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夜の闇を切り開き祝福の鐘が鳴り響く  No.3205  [メール]  [HomePage]
   作者:海風  投稿日:2010-07-17 09:42:07  (萌:4  笑:26  感:49
【No:3157】【No:3158】【No:3160】【No:3162】【No:3170】
【No:3171】【No:3174】【No:3177】【No:3183】【No:3187】【No:3196】から続いています。










契約書争奪戦 月曜日に関するレポート


 主な出来事は五つ。

1.二時間目の休み時間。三薔薇が所持する「契約書」が、三枚とも奪われる。

2.昼休み、ミルクホール。元紅薔薇勢力総統「ケルベロス」他数名によるミルクホール封鎖が行われる。後、「ケルベロス」は一時姿を消し、封鎖を続ける他数名と元白薔薇勢力戦闘部隊数名の衝突。

3.同刻、中庭。「ケルベロス」と、黄薔薇の蕾の妹「島津由乃」、反乱分子「竜胆」「雪の下」三名の小競り合い勃発。

4.同刻、ミルクホール内部。白薔薇「佐藤聖」が元紅薔薇勢力へ攻撃を加える。これにより元紅薔薇勢力との抗争の火種が発生。

5.放課後。「ケルベロス」による号令が校内に広まる。命令はただ一つ、「白薔薇への報復を許可する」。




1.二時間目の休み時間。三薔薇が所持する「契約書」が、三枚とも奪われる。

 三名が偶然一同に会し雑談するその場で「契約書」が三枚とも奪われる。窃盗犯は一年「立浪繭」である可能性が極めて濃厚。要調査、追跡。
 地図で「契約書」の行方を確認した上での推測では、犯人は「契約書」奪取直後、三枚とも誰かに譲渡したものと考えられる。
 ただし、後に「契約書」を持っていた者の証言から、犯人は知り合いや仲間と「契約書」を共有している、という線は薄く、恐らくランダムに選んだ第三者三名に「契約書」を押し付けたものと考えられる。


2.昼休み、ミルクホール。元紅薔薇勢力総統「ケルベロス」他数名によるミルクホール封鎖が行われる。後、「ケルベロス」は一時姿を消し、封鎖を続ける「ケルベロス」傘下数名と元白薔薇勢力戦闘部隊数名が衝突する。

 特筆なし。詳細は必要ないものと判断する。


3.同刻、中庭。「ケルベロス」と、黄薔薇の蕾の妹「島津由乃」、反乱分子「竜胆」「雪の下」三名の小競り合い勃発。

 リリアンで確実に十指に入るであろう強者「ケルベロス」が動いたことは僥倖である。今後も「ケルベロス」の動向には要注意。次いで「ケルベロス」に怪我を負わせ、また当人も怪我を負わされた「島津由乃」にも注目するべきである。この一件で二人の間に因縁が生まれている可能性は極めて高い。


4.同刻、ミルクホール内部。白薔薇「佐藤聖」が元紅薔薇勢力へ攻撃を加える。これにより元紅薔薇勢力との抗争の火種が発生。

 最も注目するべき事件。
 この争奪戦に向けて三薔薇勢力は一時解散となっているが、あくまでも一時解散なので、根本にある仲間意識はそう簡単に割り切れないものと思われる、という説を前提におくものとする。
 自らの味方である白薔薇勢力と「佐藤聖」の不仲説は周知の事実なので、もしかしたら今後、「佐藤聖」は孤立する可能性がある。争奪戦はあくまでも争奪戦だが、争奪戦と薔薇が手折られることとは別の話である。
 今後の「佐藤聖」と、それを取り巻く状況には、多くの血が流れるかもしれない。絶対に近づきすぎないこと。


5.放課後。「ケルベロス」による号令が校内に広まる。命令はただ一つ、「白薔薇への報復を許可する」。

 私は「ケルベロス」の命令を、一種のフェイク、あるいはミスリードと考えている。元紅薔薇勢力の多くが「佐藤聖」に睨みを利かせている、という大掛かりなポーズであると推測する。
 そう考えうる理由は二つ。
 一つは、白薔薇である「佐藤聖」を相手に戦争が始まれば、勝敗はどうあれ、元紅薔薇勢力が受けるダメージは決して軽くない、ということ。
 現在は「契約書」争奪戦の最中、しかも序盤だ。「契約書」を探す、追う、追跡方法の解明や所持者・所持時の対応等々、やることも考えることも山ほどある。そして質も重要ながら、人数も重視されるべき状況である。今この時、数を減らすことは、「契約書」争奪戦に於いて大きなマイナスとなる。
 ちなみに「ケルベロス」は、紅薔薇「水野蓉子」のために「契約書」を集めることを表明し、仲間意識の強い元紅薔薇勢力の多くが同意している。彼女らは集団にして個の存在であると考えた方がより近い表現となるだろう。
 簡潔に述べるのであれば、今は「佐藤聖」の相手などしていられないのだ。決着も報復も、争奪戦の後でゆっくりやればいいのである。
 二つ目の理由として、「佐藤聖」と元白薔薇勢力との分断である。襲われる「佐藤聖」を前に、元白薔薇勢力がどう対処するのかで、双方の確執はより大きくなるだろう。いわば「佐藤聖」への圧力ではなく、勢力側へのゆさぶりである。
 「ケルベロス」の真意は見えないが、しばらく本気の襲撃はないだろうと思われる。「ケルベロス」は熱くなりやすいが、感情で勢力を動かすことはほとんどないからだ。
 「今からあなたを襲います」などと礼儀正しく宣言した上で狩られるほど、薔薇の名が甘くないことは、薔薇に近しい「ケルベロス」が知らないはずがない。「佐藤聖」は方法を選んでいて勝てる相手ではない。本気で勝つつもりであるなら己を含めて全勢力を一気に投入するべきである。
 もし本気の襲撃があるとすれば、予兆は必ずあるだろう。
 その場合は、むしろ「佐藤聖」よりも、「水野蓉子」「鳥居江利子」の二名の動向に注意するべきかもしれない。むろん「小笠原祥子」と「支倉令」の動きも無視できない。そして「ガン・ヴァルキリー」や「九頭竜」も黙ってはいないはず。二つ名持ちも台頭しないはずがない。
 「ケルベロス」と「佐藤聖」の衝突は、リリアン全てを巻き込む大混戦に発展する可能性が高く、だからこそ「ケルベロス」は注意深く動くに違いない。大乱闘は望まないのが「水野蓉子」の方針でもあるからだ。
 結論として、「少なくとも今はまだ大丈夫」というのが私の推測である。


 なお「契約書」一枚、現在所持者不明。

 今後、大掛かりな抗争が勃発する可能性は高い。我々は必ず中立を守ること。
 個人名についてはブラックリスト参照。


  築山三奈子









 早朝のクラブハウス、新聞部の部室に彼女の姿はあった。
 新聞部部長・築山三奈子の眉間には、深い深いしわが刻まれている。
 今し方、自分の書き連ねたレポートにざっと目を通す。これは新聞部部長としての指針も書かれているので、部員達に読ませることになる。もちろん、これに対する異論も提案も受け入れるつもりだ。
 細かな件まで指示することはないので、基本的に部員は自由に動き回っている。ネタは鮮度が命だ。いちいち指示出しなんてしていてはフットワークが遅くなる。
 しかしここから先は、スクープ優先の大胆な接近より、草葉に伏せてにじり寄る慎重さの方を重視するべきだ。
 月曜日、初日だけでこれだけのことが起こったのだ。この先にあるのは安全とは掛け離れた日常であることは誰の目にも明らかである。

