「37度5分…か」
体温計の目盛を読みながら、紅薔薇のつぼみこと福沢祐巳は、ぼそりと呟いた。
風邪をこじらせ、40度近い熱が出ていたので、今日の学校は休んだのだが、そのお陰か、夕方頃には今の体温まで下がっていた。
改めて布団に深く潜り、次第にうつらうつらとしてきたその時、呼び鈴がピンポンと鳴った…ような気がした。
その後しばらくして聞こえてくる、階段を軽やかに上がる足音。
そして、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
祐巳の返事に応じて、遠慮がちに開いた扉から顔を出したのは、祐巳のクラスメイトにして親友の、黄薔薇のつぼみこと島津由乃だった。
「ごきげんよう、祐巳さん。具合はどう?」
「あ、由乃さん。来てくれたんだ」
「うん、お見舞いのついでに、プリントも届けにね。体調は?」
「だいぶ熱は下がったんだけど…。明日は学校に行けるかな?」
「そう、良かった。はいおみやげ」
由乃から手渡された袋には、飲むヨーグルトが入っていた。
「わぁ、ありがとう」
「それだけじゃないのよ」
「え?」
何故か自信満々といった風情の由乃。
「じゃーん。これこれ、この薬」
「?」
「風邪に凄い良く効くの。かかりつけの先生お勧めだから、是非祐巳さんに使ってもらおうと思って」
「いいよ、薬ならあるから」
「遠慮しないで。祐巳さんには、早く治してもらいたいから」
そう言いながら、いきなり布団を剥ぎ取る由乃。
「え?何を?」
それには答えずに由乃は、祐巳の身体を壁に向け、パジャマに手をかけた次の瞬間、あまり見られたくない部分を剥き出しにした。
必死に抵抗しようとするも、熱のせいか恥ずかしさのせいか、力が全く入らない。
非力なのに、信じられないぐらい強い力を出す由乃だった。
「はい」
ツプ。
音頭と共に、冷たい物がツルリと体内に入る感触。
「おしまい」
そして、あっと言う間に元の姿に戻した。
「うううう、由乃さん。ま、まさか…」
「うふ。祐巳さんって、温かい…」
「いやー、言わないでー!」
耳を塞いで、イヤイヤする祐巳。
「それじゃ、お大事にー。大丈夫、その薬きっと効くから」
羞恥で半泣きの祐巳に一言残して、由乃はさっさとその場から去っていった。
『あら、もうお帰り?』
『はい。あまり長居するのも失礼ですから。お大事に』
『ありがとうね』
由乃と母とのやりとりを遠くに聞きながら、何か大事なものを亡くしたような気分で、枕を濡らす祐巳だった。
改めて布団に深く潜り、次第にうつらうつらとしてきたその時、呼び鈴がピンポンと鳴った…ような気がした。
その後しばらくして聞こえてくる、階段を規則正しく上がる足音。
そして、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
祐巳の返事に応じて、遠慮がちに開いた扉から顔を出したのは、祐巳の同級生にして親友の、白薔薇さまこと藤堂志摩子だった。
「ごきげんよう、祐巳さん。具合はどう?」
「あ、志摩子さん。来てくれたんだ」
「ええ、気になったものだから。体調は?」
「だいぶ熱は下がったんだけど…。明日は学校に行けるかな?」
「そう、良かったわ。はいおみやげ」
志摩子から手渡された袋には、プリンが入っていた。
「わぁ、ありがとう」
「それだけじゃないのよ」
「え?」
何故か自信満々といった風情の志摩子。
「この薬、使ってみて」
「?」
「風邪にとても良く効くわ。檀家のお医者さまがお勧めの薬だから、是非祐巳さんに使ってもらおうと思って」
「いいよ、薬ならあるから」
「遠慮しないで。祐巳さんには、早く治してもらいたいから」
そう言いながら、いきなり布団を剥ぎ取る志摩子。
