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素朴な疑問見慣れた姉の顔が  No.2557  [メール]  [HomePage]
   作者:杏鴉  投稿日:2008-03-06 06:34:32  (萌:16  笑:8  感:7
誰かの泣いている声が聞こえる。
喚きたてるような声じゃなくて、感情を押し殺すような……、泣いている事を覚られまいとしているような……、そんな泣き声。
声の感じから、たぶん小さな子供だと思った。迷子になってしまったのかもしれない。
可哀想に。早く見つけて、大丈夫だよと言ってあげよう。泣かなくてもいいと教えてあげよう。

かすかな泣き声を頼りにウロウロと捜し回っていると、まだ幼稚舎に通っているくらいの女の子がポツンとしゃがみこんでいるのを見つけた。
綺麗な長い黒髪が、震える肩と一緒に揺れている。きっとこの子だ。
声をかけて安心させてあげようと、私はそっと女の子に近づいていった。
女の子は嗚咽まじりに、くり返しくり返し何かつぶやいていた。
お父さんかお母さんを呼んでいるのかと思ったけれど、そうではなくてどうやら誰かの名前のようだった。

「うぅ……ぐずっ。……み、……ゆみ……ゆみぃ……ぐず……」

私の名前……?
いや、私と同じ名前の、べつの人だろう。『ゆみ』なんて、珍しくない名前だから。
でもなんとなく、この女の子に親近感がわいた。早く涙を止めてあげよう。

「こんにちは。どうしたの? お父さんやお母さんとはぐれちゃったのかな?」

ハッとしたように顔を上げたその子に見覚えがあった。
正確にはその子を知っているのではなく、その子に似ている人を知っていた。本当によく似ている。……私の大好きなあの方に。
女の子は涙で濡れた長いマツゲをぱちぱちと上下させた後、

「ゆみっ!」
「えっ……?」

なくした宝物を見つけたような笑顔で、私に飛びついてきた。
腰の辺りにしがみつかれ、ちょっとよろけながら考える。
知り合いに、こんな小さな子いたっけ……?

「あの……、よかったらお姉ちゃんにお名前教えてくれるかな?」

私が遠慮がちに声をかけると、その女の子はそれまでギュウっとしていた腕をパッと放した。
そしてまだ涙できらきらと光る目を、キッと私に向けてきた。
どうやら怒らせてしまったらしい。なんでだろう?
ぷくっと膨れたほっぺが愛らしくて、つい抱きしめたくなったけど、私はそこそこ空気の読める人間なので我慢しておいた。

「ゆみっ! ここへおすわりなさいっ!」
「……へ?」
「いいからおすわりなさいっ!」
「は、はい……っ」

女の子の迫力に負け、私はその場に正座した。なぜかこの子に逆らえない自分がいる。
正座したことで目線がほぼ同じになった。
近くで見ると、よりその可愛さ――いや、美しさに惹きつけられる。そしてやっぱり私の大好きな人にそっくりだと思った。
今はもう泣いていないけれど、その顔に残る涙のあとを見ていると胸がキュッと絞めつけられる。
私はハンカチで、そっと女の子の涙を拭ってあげた。
女の子はしばらく目を閉じてじっとしていたけれど、途中で怒っている事を思い出したらしく、ぐいっと私の手を押し退けた。
慌てて怒った顔をつくる仕草が、とても愛らしかった。

「なにわらってるの! だいたいゆみはワタクチに――」

あ。今爐錣燭ち瓩辰童世辰拭……可愛いなぁ。

「うぅ……。ニヤニヤするのおやめなさいっ!」

噛んでしまったのがよっぽど恥ずかしかったのか、女の子は顔を真っ赤にして手足をジタバタしている。
あぁ、もう! ギュッて抱きしめたい〜っ!

