじゃの・・・わしに3年ほど預けてみんか?何とか自分の足で立てるようにはしてみせるがの」
「3年も・・・・。そんなに?」
「3年でも短いくらいじゃが・・・。それに祐巳を救うため、わしの言うことにはすべて従っていただく。よいの?」
「わかりました・・・。祐巳のためです。すべてお願いいたします」
もはや、他にすがるもののない清子は老女にすべてを委ねることしかできなかった。

「では・・・。ゆくぞ!」
老女は、祐巳の額に再度手をかざし、サイコ・ダイブを試みる。
祐巳の精神に入り込み、祐巳と対話をするのである。



暝い、暝い洞窟のような穴の中。
小さな少女が泣き叫んでいる。どう見ても5,6歳にしか見えない。
そばには、焼け爛れた女性の姿。
その女性にすがりつき、ひたすら謝り続ける少女。これが深層心理下の祐巳なのであろう。
「おかあさま・・・ごめんなさい・・。ごめんなさい、おかあさま・・・。ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

「祐巳」と、老女が呼びかける。
その声に、びくん、と震え振り返る少女。
「おばぁちゃん?だれ?」
「山梨のおばばじゃよ」
「おばばさま?」
「そうじゃ、祐巳、お前は許されんことをした」
「ひっ!」
ただでさえ泣きはらした顔を恐怖にゆがめ、幼い少女があとずさる。
「ゆみは、ゆみは、そんなつもりじゃなかったの!!」
「ゆみは、おかあさまに見て欲しかっただけなの〜!」

「そうじゃの。だから祐巳には罰をあたえる」
「え?」
とたんに、祐巳の顔色が変わる。
「ゆみ、罰をもらえるの?」
その顔に浮かぶのは喜び。
祐巳は、罰して欲しかったのだ。誰かにこの罪を裁いて欲しかった。
どのようにして清子に償えばよいかわからない祐巳は、ただただ断罪されることを願っていたのだ。

「お前に与える罰は4つじゃ」
「よ、よっつも・・・」急に情けない顔になる祐巳。
「まずは、このミサンガを風呂にはいるときも寝るときもつけておくのじゃ。これは、お前をとことん苦しめるじゃろう」
老女は、純白の刺繍糸で編みこまれたミサンガを取り出し、祐巳の手首に巻きつける。
とたんに、その場に這いつくばる祐巳。
「う・・うぁ・・体が重い。息が苦しい・・・」
「清子の苦しみはこの何倍もあったのじゃ!これくらい、耐えてみせい!」
「は・・・はい・・・。ありがとうございます、おばばさま」
祐巳は、どんなに苦しくても、これが償いになるのなら・・・と歯を食いしばった。

「2番目の罰は、『常に笑顔でいること』じゃ」
ふたたび、祐巳の顔に恐怖が浮かぶ。
「ゆみ、笑わなくちゃいけないの?」
「そうじゃ、お前が笑うたび、他のものはおまえを『恩知らず』だの『恥を知れ』だの言うじゃろう。
 それに、すべて笑顔で答えるのじゃ。おまえは笑顔を作るたび、こころに傷を負うじゃろう。
 それに耐えてみせよ」
「う・・うぅ・・ひどい・・・ひどいよ」
「ほら、笑うのじゃ!」
「わ・・・わかりました」
 どう見ても泣き顔であるが、祐巳は必死で笑顔を作った。

「3番目の罰は、『清子の教えを守ること』じゃ」
「おかあさまのおしえ?」
「清子は、祐巳に何を教えたのじゃ?」
「は・・・はい・・・。魔法を教えてくださいました」
「それだけかの?」
「あとは・・・守り、慈しみ、愛するこことを教えてくださいました。わたしは、いっぱい愛をいただいたのに・・・」
「そうじゃ、お前は清子に多くのことを教わった。それを無にするつもりか!
 教わったことをきちんと返すのが一番の恩返しとなぜ気づかんかったのじゃ!」
「は・・・はい!!教わったことを守っていきます!」

「よし、最後じゃ。これからわしと山梨に行く。そこで、修行をするのじゃ」
「え、おかあさまやおねえさまとは?」
「無論あえん。じゃがの、修行は辛いぞ。それに耐え抜いてこそ罰じゃ」
「わかりました・・・おばばさま、罰してくださってありがとうございます・・・」

祐巳の意識が急激に失われてゆく。



山梨のおばばがサイコ・ダイブを終え現実世界に返ったとき、深層心理下の祐巳の意識が無くなったことで、現実世界の祐巳が目を覚ました。

「おばばさま」
祐巳がかすかな声で呟く。
「ありがとうございます」
一言だけ感謝の言葉を呟いた後、祐巳は3ヶ月ぶりに安らかな眠りに落ちていった。

山梨のおばばは、傍で心配そうに見ていた清子に祐巳の深層心理下での出来事を事細かに伝えた。
そして、祐巳の体力が回復し次第、山梨へ旅立つことを告げた。

祐巳が山梨家と旅立つ朝、清子と祥子が見送りに出ていた。
「祐巳、きっと帰ってくるのよ。わたしはあなたを待っているわ」
「はい、おねえさま、きっと・・・」
「祐巳、体に気をつけてね・・・」清子はそれ以上言葉を告げることができなかった。
「はい、おかあさま、行って参ります」
「毎日、手紙を書くわ。祐巳、元気にしているのよ」
「はい・・・はい!おねえさま、ありがとうございます」
祐巳はおばばさまとの約束どおり、笑顔を祥子に向ける。
でも、どうしてもその顔は笑顔とは程遠いものだった。

こうして、祐巳は小笠原家を去り、辛く厳しい修行のため、山梨の祝部神社へと旅立っていった。

「祐巳は大丈夫でしょうか?帰ってくるでしょうか?」
「今は、山梨のおばばさまを信じましょう。祐巳は私の自慢の娘ですもの。きっと帰ってくるわ」

祥子と清子は祐巳の帰りを一日千秋の思いで待ち続けることになる。



 祐巳は、山梨に来てからは、地元の中学校に通いながら、神社の巫女として修行を続ける。

 おばばさまから手首に巻いて置くように言われたミサンガは「ランダマイザ(全ての身体能力半減)」の呪文が組み込まれたもので、普通に立って歩くだけで辛い。
 自分と同じ体重のものが頭に乗り、呼吸は半分しか出来ない。そんな状態に常時置かれるのだ。最初のうちは走るだけで死ぬかと思った。
 その状態で、巫女の修行だけでなく、掃除、薪割り、水汲み、など、すべての雑事をこなし、棒術、格闘術などの武術までも仕込まれていった。
 健全な精神は健全な肉体に宿る、と、精神と肉体の鍛錬は過酷を極めるものであった。

 祥子からは約束どおり、毎日手紙が送られてきた。
 清子も、祥子も、祐巳のことはとうに許していること、どれだけ祐巳を愛しているかということ、祐巳の体を心配していること、そんな優しさにあふれた手紙。
 祐巳は嬉しさと悔恨に涙を流したかった。
 でも、泣くことはおばばさまに罰として禁止されている。
 祐巳は心をずたずたにしながらも、笑顔を浮かべていた。



 祐巳が山梨の祝部神社に来てから3年の月日が流れ去ろうとしていた。
 その頃には、表面上は、以前の快活さを取り戻していた祐巳であった。
 ランダマイザを常にかけられている状態でも、普段どおりの生活が出来るまでに体力もついている。
 もともと素直な性格は、罰を負い、罪を償うことで癒されてきていた。
 清子の教え、『守り』、『慈しみ』、『愛する』こと。
 それを3年間必死に考え、たどり着いた答え。

 「山梨を去り、東京へ戻る。」

 さすがに、小笠原家へ戻るわけには行かないだろうが、祥子のそばで祥子を支えていきたい。
 清子に明るい顔を見せて安心させたい。
 どんなに傷つけられても跳ね返せるだけの強さを祐巳は身につけていた。

 3月になり、リリアンの編入試験が行われる。
 山梨を去る日が近づいていた。



 軽く真上に投げ上げたスポンジボールが、その軌道を上昇から下降に代えて目線の高さまでに舞い戻ってくる。
 握りこぶしほどの大きさしかないそれを、祐巳は杖を軽く握りながら静かに見据えていた。
 緩やかな風が吹き、スポンジボールの軌道が揺れる。

 スポンジボールは不規則な軌道を持って落下する。
 腰の高さを過ぎ、膝の高さまで来たとき・・・・・・初めて、祐巳は動いた。
 ほんの小さな動き。
 必要最低限の動作で、彼女は使い慣れた杖の石突きを軽く跳ね上げる。

 ポン、とかすかな音がした。
 スポンジボールが再び、祐巳の目線より高く弾かれる。
 僅かながらの時間をかけてまたしても落下してきたそれは、祐巳のほぼ同じ動作によって三度空に跳ばされる。
 祐巳が3年間も続けてきたその修行は、最初はテニスボールだった。
 次に硬式野球ボールになり、ただの石になった。
 そして現在はスポンジボール。
 軽くなれば簡単になる・・・わけではなく、風の影響を受け不規則に揺れるボールは硬式球や石よりもはるかに難度が上がる。
 今では、かすかな音しかぜず、不規則な軌道をもつスポンジボールを跳ね上げる行為は目をつぶってもできるようになっていた。

(これは何度目の懺悔だろう……?)
 ふと、そう思う。
 ポン、ポン、と単調な音はオルゴールのように繰り返し奏でられている。
(わたしは、永遠に懺悔し続けるんだろうな・・・)
 いつしか彼女は、スポンジボールを弾き上げながらその瞳を閉じていた。
 肌に感じる空気の揺れだけを頼りに、それでもボールは舞い上がる。
(苦しいよ・・・おねえさま・・・おかあさま・・・)

 ポーン、という音の感覚が長くなる。
 スポンジボールが始めたころよりも高い場所にまで跳ね上がっているからだ。
 ますます風の影響を受け不規則に揺れるボールであるが、不思議に落下点は同じ位置にくる。
 祐巳が風の動きすら先読みし、瞳を閉じたままでも同じ落下点に来るように弾き上げているのだ。
(最初から許していただいているのはわかっているんです・・・それでも・・・わたしは、わたしが許せないっ・・!)