「え?何を?」
それには答えずに志摩子は、祐巳の身体を壁に向け、パジャマに手をかけた次の瞬間、あまり見られたくない部分を剥き出しにした。
必死に抵抗しようとするも、熱のせいか恥ずかしさのせいか、力が全く入らない。
その細い身体からは、信じられないぐらい強い力を出す志摩子だった。
「はい」
ツプ。
音頭と共に、冷たい物がツルリと体内に入る感触。
「おしまい」
そして、あっと言う間に元の姿に戻した。
「うううう、志摩子さん。ま、まさか…」
「ふふ。祐巳さんって、温かくって柔らかい…」
「いやー、言わないでー!」
耳を塞いで、イヤイヤする祐巳。
「それじゃ、お大事に。大丈夫よ、その薬きっと効くから」
羞恥で半泣きの祐巳に一言残して、志摩子はさっさとその場から去っていった。
『あら、もうお帰り?』
『はい。あまり長居するのも失礼ですから。お大事に』
『ありがとうね』
志摩子と母とのやりとりを遠くに聞きながら、せっかく見つけた大事なものを、再び亡くしたような気分で、枕を濡らす祐巳だった。
改めて布団に深く潜り、次第にうつらうつらとしてきたその時、呼び鈴がピンポンと鳴った…ような気がした。
その後しばらくして聞こえてくる、階段を上がるちょっとウルサイ足音。
そして、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
祐巳の返事に応じて、遠慮がちに開いた扉から顔を出したのは、祐巳の先輩にして親友の姉の、黄薔薇さまこと支倉令だった。
「ごきげんよう、祐巳ちゃん。具合はどう?」
「あ、令さま。来てくださったんですか」
「うん、気になったものだから。体調は?」
「だいぶ熱は下がったんですけど…。明日は学校に行けるかな?」
「そう、良かった。はいおみやげ」
令から手渡された袋には、お手製シュークリームが入っていた。
「わぁ、ありがとうございます」
「それだけじゃないよ」
「え?」
何故か自信満々といった風情の令。
「いい薬持って来たんだ。使ってみてよ」
「?」
「風邪にとても良く効くよ。ウチの門下生の家が医者で、そこで貰った薬だから、是非祐巳ちゃんに使ってもらおうと思って」
「せっかくですが、薬ならありますから」
「遠慮しないで。祐巳ちゃんには、早く治してもらいたいからね」
そう言いながら、いきなり布団を剥ぎ取る令。
「え?何を?」
それには答えずに令は、祐巳の身体を壁に向け、パジャマに手をかけた次の瞬間、あまり見られたくない部分を剥き出しにした。
必死に抵抗しようとするも、熱のせいか恥ずかしさのせいか、力が全く入らない。
現役剣道部の本領発揮、とても強い力を出す令だった。
「はい」
ツプ。
音頭と共に、冷たい物がツルリと体内に入る感触。
「おしまい」
そして、あっと言う間に元の姿に戻した。
「うううう、令さま。ま、まさか…」
「はは。祐巳ちゃんって、温かくって柔らかくってスベスベしてて…」
「いやー、言わないでくださいー!」
耳を塞いで、イヤイヤする祐巳。
「それじゃ、お大事に。大丈夫だよ、その薬きっと効くからね」
羞恥で半泣きの祐巳に一言残して、令はさっさとその場から去っていった。
『あら、もうお帰り?』
『はい。あまり長居するのも失礼ですから。お大事に』
『ありがとうね』
令と母とのやりとりを遠くに聞きながら、大事なものを壊してしまったような気分で、枕を濡らす祐巳だった。
改めて布団に深く潜り、次第にうつらうつらとしてきたその時、呼び鈴がピンポンと鳴った…ような気がした。
その後しばらくして聞こえてくる、階段を大人しく上がる足音。
そして、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