「うー……。ゆみーっ!」
「は、はいっ!」
「ゆみー!」
「はいっ」
「ゆみー!」
「はい……?」
「ゆみー」
「えぇと……はい?」
「ゆみー」
「……あの」
「ゆみー」
「…………」
「ゆみー」


  ☆


目を開けた祐巳が見たのは、自分の部屋の天井だった。
まだ寝ぼけまなこの祐巳が、なんだ夢かぁ、と二度寝をしようとしたその時、

「――祐巳」

祐巳の愛しいお姉さま、小笠原祥子さまの凛としたお声が聞こえた。
途端にパッチリと目を開けた祐巳は「おはようございます。お姉さま」と元気よく起き上がりながら挨拶した。

「――祐巳」
「はい。お姉さま」
「――祐巳」
「はい」
「――祐巳」
「はぁーい」
「――祐(カション)」

祐巳は心の底から名残惜しそうな顔で目覚ましを止めた。
ずっと聞いていたいのはやまやまだが、それでは遅刻してしまう。
ちなみにこの『しゃっきりお目覚め祥子さまボイス時計』の入手経路は不明である。

ベッドから出た祐巳は大きく伸びをしながら「よぉーし! 本物のお姉さまに会いに行こうっと!」学生の本分を蔑ろにしたセリフを吐いた。
それはいつもと同じ朝だった――。





寒さの為、少し早足になりながら背の高い門をくぐり抜けた祐巳は、今朝見た夢の事を考えていた。
夢に出てきた女の子……、あれはお姉さまだよね……?
祐巳は夢の中の小さな祥子さまを思い返しながら、マリア様に祈りをささげた。
その横顔は真剣そのものだった。

夢とはいえ、子供の姿に変わっていたとはいえ、大好きなお姉さまが泣いていたのだから、祐巳は妹として心を痛めて――「小さいお姉さま可愛かったなぁ……。えへへ」――いなかった。買いかぶりだった。
祐巳はマリア様の御前でひとしきりニタニタしたと思ったら、今度は何やらブツブツ呟きだした。瞳を閉じたお祈りポーズのままで。
何を言っているのか、ちょっと聞いてみよう。

「ごきげんようお姉さま」
「……ごきげんようゆみ」

一人二役だった。しかも祥子さまは、今朝夢に出てきた小さい方の祥子さまだ。

「ゆみ。タイがまがっていてよ」
「あ、すいません。お姉さま……」

さっきから何人かの生徒が祐巳の隣でお祈りをしているのだが、みんな横目でちらちらと見るだけで、けして声をかけようとはしない。大抵の生徒は、お祈りにかける時間を普段の3分の1くらいにして早々と立ち去るのだが、中には祐巳を憐憫のまなざしで見つめていく生徒もいた。

「……とどかないわ、ゆみ。しゃがみなさい」
「あっ。気が付かずにすいません」

スピリチュアルワールドの住人となった祐巳は戸惑いなんてカケラもなく、まぶたの裏で繰り広げられている光景の通りその場に跪いた。
この様子を離れた所から目撃した一年生は、そのあまりの神々しさに涙があふれそうになったと後に語る。
まぁ、現状だけを見れば、マリア様の前で跪いて祈りを捧げる清らかな乙女に見えなくはない。
にへら、と笑っている顔さえ見なければ……。
くだんの一年生は遠目すぎて表情までは分からなかったらしい。
そっちの方が彼女にとっては幸せな事だろう。やはりマリア様は穢れなき乙女の味方のようだ。

「……いけませんお姉さま。おやつは315円までですよ」

ちょっと目を離していた隙にシチュエーションが変わっている。
どんな展開を踏んだらそんなセリフが躍り出てくるのか微妙に気にはなるが、今となっては確かめる術はない。
さて、そろそろラッシュの時間帯。このままでは、タイムサービスを始めた精肉売り場なみにえらい事になるかもしれない。

「……祐巳。あなた何をしているの?」

やや困惑気味の凛とした声が、祐巳の背中にかけられた。
その声の主をコンマ2秒ほどで理解した祐巳は「本物だぁ」という、周囲の人間にとっては謎のつぶやきと共に立ち上がった。
そして、ダルマさんが転んだをしている時並みに素早く振り返った。

「ごきげんよう! お姉さ……ま?」

澄み切った朝に、これでもかとこだまさせた祐巳の挨拶は、なぜか途中から疑問系になってしまった。
振り返った先にいたのは、間違いなく祐巳のお姉さまである小笠原祥子さまだったのだが、どういうわけか祐巳は奇妙な違和感を感じていた。
その違和感の正体が分からず、祐巳は混乱していた。
祐巳の百面相を見た祥子さまが首を傾げる。