 愛情のすべてをかけて愛してくれた清子さま。
 「『おかあさま』って呼んでくれると嬉しいわ」、と言って下さった清子さま。
 一つ魔法を身につけるたび、嬉しそうに微笑みながら
「祐巳ちゃん、よく頑張ったわ」
 そういって温かく抱きしめてくれた人・・・

(そんなおかあさまを、わたしはっ・・・!)
 胸中で自分を罵倒しながら、祐巳はスポンジボールを跳ね上げた後、杖をゆっくりと振りかぶった。
 神経の全てを周囲の気配に向ける。
 とくん、とくん、と耳に届くのは、他でもない己の鼓動。
(わたしは・・・・大馬鹿だ〜っ!)
 それは裂帛の気合。
 祐巳が自分自身を叩きつけ、切り捨てたいと思う自虐の刃・・・。
 風を切り、杖の細い先端がまっすぐに振り下ろされる。

 胸中で絶叫した祐巳は、杖を振り下ろした格好のまま目を開いた。
 闇に慣れていた瞳が、太陽の日差しに痛みを訴える。
 微かに浮かんだ涙をぬぐいながら、祐巳は自分の足元に転がる二つに割れたスポンジの破片を見下ろした。

 「ほう、そこまでできるようになったか」
 「おばばさま」
 横手からかけられた声に、祐巳は驚きもせずに顔を向けた。
 そこに彼女が居ることぐらい、ずいぶんと前から気付いていたのだ。

 「3年間頑張りましたからね。えらかったでしょ〜」
 お日様のような笑顔を老女に向ける祐巳。

 「そのわりに、心の中の泣き顔は隠しきれておらんようじゃの」
 「これくらいで、勘弁してよ」
 泣き笑いのような顔で答える祐巳。

 「もう、大杖夫かの・・・・」
 ふっ、と表情を和ませる老女。
 「はい、もう決心しました」
 決意をこめてうなずく祐巳。
 「では、これでお別れじゃ。もう帰ってくるのではないぞ」

 振り返らずに去っていく老女の姿を、いつまでも頭を下げて見送る祐巳の姿があった。



 リリアンの編入試験を受ける前日、祐巳は東京に帰ってきていた。
 向かう先は、小笠原家ではなく、福沢家。
 10年もの間、主のいない家であったが、清子の手配でいつでも住めるように管理されていた。

 「うん、今日からここで暮らそう。ありがとう、おかあさま!」
 「本当は、小笠原に帰ってきてほしいんだけど・・・」
 清子は、祐巳が帰ってきたら、小笠原家に再び迎えたいと思っていた。
 しかし、融や父親の立場、小笠原家を取り巻く関連の諸家のことを考えると、祐巳を同居させるのは困難だと判断した。
 もちろん、それは祐巳も十分に理解している。
 「えへへ、そこまでお手を煩わせるわけには行きませんよ〜。
 それに、こちらになら時々は遊びに来てください。えっと、一所懸命掃除しておきます!」
 ぺこり、と清子に頭を下げる祐巳。

 「それに、使用人の皆様を怖がらせるわけにいきませんですし。
 ほら、わたしって『切れたら危険な子』とかって思われてませんか?」
 それが、あながち嘘だ、とも言い切れないので、清子は苦笑を浮かべる。
 「仕方ない子ね。でも、帰ってきてくれて嬉しいわ」

 「それと、おねえさまにはこのこと、黙っておいてくださいね。おねえさま、強引だから拉致されちゃうかも」
 「そうか、その手があったわね。」
 「やめてくださいね・・・本気で怖いから」
 笑いあう清子と祐巳。

 祥子が、祐巳が別居することを知ったら、どんなに怒ることか、簡単に想像できてしまうだけに怖い。
 しかし、祥子が周囲の反対を押し切り、祐巳を強引に同居させる、などしてしまえば、それは単なるお嬢様のわがまま、しかも乱心としか受け取られかねなかった。

 「それと、おかあさま、もう一つお願いがあります」
 「なあに?」
 「おかあさまのこと、これからも二人だけの時だけでいいんです。『おかあさま』って呼ばせてください。
 もちろん、ほかの人たちがいるときは、『清子さま』って言いますけど・・・」
 清子は、祐巳の言葉に驚き、その成長を感じ取った。
 「これは、おばばさまに感謝しなければならないわね」
 「ええ」とにっこり微笑む祐巳。

 祐巳には、どんなときでも『おかあさま』と呼んでもらいたい。
 しかし、現在の状況を考えるとそれは許されないことだった。
 祐巳が山梨に去ったことで、小笠原グループはさらに一枚岩の結束を固くする、という状態になっていた。
 やはり、祐巳、という異分子を排除することが、小笠原グループの結束に必要だった、ということは否めない。

 祐巳はそのことを理解し、その上で清子のことをたとえ二人きりのときだけだとはいえ『おかあさま』と呼んでくれるというのだ。
 清子のことも、小笠原のことも考えて出した答え。
 「あなたは、本当に強くなったわ。でも辛くないの?」
 「そんなことないです」
 ゆっくりとかぶりを振りながら恥ずかしそうに笑う祐巳。

 「でも、祥子のことはどこにいても、『おねえさま』と呼んであげてちょうだい」
 「え、でも・・・さすがにそれ、難しいです」
 「あら、祥子があなたから『おねえさま』って呼ばれずになんて呼ばれるの?
 あの子のことだから、『祥子さま』なんて言ったら怒るわね。そうね、ハンカチを破るくらいじゃすまないわよ」
 「そうですね、おねえさまが怒ったら誰よりも怖いですもんね」
 祥子がヒステリーを起こしている姿なんて簡単に想像できるだけに怖い。
 
 「それに、あなたたち『婚約』してるじゃないの」
 「え・・・あ・・・う・・・・えっと・・・」
 (こんなところで、急に幼児期の勘違いを持ちださないでください・・・)

 「リリアンに入学してスールになれば、おねえさま、って呼べるわ。
 わたしたちは、それを楽しみにしていたのよ。
 それに、あなたが小笠原で同居しないことを、これから祥子に説得しなければならないのよ。わたしは。
 すこしくらい見返りをよこしなさい。覚悟を決めてね」
 (なんの見返りですか)
 祐巳は苦笑するしかなかった。
 どうも、清子はさらにパワーアップしているようだ。

 「はい、考えておきます。でも結論を出すのはおねえさまです。
 わたしは・・・おねえさまの口から直接おねえさまの気持ちを聞きたい」
 もう決まっているわ、と清子は笑う。
 その顔が余りにも自信にあふれていて、思わず祐巳も笑顔を返した。
 
 「ところで、編入試験は大丈夫なの?リリアンの編入試験は難しいわよ?」
 「えっと、以外に勉強は大丈夫です。これでも山梨の中学では主席だったんですよ。
 勉強しないと、おばばさまが怖くって」
 「あらあら、それは頼もしいわね」
 実は主席、などというものではなく、この1年間、満点以外の答案がない祐巳であった。

 「祐巳ちゃんが帰ってきてくれた、それだけで私は幸せよ。さぁ抱きしめさせて頂戴」
 「恥ずかしいですよ」 苦笑しながらも清子に抱きつく祐巳。
 「ほら、ね。わたしには祐巳ちゃんを抱きしめる腕が残っているわ」
 嬉しさに涙を流す清子に、祐巳は、ただぎゅっとしがみついた。

 そして、リリアンの入学式の午後、祐巳と祥子は再会することになる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき
 これまで拙い作品を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。
 これで、このシリーズの第1部(過去編)は終了です。
 途中、悲惨なシーンもありましたが、掲示OKでしたでしょうか?
 第1部は「マリみて」のSSでは珍しく清子さまをリスペクトした作品になりました。
 第2部は、その中盤に来る【No:3257】でもおわかりのとおり、バトル中心になります。
 当然、暴力的なシーンが増えますので、規約に沿うよう注意しつつ書き進めたいと思っています。
ex


レン > 更新早くて嬉しいです。続き楽しみにしてます! (No.18938 2010-08-31 20:10:44)
ex > コメントありがとうございます。第2部も書き進めたらできるだけ早めにアップを心がけますね。 (No.18939 2010-08-31 22:38:21)
素晴 > 第2部も楽しみにしています。願わくは大団円を。 (No.18942 2010-09-02 23:06:59)

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メロメロになる貴方と生きる未来光が射して  No.3272  [メール]  [HomePage]
   作者:星灯  投稿日:2010-08-31 01:42:29  (萌:7  笑:1  感:0
昨日も…… そう、特別でないただの一日だった。
だらだらと流れゆく日々は、私に何を与えてくれるのだろう。

そんな事を考えながら私は目を覚ます。


青空。


太陽に恋焦がれる小鳥が祝福する朝の時刻。
十重二十重に歌声が重なる限り、空はその青さを誇り続けるでしょう。


違。


日向の世界と日陰の私。
曖昧で不安定な感情が波となり、心を黒く染め上げて逝く。


鏡。


ゆらゆら揺れる、光の粒子、きらきら輝き、真実を写す。
氷解した違和感は不思議へと砕けて、その破片がちくちく刺激する。


――この世には不思議なことなど何も無いのだよ。


ふと思いだした言の葉は、現状を打ち破る為の棘を有する。

無知が謎を呼び、誤った認識が不思議を紡ぐ。
森羅万象、遍く出来事は起るべくして起るのだと言う。


そう、ネコミミとしっぽが生えてくるのも不思議なことでは無いのだと……


……って、そんなわけあるかーーーっ!!!






『メロメロになる×貴方と生きる未来×光が射して』






ごきげんよう、水野蓉子です。
朝起きたら、ネコミミとしっぽが生えていました。


……うぁお、これ動くわ。


ぴこぴこ…… ぴこぴこ…… ぴこぴこ……

触るとくすぐったい。
ふむ、どうやら本物みたいね。

ぴこぴこ…… ぴこぴこ…… ぴこぴこ……

うふふ、マリア様からのプレゼントかしら。

……いやいや、落ち着け私!
ネコミミ生やすのが趣味のマリア様なんて嫌でしょうに。

まぁ、ネコミミが生えてくるのに自然も不自然も無いんだけれども。
誰かが種を蒔いたと考えるのが、話が一番すっきりするかな。


どうせ、エロかデコがやったんだろうけどねっ!!!


あいつらどうしてくれようか…… それ以前に学校どうしようかな……


――ピンポーン


ん?

「ようこー! 聖ちゃんと江利子ちゃんが迎えに来てくれたわよ」

はい?


――ドタタタタッ! ガチャ


「「ごきげんよう」」

そこには、満面の笑みを浮かべるエロ薔薇とデコ薔薇が。
……●ねば良いのに。

「蓉子さんったらひどいわ」
「わざわざ迎えに来た親友にそんなこと言うなんて」

親友ならもっと親友らしくして欲しいものね。
それより、迎えに来てくれなんて頼んでないんですけど。

「あら、私達は好意で迎えに来たのよ」
「その格好じゃあ学校に行き辛いでしょうから」

このネコミミとしっぽ、やっぱりお前らのしわざなのかっ!?

「蓉子ったら、今頃気づいたの」ニヤニヤ
「とても良く似合っているわよ」ニヤニヤ

どうやって生やしたのかは怖いからあえて聞かない。
……どうしてこんな事をしたのかしら?

「「面白そうだから」」

……今日、私は学校を休みます。だから帰ってください。つーか帰れ。

「「そうはさせるかよっ!」」

いや、ちょ、離して、は な れ ろーーーっ!!!



☆★☆



「それは大変でしたね」

放課後、ユミちゃんと二人きりになる機会に恵まれた私は、
まるで厄払いをするかの様に、今日一日の出来事をユミちゃんに話した。

「今日の蓉子さまは、とても目立ちますから」

そう、この格好は非常に人目につく。
人々の視線は、ネコミミとしっぽを捕らえて離さない。

仮にも紅薔薇の名を継ぐ私は、人の発する視線に慣れているつもりだった。
……のだが、あそこまで好色な視線を受けたのは初めてに近い。

まさに貞操の危機だったと、今では思う。

マリア様のお庭に集いし乙女達が、そんなはしたない事する筈無い!
そう信じたかったのですが、どうしても無理でした。

主にエロとデコの所為で。

それに加えて、クラスメイト達の暴走も凄かった。
奴等、隙あらばネコミミ触る。しっぽを掴もうとスカート捲る。

正にやりたい放題。

リリアン乙女、マジ肉食系。

しかし彼女らだけを攻める訳にはいかない。
私もユミちゃん+ネコミミならば、襲わない自信を持てないだろうからね。

「ははは……」





とまぁ、そんな事を考えていた訳なのです。ユミちゃんの膝の上で。

疲れた心と身体を癒す魔法の膝枕。
ユミちゃんの太もも、柔らかくて気持ち良いわ〜。

「その言い方、聖さまにそっくりですよ」

あはは、まぁ硬いこと言わないで。
今日一日がんばった、私へのご褒美だと思ってね。

「もう…… そんなこと言われたら、断れないじゃないですか」

あら、断るつもりだったの?

「うふふ、さぁ」

まったく…… 最近のユミちゃんは焦らすわね。
あの、初心で照れ屋なツインテールっ娘はどこに行ったかしら?

「山百合色に染まったんですよ、きっと」

私の髪を撫でながらも、そう言って微笑むユミちゃん。
だけど、私の心はちくっと痛む。


……ねぇ、ユミちゃん 。あなた幸せ?


