【110】 祐巳によるローキックで一撃有効利用  (柊雅史 2005-06-27 02:04:40)


「瞳子ちゃん、ドリル触っていい?」
こくん、と可愛く首を傾げる祐巳さまに、瞳子は「何を急に言い出すんだこの人は」という感情を隠すことなく、冷ややかな視線を向けた。
「ダメです。いいはずないでしょう。そもそもドリルってなんですか。全く、なんのつもりですか。ふざけるのもいい加減にしてください」
ズビズバズビシッと叱る瞳子に、祐巳さまがあう〜と不満げな顔になる。
「そう言われると、余計に触りたくなる……んだよねっ!」
「なんのっ!」
とあっ、と不意を衝いて(全然衝けてないですけど……)手を伸ばしてくる祐巳さまに対して、瞳子は両手をクロスさせて自慢の縦ロールをガードした。
「甘い、甘いです。祐巳さまの攻撃など簡単に読め」
「えいっ」
 ――ぺち。
ひょい、と祐巳さまが伸ばした足が瞳子の太ももを叩き、瞳子はびっくりして足元を見た。
そりゃそうだろう。リリアン女学園に通う生徒で、先輩からローキックを食らうなんてことを予想している人がいるものか。いたら是非、会ってみたい。会ってあなたの人生観はどこか狂っていますと、小一時間説教したい。
「捕獲ー」
瞳子が反射的に下を向いたところで、祐巳さまの両手がガッシと瞳子のドリルを――もとい、縦ロールを鷲掴みにした。
「うふふ〜、昨日由乃さんに聞いたんだけど、頭へのガードを下げる基本はローキックから、なんだって」
「……へぇ、そうなのですか」
瞳子は祐巳さまに縦ロールを確保されたまま、ゆっくりと頭を上げる。
「うん。ボクシングでもボディを攻めることでガードが下がって……」
得意げに解説を始めた祐巳さまが、瞳子の視線に気付いて口をつぐむ。
「――ガードが下がって? それから、どうするのです?」
「え、いや、その……あの……お、怒ってる?」
「いいえ、そんなことありませんわ」
にっこりと微笑んで、瞳子は答えた。
「ただ、祐巳さまへの反撃の参考までに、お聞きしているだけです。――それで、ボディを打ってから、わたくしはどうすれば良いのでしょう?」
「ぼ……暴力反対っ!」
祐巳さま、それは今更だと思いますわよ?


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