・・・・・・あら、いけない。授業中だというのにうとうとしてしまったわ。
・・・・・・何かあったのかしら? 妙に周りがざわざわしているのだけど。
――どうして二年生のクラスにいるのかしら?
――変ね? さっきまで数学の授業だったはずなのになぜ古典の授業なのかしら?
――みなさん、どうしたのですか? 静かにしなさい!
――アレ? この授業確か去年受けたよ?
――何だか、過去にタイムスリップしてきたみたいね?
・・・・・・タイムスリップ?
私ははっとなって胸元に手を当てる。
・・・・・・ある。祐巳に渡したはずのロザリオがその歴史の重みを私に感じさせている。
気付いたら、私は教室を飛び出していた。
何が何だかわからないまま一年の教室までやってきた私は困惑の表情を浮かべた志摩子が駆け寄ってくるのが見えた。
「志摩子! あなたもなの? 祐巳は?」
「いえ、残念ながら私だけです。」
志摩子も心細そうに答える。
「とりあえず、薔薇の館へ急ぎましょう。」
まず落ち着いて状況を確認する必要がある。
それに、他にも誰か『還って』来ているかもしれないから。
「あら、遅かったわね。・・・・・・祐巳ちゃんは?」
私たちが薔薇の館の扉を開くと既にお姉さまたち薔薇さま方と令がテーブルを囲んでいた。
「・・・・・・そう、祐巳ちゃんは還って来ていないのね。しかも今はまだ夏休み前、祥子に出会う前、か。」
お姉さまに落ち着くようにと紅茶を淹れてもらった後、お互いの情報を確認しあっていた。
「『還って』きている人は一年が志摩子だけ、二年生がおよそ半分、三年生が大体三分の一。とりあえず騒がずに授業を受けておくように訊かれた人に言っておいたけど、早急に対策が必要ね。」
「今うちに電話してみたけど、由乃も還って来てるみたい。」
令がほっとしたように付け加える。
・・・・・・参ったわ、祐巳だけ還ってきていないなんて・・・・・・
そんなネガティブな思考にはまっていると、後ろからお姉さまに抱きしめられた。
「大丈夫、みんなで元の時間に戻れるように頑張りましょう? もし戻れなくてもきっとまた妹になってくれるわ。」
お姉さまの優しい言葉に少し心が軽くなったような気がして、何故か静かに涙がこぼれた。
私が落ち着いて、ふと聖さ・・・・・・いや、白薔薇さまが呟いた。
「あれ? じゃあさ、今祐巳ちゃんってフリーなんだよね? もしかして還ってきてる誰かがそれに気付いてロザリオあげちゃったりして・・・・・・」
・・・・・・はぁ、お姉さま、また切実に嫌な予感がひしひしと・・・・・・
つづきゅかも。