「はい?」

私の急な質問にびっくりするユミちゃん。
ネコミミを弄る手が、ふと止まる。

まぁ、こんなこといきなり尋ねられても…… 困るか。





ユミちゃんは山百合会のアイドルだ。
紅白黄問わず、誰からも愛され、そして弄られる。

だからこそ、彼女の毎日はとても激しい。
私が体験した今日一日の出来事、それが毎日起きていると言っても過言でない。


――辛い思いを我慢しているんじゃないか?


ユミちゃんを想うならば、もっと早く聞くべきだったのだろう。

だけど、私は聞けなかった。
今の関係が崩れてしまいそうで怖かった。

じゃあ何故今頃?

それはきっと、私とユミちゃんとを結ぶ「絆」という名の強さを得たから。





「うーん、そりゃ初めは戸惑いましたよ。でも……」

でも?

「幸せです」

む、随分きっぱりと言ってくれるわね。

「お姉さまがいて、志摩子さんに由乃さん、令さまに聖さまや江利子さまがいて……」

……私は?

「ふふ、もちろん蓉子さまもいます。だから……」


「だから私はとっても幸せです」


……ふ、ふふふっ あっはははは!!!

あーダメだコレ。完全に私の負けだ。悩むだけ無駄だったわ。

「???」

うん、ユミちゃんは凄いねって思っただけよ。

「よく分かりませんが、褒められているんですよね?」





結局は、私の不安をユミちゃんに投影していただけ。
当の本人は何処吹く風で、ただ真っ直ぐに健やかに伸びていく。

……そう、そうよね。

毎日がはちゃめちゃで騒がしい薔薇の館の住人達。
祥子がいて、聖と志摩子、江利子に令に由乃ちゃんがいる。


――なによりもユミちゃんがいる。


きっとそれは、とても幸せな事なのよね。
ならば、私も楽しむとしようか。

ゆっくりと激しく流れてゆく日々を。そう、特別でないただの一日を…….END

星灯 > 福沢家の人々様の作品に触発されて書きましタ。 (No.18929 2010-08-31 01:43:24)
bqex > 蓉子さまにネコ耳シッポとはけしからんもっとやれ! というか、続きお願いします(急に低姿勢)蓉子さまのシャーペンに頬ずりしちゃうさっちゃんがこの惨状にどうするかみたい。 (No.18930 2010-08-31 06:20:38)
徹りすがり > そしてネコミミとしっぽが生えた蓉子さまは第501統合戦闘航空団にスカウトされ(ry (No.18931 2010-08-31 07:53:17)
星灯 > コメントありがとうございます。一応続きは考えていまして、ネコミミ地獄の予定になっております。 (No.18932 2010-08-31 09:44:44)

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暴走少女憧れで見てるカタルシス  No.3271  [メール]  [HomePage]
   作者:ex  投稿日:2010-08-30 18:51:45  (萌:0  笑:0  感:30
「マホ☆ユミ」シリーズ 第1部(過去編) 「清子様はおかあさま?」

【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【これ】【No:3273】第1部過去編 完……【No:3257】

時系列は、祐巳の視点で
【No:3258】高校1年 と 幼稚舎
【No:3259】幼稚舎〜小学1年 
【No:3268】小学1年 と 高校1年
【No:3270】小学1年〜小学6年 
【No:3271】小学6年          
【No:3273】小学6年〜高校入学直前 第1部過去編 完で、【No:3258】の前半部分につながります。

はるか先に【No:3257】 となります。

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



午後3時をすぎ、パーティもお開きになろうかという頃になって、大人たちの間でも、祥子の天才ぶりが話題に上った。

「祥子さんの魔法は、とても高度なものだと聞いていますよ」
「さすが当代きっての魔法使い、清子様の一人娘、といったところですね」
「それは是非見てみたいものですな」
「祥子さんの魔法をうちの娘に見せてくださいませんこと?娘の向学心に火がつくかもしれませんし」

どうやら、パーティに参加した大人たちの興味も、祥子の魔法の才を確認することに移ったようである。

清子はあまり気が進まなかったが、ホステス側として客のリクエストには答えたい。
それに、華やかなパーティでお酒も入った状況であれば、断るような無粋な真似はできなかった。

融も自慢の娘を披露したいのか、清子に
「ちょっと余興が欲しかったところさ。祥子には、派手な魔法をするように頼むよ」
など、能天気な言葉をかける。

清子は、祥子に準備するように言い、二人で中庭の中央に進む。
小笠原家の中庭は100人程度の人数であればガーデニングパーティが出来るほど広い。

清子と祥子が20歩ほどの距離を置いて対峙する。
そのまま二人してゲストのほうに向かい、たおやかにお辞儀をした。

「これから、祥子の攻撃魔法をご覧に入れます。
わたくしがそれを防ぎますが、そちらに魔力の欠片が飛ぶかもしれませんので、ご注意してくださいね。
とくに、子供たち」
と、子供たちに向かい、「あまり前に出すぎないでくださいね」と、注意を与える。

「清子さんの防御魔法か」
「清子様なら、万が一にもこちらに影響があるようなことはないですわね」
「清子さんに、そんな注意をされるほど、祥子さんの魔法はすごいのかい?」
など、大人たちから口々に感想が述べられる。

「では、始め!」融の掛け声で清子と祥子の魔術ショーが開演した。



祥子が清子に向かって杖を振り上げる。
(まず、炎を生み出す、それを矢の形に圧縮、魔法陣の中心から高速射出)
イメージをつかみ、脳内で高速演算。魔方陣を生み出して放たれるその魔法。

「ファイヤー・アロー!」

祥子の呪文と共に、真っ赤に輝く炎の矢が一直線に清子に向かい・・・

「フレイムワール!」

清子の杖から生み出された炎の壁に衝突した瞬間、花火のようにはじけて消えた。

「わぁっ!」
「すごい、祥子さま!」
子供たちから声が上がる。

大人たちも、「ほぅ」といった顔をしているが、「ファイヤー・アロー」は基本的な攻撃魔法である。
ここに集まっている魔法使いであれば全員が使える魔法である。
ただし、この魔法を操ったのが中学一年生である、という事実だけが大人たちの関心を引いただけだった。

再度、祥子が杖を振り上げ、

「ファイアー・レイン!」

今度は、祥子の周囲に、縦5つ、横5つ、計25個の魔法陣が一斉に発生。
25本の矢が清子に向かって飛ぶ。

しかし、清子のフレイムワールの前に、再度花火となった。

「なんと・・・・」
今度は、大人たちが驚愕する。
「魔方陣の同時25個発生・・・とは!」
「なるほど、炎の発生から高速射出までをザブルーチン化し脳内でマクロを組んで25回の連続詠唱を一回で終わらせたのか!」
「そんな演算、中学生に出来るのか・・・」
「やはり天才・・。」
「しかし、それを簡単に防ぐ清子さん、さすがだな」

「すごい!すごい!おねえさま!!おかあさま!!」
ひときわ大きく祐巳が声援を送る。
祐巳は、今の一瞬で祥子がどれだけすごい演算をこなしたのかわかったのだ。
清子と祥子は祐巳のほうを向いてにこやかに笑い手を振った。

しかしその一方で、
(なによ、清子様を、おかあさまって!!)
(まるで、本当の娘のような振る舞いじゃないか)
むくむくとわきあがる、嫉妬の嵐。

大人たちはさすがに無言だが、子供たちはそうは行かない。

「ずうずうしいですわ」
「養ってもらっている分際で・・・」
「どうせなにもできない庶民の娘でしょ、そばにいるだけでも汚らわしいのに」
「もう見限られているのに、同情だけで住まわせていただいているんですわ。祥子さまお優しいですもの」

わざと、祐巳にだけは聞こえるように呟かれる悪意の刃。

急激に祐巳の顔から血の気が引いていく。

(おかあさまとお姉さまは本当の娘のように接してくれる!)
(わたしは愛されている!)
しかし、
(ほんとうなの?私にはこの1年間、呪文を教えてくれていない・・)
(今の魔法だって、見たことがない・・・)
(私は・・・私がお姉さまより出来が悪いから、もう私なんて要らないの?)

祐巳は不安に押しつぶされそうになった。
嫌な感情が後から後からあふれ出す・・・・



「では、最後の魔法です」と、祥子が告げ、再々度杖を振り上げる。

「お!」っと、周囲の視線が清子と祥子に集中する。

祥子の雰囲気が一瞬変わる。

それは周囲を圧倒するほどの集中。
祥子は心の中で魔導式を組み上げていく。

(出よ炎熱、ほとばしれ稲妻、炎は燃え盛り、稲妻は雷雲を貫け・・・・)
祥子の組立てている魔導式は、炎熱と雷撃の同時二重詠唱。
さらに、人外の力としか思えないほどの演算スピードで魔方陣を構築。

祥子の周囲に真紅の魔方陣と翠青の魔法陣が同時に出現し融合。

「ファイヤー・ボルト!」

巨大な一つの魔方陣に収縮したそれから、炎と雷を纏った一本の竜のような熱線が清子に襲い掛かった。

「セーフティ・ワールド!」

バリン!!とものすごい轟音。一瞬眼をそらさなければならないほどの閃光。

一流の魔法使いでなければ生み出されえない高位の合体呪文を祥子が放ち、それを清子の絶対防御呪文が防いだのだ。

融の、「派手に」のリクエストに答え、祥子は現在の自分の最高の魔法を放ったのだ。
もちろん、母親の清子には絶対防御呪文があるため、傷つける心配はしていなかった。

一瞬の静寂に包まれた中庭に、神々しいまでの”気”を纏った清子と、やり遂げた顔の祥子の姿があった。

一斉に拍手と歓声が湧き上がる。

しかし、その歓声に祐巳の声が無かった。

祐巳は、西園寺ゆかり、京極貴恵子、綾小路菊代の3人に取り囲まれていた。

「祐巳さんもおできになるのかしら?」
「清子おばさまの教えを受けているのなら当然おできになりますわよね?」
「見せていただきたいですわ」

3人は衆人環視の下に祐巳を引きずりだし、「出来ません」と泣く姿が見たかったのだ。

しかし、幸か不幸か祐巳は祥子のファイヤー・ボルトを見てしまった。
祐巳の天賦の才は、高位の合体呪文さえ「見ただけ」で構築・演算・展開まで理解させてしまった。

(おかあさま、おねえさま、わたしを見て!)
(わたし、がんばるから!わたしを捨てないで!)

祐巳は、心の不安を暴走させていた。
焼け付くように胸が痛い。
喉がカラカラになり、呼吸さえ苦しい。

祐巳は思わず、清子と祥子のもとに駆け寄り、
「おかあさま、わたしも魔法を使います。受けてください!!」と叫んだ。

「えっ。祐巳ちゃん!!!ちょっと待って!!」
しかし、その言葉は祐巳の耳に届かない。

パタパタ、と清子から距離をとり、杖をかざし、今見たばかりの呪文を唱える。

「ファイヤー・ボルト!」

祐巳の杖先に、真紅の魔方陣と翠青の魔法陣が同時に出現し融合していた。



祐巳が清子に向けファイヤー・ボルトを放った瞬間、清子はセーフティー・ワールドを全力で展開した。

祐巳は、自分の魔法がすべて祥子に劣っていると確信している。
祥子の魔法を防げる清子であれば、自分の魔法など簡単に防げると安心していた。
ただただ、自分を認めてもらいたい、その気持ちだけが先走り、魔法を放ってしまった。

祥子との魔術ショーで準備運動が出来ていたため、その絶対防御魔法は完璧に作動した。
しかし、清子はセーフティ・ワールドが突破されることを予感していた。

今日は、祐巳に和装をさせている。
そのため、いつもツインテールに纏めているリボンを祐巳はしていなかった。
祐巳の魔力を自動的に4分の1まで引き下げていたリボンがない。

祐巳の放ったファイヤー・ボルト。
それは、清子にとって絶望的な魔力の奔流だった。

バリン!!バキバキ!!ゴォォォォ・・・・・!!!

