〜〜〜 聖ワレンティヌスがみてる 〜〜〜 Part 2
┌【No:1084】
├これ
【No:440】→【No:511】の設定が下敷きになってます。
† † †
家に帰ると笙子は、カメラからメモリーカードを抜き取ると、制服を着替える間も惜しんでお父さんの部屋に駆け込んだ。
あんなカメラを買ってしまったら、さすがにパソコンまで買うお金はない。会社に行っている間はいつでもお父さんのパソコンを使っていいことになっていた。
「えーと、ちさとさまが一本取ったところ……」
連写に切り替えてからだから、だいぶ後の方……あった。
順番に並べて、プリントアウトする。普段なら写真用紙に『これ』というのだけを印刷するのだけれど(そうじゃないと写真用紙って高いんだもん)今日はA4普通紙にずらっとならべてみた。
(うん、よく撮れてる)
他の写真も何枚かコマ落としみたいに印刷して、パソコンの電源を切った。自分の部屋へ持って帰る。
(でも、これって大スクープじゃないの?)
令さまが高校生女子に一本取られたところって、ほとんど写真にはなってないんじゃないだろうか。そもそも、おととしの交流試合で、大仲女子の田中長姉大将さんから一本目を取られて以来のことではなかろうか。
うわっ。すごいものが撮れたかも。わくわくしてしまう。
プリントアウトした紙を広げる。
順番に追っていくと、令さまとちさとさまの動きがくっきりわかる。さっきの記憶と突き合わせながら一枚一枚見ていく。
ちさとさまが左へステップして、逆胴を狙いに行く。これはムリだ。令さまが簡単にかわして竹刀を擦りながら小手へ。しゃくいあげるように受けたちさとさまの体勢はくずれている。令さまが連続技で小さく振りかぶる。
あ……この時には、ちさとさまが反応してる。その場で見た時には、かなり強引によけたように見えたけど、ちゃんと令さまの動きが見えてたんだ。
ちさとさまが右へ飛び、令さまの竹刀を避けて顔を振った時にはもう振りかぶってる。
令さまの竹刀が空を切って、ちさとさまの左肩に当たった時には、ちさとさまは踏み込んで竹刀が降り始めてる。
そして。面が決まる。交錯して行き違う二人。
これはまぐれ当たりじゃない。
ちさとさまは令さまに追いついたんだ。
胸が熱くなる。
去年のバレンタインデートがきっかけで、令さまを追いかけて剣道部に入ったちさとさま。
追いかけて、追いかけて、とうとう絶対に追いつけないはずの令さまに追いついたんだ。
涙が出そう。よかったね。ほんとうによかったね。
由乃さまの代わりにはなれない。それがわかっていてもがんばって、令さまがいなくなってしまう前に追いついたんだ。
と、扉がノックされた。
「笙子、いる?」
「あ、お姉ちゃん、帰ってたんだ。入って」
あわてて、涙を拭いてプリントアウトを片づける。