「どうですか? お姉さま」

 昨日の内に部員達から情報をまとめていた三奈子の妹・山口真美が声を掛けてきた。
 レポートは、まとめられたネタから起こされたものである。ある程度は自分で把握していた三奈子だが、仔細となると話は違う。誤った情報から誤った推測を立てると、非常に面倒なことになってしまう。
 部員達から上がってきた情報を真美が集め、話を組み立てたのだ。これで間違いないはずだ。いささか不安が残るのはいつものことである。部員達を信じていないわけではないが、自分で見聞きしたことではないから個人レベルで信憑性に乏しいのだ。
 それも、これまでにない危険度なだけに、一層不安だった。

「白薔薇かぁ……」

 三奈子は、かの異国風の魅力溢れる佐藤聖に想いを馳せた。
 ――佐藤聖は気まぐれ。
 本当に気まぐれに暴れ回ってきた聖は、次の行動がまったく読めなかった。しかし強さだけは気まぐれでもなんでもなく、いつだって圧倒的だった。

「やっぱりマークします?」
「しないわけにはいかないわよね……」

 しかし三薔薇のマークなんて危険すぎる。いくら勢力が解散して周囲にボディガードがいなくなっている現在だとしても、ガードより対象自体が問題である。何かしらの異能なのかそれとも感覚が鋭いだけなのか、三薔薇の察知能力は桁違いだ。半端な尾行テクで張り付いたら即座に感づかれるだろう。
 佐藤聖は、尾行や監視にはほとんど無頓着だった。だが昨日の今日である。今は気にしないわけがない。
 下手に近づくと、それも監視なんてしていると、刺客に間違えられてうっかり攻撃されるかもしれない。冗談ではなく本気で。今はそういう状況だ。

「私が付ければいいんだけど」

 だが三奈子はもう、新聞部部長として顔が売れてしまっている。周囲でうろちょろしていたら、たとえ敵意や害意がなくとも、普通に目障りだろう。
 同じ理由で、妹の真美もダメである。優秀な新聞部部長を支える優秀な妹としてすでに有名だ。
 あとはもう、新聞部部員に徹してくれている、周りには存在さえ知られていない者達に頼むことになるのだが。

「誰に頼んでもなぁ……」

 誰に頼んでも危険なのは変わらないし、名指しで命じるなど死刑宣告のようで抵抗がある。自分でやれるものなら自分でやりたいところだが、それは叶わない。
 何より、頼まなくてもやるだろう。
 部員は優秀、戦局や状況くらい普通に読んでいる。今白薔薇の身近で張り込めば、必ず事件が起こるはず。本当は指示なんて必要ないのだ。
 ただし、慎重にもなる。
 色々と問題(特に身の危険)も多いが、聖に限っては、情報屋としてのブッキング方面だ。
 新聞部が状況を読んでいるように、他の情報屋も読んでいるだろう。月曜の一件から、白薔薇の監視は爆発的に増えることは想像に難くない――そして新聞部は公平な情報機関でしかなく、戦闘力は皆無。闘える者もいない。
 現場でかち合うのが情報屋同士ならまだ良い方で、今聖の周囲にいておかしくないのは、紅薔薇勢力の暗殺系も間違いなく候補に入ってしまう。
 彼女らの仕事の邪魔になるようなら、新聞部や他の情報屋がまず先に排除されてしまうだろう。

「……いっそ白薔薇の件はスルーする、というのも、ありよね」
「え、本気ですか?」

 あんなに事件臭が漂っているのに、まさかのスルーか。あの築山三奈子らしからぬ消極的な言葉である。

「他にも追いかけたいネタがあるじゃない。“玩具使い(トイ・メーカー)”島津由乃と“紅蓮の魔犬(ケルベロス)”の一件。白薔薇に敵対宣言した紅薔薇勢力と、紅薔薇の動向。それから忘れてはいけない“契約書”の行方と争奪戦。
 特に“契約書”は、一枚だけ行方不明じゃない?」

 腕を組み何もない何か一点を見詰める三奈子は、いろんなことを考えている。動き出せば驚くほど大胆なくせに、動き出す直前までは慎重に慎重を重ねて、ネタと危機感とを冷静に見ている。そんな姉は真美の誇りである。時々理不尽な要求をするが。

「当然、部員の数には限りがある。皆それぞれ優秀だけど、優秀だからこそ一人でも減ると情報の入りが確実に悪くなる。今白薔薇に張り付くのは危険すぎると思わない? 他にも事件の臭いがするんだし、あえて白薔薇を追う必要ってあるのかしら」
「……まあ」

 そう言われると、あえて今、危険な状況にある白薔薇を追いかけることに疑問が湧く。
 事件そのものに巻き込まれるよりは、他のネタを追いかけた方が危険度も少なく、情報の質的にも大きいかもしれない。三薔薇の事件なんて、強いて追いかけなくても噂くらい簡単に入ってくるのだから――噂の信憑性なんてあやしいものだが。

「それに私は“天使”と“重力空間使い”も気になる」
「ああ……」

 どうしても重要視したくないマヌケだが、重要視……するしかない反乱分子が数名存在するのは、真美もわかっている。

「それと“電使い”がいるそうですね。黄薔薇と闘ったっていう」
「ほら見なさい。気になることが他にもあるじゃない」

 いや勝ち誇ったように胸を張られても。

「決めたわ。新聞部の方針は、今まで通りの現状維持。校内のネタを拾いまくりましょう」

 それが部長命令ならば、真美には異存はない。そうするメリットを考えれば、決して的外れではないと判断できる。「白薔薇を追いかけたくないか」と問われれば「追いかけたい」と答えるが、組織である以上仕方ないところもある。

「白薔薇は無視ですか?」
「無視じゃなくて、近づかない。代わりに紅薔薇に監視を付ける。それと――」

 三奈子の手には、いつの間にか数枚のプリントがあった。

「真美、あなたにこれを渡しておく」
「“嘱託調査書(アンケート)”ですか?」

 三奈子の能力“嘱託調査書(アンケート)”具現化版だ。見た目はただのアンケートで、対象に記入させることで三奈子の知りたい情報を探り出すことができる。

「“天使”か“重力空間使い”にやらせてみて。ぜひブラックリストに加えたいから」
「…………」

 三奈子の指示は理解できる。あの二人は、かなりのマヌケだが力だけなら三薔薇クラス。注目するな、という方が無理な話だ。
 しかし、

「これ、答えてもらえますかね?」
「方法は問わない。うまくやってちょうだい」

 重要な部分を丸投げしたよ――真美は溜息をついた。姉は時々理不尽だ。




 火曜日が始まる。


 今現在、“契約書”は蕾が持っている。
 一枚は支倉令が。
 いつの間にか持っていたクラスメイトから押し付けられたものだ。
 もう一枚は小笠原祥子が。
 これも同じ理由で、クラスメイトの鵜沢美冬から回ってきた。
 そして最後の一枚は行方不明である。