完全防御であるはずのセーフティ・ワールドが崩壊する。
絶対防御のシールドを突き破ったファイヤー・ボルトが、清子の下半身を襲う。

下半身を炎熱に包まれた清子はその場に崩れ落ち、悲鳴が小笠原家の中庭に響き渡った。

「おかあさま!!おかあさま!!」祥子が悲鳴を上げて清子に取りすがる。

「清子さん!!ええぇいぃ!ディアラハン!!!」来客の中から松平医師が飛び出し、回復呪文を唱える。

祐巳は・・・・・

自分の魔法で清子が倒れたのが見えた瞬間・・・・・

立ったまま気を失い、その場にくず折れた。



その場に高名な魔術医師がいたこと、祐巳自身が魔法を放つ際、無意識に体の中心ではなく、足元に狙いをずらしていたこともあり、清子は一命を取り留めていた。
しかし、退院まで3ヶ月以上を要する大怪我を負ったことに変わりはない。

しかも、高温度の複合呪文で体の組織を吹き飛ばされた下半身がそのままですむはずは無かった。

右足は、くるぶしから先の再生はついにかなわなかった。
左足はひざから下の自由が利かなくなり、車椅子での生活を余儀なくされることになった。

一方、祐巳はベッドで寝たきりの生活を送っていた。
一日中、うつろな瞳で天井の一点を見ている。
ときたま、悲鳴を上げて起き上がるが、その悲鳴は細く、かすかなもの。
真冬だというのに、大量の汗をかき、体はやせ衰え、まるで幽鬼のようになっていた。
肌につやはなく、すでに死相さえ見て取れた。

祐巳の精神の中で、繰り返し、繰り返し炎に焼け爛れる清子の姿があった。
それをしているのは祐巳自身。
祐巳は、幻覚の中の自分自身を殴り飛ばし、叩きつけ、壊し続けた。
そのたび、悲鳴を上げながらベッドの中で暴れ続けるため、拘束着を着せられ、ベッドにくくりつけられていた。

祥子も憔悴しきっていた。
最愛の母親が焼け爛れている。
しかも、その加害者はこれまで可愛がり続けていた祐巳である。
怒りの矛先をどこに向けることも出来ないまま、つらく厳しい看護を続けていた。



祥子の下に、見舞い客が訪れた。
従兄である柏木優と、松平医師の孫娘である松平瞳子。
二人とも、事故の現場と、その原因を知っていた。

祐巳に対する、子供たちの悪意ある言葉に、この二人は嫌悪感を持っていた。
松平瞳子は祥子を慕っており、祥子を「おねえさま」と呼ぶ祐巳に嫉妬をしていたが、西園寺ゆかり、京極貴恵子、綾小路菊代の3人から、自分自身もネチネチとした中傷を受けたこともあり、祐巳に同情の気持ちを抱いていた。

祥子は、優と瞳子から事情を聞き、祐巳の心の闇を知ることとなった。

(かわいそうな祐巳・・・。あなたのしたことは許せないことだけど、わたしもあなたのことをこの一年間ないがしろにしてきたわ。あなたも寂しかったのね・・・)

(でも、どうして私のことを信頼してくれなかったの?お母様のことを信頼してくれなかったの?
あなたを愛する気持ちは、どんなことがあっても絶対に揺るぎの無いものなのにっ!)

目覚めない祐巳に祥子の言葉は届かない。


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あなたに近づきたい私についてきて  No.3270  [メール]  [HomePage]
   作者:ex  投稿日:2010-08-29 09:46:47  (萌:7  笑:0  感:21
「マホ☆ユミ」シリーズ 第1部(過去編) 「清子様はおかあさま?」

【No:3258】【No:3259】【No:3268】【これ】【No:3271】【No:3273】第1部過去編 完……【No:3257】

時系列は、祐巳の視点で
【No:3258】高校1年 と 幼稚舎
【No:3259】幼稚舎〜小学1年 
【No:3268】小学1年 と 高校1年
【No:3270】小学1年〜小学6年 
【No:3271】小学6年          
【No:3273】小学6年〜高校入学直前 第1部過去編 完で、【No:3258】の前半部分につながります。

はるか先に【No:3257】 となります。

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 祥子とともに清子の魔法英才教育を受けることになった祐巳であるが、それをこころよく思わないもの達もいた。
 上流階級にありがちな、妬み、僻み。
 それを清子は何よりも恐れたのだ。
 そんな愚にもつかないことに祐巳を巻き込みたくは無かった。
 素直な祐巳の心が壊れないように。
 それが清子の願いであった。

祐巳が小学部へ上がってしばらく、清子は祥子と祐巳の教育方針を考えていた。

 母親である清子から見ても、祥子がたぐいまれな魔法使いの資質を持っていることは十分に見て取れた。
 その魔法は教科書どおりの正確さで、大人顔負けの精度を見せている。
 さらに、清子が教えてもいない発展を見せることもよくあった。
 まさに、「一を聞いて十を知る子」であった。

 いくら難易度の低い魔法とは言え、小学1年生にして「ルーモス」を正確に発生させることは難しい。
 祥子はさらに、そこにアレンジを加え「ルーモス・バルーン」の魔法を生み出した。
こんな、発展を考えるなどということは思考の柔軟性とともに、高い演算力とそもそも基本的な魔力の高さが必要である。
天賦の才を祥子は持っていた。



 清子は祥子と祐巳の魔法教育に当たり、まず祥子に教えることにした。
 自然に祥子と二人きりとなる時間を作り、祐巳には魔道式の構築、演算、展開を見せないようにして。
 祥子がその魔法を使いこなせるようになると、祥子に祐巳を教えるように。

 祐巳は、祥子から魔法の手ほどきをうけ、それを清子がそばで見守る。
 直接清子から魔法を教えるのではなく、祥子を通じて教えるようにしたのだ。

 これは、祥子より先に祐巳が魔法を覚えないように。
 祥子のプライドを傷つけないように。
 祐巳が祥子を敬い、祥子が祐巳を導いていけるように。

 祥子より、一歩引いた位置に祐巳を立たせること。
 そうすることが、祐巳を疎ましく思っている外部の目から守るために必要なことだった。
 ましてや、祥子が祐巳を疎ましく思うようなことだけは絶対にしてはならないことであった。



 祥子が新たに覚えた魔法を祐巳に見せる。

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」
 祐巳のまわりを、タヌキのぬいぐるみがくるくる廻りながら飛び回る。

「うわ〜、おねえさま、すごい!」
 素直な祐巳は、祥子に尊敬と憧れのまなざしを向ける。

「オーキデウス!」
 祥子の呪文が終わると同時に、杖先に可憐な花が咲いた。

「きれい!おねえさま、もっと!」
 祐巳の驚いたような、はしゃいだ声に、祥子が「うん・・・」と少し考える。
 そして
「オーキデウス・ブーケット!」
 結婚式で花嫁が持つようなブーケが祐巳の手の中にポトンと落ちた。

「すご〜い!それにいいにおい!」
 祐巳は単純に喜んでいるが、清子は「また・・。」と驚かされる。

 杖先に花を咲かせる呪文は教えたが、花束を生み出す呪文なんて教えても居ない。
 それを、少し考えただけで何の気なしにこなしてしまう祥子の才に改めて感心する。

「じゃ、祐巳も練習よ」
 祥子が、祐巳の指導に入る。

「最初は、「ウィンガーディアム・レビオーサ」よ。これは浮遊呪文っていうの。
 ものを浮かせて、自由に操るの。
 まずは、このぬいぐるみから練習しましょう。
 ぬいぐるみは、布と綿からできているでしょう・・・・・」

祥子は教え方が上手かった。
 自分自身が覚え、使いこなした呪文をわかりやすく祐巳に解説する。
 祐巳も、間もなく祥子に追いつくように呪文を覚えていくが、なにせ力量が違う。
 祥子が大きなぬいぐるみを浮き上がらせても、祐巳は小さなぬいぐるみを浮き上がらせるのがやっとだった。

それは、清子の施した、祐巳の魔力を4分の1に抑える「マカンダ」の影響。
 実際には祥子を上回る力を発揮している祐巳であるが、
「えへへ、おねえさまにはかなわないや」
 と、姉を憧憬の瞳で見つめる姿は、仲の良い姉妹そのものだった。



6年の年月が流れ、祥子が中等部へ進学し、祐巳は小等部6年生になっていた。

 その頃には、祥子は清子の教える攻撃系呪文を除くほとんどの呪文を身につけていた。
 もちろん、祥子から同じ呪文を習っていた祐巳も同様である。
 攻撃系を除く呪文すべて、といってもその種類は多岐にわたり、通常の魔法使いでは一生かかってもその10分の1も使いこなせるかどうか、ということにもかかわらず、である。
 それをわずか、12歳と11歳の子が成し遂げる、という快挙であった。

攻撃系呪文は、いわば破壊の呪文である。
 炎熱系、氷結系、衝撃系など、様々な種類があるが、破壊を行うことに他ならない。
 魔物やモンスターと戦うためには必須の攻撃呪文であるが、攻撃系であるということはその分危険性が高い。
 なにより、ものを大事にするように躾けられている子供に「壊す」、ということを教えるのは大人としても抵抗がある。
 それに、破壊衝動に魅入られてしまうと、人間に対してまでその力を振るいかねない。
 相手を傷つけるという実感も、罪科さえも感じずに、ただただ公式の演算がうまくなり展開の技術に喜びを見出すこともある。
子供とは、無垢で残忍なものである。
 何がきっかけで、他人に対し危険な魔法を使ってしまうかもしれない。
 それを恐れ、通常は、高校生以上になり、心の正しいと認められたものにしか攻撃系呪文は教えてはならないこととされていた。



 清子は、祥子が品行方正で、礼儀正しく、正義感にあふれ、潔癖症に育ったことに満足していた。
 そんな、祥子に清子は絶対の信頼を置いていた。

 もちろん、清子の指導・躾のたまものでもあるが、なにより、そばで見ている祐巳の存在が大きかった。
「祐巳に恥ずかしくない姉になりたい、
 祐巳に常に尊敬し続けられる姉になりたい」との思いが、祥子をここまで成長させていた。

「祥子なら大丈夫」
 その確信があったからこそ、清子は祥子の中等部入学と同時に攻撃系呪文を授けることにした。
 ただし、祐巳にはその講義風景は一切眼に触れないようにした。

 祐巳の才能は、祥子に一歩劣っているように周囲には見えている。
 使える魔法の種類は同じでも、パワーが違う、と思われていた。
 しかし、それはあくまで魔力値だけの問題。実際には4分の1しか発揮できていないのだから。

 祐巳は、一度見ただけの魔法をその場で理解することができた。
 その覚える速度は異常。つかいこなす能力も異常であった。
 本人はそのすごさに気づいていないが。
 「天才」とすでに周囲に認知されている祥子ですら、祐巳の覚えの早さには舌を巻いていた。

(祐巳が攻撃魔法を見たら、その瞬間に使いこなすことが出来るだろう)
 そのことを一番危惧していたのが清子であった。



祥子が中等部へ進学してから、祥子が祐巳に魔法を教えることがなくなっていた。
 攻撃系呪文を祐巳に教えることは清子に禁止されているので仕方ないことであったが。

 なによりも、中学生と小学生では時間割が違いすぎる。
 クラブ活動や、習い事の数が増えていった祥子と祐巳では自由になる時間が違いすぎた。

 暇をもてあました祐巳を見て、清子は考えていた。
(攻撃魔法以外は覚えてしまったし・・・あとは体力をつけるのも大事かもね)