「ごきげんよう祐巳。どうかして?」
「い、いえ……。何でもありません」

やっぱり祐巳の目の前にいるのは、祥子さまで間違いない。
さっきの違和感はきっと気のせいだろうと祐巳は考えた。
そうなると切り替えの早いもので、祐巳は朝から祥子さまに会えた喜びで、周囲の人間も思わず幸せ気分になりそうな笑顔になった。
その無邪気な笑顔から視線を逸らすように、祥子さまはお祈りを始めた。
当然、祐巳は祥子さまのお祈りが終わるのをその場で待った。愛しのお姉さまの横顔をしっかり見つめながら。
うっすら人目を惹くような事はあったものの、概ねそれはいつもと同じ朝だった――。





一部の生徒は口をつぐんで目を逸らし、一部の生徒は感動のあまり目に涙をうかべる、紅薔薇のつぼみ朝のお祈り騒動から数日後。
祐巳は薔薇の館で盛大なため息を吐いていた。
べつに件の騒動を気にしてではない。そもそも祐巳は騒動になっている事に気付いていない。

祐巳のため息の理由、それは祥子さまの事だった。
祥子さまはあの騒動の次の日から、ずっとお休みしているのだ。
真面目な祥子さまの事。ズル休みなんてする筈がない。そうなるとご病気か、お家の都合という事になる。
後者ならば仕方がない。祐巳には口出しなんてできない。しかし前者であった場合、祥子さまは今こうしている間も苦しんでいるという事だ。
祐巳は祥子さまを心配して――「ふぅ……。お姉さま分が足りない……」――ねぇなオイ。がっかりだ。
まぁ、とりあえず祐巳は祥子さまを想って、薔薇の館でため息を吐いていたわけである。

「……もう帰ろう」

もともと今日は山百合会の集まりはなかったので、ここには誰もいない。
すぐに帰ってもよかったのだが、祐巳は『祥子さま分』を求めてフラフラと薔薇の館へ来てしまっていたのだ。

寒さに身を縮ませながら、祐巳は銀杏並木を歩いた。
祥子さまみたいに、どれだけ寒くても背筋をぴんと伸ばして歩ければ自分も少しは凛々しく見えるだろうか、なんて考えながら。

「……見えないよね。……ハハ」

自嘲気味の笑いを漏らしながら、祐巳はコートの隙間から進入してくる冷たい風を悲しく思った。
お姉さまが隣りにいてくれたら、きっとこんな寒さなんかへっちゃらなのに……と。

校門を抜けて、バス停に向かおうとする祐巳の目の前に、誰が見ても高級そうな黒塗りの車が停まった。
リリアン生の誰かを迎えに来たのだろう、そう思った祐巳が邪魔にならないように退こうとすると、後部座席のドアが開いて呼びとめられた。

「待って祐巳」
「え?」

そこにいたのは祥子さまだった。だが何か様子がおかしい。
学校をお休みしていたのにどうしてこんな所にいるのか……、確かにそれもおかしいが、それよりももっとおかしな事があった。

「へ? あの……お姉さま……なのですか?」
「えぇ、そうよ。わけは車で話すわ。とにかく乗ってちょうだい」
「えぇ? で、でも……」
「祐巳っ!…………お願いだから……」
「……分かりました」

祥子さまの縋るような目に、祐巳は車に乗り込んだ。
祐巳がドアを閉めるとすぐに、車は発進した。もちろん乗車している人間に不快感を与えない程度に、ではあったが。

「ありがとう祐巳」

心底ホッとした様子の祥子さまに、祐巳はただポカンとした表情を返すだけだった。
祐巳は自分の隣りに座っているのが誰なのか、理解できずに混乱していた。
祐巳の全神経が、目の前にいるのはお姉さまである『小笠原祥子』その人だと告げている。だがそんな事はありえない。
なぜなら、困ったような顔で祐巳を見つめている美しい人は、どう見ても――



中学生にしか見えなかったのだから。






――姉が子供に還っていく――







杏鴉 > 昔こういうドラマありましたよね? 見た事ないので、奥さんがどんどん若くなっていくって事しか知らないですけど^^; (No.16289 2008-03-06 06:37:36)

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