祐巳の返事に応じて、遠慮がちに開いた扉から顔を出したのは、祐巳の後輩にして親友の妹の、白薔薇のつぼみこと二条乃梨子だった。
「ごきげんよう、祐巳さま。具合はいかがですか?」
「あ、乃梨子ちゃん。来てくれたんだ」
「はい、気になったものですから。体調はどうです?」
「だいぶ熱は下がったんだけど…。明日は学校に行けるかな?」
「そうですか、良かったです。はいおみやげ」
乃梨子から手渡された袋には、みたらし団子が入っていた。
「わぁ、ありがとう」
「それだけじゃありません」
「え?」
何故か自信満々といった風情の乃梨子。
「この薬、使ってみてください」
「?」
「風邪にとても良く効きます。菫子さんの知り合いのお医者様お勧めの薬ですから、是非祐巳さまに使っていただこうと思いまして」
「せっかくだけど、薬ならあるから」
「遠慮しないでください。祐巳さまには、早く治していただきたいので」
そう言いながら、いきなり布団を剥ぎ取る乃梨子。
「え?何を?」
それには答えずに乃梨子は、祐巳の身体を壁に向け、パジャマに手をかけた次の瞬間、あまり見られたくない部分を剥き出しにした。
必死に抵抗しようとするも、熱のせいか恥ずかしさのせいか、力が全く入らない。
一見華奢なのに、非常に強い力を出す乃梨子だった。
「はい」
ツプ。
音頭と共に、冷たい物がツルリと体内に入る感触。
「おしまいです」
そして、あっと言う間に元の姿に戻した。
「うううう、乃梨子ちゃん。ま、まさか…」
「クス。祐巳さまって、温かくって柔らかくってスベスベしてて真っ白で…」
「いやー、言わないでー!」
耳を塞いで、イヤイヤする祐巳。
「それじゃ、お大事に。大丈夫ですよ、その薬きっと効きますから」
羞恥で半泣きの祐巳に一言残して、乃梨子はさっさとその場から去っていった。
『あら、もうお帰り?』
『はい。あまり長居するのも失礼ですから。お大事に』
『ありがとうね』
乃梨子と母とのやりとりを遠くに聞きながら、知りたくなかった事実を知らされたような気分で、枕を濡らす祐巳だった。
改めて布団に深く潜り、次第にうつらうつらとしてきたその時、呼び鈴がピンポンと鳴った…ような気がした。
その後しばらく何も聞こえなかったが、突然部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
祐巳の返事に応じて、遠慮がちに開いた扉から顔を出したのは、祐巳の後輩にして妹候補の一人、演劇部所属の松平瞳子だった。
「ごきげんよう、祐巳さま。具合はいかがですか?」
「あ、瞳子ちゃん。来てくれたんだ」
「はい、気になったものですから。体調はどうです?」
「だいぶ熱は下がったんだけど…。明日は学校に行けるかな?」
「そうですか、良かったですね。はいおみやげ」
瞳子から手渡された袋には、ハーケンダックのアイスが入っていた。
「わぁ、ありがとう」
「それだけじゃありませんわ」
「え?」
何故か自信満々といった風情の瞳子。
「この薬、使ってみてくださいな」
「?」
「風邪にとても良く効きますのよ。祖父が、あ、お医者さまやってるんですけど、お勧めの薬ですから、是非祐巳さまに使っていただこうと思いまして」
「いいよ、薬ならあるから」
「遠慮しないでくださいませ。祐巳さまには、早く治していただきたいですから」
そう言いながら、いきなり布団を剥ぎ取る瞳子。
「え?何を?」
それには答えずに瞳子は、祐巳の身体を壁に向け、パジャマに手をかけた次の瞬間、あまり見られたくない部分を剥き出しにした。
必死に抵抗しようとするも、熱のせいか恥ずかしさのせいか、力が全く入らない。
見るからに非力そうなのに、異常に強い力を出す瞳子だった。