そこで、清子は祐巳に
「祐巳ちゃん、なにか習い事をしてみる?水泳でも、剣道でもなんでもいいのだけれど?」
 と、何気なく問いかけてみた。

祐巳はしばらく考えていたが、先日見た時代劇を思い出していた。
「おかあさま、祐巳、剣道を習いたい」

清子は、かつての融も通っていた、都内最古といわれる有馬道場に祐巳を通わせることにした。
 剣道で精神力と体力を鍛えることも大事なこと。
 祐巳はおっとりしている性格なので武術には向かないかも、と清子は思いながら、祐巳が魔法以外に興味を持つことはいいことだと思っていた。

「祐巳ちゃん、剣道は楽しい?」
 祐巳が有馬道場に通い始めてしばらく後、清子は祐巳に尋ねてみた。

「はい、とても楽しいです。でも、対戦相手の竹刀が当たると痛そうなのが、ちょっと嫌です」
「あらあら。打たれるのは嫌ねぇ」
「はい、だから打たれそうになるとすぐによけちゃいます」
「よけてるだけでは、勝負にならないのではなくって?」
「はい、だから打たれる前に対戦相手の胴を払って勝つ様にしてます。負けるのは嫌だもの」
「まぁ、祥子みたいな負けず嫌いさんね」
「えへへ、わたしだって、おねえさまに負けないよう頑張ります。」

清子は、祐巳が剣道を楽しみ、日々体力が向上していくさまを見て満足していた。

「祐巳は武術向きではない」 その思い込みで、清子は油断していた。
 そのため、祐巳が剣道の基礎練習から進んだときから、練習風景を見ることはなかった。

 だが、その清子の「思い込み」は大きく覆される。

とにかく、祐巳の動きは尋常ではない。

 祐巳に向かう竹刀は、祐巳を捕らえることが出来ない。

 すべて、「わっ」「怖いっ」「嫌っ」と、聞いている分には情けない言葉を叫びながらよける。

 対戦相手は、祐巳の声に最初はがっくりとなるが、すぐにその顔に焦りが浮かぶ。
 とにかく当たらない。
 なんだ、こいつは。
 小さな体で、ちょこまかと動きやがって・・・。

 と、いつの間にか脇をすり抜け、抜胴を払われている。
 では、と竹刀をはじき、下がった小手を叩こうとする。
 すると、さらりと巻き落としで竹刀を叩き落とされてしまう。
「柳に風」、無段の祐巳に有段者が翻弄されている。
 半年もしないうちに、有馬道場に通っていた道場屈指の強豪である田中姉妹の長女ですら祐巳の敵ではなくなっていた。

 祐巳の剣術は、先読みによる相手の攻撃を避けることと、瞬間の高速移動によるカウンターである。
 有馬流剣術の奥義である、「瞬歩」を教えわってもいないのに、ほぼ同じ動きをする。
 相手の打ち込みと同時に、脇を駆け抜け、抜胴を放つ。
 決して相手を叩きのめす力の剣術ではない。
 あえて胴しか狙わないのも、胴が防具の中で一番強いから。
 相手の痛がる顔を祐巳は見たくなかった。
 抜胴と、巻き落とししか攻撃手段を持たないのに、スピードと先読みの力だけで有段者すら凌駕して見せた祐巳であった。

 ただし・・・祐巳自身は逃げ回っている時間のほうが多いので、自分自身が強い、とはまったく思っていなかった。



祥子が中学1年、祐巳が小学6年の元旦。
 小笠原家は華やかな雰囲気に包まれていた。

 清子と融の結婚15周年、ということもあったが、この年は
対魔訓練施設の落成、魔障療養病院の新築、
5年前から収集を急いできた薔薇十字の全10本の集結、
 と、次々に清子が心血を注いできた成果が現れた年でもあった。

 この祝いも含め、久々に小笠原関連の名家が集まり、元旦パーティが開かれていた。
 冬のさなかであったが、小春日和の心地いい日であった。

祐巳は、この日の朝起こされると、小笠原の館に隣接する『中書院』に連れて行かれた。
 『中書院』の座敷を回り込み、 入側縁の突き当たりの『鳳凰の間』に入る。
 そこには黒漆に金で雅やかな秋草の蒔絵が施された、揃いの衣桁と衣装盆それに姿見が置いてあり、 祐巳の和装一式が用意してあった

それは、清子が祐巳のために準備した着物。
 清子が若い頃好んで着ていた加賀友禅の逸品である。
 色は加賀五彩といわれる、蘇芳、黄土、藍、緑、墨を基調としており、豪華で精緻な格調高い中振袖。
 それに紅地に蜀江錦の袋帯。
 髪飾りは縮緬の押絵による椿の花。
全体として華やかで可愛らしい中にも少し落ち着いた感じにまとめてある。

 清子は愛しそうに衣桁にかかった着物を撫でながら、
「私が若い頃のお気に入りだった着物よ。もう古い物だけれど、祐巳ちゃんが着てくれたら嬉しいわ」
「すごい!素敵です。でも、こんな豪華な着物、私に似合うでしょうか?」
「もちろん、似合うに決まっているわ。着付けと、髪結がすんだら本館にもどっていらっしゃい」

 祐巳の支度をメイドに任せ、清子は来客の対応の準備のため、本館に戻っていった。



 小笠原家の本館には、柏木家、松平家などの親戚筋のほか、京極家、西園寺家、綾小路家、有栖川家などの名家も揃ってきていた。

清子と祥子はホステス側として、来客の対応を行っていた。
年始の挨拶とお祝いに、にこやかに応接をしていく。
 祥子も昨年までは小学生だったため、パーティに出席することは無かったが、中学生になった4月以降、度々このようなパーティに参加していた。
 本来なら、まだ小学生である祐巳はパーティに出席させないつもりであったが、自宅でのパーティであり、参加者が親族関係ということもあって、今年中学に進学する祐巳の披露も兼ねて、出席させることにしたのだ。

 祥子の周囲には、同年代の柏木優、松平瞳子、西園寺ゆかり、京極貴恵子、綾小路菊代などの子供たちが集まり、歓談していた。

「祥子おねえさま、聞きましたわよ。もう魔法全般履修なさったとか」
「そうそう、すでに攻撃系魔法も学習なさっていらっしゃるのでしょう?」
「本当かい?まいったなぁ、僕なんてさっちゃんより年上なのに、攻撃呪文はまだ早い、って言われてるんだよ」
「祥子おねえさま、素晴らしいですわ」
「ぜひ、拝見させていただきたいですわ」

 子供たちの関心は、祥子の攻撃系呪文にあるようだった。
 自分たちのはるか高みを行く祥子への羨望、嫉妬、憧憬、様々な感情をそれぞれの子供が持っていた。

 それぞれ名家の子息である、というプライドと、小笠原家に対する微妙な親の感情に敏感な子供たちばかりである。

そして・・・・
「おねえさま」
 と、豪華な加賀友禅に身を包んだ祐巳が、祥子に近づいたとき、その嫉妬の感情が子供たちの間にひそかに広がっていった。

「まぁ、祐巳、とっても綺麗よ」
祥子の花も綻ぶ満開の笑顔を向けられた祐巳を嫉妬の眼で見る周囲の子供たち。

この瞬間、祐巳は子供たち共通の敵と認識されることになった。


bqex > リンクありがとうございます。読み手としてはリンクがあると嬉しいのですが、書き手としては長期シリーズですとちょっと手間でしたね。お手数掛けて申し訳ありません。 (No.18927 2010-08-29 22:34:22)
ex > とんでもありません、助かりました。話の続きをリンク無しで説明するのが大変で心が折れてしまいそうでしたから。ありがとうございました。 (No.18928 2010-08-29 22:53:25)
素晴 > どきどき。続きを読むのが怖くなってきました。だって祐巳ちゃん今おそらくアレでしょその状態でうわあああ、と悶えています。もちろんすぐ次読むんですけどね (No.18940 2010-09-02 22:39:58)

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ごくごく普通の降って湧いた未曾有の大事件  No.3269  [メール]  [HomePage]
   作者:エクメネ  投稿日:2010-08-29 02:11:02  (萌:4  笑:14  感:0

「由乃さんの乃は〜、乃梨子ちゃんの乃〜♪」

それは、あまりにも唐突で、予想すらつかない出来事でした。
乃梨子が放課後も早よから鼻歌を歌いたいと思うほどの機嫌の良さで、薔薇の館の二階の扉の前に辿り着いた時のことです。
自分が一番と思っていたのですが、中から物音がします。
どうやら先客がいたようです。
誰だろう、志摩子さんだったら嬉しいな。と少しドキドキしながら、扉を開けた矢先に、その歌が乃梨子の耳に飛び込んできたのです。
「ごきげんよう」の挨拶も、部屋の中に身体を入れるのも忘れて、ただ乃梨子は呆然としながらその鼻歌の歌い主を見つめていました。

「祐巳のYは〜蓉子さまのY〜♪ もう一つついでに由乃さんのY〜♪」

シンクに立って、皆のコップを用意し、やたらと丁寧にシンクを洗いながら気持ちよく歌っていらっしゃるのは、我らが山百合会幹部、紅薔薇の蕾。
もはや天然を通り越してちょっとアフォなのではないか、とちらりと疑ってしまった。
いや、さすがに祐巳さまと雖もアフォなわけはない。ただ、少々抜けているだけだ。
などと随分失礼なことを乃梨子が考えている間も、祐巳さまは小さく腰を振りながら、歌うのを止めない。

「聖さま〜祥子さま〜志摩子さんのS♪ 乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんは仲良しさん♪」

なんちゅー歌だ。ぼへっとそんなことを考えていた乃梨子はふと気付いた。
私はどうすれば良いのだろうか?
とりあえず見なかったことにして、隠密の如く静かにかつ速やかに扉を閉めてもう一度出直すか。
それとも、キリの良いところで今入って来ましたなノリで爽やかに挨拶しながら入室を果たすか。
さあ、時間はもうあまりないぞ。いつ振り向くかも知れない。決断の時だ、乃梨子。
自分にそう言い聞かせて、乃梨子はしかし答えを先延ばしにした。
何だか、見なければ損な気がしてきたからだ。いくら祐巳さまがぼけぼけでも、実際にその場面に出会うことはそう無い。

「およ? これは…」

ん? どうしました? 祐巳さまは不可思議な行動をとった。
流しに顔を近づけて、そして…。

「◎×▽*%#=□¥!!!!!!!!!!」

乃梨子の耳をつんざくような奇声を発して、そしてそのまま気を失われ遊ばされた。
そのわりに随分ふんわりと頭を打たないよう床に横たわられた気がするけれど。
まあ、さすが、とだけ言っておくとして。
問題は、祐巳さまが何に対してそんなことになってしまったのかだ。
乃梨子はさすがにぼうっとしているわけにいかず、部屋の中に大人しく入った。
部屋の中には当然、乃梨子と祐巳さましかいない。
とりあえず鞄を椅子の上に置いてから、祐巳さまが倒れているシンクの方へ向かった。
あまり良い気はしない。まさかの予感がひしひしとしている。
さて、今、乃梨子は流しの前に立っている。蛇口からは申し訳程度に水が流れていたのを止める。
流しを覗き込む。何もない。何も。否、ポットだ。ポットがある。
そういえば、ポットを洗おうとしていたっけか。
きっと祐巳さまは、このポットの中を見てこうなったのだ。見たくない。見てはいけない。そんな気がする。
ごくり、と咽喉が鳴る。
と、いうか。なんか、もうわかってしまった。
それでも!! 乃梨子はなけなしの勇気を振り絞って、遂にその中を覗き込んだ。
ああ、やっぱり……。くそう、わたしのお馬鹿……。
そうして、乃梨子は薄れゆく意識の中、頭を打ったりしないよう、ゆっくりと倒れていった。祐巳さまの上に。



「え?」

志摩子が部屋の扉を開け、中の光景を見た時の一言目。
由乃さんと一緒に薔薇の館に来た。
そして、見てしまった。
信じたくない。何をしているの?
志摩子も由乃さんも、固まってしまって動けなかった。
まさか。
祐巳さんと乃梨子が、白昼堂々と、いえ、乃梨子が祐巳さんに乗り掛かって、その、接吻をしている。