 最後の一枚は、ここにある。
 リリアンには実在しない“教室”に。

「どう?」
「どうって?」
「そろそろいいんじゃない? あなたのお仲間も元気に活動し始めてるみたいだし」
「ああ、聞いた聞いた。あの紅薔薇勢力総統とやりあったらしいね」
「私、はっきり言って、あなたと遊ぶの飽きたのよね」
「それより早く始めようよ」
「……だからネタ切れなんだっつーの。もう見せるものがないのよ」

 日を追うごとに荒廃が進む“教室”に、“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”と“鳴子百合”がいた。
 先週のあの日から、二人は時間があればすぐここにやってきて、一対一で闘い続けていた。
 これまで、大した話はしていない。
 お互い自己紹介なんてしてないし、何年生かさえも知らない。ちょっと間が空いた時にポツポツと話す程度で、それも適当な世間話だ。
 二人の関係に共通点があるとすれば、利害の一致である。
 双方とも強くなることを望んでいた。だから今もこうして会っている。そして、二人ともそれ以上の何かを求めてはいない。

「本当にそろそろいいんじゃない?」
「まだ足りない。全然」
「ここから先は、私以上と当たるべきだと思うけどね」
「正直、あなた以上と闘うなんて、怖い」

“鳴子百合”が“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”と繰り返し闘い続けたことで培ったものは、未知の攻撃への恐怖から来る危機察知能力である。
 基礎能力の向上が著しい“契約した者達”は、自然と敵意や殺気といった気の動きを捉えることができていた。息を吸うごとく当然のように。特別意識したこともないくらいに自然に。
 その頼り切っていた感覚を裏切りまくったのが、この“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”である。
 彼女の攻撃は、ほとんど間接的に仕掛けられる。気配を放たない無機物で襲ってくる。死角から静かに寄ってくる。気がついたら攻撃されている。いつの間にか背後を取られている。なぜか同時に向かってくる――心構えと覚悟のできていない内に攻撃を受けるのは、非常に怖かった。何が起こっているのかわからない間に怪我をするのは、本当に怖かった。
 数え上げるとうんざりするほどのフェイクとトリックを見せられ、“鳴子百合”の生存本能が現状の打破に動き出す。
 苦労の末に身につけたのが、“弱電磁波”と名付けた能力だ。身の回りに非常に微弱な電波を飛ばし、それが物質に触れることで“鳴子百合”に皮膚感覚に近い情報を伝えてくれる、高度な感知能力である。電波に触れれば、たとえ見ていなくても手に取るようにわかる。ちなみに有効距離は円状で半径2メートル、途中に電波を遮断する壁などがあると途切れる。

「私程度で怖がっててどうするのよ。リリアンには私より怖い人なんてたくさんいるんだから」

 しかし、“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”ほどのテクニカルな異能使いは珍しい。元が戦闘用の能力ではないせいで、工夫しないと闘えなかっただけなのだが、だからこそ予想外の攻撃を仕掛けてくる。

「私もそろそろ争奪戦に参加したいし、いつまでもあなたの相手はしてられないわよ」
「えー。そんなこと言われると困る」
「いや、困るって言われても」
「女帝なんかになってどうするのよ。人生って、強くなったり偉くなったりするより大切なことってあると思う。全てが利己的かつ打算的な思考なんてむなしいわ」
「……その心は?」
「もう少し私に付き合うべきだ」
「そこまで言っていることが矛盾してると、いっそ清清しいわね」

 肌がピリピリする――渋っている“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”と違って、“鳴子百合”は戦闘態勢に入ったようだ。
“契約した者達”の三人の内、最も力が弱い“鳴子百合”だからこそできた、見えるオーラを抑える操作。これにより隠密性が高まり、速攻のレベルが格段に上がった。

「“鳴子百合”さん、あなたは女帝に興味ないの?」
「女帝には興味ない。私はある人を女帝にしたい。だからその目的のために頂点には立ちたい」
「ある人……それがあなたの正義?」
「正義というより、その人を信じようと決めただけ。その人が正義なら、私も正義。……正義云々より、恩の方が大きいかもしれない。私の全てを捧げてもいいくらい大切なものを貰ったから」
「ふうん……ちなみに私も、ある人を女帝にしてみたくなったのよ。ずっと考えてたんだけど」
「お姉さま?」
「私に姉はいない。――“反逆者”よ。藤堂志摩子さん」
「……」

“鳴子百合”は反応に困った。“純白たる反逆の蕾”藤堂志摩子と言えば、「闘わないことで強者こそ正義というルールに反抗する者」である。強者の証である女帝に、闘わない者を据えるだなんて――と考えたところで、なんだか納得してしまった。
 自分も同じことをしようとしている、と。

「そっか。あなたは争奪戦に目的があるのか」
「まだ漠然としてるけどね。私の力でどこまでやれるかもわからないし、何があろうと自分の選択を貫くような覚悟もまだ固めてない――でも、私は他の誰よりも、志摩子さんなら女帝になってもいいと思っている。他の人なら阻止するけど、志摩子さんなら阻止しない。彼女の正義を信じたくなったから」
「……じゃあ、もう、闘えないわ」

“鳴子百合”は戦闘態勢を解除した。
 方向は違うが、同じ目的があることを知ってしまった。ならばそれを邪魔することはできない――争奪戦以外では。
 今まで付き合ってもらった感謝と敬意である。とてもじゃないが不義理を通せる相手ではない。

「今までありがとう、“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”さん」
「本当に感謝の気持ちがあるなら――」

 彼女はポケットから、紫色のオーラを放つ紙片を出した。

「……“契約書”?」
「いつの間にか持ってた。これ、貰ってくれる?」
「なぜ?」
「理由は教えない、とでも言いたいところだけど、意地悪したって仕方ないから教えてあげる。――まだ勝負時じゃないからよ」

“鳴子百合”は納得した。

「まだ火曜日だからか」
「そういうこと。まだ持っていたって仕方ない」

 今までは、こうして“教室”に紛れ込むことで、あまり意図せず捜索者の目をかいくぐってきた。だが遠からぬ先に必ずバレる。先はまだ長いのだ、今所持して方々に狙われるのは体力的にキツすぎる。だから一度は手放そうと思っていた。
“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”は、ついさっきまで“鳴子百合”に渡そうとは考えていなかったが、これは一種のサービスである。
“鳴子百合”に足りないのは、経験だ。
 これを持っていれば嫌でも経験を積むことになるだろう。
 特に状況も状況だ。
 偶然なのか運命なのか、現在の所持者は、最強という血統書がある強者、薔薇の蕾の二名である。もし今“鳴子百合”がこれを所持していたら、蕾二人より優先して襲われ続けるだろう。最強の組織のメンバーと実績のないどこぞの馬の骨、どっちを相手にしたいか、なんて比べるまでもない。

「バトルチケットね」
「あら、気付いた?」
「――ぜひ欲しいと思っていたから」

 ニヤリと笑う“鳴子百合”は手を伸ばし、“契約書”を受け取り、更に首から下げた。

「ステキな贈り物をありがとう。一日くらいは死守するわ」
「がんばってね」

 二人とも、このまま最終日まで守りきれるとは思っていなかった。
 先はまだ長い。奪われたところでチャンスならまだまだある。
 それより今は、経験を積むことを優先したい。
 これさえ持っていれば、闘う相手には困らないだろう。




 行方不明だった三枚目が表に出てくると同時に、リリアンには嵐が吹き荒れることになる。
 その発端は――




「あら」
「あっ!」

 三時間目の休み時間。
“契約書”を見せ付けるように廊下を歩む“鳴子百合”は、その“契約書”の行方を追ってやってきた彼女と鉢合わせた。

(よりによって……!)

