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和やかなお茶会  No.992  [メール]  [HomePage]
   作者:まつのめ  投稿日:2005-12-24 15:07:51  (萌:1  笑:1  感:29
...→【No:935】【No:958】→今回。



 放課後になってから祐巳は志摩子さんと一緒に薔薇の館に赴いた。
 二人が薔薇の館に着いたとき、サロンには既に山百合会のメンバーが全員がそろっていた。
 紅薔薇さまと黄薔薇さまに、祐巳が居る時は来ないと言っていた白薔薇さまの姿もあった。
 それから、祥子さま、令さま、そして由乃さん。
 いま来た祐巳と志摩子さんを加えればかつての山百合会メンバー勢ぞろいである。
 またこのメンバーでやっていければ良いなと思いつつ、まだ予断を許さない状況なのだけど。

「ごきげんよう、祐巳ちゃん、志摩子ちゃん。歓迎するわ」
 歓迎するわ、との言葉通り、紅薔薇さまを筆頭に山百合会のみんなは祐巳たちをお客さま扱いでもてなしてくれた。
 祐巳と志摩子さんが扉を背にした真中の席に並んで座り、祐巳の正面は紅薔薇さま。紅薔薇さまのをはさんで両側に祥子さまと黄薔薇さま。
 祥子さまの隣というかテーブルの端っこに白薔薇さまが座り、お茶をみんなに配っていた令さまと由乃さんは順に黄薔薇さまの隣に座った。
 みんなが席に落ち着いてからまず、紅薔薇さまが「私たちの紹介は必要かしら?」と前に祐巳が呼ばれたときと同じことを志摩子さんに向かって聞いた。
 志摩子さんは「いえ、よく存じてますから」と答え、「それじゃあ」ということで、まだ紹介していない山百合会側のメンバーの紹介からとなった。
 紅薔薇さまに最初と指名された祥子さまは、祐巳を前にして、祐巳のことを知っているということをおくびにも出さずに祐巳が惚れ惚れしてしまうほど完璧に自己紹介を演じてみせた。
 その後、令さま、由乃さんと続いて、次は祐巳たちの番となった。
「あの、一年桃組の福沢祐巳です。えっと……」
 祐巳は『祥子さまのファンです』は避けて、無難に名前とクラスと自己紹介では定番の家族構成を披露した。
「……そう、祐巳ちゃんは弟がいるのね」
「ええ、ぎりぎりで同じ学年なもので、よく『双子ですか』なんて言われちゃうんですが」
 祐巳の次は志摩子さん。
 でも志摩子さんの自己紹介は名前と祐巳と同じクラスであることを言っただけだった。

 お茶会で積極的に話をしたのはほとんど紅薔薇さまだけだった。
 お隣に座っていた黄薔薇さまは、どこか観察に徹しているようであまり話さなかったのだ。
 お姉さまの黄薔薇さまが話さないとなると、妹の令さまも姉を差し置いて発言するのを控えているのか、お茶のお代わりをすすめた以外は全然発言しなかった。
 そしてその妹、山百合会側で唯一の一年生の由乃さんは、彼女がそんなこと気にする筈も無いのだけど、やっぱり姉と姉の姉の前だからなのか静かだった。
 ただ、発言こそしなかったものの祐巳と志摩子さんを興味深そうに観察する遠慮の無い視線はやはり由乃さんだなあと思った。
 そして祥子さま。
 祥子さまは自己紹介の後は、お姉さまの蓉子さまの隣で借りてきた猫みたいに静かにしていた。
 そのご様子は、やはり期せずして手に入った蓉子さまとの姉妹生活の延長戦を満喫している、という言葉そのもので、微笑ましい、というか祐巳はある意味複雑だった。
 このまえは祐巳にああいう風に言ってたけど、祥子さまはまだ蓉子さまとの間に波風は立たせたくないと思っているんだなと、確信は無いのだけど、なんとなくそう思った。

「……一度会ってみたいわ。その弟さんに」
 紅薔薇さまは祐巳の弟に興味をもたれたようだった。
「多分そのうち会う機会があると思いますよ。花寺に通ってますので」
「あら、お隣じゃない」
「学園祭で花寺の生徒会の方の協力を頂くのは恒例になってるのよ」
「そうなんですか」
「こちらから祐巳ちゃんの弟さん、指名しちゃおうかしら」
「そ、それは勘弁してください」
「うふふ、どうしようかしら」
 たしか学園祭の時点ではまだ祐麒は山百合会との接点は無かったはずだ。
 祐巳はまずいことを言ってしまったのかも知れないと思ったが、考えてみれば今の時点でもうこんなにしっちゃかめっちゃかな状況になっているのだ。
 だから祐麒が今年の学園祭に引っ張り出されたとしてもそれはもうたいした事ではないのかもしれない。
 
 それはともかく。
 会話だけ聞いていればとてもよい雰囲気に感じるのだけれど、実際、お茶会の行われている会議室は始終和やかな雰囲気だったのだけど、祐巳はお茶会の間中、居心地の悪さを感じていた。
 それは聖さまの態度だ。
 祐巳と聖さまの間には誰もいなかったのだけど、聖さまは祐巳が座った時チラッと祐巳の方を見ただけで、その後はどんな話題になっても祐巳や志摩子さんの方を見ようとしなかった。
 聖さまは面白くなさそうにテーブルに肘をつき、手で顔を支えて窓の方向を向いていた。
 みんなの手前ここに居るだけで、祐巳や志摩子さんと同じ部屋に居たくない、そんな気持ちがひしひしと伝わってくるようだった。
 結局、お茶会が終わるまで、聖さまは一言も発言せず、視線を祐巳たちに向けることも無かったのだ。

 お茶会の最後に、紅薔薇さまは、改めて志摩子さんにも手伝いをしてくれないかと聞いてきた。
 それに答えて志摩子さんは、先日祐巳に言った通り『祐巳と一緒に』という条件でそれに同意した。

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