「はい」
ツプ。
音頭と共に、冷たい物がツルリと体内に入る感触。
「おしまいです」
そして、あっと言う間に元の姿に戻した。
「うううう、瞳子ちゃん。ま、まさか…」
「くすくす。祐巳さまって、温かくって柔らかくってスベスベしてて真っ白でイイ香りで…」
「いやー、言わないでー!」
耳を塞いで、イヤイヤする祐巳。
「それじゃ、お大事に。大丈夫ですわ、その薬きっと効きますから」
羞恥で半泣きの祐巳に一言残して、瞳子はさっさとその場から去っていった。
『あら、もうお帰り?』
『はい。あまり長居するのも失礼ですから。お大事に』
『ありがとうね』
瞳子と母とのやりとりを遠くに聞きながら、ささいなことで友人と喧嘩してしまった気分で、枕を濡らす祐巳だった。
改めて布団に深く潜り、次第にうつらうつらとしてきたその時、呼び鈴がピンポンと鳴った…ような気がした。
その後しばらくして聞こえてくる、階段を静かに上がる足音。
そして、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい?」
祐巳の返事に応じて、ドバンと開いた扉から顔を出したのは、祐巳の先輩にしてお姉さまの、紅薔薇さまこと小笠原祥子だった。
「ごきげんよう祐巳!具合は?体調は?熱は?」
「あ、お姉さま。来てくださったんですか」
「当たり前じゃないの。大丈夫?気分は?加減は?」
「だいぶ熱は下がったんですけど…。明日は学校に行けると思います」
「そう、良かった…。はいおみやげ」
祥子から手渡された袋には、有名店のケーキが入っていた。
「わぁ、ありがとうございます」
「それだけじゃないわ」
「え?」
何故か自信満々といった風情の祥子。
「この薬、使ってみなさい」
「?」
「風邪にとても良く効くの。あなたの体質に合わせて調合させた薬だから、安全だし」
「あの、ありがたいんですけど薬はありますので」
「遠慮しないで。あなたには、一刻も早く治ってもらいたいから」
そう言いながら、いきなり布団を剥ぎ取る祥子。
「え?何を?」
それには答えずに祥子は、祐巳の身体を壁に向け、パジャマに手をかけた次の瞬間、あまり見られたくない部分を剥き出しにした。
必死に抵抗しようとするも、熱のせいか恥ずかしさのせいか、力が全く入らない。
祐巳がらみだと、普通では有り得ないような強い力を出す祥子だった。
「はい」
ツプ。
音頭と共に、冷たい物がツルリと体内に入る感触。
「おしまい」
そして、あっと言う間に元の姿に戻した。
「うううう、お姉さま。ま、まさか…」
「うふふふふふふふふふふふ。祐巳、安心して。今晩は付きっきりで看病してあげるから」
当たり前のように、祐巳の布団に入り込もうとする祥子。
「え?いや、あの、お姉さま?何を?」
困惑しながら、問い掛ける祐巳。
「まだ熱があるんでしょ?寒いのよね?私が身体で暖めてあげるから」
羞恥で半泣きながらも祐巳は、目の色が変わっている祥子に、必死で抵抗していた。
「何故抵抗するの?」
「お姉さまに風邪をうつすわけには行かないからです!」
「あら、祐巳の風邪なら歓迎だわ」
「そうは行き…きゃぁ!」
「大人しくしなさい祐巳。二人で風邪を治すのよー!」
結局は、抗いきれない祐巳だった。
なんだかんだと、都合6つの薬を突っ込まれた祐巳だったが、祥子が持って来たもの以外は、全て効き目のない偽薬だった。
いくら馴染みの医者であっても、当人に直接処方できない以上、効果のある薬を渡せるわけがないのは当然だ。
その後祐巳は、祥子が持って来た薬のお陰か無事に回復したのだが、今度は祥子に風邪がうつって熱を出し、寝込んでしまった。
それを知った一同が、呆れかえったのは言うまでもない。