 顔を見た瞬間、緊張で胃が縮み上がり身体が強張る。
 対戦相手としては相手が悪すぎた。
 ――その行動は反射的だった。

「わっ!」

 ちょうどその辺にいた女生徒がぶつかりそうになって驚きの声を上げるものの、接触なく“鳴子百合”は窓から飛んでいた。
 場所は三階。基礎能力の上がっている目覚めた者なら問題ない高さだ。
 ダン、と音を立てて中庭に立つ。まだまだ近いとばかりに走り出そうとする、と――

「逃げることないじゃない」

 しかし彼女はすでに、目の前にいた。どうやら逃がす気はないらしい。

「……運がいいんだか悪いんだか」

“鳴子百合”は溜息を吐く。
 確かに強者との遭遇を願っていた。勝てないまでも良い勝負ができれば、それこそ経験にもなっただろう。
 しかしこれはダメだ。相手が強すぎる。
 彼女は不遜に腕を組んだ。

「お久しぶり。いいもの持ってるじゃない」
「……」
「それ、貰ってあげてもいいわよ?」
「カツアゲか」

 きっと彼女が望んでいるのだろうツッコミを入れると、心底嬉しそうに笑った。

「あはははは。一度言ってみたかったのよね」

 向こうは楽しそうだ。しかしこっちはそれどころではない。

「……リベンジにはまだ早いっての」

 彼女――“黄路に誘う邪華”鳥居江利子には、“鳴子百合”の呟きは聴こえていなかった。


 もう、1週間が経とうとしている。
 1週間。正確には6日。
 長かったのか短かったのか、“鳴子百合”にはわからない。辛い時間は長く感じたし、それ以外の時間は飛ぶように過ぎていったように思える。
 先週の水曜日、“鳴子百合”は何をされたのかさえわからないまま、この鳥居江利子に保健室送りにされた。
 何をされたのか――未だに見当も付いていない。あれから何度も何度も考えたけれど、可能性さえ見えていない。経験不足のせいか、それとも、わからないことこそ江利子の異能の特性なのか。
 頭に何かが当たって気絶した。それは憶えている。
 ただし、江利子は一歩も動かなかったし、何かが当たったことしか認識できていない。
 考えられるのは、江利子の異能は「見えない攻撃」。それも接近せずとも放てるもの――この二点の推測には自信がある。しかし、これだけしかわからないのでは、ほとんど意味がない。
 ……と思っていたが、“鳴子百合”は1週間前とは違う。

(今ならわかるかもしれない)

“小さな暗殺者(ミニチュアドール)”から叩き込まれた恐怖から生まれた、感知能力“弱電磁波”。
 元は「死角からの攻撃に備える」ために生み出した能力である。正確に言うなら「周囲にある物質を感知する」能力だ。
 まだ試していないので何ともいえないが、もし江利子の異能が「見えない攻撃」で、「見えないけれど存在する」のであれば、“弱電磁波”でそれを察知できる可能性はある。
 鳥居江利子の異能“QB”。
 今なら、その秘密に迫ることができるかもしれない――


「でね、大学の学食のラーメンが美味しいらしいのよ」
「へえ」
「今度一緒に食べに行きましょうよ」
「機会があればね」
「じゃ、また今度!」
「“契約書”置いていきなさいよ」
「それより最近のUFOキャッチャーってすごいと思わない? あんなものやこんなものまで景品で入ってるし」
「そうなの? ゲームセンターなんて滅多に行かないから最近のことはわからないけれど」
「いやいやほんとすごいの。フ○ヤから○ッテまで揃ってるんだから」
「……なんでお菓子メーカーだけに限ってるの? お菓子限定の景品で語ってるの? というかお菓子が欲しいだけなら普通に買った方が安上がりじゃない?」
「今度一緒に行こうね!」
「まあ、機会があればね」
「それじゃ!」
「行く前に“契約書”渡しなさいよ」
「それより知ってる? 一説によると、擬音ってある意味恋の呪文なんじゃないかって噂があるらしいよ」
「どうでもいいから“契約書”よこせ」

 ダメだ、誤魔化しきれない――“鳴子百合”はうやむやにして逃げる策を投げるしかなかった。
 確かに今なら、江利子の異能を割り出せるかもしれない。だがそのためだけに江利子を相手にするのではデメリットの方が大きい。“契約書”を奪われるだけならまだしも、三薔薇同様で“鳴子百合”達も敗北は許されない。
 そもそも、三薔薇なんて強すぎる相手と闘うなんて、経験を積むどころの話じゃない。実力差がありすぎると経験になる前に決着がついてしまう。勝ちでも負けでもだ。
 だが、素直に差し出すのも、華の名が許さない。奪われるならいいが、自分から差し出すなんて許されるはずがない。我が身可愛さなら尚更だ。
 華の名は、実力不足でも誇りと立場だけは三薔薇と対等である、対等でありたいという主張に他ならない。だから敗北したらもう名乗れなくなるし、山百合会に狙われることになるのだ。

「あら」

 江利子の瞳に好奇心が宿る。

「もしかしてやる気になった?」

 思いっきり逃げ腰で負け犬の目をしていた“鳴子百合”が覚悟を固めたのを、江利子は決して見逃さない。

「やる気になったんじゃなくて、やるしかないことがわかったのよ。前向きだなんて思わないことね」
「ふっ。前向きな後ろ向きってわけね」

 ――“契約書”を渡すこと、奪われることはいい。だが闘わずして献上なんてことだけは、絶対にできない相談である。それは華の名を持つ者として、逃げることより恥ずべきことだ。
 幸運にも、今は昼休みや放課後ではなく、ただの休み時間。授業時間と休み時間は絶対的な線引きで、チャイムが鳴るまでがタイムリミットだ。誤魔化して逃げようとしていたやり取りが意外な形で役に立った――時間稼ぎ的な意味で。
 あと5分ほど。
 5分ほど耐えられれば、この場はしのげる。
 きっと“鳴子百合”にとっては気が遠くなるほど長い長い5分間となるだろうが、明確な時間制限があるだけ良い方だ。

「どう? 少しは強くなった?」
「どうかな」

 最悪、負けてもいい。
 どうせ“瞬間移動”を得意とする江利子から逃げることなどできない。
 しかし。
 今度こそ、鳥居江利子の能力を掴む。その情報は必ず仲間達の役に立つはずだ。
 全力を懸けて。
 ――全身に雷光を走らせる。手だけと言わず、全身に。最初から全力である。金色に照らされる深い色の制服とのコントラストが映え、バチバチと雷鳴が爆ぜる。
 江利子は表面上こそ変わらないが、内心驚いている。