「ちょ…ちょっと、あなたたち何してんのよっ!!」

志摩子よりも早く立ち直った由乃さんが二人に近づいていく。
由乃さんはキスしたまま動かない二人に激怒した様子で、何かを叫んで…でもそれを聞き終わる前に志摩子の意識は途絶えた。


ばた。後ろから派手な物音が聞こえて振り返れば、志摩子さんが倒れていた。
無理もない。こんなものを見てしまったら…。
もう一度、前を見てみる。この二人は!
未だに止めようとしない二人に、由乃の怒りのボルテージが最高潮に達しようとして。
そして、一気に下がった。
よく見てみれば、二人の顔の位置が微妙にずれている。近くで見れば何の事は無い、変なことはしていなかったのだ。
ということはだ、さっきから微動だにしないこの二人は。
由乃は、一度深呼吸をして、部屋の状況をよくよく観察した。
由乃の中で全てが一本に繋がった。

「なるほどね」

シンクの前で重なるように倒れている二人。流しの中にぽつんと取り残されたポット。
それに背後で倒れている志摩子さん。は今はどうでもいいんだけど。

「謎は全てまるっとお見通し的に解けた。ばっちゃん(:江利子)の名にかけて」

名探偵さながらの口ぶりで、誰も聞いていないのに、由乃は語りだした。



「つまり、この事件はいくつもの要因が積み重なって起きた悲劇といえるわ」

誰も聞いていない、薔薇の館の一室で、由乃は雄弁に、喋る。

「そう、この事件の全ての発端は志摩子さんだったのよ。彼女こそが、この事件の真犯人だったの」

由乃は、いまだに扉の前で寝転がっている彼女を指差す。犯人はお前だ。そう言わんばかりに。

「彼女は恐らく、気付けなかったのよ。そして、何より抜けていたの。あまりにも考え無しだったといえるわ」

部屋の窓を開け放つ。新鮮な空気がとてもおいしい。

「第一の被害者は、現場の状況からいってまず間違いなく祐巳さん。悲劇は続く。乃梨子ちゃんもまた、志摩子さんの悪辣な罠にかかってしまった……」

シンクの前で重なり合う二人を一瞥し、由乃もまた、シンクの前に向かう。

「そう…。この、ポット。……志摩子さんの遺した全ての元凶……どうしてこんなことに…」

由乃が嫌々ながら、ポットの中を確認しようとしたその時、更なる悲劇が生まれた。
乃梨子ちゃんの重みのせいか、祐巳さんが寝返りを打とうとしたのだろう、きっと。其の時、なんと祐巳さんの足が由乃の足を払った。

「ちょ、おまっ」

足を払われた由乃は当然、体勢を崩す。ポットを持ったまま。由乃は後ろ向きにそのまま倒れていった。
そのついでにポットの中身も由乃の顔に降りかかった。
そして、由乃は動かなくなった。



「ごきげんぅわっ!!」

扉を開けた矢先に右足が何か大きなものに躓いた。
転ばないように咄嗟に出した左足も、その大きなものを踏んでしまい、しかも微妙に柔らかくへこんだ。故に、令はそれこそ盛大に転んだ。
もっとも、そのときに「っ!!」と声にもならない声をあげて限りなく本当に黄泉への旅路に出かけた人物がいたが、令はそれどころではなかった。
人よりも優れた運動能力も無駄だった。それでも令は、転ばぬ先の杖よろしく、腕をばんと前に着こうとしてそこにも何かがあるのに気付く。
人の顔!! 由乃!! 周りに転がる何か!!
ついた両手が何かを潰す。足が完全に取られているため、令の顔はそれこそ由乃とキスしそうなほどに近づく。
それを剣道で培った凄まじい精神力と集中力、腕力、あらゆる力を使って全力で留める。(ついでに理性も)
腕立てのような変な体勢ながら、令はほっと一息ついた。何が何だか。
状況を整理しようと、令は顔面の下にある由乃の顔を見る。何か、濡れている…。

「んま゛ぁ!!!」

そのとき、冷静になった令の鼻腔を猛烈な何かが穿った。
あまりの衝撃に腕の力が一瞬抜ける。同時に、掌がその中で潰れた何かのために滑った。
再び近づく由乃の顔!!でも何か濡れている!!
ピカチュウ。令は逝った。色々な意味で。



その日、祥子は機嫌が悪かった。理由はもちろんないわけでもないが、敢えて言うならば、運が悪かったということだろうか。
だからこそ、怒りを発散できていないともいえる。

「まったく、とんだ災難だわ…」

薔薇の館に向かう途中で、靴に鳥のフンがかかってしまったのだ。
その処理に少し時間も取られた。
大人気ないとは解っていても、どうしようもなく腹立たしい。
こうなったら、可愛い妹でも観賞して鬱憤を晴らすしかない、そう思いながら薔薇の館の階段を上る。
いつもだったら少しは物音やら話し声やら、気配がしてもおかしくないが、その異変に祥子が気づくはずもなく、祥子は何の警戒もせずに、
先の犠牲者よろしく、勢いよく扉を開け放った!

「ごきげんよおっ!!?」

勇んで足を踏み出していたためか、何かに思い切り躓いた。
転ばぬ先の杖よろしく、祥子はすぐに余った右足を踏み出すが、高さが足りなかったようでその足まで躓いてしまう。
そして勢いのままに祥子の身体は前方に倒れこんだ。
もっとも、そのときに「っ!!」と声にもならない声をあげて今度こそ間違いなく黄泉への旅路に出た人物がいたが、祥子はそれどころではなかった。
おそらくは、その人物が此度の惨劇の発端にして、最大の被害者であろうことは知る由もない。


その後、何が起きたかは、誰も知らない。ただ、六人の無残な肢体が薔薇の館に転がっていた。
それだけが、唯一の真実。







お目汚しをば。
PCがご臨終しそうなので、埋没していたモノを思い切って投稿してみマシタ。
これだから私にはギャグはムリだって言ったのよ…(注:男です)

エクメネ > 誰もが通った賞味期限切れのネタで申しわけない。 (No.18923 2010-08-29 02:16:12)

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静かなる胎動これが祐巳の……  No.3268  [メール]  [HomePage]
   作者:ex  投稿日:2010-08-28 01:59:16  (萌:4  笑:0  感:18
「マホ☆ユミ」シリーズ 第1部(過去編) 「清子様はおかあさま?」

【No:3258】【No:3259】【これ】【No:3270】【No:3271】【No:3273】第1部過去編 完……【No:3257】

時系列は、祐巳の視点で
【No:3258】高校1年 と 幼稚舎
【No:3259】幼稚舎〜小学1年 
【No:3268】小学1年 と 高校1年
【No:3270】小学1年〜小学6年 
【No:3271】小学6年          
【No:3273】小学6年〜高校入学直前 第1部過去編 完で、【No:3258】の前半部分につながります。

はるか先に【No:3257】 となります。

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


祐巳が小学校に上がって最初のゴールデンウィーク。
清子は祐巳と祥子を伴い、祐巳の両親の見舞いに病院を訪れていた。

みきと祐一郎の様子に変化は無い。
すでに事故から半年の日々が過ぎていた。
あいかわらず、答えることのない両親のそばで、祐巳が話しかけている。

「おかぁさん、あのね、いま、おかあさまとおねえさまに魔法をおそわっているの。
 それでね、おねえさまはすごいんだよ。
 なんでも、すぐできちゃうの。
 おねえさまがゆみにもおしえてくれるから、ゆみもがんばってれんしゅうしてるの・・・」

静かに話し続ける祐巳と、そばについている祥子を残して、清子は医師の元へ向かう。
この病院には通常の医師と、魔法障害を癒す魔術医師が常勤している。

清子の問う内容は、みきと祐一郎の回復の見込みと回復方法について。
そして・・・いつまで現在の状況を保ち生命を長らえることができるか、ということであった。

医師の回答は、半年間の経過から身体の異常は見えないこと、
栄養補給を続けている限り、現況を保てること、ということであった。
つまり、通常医療の範疇では回復はできないが現状維持、ということである。
そして、魔術医師の回答は、脳に魔障の跡がみられること、そこから微量ながら魔力の流動・増減が見られること、であった。

「それは、どういうことですか?」と、清子は問う。

魔術医師はそれに、
「私たちではそこまでしかわからないのです。
 これ以上の分析や回復方法を探れるとしたら・・・松平先生しかいないでしょう」、と答える。

東京近県の霊山の中腹にある「丘の上の松平病院」の院長、松平医師は小笠原家の遠縁にあたり国内魔術医師の重鎮として様々な魔障の治癒にあたっている人物である。

(もう、松平先生しかすがる人は居ないのかもしれない)
清子は松平病院へ祐巳の両親を転院させる決意をした。
これまでも、何度か転院は考えた。
しかし、松平病院は遠く、なにかあったときにすぐに駆けつけることができないので、転院をためらっていたのだ。

清子が、祐巳と祥子を迎えに、みき達の病室に戻ると、
祥子にしがみついてすすり泣く祐巳と、祐巳を抱きしめて涙をこらえている祥子の姿があった。

「いつまで・・・・いつまでおかぁさんは寝ているの。
 たすけて・・・・たすけて、おねえさま・・・・ううっ・・・」
半年間、病院に来るたびに両親に語りかけていた祐巳。
これまでも、歯を食いしばって悲しみに耐え、語りかけることで両親との絆を保とうとしていた祐巳。

(もう・・・限界・・・おかあさま・・・)
祐巳の震える肩を抱きしめていた祥子が訴えかけるような眼で清子を見る。
祐巳に見せまいとしていた涙が祥子の瞳からこぼれおちた。



祐巳の両親は、松平医師の診察を受けることになった。
祐巳は両親から離れてしまうことに不安を訴えたが、両親の回復のためには転院をする必要があること、極力お見舞いに行けるよう取り計らうことで、落ち着かせた。

数日後、松平医師から清子に連絡が入る。
祐巳の両親の脳内に魔障があり、この魔障はなんらかの原因で魔界につながっていること。
おそらく、魔界に存在する祐巳の両親を襲った魔物に精神が侵され続けていること。
つまり、その魔物が消滅しない限り、回復の見込みがない、というものであった。

(そんな無茶な・・・)
清子は思う。
現世と魔界をつなぐゲートを作り、人間を送り込み目指す魔物を倒す、または
魔物を現世におびきよせて倒す。
そのようなことができない限り、祐巳両親を救うことはできないのだ。
しかも、目当ての魔物に出会える可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

(それでも、祐巳ちゃんのために・・・・わたしはやるんでしょうね)
清子の絶望的な挑戦がはじまる。



小笠原魔法魔術研究所の事故から10年、いっきに魔法研究が進んでいた。
小笠原家とその協力組織の手によって、全国から優秀な人材を研究所に集中させた。
そして、その人材の子女を幼いうちからリリアンに通わせることで、リリアンのレベルも格段に上がっている。
その影には、清子の粉骨砕身の努力が欠かせないものであった。

小笠原魔法魔術研究所に設置された異空間をつなぐゲートの操作装置もその力を十分に発揮していた。

もともと、現世と魔界をつなぐ異空間は、自然発生的に現世が”揺れる”ことで、発現することがある。
その発生の仕組みは謎のままであるが、異空間が現れると、魔界から現世に魔物が現れる。

自然発生的な異空間は、通常はわずかな裂け目であり、現れる魔物のレベルも低い。
所詮、ザコ、と呼ばれる魔物であるが、魔力や武道に通じた人間でなければ撃退することは難しい。

D級程度の魔物であれば、銃や刀でも撃退することが出来る。
スライムや、餓鬼、ゾンビ、ワードッグなどがこのクラスに分けられる。

しかし、C級の魔物になればただの銃や刀での撃退はまず不可能。
そのクラスの魔物には魔法使いや魔術騎士でないと歯が立たない。
オーガ、コカトリス、バジリスクなど大型のものも多い。