「相変わらず力だけはすごいわね」

 炎や氷と違い、雷の再現は難しい。それは身近で観察する機会がそう多くないからだ。
 見る、触る、感じる。
 異能の多くは経験や記憶情報から再現することが多いが、こと電気に関しては「触る」だの「感じる」だのの経験がある者の方が少ない。多くの者が大小の差はあっても火傷したことはあるし、氷は普通に触れたり食べたりする機会がある。しかし電気を見る機会は炎や氷より少ないし、経験するのはだいぶ危険である。あってもせいぜい静電気くらいだろう。
 なので、ここまで見事に再現できる者は少ない。しかも身体にまとって維持できる者なんて希である。本人の素質もあるのだろうが、それを可能とする圧倒的な力量の成せる技だ。
 惜しい人材である。
 ちゃんと経験さえ積んでいれば――いや、もう少しだけ時間があれば、きっと強くなっていただろうに。
 いや、まあ、あれだ。
 これから潰そうとしている江利子が考えることではないか。




“黄路に誘う邪華”鳥居江利子の異能“QB”。
 「Quiet Bomb」――“静かな爆弾”という名を持つ。これ自体は普通に有名だが、本質まで知る者は少ない。
 実際に体感した者は、まさしくその名前通りの意味を知ることになる。
“鳴子百合”も例外ではなく、周囲は当然ながら本人も「なにが起きたのかわからない内に意識を失っていた」としか言いようがない。
 見えない攻撃。
 それは音もなく、気配さえ感じない。しかも江利子は動かず、攻撃態勢も見せない。
 それが江利子の“QB”だ。
 前回、“鳴子百合”は偶然だが江利子の“QB”を回避している。本人も気付いていないが、それを操る江利子は当然わかっている。
 その時は、ただ歩いただけである。自分の闘いやすい位置に移動しようとしただけだ。「様子見」という選択肢がなかった正真正銘ルーキーの頃の話だが、だからこそ回避できたのだろう。まさか目覚めたばかりの者が薔薇を相手にするなんて巡り合わせは、長いリリアンの歴史上でも一度もなかったことだからこその幸運だ。
 そして――今ならわかる。

(これか!?)

 予想通りというか、狙い通りというか。“鳴子百合”の能力“弱電磁波”による「見えない攻撃」の割り出しは、何の障害もなく成功した。
 しかし、成功したからこそ、驚いた。
 自分の周囲に、見えない“何か”が浮いている。拳ほどの大きさの、形状からして恐らく球体。数にして十七個。それらは“鳴子百合”の身動きを封じるように近いもので10センチほど、遠いもので1メートルほど身体から離れて配置され、空中に留まり続けている。
 目を凝らしても見えないし、感じることもできない。放たれる“弱電磁波”の反響で“感じる”だけで、目を凝らそうが感覚を研ぎ澄まそうがそれ以上の情報は得られない。
 これが“QB”の正体だ。
 この「見えない爆弾」は、恐らく触れたら音も発てずに爆発するのだろう。
 前回、自分は、この「見えない爆弾」に触れた。そして何もできずに倒れた。
 ――今度は、そうはいかない。
“鳴子百合”は右手の人差し指を立てると、まっすぐに江利子に向けた。

「“雷音”」

 呟くと、全身にまとっていた雷が集束し、指先一点に集まり――

  ドォン!

 指先からまっすぐに放たれた、身の丈ほどもあるレーザー状の稲妻。頂点に君臨する獣の咆哮を思わせるような落雷に似た爆音は鼓膜をつんざき、校舎さえも震わせた。
 一瞬だけ太陽よりも強い光を放ち音速並で飛ぶ電気エネルギーは、しかし、空を走って消失した。空気はいまだビリビリと揺れ、稲妻の残響がくすぶっている。

「だいぶ操作が上手くなったわね」
「平然とかわさないでくれる?」
「あれだけ予備動作が長いんじゃ、避けてくださいって言っているようなものじゃない」

 江利子は“瞬間移動”でひょいっと回避していた。
 当然か。あれはスピードもパワーも申し分ない。だが彼女の言う通り、予備動作が長すぎるのだ。真正面からやるなら、最低1秒を切る速度で放てないとまず当たらないだろう――密室で、かつ“瞬間移動”を持たない“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”にも当たらなかった。
 だが、目的は攻撃だけではない。
 それには江利子もすでに気付いている。

「“見える”の? それとも“感じる”の?」
「…………」

“鳴子百合”は答えず、代わりに頭をフル回転させていた。
 ――可能性は絞られた。
“雷音”が狙い通り貫いたのは江利子ではなく、“見えない爆弾”の方だ。放射線上に二つ三つを巻き込んでみた。
 しかし、“見えない爆弾”は消えていない。まだそこにある。

(接触じゃ“爆発”しないのは確かか。時限型? 手動式? 黄薔薇の手動っぽいけど……でもいずれにしろ――)

 こちら側から“これら”を消す方法は、ないかもしれない。“鳴子百合”に限っては電気を使うことしかできないので、これで除去できないのであればどうしようもない。“雷音”は全力の一撃をほんの一瞬だけ放出する技で、使い勝手は最悪だが力だけなら自身最大級の全力だ。
 単なる力負けが原因なのか電気での排除が無理なのかはわからないが、どっちであろうと“鳴子百合”にはどうにもできないようだ。恐らく後者だとは思うが。
 ――ところで、“鳴子百合”は大事な思考要素を一つ忘れている。
 いつ、どうやって、自分の周りに“見えない爆弾”が設置されたのか、だ。もしこのキーが揃っていれば、この時点で“QB”の秘密が見えていたかもしれない。
 これが経験不足である。
 ずっと目の前にヒントがあるのに、それに気付けない。

(気付いてもよさそうなもんなのになぁ)

 逆に江利子の方が焦れていた。
“見える”のか“感じる”のかはわからないが、“鳴子百合”は“QB”を感知している。自分の周囲に動きを制限するように配置されたそれに、確実に気付いている。
 そしてきっと、さっきの電気レーザーも、江利子を狙ったように見せかけて“QB”排除を試みたに違いない。
 そうじゃないのだ。
“QB”の特性は、“見えない・感じない”だけではない。その要素の先に答えがあり、その答えこそが特性だ。
 



 多くの者が中庭を見ていた。
 こと戦闘に関わる者、関わりたい者は、中庭は見逃せない場所の一つになっている。元々昼休みと放課後の中庭は、適度な広さと校舎の側であり日当たり良好にして窓からひょいと覗ける手軽さもあるという好条件から、人気の戦闘スポットだ。
 ちょっと校舎で引っ掛けて中庭でケンカでも、そしてそれを野次馬根性剥き出しで観戦でも、という具合に、やる側にしろ見る側にしろ需要の高い場所だった。
 月曜日から始まった争奪戦のせいで、特に見逃せない場所となっている――昨日は“紅蓮の魔犬(ケルベロス)”、“天使”、“重力空間使い”が集い、短いながらも興味深い一戦が繰り広げられた。特に“紅蓮の魔犬(ケルベロス)”に怪我を負わせた、山百合会史上最弱と言われる島津由乃の注目度は驚くほど上がっていた。
 決定的だったのは、“鳴子百合”の放った一撃だ。
 校舎を揺るがすほどの落雷に似た轟音に、何事かと中庭を覗く人間心理は自然である。更にそこには黄薔薇・鳥居江利子の姿がある。これも自然と目が離せなくなる。
 江利子と闘ったことがあるある者は、見覚えのない“雷使い”に期待を寄せる。別に勝ってもらいたいわけではない。闘ったことがあるだけに、そんなことは簡単にできることではないことを悟っている。
 期待しているのは、異能“QB”の解明と、解明した上での活路。
 儚い勝利など期待していないが、黄薔薇打倒のための一歩を踏んでくれることだけは期待している。
 だから、もやもやする。

(もうわかるでしょうが! わかれよ!)

“雷使い”は、どうにかして“QB”の存在を感知している。
 だが“QB”の特性を理解できていない。
 なぜだ。
 ヒントはすでに出揃っているのに、なぜ気付かない。“QB”感知の時点で、すでに答えなんて出ているようなものなのに。
 期待しているのはその先なのに。

「惜しい惜しい」

 窓際に立ってのんびり眼下を見下ろしているのは、白薔薇・佐藤聖である。――足元には紅薔薇勢力の暗殺要員二名が転がっていた。中庭の轟音に便乗して襲い掛かってきたのを返り討ちにした直後である。
 時間にして2秒ほどで、こちらの処理は終わった。
 静かに、正確に、わずかな物音だけ発てて。さすが紅薔薇の暗殺部隊、襲ってくるまで聖はそれと気付いていなかった。良い腕をしている。
 だが、もう聖の興味は、江利子と“鳴子百合”の一戦に向けられていた。
“QB”の秘密を完全に把握している者は少ない。聖だってどこまで正しく認識できているかあやしいものだ。江利子に近しい支倉令は逆に闘う機会がないおかげでまったく知らないし、島津由乃も同様だ。
 三薔薇の一人である聖も、“鳴子百合”が見出す勝機には興味があった。
 黄薔薇を倒したいなら、まず“QB”の特性を知ること――勝利はその先にしかないのだから。解明できないまま闘えば“見えない爆弾”で即保健室送りである。
 無警戒な特攻など攻め手の一つにさえならない。それが鳥居江利子だ。

「……というかほんとに惜しいな」

 どういった原理かまでは想像もつかないが、“鳴子百合”は“QB”の存在を認識している。“QB”は察知が一番難しいポイントで、逆に言えばそこを超えれば半分以上は解明できる。
 しかし“鳴子百合”は気付いていない。
 だから動かない。
 経験不足もあるが、あれは知識不足もあるのだろう。
 惜しいとしか言いようがない。
 ……というか、あれではレベル一桁でラスボスと闘おうとしているようなものではなかろうか。明らかに闘う順番を間違えているとしか思えない。
 まあ、“契約書”を持っているとこうなる、という良い見本なのだろう。

(“契約書”と言えば)

 下の“鳴子百合”が首から掛けている一枚が、行方不明だった最後の一枚だとするなら。
“輝く紅夜の蕾”小笠原祥子。
“疾風流転の黄砂の蕾”支倉令。
 そして“鳴子百合”の三名が所持していることがわかったわけだ。
 昨日、“冥界の歌姫”蟹名静が、聖に対して宣戦布告し一対一の申し込みをした。条件は「“契約書”を手に入れたら」だ。
 果たして静は、誰から“契約書”を奪うつもりなのだろう。蕾二名は誰もが認める強者だが、“鳴子百合”も力だけなら相当なものだ。

「聖さん」

 呼ばれて振り返ると、背も髪もひょろりと長い“九頭竜”が立っていた。

「ああ、“九”ちゃん。どうしたの?」
「だいたい用件はわかるでしょう?」
「もしかして勢力方面の話?」

“九頭竜”は聖の横に並び、中庭を見下ろす。

「私達はあなたに助力しない」
「それが総意?」
「らしいわね」

 紅薔薇勢力が総出で聖に強襲を掛けた時、白薔薇勢力は傍観する――白薔薇勢力総統“九頭竜”の言葉は、そういう意味である。
 はっきり言えば、聖は自分のところの勢力に見捨てられたことになる。
 遅かれ早かれそうなるだろうと思っていた聖は、特に動揺もなかったが。むしろ遅いとさえ思った。

「ねえ、聖さん。そろそろ和解してくれない?」
「和解ねぇ……」

 今からどうこうやって間に合うとは思えないが、“九頭竜”が言うなら間に合わないこともないのだろうと思われる。恐らくギリギリで今ならなんとかなるのだろう。

「いいかげん、板挟みの私もしんどいのよね」
「へえ」
「残される志摩子さんのことも考えてる?」
「志摩子は志摩子で、色々とわかってて私の妹になったの。勢力云々なんて眼中にないよ」
「聖さんと同じで?」

 聖はふと、紅薔薇・水野蓉子に言われた「あなたと志摩子は似ている」という言葉を思い出した。“九頭竜”も似ていると思っているのかもしれない。

「「あ」」

 下の方に動きがあった。江利子の“QB”が“鳴子百合”の肩に直撃し、よろめく。

「今、避けそこなった?」
「いや、たぶん自分の身体で威力を確認したんだと思う」

 無防備に頭に直撃したら脳震盪は必至だが、四肢や身体ならそんなことはない。“QB”の一発一発はそこまでの威力はないのだ。――江利子が加減している限りは。

「試行錯誤感がたまらないね。あんな頃、私もあったなぁ」
「なんだかノスタルジックな気分になるわね」

 中庭で、死闘。
 聖も“九頭竜”も当然のように憶えがある。この二人だけじゃなく、闘う者の多くが過去の自分と重なる光景だろう。甘く青く泥臭く青春していたあの頃の話だ。
 まあ、それはともかく。

「今更どうにかできるの?」
「どうかしら。私は修復不可能だと思っているけれど」
「おや。はっきり言ったね」
「聖さんにははっきり言わないと話が進まないからね」

“鳴子百合”は“QB”を避けつつ江利子に肉薄する。だが江利子は接近を許さず、“QB”を放ちながら適度に距離を保つ――“QB”も曲者だが、“瞬間移動”も非常に厄介な能力である。

「具体案は?」
「あなたと勢力の修復は不可能だと思う。今頃になって聖さんが勢力側に働きかけても梨のつぶてでしょうね。私が仲裁に入っても同じ」

 むしろ放置に近い形で修正も反乱の呼びかけもしなかった“九頭竜”のおかげで、今まで反乱が起こらなかったのだ。
 中には、“九頭竜”の放任が聖と勢力の関係を悪化させた、と言う者もいる。“紅蓮の魔犬(ケルベロス)”や“銃乙女(ガン・ヴァルキリー)”も、“九頭竜”のやり方に反対はしないまでも、「放置してはいけなかった」とは思っている。おかげで今は修復できないほどの溝ができている、と。
 だが聖と“九頭竜”はわかっている。
 下手に触れれば、勢力内に存在する聖の反乱分子が、まず志摩子を狙って行動を開始しただろう、と。充分な数も揃っておらず、聖への反感も低い小数でのあの頃に反乱分子を排除しようとしていれば、当然「弱み」を狙ってきたはずだ。
 「闘わない」という約束を掲げ、もはや山百合会自体に反抗する“反逆者”藤堂志摩子は、あの頃はただの弱者に等しかった。
 無類の強さと危険さを兼ねていた白薔薇・佐藤聖の、目に見えるウィークポイント。それが志摩子の存在だった。
 ――が、今はまた、状況が変わっている。