そして、たまに、歴史に名を残すような魔物が現れることもある。
ティフォンやフレスベルクなど、異能を身につけた魔物たち。
このような高位の魔物は、めったなことでは現世に現れることはない。

自然発生の異空間ゲートでは、その出入り口が小さいため、C級以下の魔物だけしか出入りが出来ないのではないかと推測されている。

小笠原魔法魔術研究所に設置された人工的に異空間をつなぐゲートは、自然発生的に出現したゲートの大きさを自由に調整し、遮断する操作ができるものであった。
人間側が十分に準備を行い、いびつな形に裂けた異空間ゲートの形状を整え、魔界から出現した魔物を捕獲。
魔物の生態、能力、長所、弱点などを徹底的に研究し、その対策を立てる。
魔物を系統付ける「悪魔・魔物辞典」が編纂され、「デビルアナライズシステム」の構築も完成。

小笠原研究所やリリアン関係の魔法使い、魔術騎士であれば、一人で十分にC級クラスの魔物にも対応できるまでに研究が進んでいた。



祥子は、祐巳を伴い、薔薇の館のギシギシときしむ階段を上がっていた。

「祐巳、薔薇様方にあっても、がっかりしないでね?」
「へっ?」
祐巳が不思議そうな顔をする。
「薔薇様って言ったら、全校生徒の憧れで、立派な方ばかり、と思っていたのですが・・・」
「確かにね・・・」
祥子が苦笑する。
「立派で尊敬できる方たちなのだけど・・・・なんていうか・・・、まぁ説明するより会ったほうが早いわ」

階段を上がりきり、ビスケットのようなドアを開け、祥子が会議室の中に入った。
「ごきげんよう、お姉さま方」

「「ごきげんよう」」
「ごきげんよう、祥子」
祥子に挨拶を返す女生徒が3人。

「ん?おや〜?」

祥子の後ろから、ゆっくりと現れた少女を見て、三人から声が漏れる。

「これはこれは」
「さすが祥子、早いわね」、にっこりと中央のボブカットの女生徒が微笑んだ。

「ごきげんよう、薔薇様方」、勢い良く頭を下げる新入生に3人の目が釘付けになる。

「ん〜〜〜かわいい!」
「祥子にしては上出来!お持ち帰りしてよい?」
ヘアバンドの生徒と、彫刻のような顔をした生徒から声がかかる。

「なに馬鹿なこと言ってるんですか!」
いきなり祥子が雷を落とす。

「お〜こわ。祥子のヒステリー。後ろの子、怯えてない?」

「ちょっと、だまりなさい」
ボブカットの生徒が軽口を叩く2人をたしなめる。

「さぁ、お姉さま方にご挨拶なさい」
祥子に促されて祐巳は祥子の隣に並んだ。
「はい、一年桃組35番、福沢祐巳です。よろしくお願いいたします。」
「この度、私、小笠原祥子と福沢祐巳はロザリオの授受を行い、正式に姉妹になりました。
新米姉妹ですので皆さまの指導をよろしくお願いいたします」

「お、今年の総代の子だね?」
「あら、その子なら外部入学だ、って聞いたわよ。どこで知り合ったの?」
口々に疑問の声が上がる。

祥子は、祐巳に微笑みかけながら、
「この子は、わたくしの妹。自慢の妹です」
そう、堂々と告げる祥子の口調は、本当に嬉しそうだった。



「私は、3年、水野蓉子、ロサ・キネンシスを勤めているわ。祥子の姉よ」
「私は、鳥居江利子。ロサ・フェティダです、よろしくね祐巳ちゃん」
「私は、佐藤聖。砂糖の精で〜す」
「いいかげんにしなさい!」蓉子と江利子からダブル突っ込みがはいる。
「あはは、ロサ・ギガンティアだよ、よろしくね」



薔薇の館では、それぞれの自己紹介も終わり、お茶会が始まっていた。

「ところで、3時30分ね」時計を見ながら、江利子がつぶやく。
「そういえば、令はどうしたんですの?」
「令はね〜」にやり、と笑いながら祥子に顔を向ける江利子。

「3時前には家に帰ったわ。なんでも用事があるとか。うふふ」
「由乃ちゃんが今朝から熱を出して、入学式を欠席したのよ。心臓手術後の経過も良くて入学式を楽しみにしていたようなのだけど」
「きっと、興奮して熱を出したんでしょうね」

先ほどから名前が出ている由乃は、ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンの支倉令の従妹で、中学時代から三薔薇様とは面識があるらしい。

「たぶん今頃はもう・・・」と、江利子が嬉しそうに笑う。
「どっちが早かったのかしらね?」

チラ、っと蓉子が江利子を見る。
(これは、絶対、「令はすぐにでも妹を作るでしょうけど、祥子はどうかしらね?絶対令のほうが先に妹が出来るわよ、アッハハー」なんて言って祥子を挑発したのね)

「わたくしのほうが、先に妹を薔薇の館に連れてきたではありませんか!」
「あら、『先に妹が出来るのは』、って言ったわよ?もう忘れたのかしら〜?」

「ま、同時ってことになるんじゃないの?明日にならないと令から結果は聞けないしね」

「それにしても、祥子、どこで祐巳ちゃんと知り合ったの?外部入学の子にあなたの知り合いが居たとは聞いてないのだけれど」
「それは・・・」少し、祥子が言いよどむ。

祐巳が祥子の手を握った。それに元気付けられ祥子が告げる。

「祐巳は、幼い頃から一緒に育ちました。この3年間、事情があって離れて暮らしていましたが、やっと私の元に返ってきてくれたのです」

「その『事情』、って話せないことなの?」

「今はまだ・・・」少し不安そうな顔をする祥子。

「もう、大丈夫ですよ」祐巳が祥子に向かい、安心させるように微笑みかける。

「私は平気です。なにがあっても今の気持ちは変わりません」
祐巳の強い言葉に祥子は頷く。

「でも」と、祥子。
「少し重い話になりますので、このことは次回にいたしませんか?まだ入学式を終えたばかりですし」
その言葉に蓉子がうなずく。
「ん、そうね。興味はあるけど、そのうち話してくれるのならいいわ。たしかにまだ会ったばかりですものね」



「リリアンの高等部では、生徒会を『山百合会』として3人の薔薇様が生徒会長をしているの。その妹がブゥトンとしてアシスタントをしているわ」

「山百合会、は『マリア様のこころ』からつけられたの。祐巳も知っているでしょう?」
「はい、マリア様の心を、青空、樫の木、うぐいす、山百合、サファイアに喩えているんですよね?
でも、どうして『山百合』なんですか?」
祐巳が不思議そうに尋ねる。

「だって、ねぇ?」
「青空会、だと老人クラブみたいだし。
 樫の木会だと、木の人形が動きだしそうじゃない?
 うぐいす会だと、カラオケクラブみたいだし、
 サファイア会、でもいいけどお金持ちクラブみたいで嫌だわ」

「それで『山百合会』ですかぁ」
納得した顔で祐巳が頷く・・・っと、とたんに
「プッ!」と噴き出す江利子と聖。

「冗談よ」
「いい!祐巳ちゃんいい!あはは」
「こりゃ、天然でいい子が入ったわ。楽しくなりそうね」

もう・・・と、からかわれたことが恥ずかしかったのか祐巳が真っ赤になった。
でも、その場の明るい雰囲気に、どうせなら、ともう一つ疑問を口にする。

「えっと、それで、どうして皆様は「薔薇様」なんですか?
 赤、白、黄色、ってチューリップみたいなんですが」

「ふむ、チューリップか・・・、なんでだろう?紅チューリップ様」
「知らないわよ、白チューリップ様」
「・・・・・・・・ぷっ・・くくっ・・・・・・・」
「だ・・・だめ。もうおなか痛い」
目尻に涙までためて笑い出した江利子。

「まぁ、そんな冗談はさておき、私たちが薔薇様、って呼ばれるのはね、薔薇を背負っているからだよ」
「えっ?薔薇を背負う?」
聖が、何を言い出すのか理解できない祐巳。

「そう、こんなふうにね」
パチン、と聖が指をはじく。
とたんに、蓉子、江利子、聖の3人の後ろにそれぞれの色の薔薇が咲き乱れた。

「わぅ!」思わず感嘆の声を上げる祐巳。
なんなんだこれは。
まるで少女漫画だ。
(それにしても・・・今、魔力もなにも感じなかった。幻覚?まだ私の知らない力があるの?)
祐巳は驚愕する。

「どう?驚いたでしょう?」 ニカッ、と笑う聖。
おもわず、ブン、ブンと頭を振る祐巳。
「すごい!それにとても綺麗!!」
再度、パチン、と聖が指をはじくと薔薇は一瞬にしてかき消えた。

「今のは、魔力でもなんでもないのよ」
「そ、今のは単なるトリック。聖は稀代のペテン師でトリック・スターなのよ」
「いつタネを仕込んでいるのかわからないとこが不思議なんだけどね」

「なんか、ひどい言われようね。子羊ちゃん達には好評なのに」
と、ぼやく聖を無視して蓉子が祐巳に答える。

「私たちが『薔薇様』と呼ばれるのはね、これを持っているからよ」
チャリッと、胸元からメタリック・レッドに輝くロザリオを取り出す蓉子。
クロス部分には紅薔薇の紋章が浮かび上がっている。

「これは『薔薇十字』。妖精王に認められたものだけが持つことを認められたもの。
 ふつうの姉妹の契りに使われるロザリオとは違って、妹だからと言って譲り渡すことができないもの。
 いまここには、4本の薔薇十字があるわ」

「え?それじゃぁ?」
祥子を振り仰ぐ祐巳。
「えぇ、わたしも持っているわ」
祥子は、手首にブレスレットのように巻いていた薔薇十字を祐巳に見せる。

「ロサ・キネンシスの薔薇十字とは少しデザインが違うでしょう?」
「じゃぁ、お姉さまも薔薇様って呼ばれているんですか?」
「いいえ、薔薇様と呼ばれるには、薔薇十字を持ったうえで生徒投票で当選しなければならないの。
わたしはまだ選挙に出ていないから、ブゥトンのままよ」

「でも、すごいことだよ。ブゥトンで薔薇十字を手にすることができるものなんてめったにないのに。
それが、今年は二人もいるんだからね。」
「じゃぁ、もう一人の方も」
「そう、令はこれと同じ色」、と江利子が金色に輝く薔薇十字を見せる。
「令は、黄薔薇の薔薇十字を持っているわ」

「山百合会には、今、紅2本、黄2本、白1本の計5本の所有者がいるの。
祐巳ちゃんも、薔薇十字を持てるといいね」

「そんなぁ、わたしなんて」
「大丈夫、祐巳なら必ず薔薇十字を授かることができるわ」
「そうそう、祐巳ちゃんみたいにかわいい子なら妖精王もころっとまいっちゃうね。あ、お妃は怖いけどね」
にっこりと励ます祥子と、本気かどうかわからない声援を送る聖。

「薔薇十字は全世界で10本あるといわれているわ」
「10本もあるんですか?」
「えぇ、もともとこの学園の設立時には、3本の薔薇十字があったそうよ。
それが、7年前から徐々に増えて、今では10本すべてがリリアンに揃っているの。小笠原清子さま、祥子のおかあさまの力で全世界から集められたそうよ。」