「実権を移す時が来ている。そんな気がするのよ」
「実権を……あ、そういうことか」

 聖は頷いた。

「私との関係を修復するんじゃなくて、志摩子に指揮権を移そうってわけね?」
「今ならいけると思う」

 あの頃、藤堂志摩子はただの弱者だった。
 だが今は違う。
“反逆者”として育て上げてきた義理と恩とコミュニティーと、彼女自身のあり方――正義そのもの。
 それらはもはや、リリアンのかなり深いところに根付いている。きっと志摩子が一声掛けるだけで、三薔薇勢力並の有志が手を挙げ、志摩子の味方をするに違いない。
 彼女を支持する者は少なくない。三薔薇勢力内部にも存在し、だからこそ今まで彼女を襲う者はいなかった。
 きっと白薔薇になっても、志摩子が“反逆者”であり続ける限り、襲われることはないだろう。彼女の誇りと生き様には“九頭竜”も思うことがある。
 彼女は“反逆者”だ。間違いなく。

「たぶん、この争奪戦で志摩子さんを女帝にしようって動きがあると思う。私はそれに便乗するべきだと思う」
「志摩子が女帝か……なんだか不思議な話だね」

 強者こそ絶対のルール。そのルールの中で上り詰めた聖には、闘うことのない女帝だなんて、不思議な存在でしかない。

「でも来年は私もあなたもいない。なのに志摩子を女帝にしてしまっていいの?」
「祥子さんと令さんがいるからね」

 彼女らは好戦的なタイプではない。一度決まってしまえば、志摩子が反感を買わない限りは、女帝である志摩子を護る存在になるだろう。女帝と言えど同じ山百合会のメンバーで、下級生なのだから。
 まあ、そもそもだ。

「聖さん、まさか本気で、この争奪戦で女帝が決まると思っている?」
「ううん。流れると思う」

 確率の問題である。土曜日の期限までに“契約書”を三枚所持していること――これは相当難しい。特に三枚であることが悪い。二枚だったらありえるだろうが、三枚を集めるのは至難である。
 特に「女帝になる気がない者」が“契約書”を所持した場合だ。その場合“契約書”持ち同士が衝突する理由がなくなってしまう。
 ……とまあ、その他諸々も含めて、三枚集めるのは難しいと考えられる。恐らくこの争奪戦を仕掛けた“契約者”も、女帝が決定する可能性は低いと考えているだろう。
 それでも仕掛けた理由は、まともにやっても勝てるとは思えないから、だ。わずかな勝機しかなかろうと、これなら勝てる確率がほんの少しだけ存在するからだ。

「でも動向と過程は残る」
「そう、結果は残らないけれど、争奪戦中の言動は残る」

“九頭竜”が個人的にでも藤堂志摩子を指示する動きを見せれば、佐藤聖に反感を持つ白薔薇勢力には一石を投じる形になる。
 この動きは、きっと大きな反響を呼ぶだろう。
 聖には反感があっても、志摩子には敵意がない者は多い――それどころか“反逆者”を指示する者は少なくない。
 白薔薇勢力総統の動きに便乗して、あるいは人望で付いて来たりする幹部もいて、志摩子を推す者達が発起する。
 そうなれば、もう争奪戦は関係なくなる。争奪戦明けでも、その動きは確実に残るのだから。
 たとえ志摩子が女帝にならずとも、来年度の新たな白薔薇勢力の核になる人材が現れるに違いない。
 そして“九頭竜”としては、今の内から引継ぎ的な意味も兼ねて育成しておきたいのだ。

「個人的に聞きたいんだけどさ」
「何?」
「“九”ちゃんは、志摩子が白薔薇になることに抵抗はない?」

“九頭竜”もまた、唯一無二のルールの中で生きてきた者だ。闘わない者に仕える気分は複雑ではなかろうか。

「志摩子さんだったらいいわ」
「可愛いから?」
「そう」
「だよね。やっぱり可愛い子に仕えたいよね、どうせなら」
「……言っておくけど、冗談よ?」
「だよね。私もそうじゃないかと思ってた」

 いまいち色々あやしい聖の言動はさておき。

「彼女の“反逆者”としての生き方が嫌いじゃないから。だから応援したくなるのよ。私はお世話になったことはないけど、お世話になった人は一層そう思ってるんじゃない?」
「かもね」
「それで、どう思う? 志摩子さんに加勢していい?」
「好きにしていいよ。今まで通り“九”ちゃんに任せる」
「最後までそれなのね」
「私らしいでしょ?」

 漏れた溜息は、同意の証だった。




“鳴子百合”の動きは鈍ってきている。
 相変わらず“QB”の謎は解けず、闇雲に江利子を追ってはいるものの追いつけない。その上放たれる“QB”を何発も食らっているしで勝負になっていない。
 一定距離をキープしての中・長距離攻撃。
 経験に乏しい“鳴子百合”には、闘えない相手と対峙するのは初めてだった。
 余裕の笑みを浮かべて逃げ回る江利子。
 対する“鳴子百合”は苛立ちを募らせている。まるでバカにしているかのような動きに、頭に血が上っている。

(ダメだ、追いつけない)

 十一発目の“QB”を食らった時、“鳴子百合”はようやく遅すぎる結論を出した。“QB”は頭に直撃するものだけを避けていたが、身体に蓄積し始めているダメージももう無視できない――基礎能力の高さから耐えてこられたが、普通なら五、六発で目に見えて効いてくる。それだけ見てもタフである。
 ちなみに“鳴子百合”からすれば、一発が「金属バットで殴打された」くらい痛い。

(……アレを使う、か?)

 先週、初めて“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”と闘った時に、彼女を仕留めたあの技が脳裏を過ぎる。
 しかし、あの技は卑怯だった――少なくとも“鳴子百合”はそう思う。だから封印していたのだが。

(卑怯はどっちだ)

 闘わずして逃げ回り遠距離攻撃を仕掛ける江利子の方が、よっぽど卑怯ではないか――そもそも卑怯だのなんだのを考える時点で甘いのだが。
 そういうのは、方法を選んでも勝てる強者か、己の美学に反する場合のみ考えればいいのだ。それ以外はなんでもありで、プライドが許せば何をするのも大体自由。それがリリアンのルールである。 

「あら。鬼ごっこは終わり?」

 決めた――江利子の余裕しゃくしゃくの顔を見て、“鳴子百合”は殺ってやろうと決めた。

「ん?」

 思いっきりおちょくっているように見せていた江利子だが、本当はそんなに余裕はない。
 こう注目を集めている中でこれ以上の能力を見せたくない、というのが本音だ。紅薔薇や白薔薇も見ている可能性がある今ここで、手の内を明かしたくはないのだ。
 まあ、目の前の敵より周りの方を気にしているのだから、ある意味ではバカにされているようなものだが。
 そんな江利子だが、“鳴子百合”を軽視しているわけではない。彼女の気配が変わったことを敏感に察した。