「そしてもうひとつ・・・」
急に、凛とした声であたりを静める蓉子。

「よく見ておきなさい、祐巳ちゃん。これが本当の薔薇十字の姿」

蓉子の手にした薔薇十字が一瞬、きらりと輝き・・・
そこに顕現するは、全てが白銀に輝く優美なラインに真紅の薔薇が映える可憐なひと振りの剣。

「これが紅薔薇最高位の剣、インヴィンシブル・ワン。『無敵なるもの』よ」
真剣な瞳で祐巳を見つめる蓉子は、凄惨なまでに美しかった。


bqex > 【No:3258】【No:3259】【これ】……【No:3257】というように書くとリンクになります。【】以外半角、Noの後ろは:です。リンクが貼れないのでしたらそろそろシリーズ名をつけて検索対応お願いします。 (No.18924 2010-08-29 06:51:56)
ex > bqex様、ご指導ありがとうございます。新参者ですので今後ともよろしくお願いいたします。 (No.18926 2010-08-29 09:29:36)

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狸の妖精ぱふぱふ  No.3267  [メール]  [HomePage]
   作者:ついーと  投稿日:2010-08-28 01:53:24  (萌:2  笑:7  感:0
【 はじめに 】

※作者自身、意味が良く分からなくなってしまった内容のSSです。過度な期待はしないで下さい。
※読まれる方は勢いだけで読まれることをお勧めします。



狸の妖精、ぱふぱふ。福沢祐巳は、ぱふぱふ。ある日突然、ぱふぱふ。ひょんなことから、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。小笠原祥子が、ぱふぱふ。一番初めに、ぱふぱふ。出会い頭にお尻にしいて、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。佐藤聖も、ぱふぱふ。セクハラがてらに、ぱふぱふ。ダンスの稽古で、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。鳥居江利子が、ぱふぱふ。面白がって、ぱふぱふ。タオルを詰めるために、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。藤堂志摩子も、ぱふぱふ。仲良くなりたくて、ぱふぱふ。親友の絆だから、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。水野蓉子が、ぱふぱふ。孫が可愛くて、ぱふぱふ。卒業前の思い出に、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。島津由乃も、ぱふぱふ。呼び捨てにしながら、ぱふぱふ。仲直りの、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。松平瞳子に、ぱふぱふ。仲良しアピール、ぱふぱふ。だんだん楽しくなって、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。二条乃梨子に、ぱふぱふ。受け継がれる伝統、ぱふぱふ。リアクションを期待して、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。有馬奈々に、ぱふぱふ。後輩にはだいたい、ぱふぱふ。通過儀礼的なものだから、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。武嶋蔦子へ、ぱふぱふ。心の相談役、ぱふぱふ。盗撮は内緒にしとくから、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。山口真美へ、ぱふぱふ。記事にしないで、ぱふぱふ。内緒にしといて、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。細川可南子へ、ぱふぱふ。先輩の威厳で、ぱふぱふ。罰ゲームだから我慢しなさいと、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。蟹名静と、ぱふぱふ。掃除サボって、ぱふぱふ。音楽室で、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。加東景と、ぱふぱふ。雨宿りで、ぱふぱふ。いいのやらせてむしろやりたい、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。福沢祐麒と、ぱふぱふ。隠し芸の練習で、ぱふぱふ。仲良し姉弟で、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。リリアンで、ぱふぱふ。子羊たちに、ぱふぱふ。ゴロンタとも、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。薔薇の館で、ぱふぱふ。山百合会で、ぱふぱふ。みんなで囲んで、ぱふぱふ。

狸の妖精、ぱふぱふ。福沢祐巳は、ぱふぱふ。今日もどこかで、ぱふぱふ。大好きな誰かと、ぱふぱふ。



【 あとがき 】

なんじゃこりゃーな物になってしまった。見た目も内容も、なんじゃこりゃーです。
ただタイトルの「狸の妖精、ぱふぱふ」という言葉の響きに感動して、勢いのままやってしまいました。
それぞれの「ぱふぱふ」は原作にあった場面を思い返して書いたつもりなんですが、私自身も曖昧な点が多いせいか変な感じに・・・。
なので「ぱふぱふ」イコール「抱きつき」ではない仕上がりに。ほぼ抱きつきですが、愛情表現の一種として考えて下さい。
拙い文を最後まで読んで下さった全ての方へ私に代わって感謝をこめて、狸の妖精から、ぱふぱふ。

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ピンクローズ乃梨子ちゃん鼻血鼻血  No.3266  [メール]  [HomePage]
   作者:ついーと  投稿日:2010-08-28 00:45:22  (萌:12  笑:9  感:2
【 はじめに 】

※乃梨子の一人称SSです。登場キャラは乃梨子、祐巳、志摩子、他の山百合会面々。(乃梨子以外はほぼ名前だけ)
※設定時期は祐巳がリリアン高等部三年生へ進級後の春。原作の時系列などの細かい設定は無視してしまっています。
※乃梨子をはじめ登場キャラの性格が原作よりも著しく壊れてしまってまいます。




ごきげんよう、皆さん。
突然ですが、わたくし二条乃梨子は今とっても幸せです。
何でかって?
そりゃあ右手に志摩子さん、左手に祐巳さまの両手に花状態だからに決まってるじゃないですか。
あれですよ?
両手に花と言うより、もう腕とかに抱きつかれてるんですよ。
これはマズイって言うか・・・。
だってもう色んなトコロがくんずほぐれずの密着状態で、しかもダブル攻撃による幸福絶頂フィーバーなわけですよ!!

・・・・・。
失礼、取り乱してしまいました。
ただこんな状態では、いつものクール&ビューティー二条乃梨子ではいられないのは仕方がないことだとご理解頂きたい。
今の、あったかくて甘くてふわふわなダブルサンド二条乃梨子では冷静な判断もままならないのだとご想像願いたい。


ふに。

あ。ナンカ当タッタヨ。


このままでは激しく危ない気がする。
何とか気を逸らさねば!
今この現状ではなく別のことを考えればいいのだろうが、そんな余裕はないし、両サイドからはそんなチャンスを与えてもらえないし、色々もったいないし。
ならもう、なすがまま、なされるがままよ。
二条乃梨子が志摩子さんと祐巳さまの二人に抱きつかれる。しかも同時に。
一体どうしてこんな素敵空間に身を投じることとなったのか思い返してみようと思う。


別れと新しい出会いの季節、春。
祥子さまと令さまは卒業され、志摩子さん・祐巳さま・由乃さまが三年生となり薔薇さまとしての一歩を歩み始めたのはつい最近の出来事である。
ついでと言う訳ではないが乃梨子と瞳子も無事に二年生に進級し、薔薇の館には一年生の奈々ちゃんも新たに迎え入れた。
気持ちも新たに、これまで以上に一致団結して山百合会の活動をしていこうと語りあった。

それがどうして現在、桃色ハートフルな活動になってるんだ?
そうだ。
今日は確か、黄薔薇姉妹の由乃さま奈々ちゃんペアが剣道部で、紅薔薇のつぼみの瞳子も演劇部に行ってるんだった。
だからここ薔薇の館で仕事しながらお茶していたのは、今日は委員会がない志摩子さんと、山百合会以外の活動が特にない祐巳さまと乃梨子の三人だけ。
白薔薇姉妹に紅薔薇さまという構図だった。
祥子さま令さまは受験、由乃さま瞳子は部活があったため、この組み合わせは去年度にもよく見られた組み合わせのはずだった。
もちろん志摩子さんが委員会の時なんかは、祐巳さまと二人っきりになったりもしたもんね♪

・・・いやいや。したもんねじゃなくて。
えーっと。
仕事も一段落してお茶しながらおしゃべりしてたんだっけ。
そしたら卒業していった前薔薇さまの話しになって、やっぱりまだフとした瞬間にお姉さまがいないのは寂しいかなって祐巳さまが言いだして。
寂しいわぁ、なんて言いながら祐巳さまが私にジャレついてきだして、そのままセクハラしだしたんだった。
毎度の事ながら祐巳さまの抱きつきは気持ちいいなぁーと思いつつ、お姉さまの目やクールな乃梨子さんのプライドもあるので祐巳さまをケン制。
我ながらナイス・ポーカーフェイス!
そしたら祐巳さまがいつもの如く、これは聖さまから授かった山百合会に昔からある伝統のものだとか、私も聖さまやられたんだから聖さまの孫の乃梨子ちゃんにやるのはオカシクないだとか、乃梨子ちゃんが不感症じゃないことを聖さまに証明しようとか言ってきて・・・。

それから、えーっと・・・そうだ!
いつもはそんなジャレ合いなのに、祐巳さまが志摩子さんにも抱きついちゃえとか言って、志摩子さんともハグハグやりだしたんだった。
うん、あれは眼福だった♪
そしたら次に、志摩子さんも乃梨子ちゃんに抱きついてみようよとか可愛く小首を傾げながら祐巳さまが言いだしたんだ。
ナイスナ提案だったが、如何せんTPOってものがあるじゃない?
私的には無表情で自重してたんだけど、いつもはおっとり観戦派の志摩子さんが今日はノリノリだった。
で、志摩子さんにも抱きつかれちゃった☆

うん、志摩子さんに抱きつかれるのも気持ちいいなぁ♪
天にも昇る心地よさっていうよりも、ここが天国と化してしまったんじゃないかと思う訳ですよ、Heaven☆
この幸せを強く噛み締めるのよ、乃梨子!
すると志摩子さんに抱きつかれた私を見ながら、いいなぁ乃梨子ちゃんとか言いつつ羨ましそうに指をくわえながら祐巳さまが見つめてきたんだっけ。
うわぉ!!
右と左のダブルでカワユス指数が高すぎて私の頭の処理が追いつかないぜ☆
その愛らしい百面相から、祐巳さまの中のお姉さまや妹に甘えたい度が段々と高くなっていくのがヒシヒシと感じられた。
でもってとうとう我慢できなくなって、わたしもーサンドウィッチーとか言ってニコニコしながら祐巳さまが抱きついてきちゃったんだよね☆


で、今に至ると。
あ、ヤバイ!
思い返したら、私の両サイドにひっついてる天使さんたちが益々可愛く思えてきた。

耐えろ、耐えるんだ乃梨子!!
ここで暴走しちゃったら、今まで積み重ねてきたものが全部おじゃんですよ。
マリア様、入学当初にナニこれマジで百合の世界ってやつですか、うわーとか思ってゴメンなさい。私が間違っていました。
仏様、遠くまで足を運んで拝みに来たのに大雪で足止めの挙句、他宗教の女子高に通わせるなんて、ホントに御利益あるんですか?なんて思ってゴメンなさい。
私が間違ってました。御利益満載です。
乃梨子は改心いたしました。
だからマリア様に仏様、この状況に耐える精神力と、この状況を打破しやがる誰かをお遣わし下さい。
訂正。
打破しやがる、ではなく、打破して下さるです。
決してこの状態が少しでも長く続けばいいなぁなんて(理性が)考えてるわけではありません。(本能が)感じてるだけです。
Don’t Think !  Feel ! なだけです。

ん?
そういや確か部活前に薔薇の館に顔を出した瞳子が、帰りにもう一度寄りますからそれまでお姉さまのお相手よろしくお願いしますわねなんて言ってたっけ。
なら、しばらくすれば瞳子がやってくるはず!
それまで耐えるんだ。
じゃないと白薔薇さまと紅薔薇さまに挟まれて鼻血ブーした桃色薔薇さまなんていう卑猥な称号を獲得してしまうことになるぞ!!
いやー、紅と白が混ざっちゃって・・・なんて言い訳が通じるほどリリアンは甘くないぞ!!


乃梨子は一人、この幸福エンジェルズに抗うために戦うことを決意する。
しかしこの戦い、孤軍奮闘ではあまりに心許ない。
なのでマリア様と仏様のお力をお借りするべく、まずはめでたし聖寵と般若心経を諳んじることにしようと思う。
救いの光が差し込むのそ時まで・・・



なお予定通りに瞳子が薔薇の館の現れたことによって祐巳指導のもと、二条乃梨子がトリプル萌えサンドにされるまで、後30分。
彼女が桃色薔薇になったかは定かではない。



おしまい



【 あとがき 】

読みづらいかもしれませんが読んで頂けたのなら嬉しいです。誤字脱字等ありましたらお許し下さい。

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