(何か来る……)

 あの、車が派手に水しぶきを飛ばして直撃した女子高生のような攻撃的な目。手が届けば運転手を殴ることさえやぶさかではないと語る目。後のことなど知ったこっちゃねえ、とばかりに半ば捨て身になった者の目だ。

(……仕方ないなぁ)

 江利子は気持ちを切り替えた。
 恐らく、“瞬間移動”ではかわせない類の攻撃が来る――“鳴子百合”がやろうとしているのは、最初から予想していたアレだろう。
 フッと、“鳴子百合”のまとう雷が消えた。
 と――彼女の身体が強く発光する。まるでエネルギーを放出する核そのもののように。
 いや、実際そうなのだろう。
 江利子の予想通りのそれがやってきた。

「“獅子吼”」

“鳴子百合”の声は、直後の衝撃音に掻き消された。

「「全方位放出!?」」

 よそから見ていた者達には、きっと綺麗な半球体に広がる雷が見えたに違いない。ほんの瞬きほどの稲光は、確かに“鳴子百合”を中心とした円状だった。
 とんでもない力量である。軽く10メートルはカバーしていた。密室でやれば逃げ場のない技だ。並の“雷使い”ではできないことをやったのだ、“鳴子百合”を知らない者が驚愕するのも無理はない。
 そして――

「…………」

 江利子は平然と立っていた。確実に雷円の中にいたはずなのに、今度は“瞬間移動”で回避行動さえ見せずに、そこにいた。

(見えた! 今なんか見えた!)

 今度こそ、“鳴子百合”は“QB”の秘密に気付くことができた。
 ――雷は江利子に触れる直前に、曲がった。
 これが答えだ。
 雷が曲がる――即ち“空間を捻じ曲げた”のだ。
“QB”の正体は“空間の圧縮”だ。それを解除することで元に戻ろうとする反動が“爆弾”のような性質になる。
 空間を操る。
 目の前でガンガンに“瞬間移動”などという“空間を渡る”能力を見せられて、ようやく、やっと気付くことができた。最初から“空間”を操るヒントを見ていたのに。
“鳴子百合”は己のマヌケ具合に赤面しそうになった。気づけよ自分、と。白いのを笑えないぞ自分、と。メガネをからかってる場合じゃないぞ自分、と。

(空間を操る、か)

 雷では空間をどうこうはできない。だから排除できなかった。きっとアレは物理的干渉を受け付けないのだろう。
 まあ、それはいいとして。
 気付いてしまえば、次の不思議の謎も解ける。
 いつの間にか自分の周りの至るところに存在している“QB”はなんなのか。そういう能力なんだと思っていたが、原理が違う。
 恐らく、江利子の周りで造られて、“瞬間移動”で送り出し、“鳴子百合”の周りに配置されている。

(“瞬間移動”……)

 勉強不足が悔やまれる。字面そのものとして捉えるのではなく、異能としての“瞬間移動”とはどういうものなのかをきっちり調べておくべきだった。知っておくべきだった。
 現状、“QB”の謎が解けたところで、己の状況が想像以上に絶望的であることを悟ったのみである。
 しかもこの“QB”は単調だ。
 つまりこれは江利子の通常攻撃であって、技と呼ぶにもおこがましい汎用性に富む一手なだけ。まったく手の内を見せていないことが伺える。その本質はまだ見せてもらっていない。周りの期待も、ここから先の歩み方を見たがっている。
 とにかく、江利子には随分舐められているのは確かだ。
 だが、それでも届かない。

(――これが三薔薇の実力か)

 こっちはほとんど手の内全てを出しているのに、向こうは基本のみで応用を見せていない。
 力量も基礎能力も“鳴子百合”が勝っているのに、現実は触れられもしないのだ。
 異能の相性云々の話じゃない。
 仮に江利子が雷、“鳴子百合”が“QB”を使用できたとしても、立場が逆転することはないだろう。
“鳴子百合”のいろんなものがまだまだ未熟なのだ。

「もう充分遊んだでしょう? “契約書”、渡しなさい」

 江利子は引き際を用意してくれた。
 ここまでやれば充分だろう、と。
 これ以上続けても仕方ない、と。
 ――本当に、本当に舐められたものである。
 江利子の優しさが、新参者への気配りが、思いっきり“鳴子百合”の名前を汚していることに、本人は気付いていない。
 しょせんはただの新参者――未だに自分はその程度の認識しかされていないという事実。
 華の名を名乗る以上、実力が乏しかろうとなんだろうと、薔薇と対等でありたいという主張である。それを無視されることは侮辱でしかない。引き際を用意してくれた江利子の優しさが理解できたとしてもだ。
 ここまで強くなるために数日間みっちり付き合わせた“小さな暗殺人形(ミニチュアドール)”までバカにされたような気がした。
“鳴子百合”は、首から下げた“契約書”を左手で握り締めた。

「欲しければ力ずくで奪いなさいよ」
「……そう。じゃあそうするわ」

 江利子が消えた。

「後ろ――!」

 張りっぱなしの“弱電磁波”に従い振り返る、が。

「フェイク」

 振り返った“鳴子百合”の耳元で囁かれた声。
 もう振り返る暇もなかった。
 強烈な“見えない爆弾”で頭を弾かれた。今までの比ではない、“QB”数発分の破壊力だった。
 恐らく、“QB”を生み出し至近距離ですぐに爆発させた。
 一瞬で意識が飛んだ。


 最後に思ったことは、傾きつつある身体を自覚しながら、なんとか一矢報いることだけ。
 しかし身体は付いていくことを拒否し、指先に静電気ほどの雷を出すことさえ叶わなかった。

 


  キーンコーンカーンコーン

「……あら」

 倒れた“鳴子百合”の“契約書”に手を伸ばそうとした丁度その時、絶対的な線引きであるチャイムが鳴ってしまった。
 江利子は少々驚いていた。
 まさかルーキー相手に5分も相手にしただなんて。

「仕方ない。あなたの勝ちよ」

 チャイムが鳴った以上、戦闘は終わりだ。果たしてこの状況で“契約書”を取ってしまっても、誰にも文句は言われないだろう。
 だが江利子はそれをしなかった。



“鳴子百合”は、長い長い5分間の闘いに勝利した。
 もっとも、本人は決して認められない勝利の形だったが。












海風 > あっつい……今年の夏も過ごしづらそうですね。 (No.18689 2010-07-17 09:45:51)
通りすがり > すみませんが、指示と支持が間違っている部分がありますよ。 (No.18690 2010-07-17 11:02:47)
通りすがり > すみませんが、指示と支持が間違っている部分がありますよ。 (No.18691 2010-07-17 11:16:44)
海風さまを見てる > わくわく! (No.18699 2010-07-17 23:49:49)
XYZ > 続きがますます気になります。 (No.18714 2010-07-19 11:00:35)
オルレアン > ”反逆者”、志摩子の妹の世代まで書き続けてほしいです! (No.18729 2010-07-20 12:02:42)

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