【1136】 貴女しかいないでもレイニー再び  (くま一号 2006-02-16 01:51:12)


〜〜〜 聖ワレンティヌスがみてる 〜〜〜 Part (謎)

「前書き姉妹ですぅ。祐巳さま、なんなんですか Part(謎)ってのは。(謎)ですよ(謎)」
「そのー、ね、瞳子ちゃん、ほんとは15日締め切りのイベントを週末まで延ばしてもらったの。それでも書き上がるかどうか全然自信ないのよ」
「だからっていきなりタイムワープってその」
「名付けて『銀杏の中の桜方式』」
「はあ、先を書いちゃってあとからつじつまを合わせるんですか。今野先生でさえ苦労して裏視点からのBGNを付け加えてやっと何とかなったという、あれをやるんですね、カクゴはいいですかカクゴは」
「自爆のカクゴはできてるわよ」


┌【No:1084】
├【No:1109】
├【No:1111】
ずーっと先

├これ

【No:440】→【No:511】の設定が下敷きになってます。

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「……残念ですが…お断りさせていただきます」

 菜々は、由乃に深々と頭をたれた。 

 選挙の開票結果発表のあと、公孫樹並木でようやく菜々を見つけた由乃は『ちょっと早いけど、高等部に入学したら私の妹になってほしい』とロザリオを渡そうとしたのだった。
 時としてかなり無理やりな理由をつけて何度も『デート』につき合わせている由乃としては、断られるとは思ってもみなかったのだが、菜々は少し冷めた目をして断った。

「理由、聞かせてくれるかしら?」
「招いていただいたクリスマス会でのこと、覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、当然でしょ」
「会、自体は大変楽しかったです。 お招きいただいて感謝しています。 ただ、あの時、支倉令さまが他の大学を受験されると由乃さまに告白された時……事前に聞かされていなくて驚いたとはいえ、その瞬間他の事に目が行かなくなられましたね。その前は令さまのお見合いと聞いて飛び込んで壊そうとした。私はそれを見てどう考えたと思います?」

 菜々は正面から由乃を見据える、その強い意志を持った瞳に押されそうになる。
 言葉が出てこない、怒りから? 由乃はブルブル震えだしそうになる手を押さえて首を横に振る。

「この人の世界は”支倉令さま”なんだ”支倉令さまが中心”なんだ、そういう狭い範囲の関係で満足できてしまうんだ。 紅薔薇のつぼみも白薔薇のつぼみも同じですね。 お二人も姉は甘えさせてくれればいい、私にはそう感じられました。 そして由乃さまは”支倉令さまが居てくれれば他はなにもいらない”んだと……」
「そ、そんなこと…「無いって言えますか?」」

 由乃と菜々の間を冷たい風が吹き抜ける。 由乃が次期黄薔薇さまに決まったというのに晴れやかとはいい難い二人の雰囲気に下校する生徒達は遠巻きにして通り過ぎて行く。

「支倉令さまも考え無しにしていらしたと思いますけれど、無責任に甘やかしていらしたんじゃないですか? 由乃さまが『令ちゃんの由乃』でいるのをどこかで安心している令さまがいる。 由乃さまもそれに甘えて今のままでいいやと思っている」
「私だけじゃなく令ちゃんの」

 由乃はキッと菜々を睨み付けると手を振り上げる、しかし由乃のそれに反応できない菜々ではない、平手が当たる前に片手だけで完全にガードしてしまう。

「由乃さま。黄薔薇さまを越えようとは思わないんですか」
「令ちゃんを、越える?」
「ええ」
昂ぶることもなく、菜々は淡々と話し続ける。

「私にとって、姉というのは実の姉たちです。みんな尊敬する姉であり、剣の道では先輩であり師です。そして倒すべきライバルでもありました」
「師……」
「その姉たちに私は打ち勝ってきました。でも、勝ったからといって姉妹の順番が変わる訳じゃありません。やっぱり尊敬する大好きなお姉さんです。姉妹、というのはそういうものだと思ってきました。そしてその彼方に令さまがいる。それなのに」
「……菜々」

「由乃さま」ぎらり、と由乃をねめつける。
「あなたには、黄薔薇さまを越えようとする気概が、意志が感じられない。いつも甘えるだけの、受け止めてくれるだけの令さまに慣れてしまった。高等部でお会いした方々の中で、師を越える気概を持っているのは笙子さまだけだったんです」

「……そう、そんな風に見えていたの。でも、私はともかく祐巳さんや乃梨子ちゃんもそうだっていうの? よく見もせずに言っているなら許さないわ」
「そうでしょうか。乃梨子さまにとって白薔薇さまは完璧なマリア様。まして祐巳さまにとっての紅薔薇さまは絶対なのではありませんか。姉を越えようなんて考えてもいないのではありませんか。考えていたら、なぜ祐巳さまは立候補を渋ったのですか。リリアンの大学部へ行ったらそのまま祥子さまが紅薔薇さまの役をしてくれるとでもいうのでしょうか。そんな人達が薔薇さまを務められますか」
「菜々、それ以上、私の大事な人たちのことを言ったら」

「そして、由乃さま、なぜ笙子さまの撮った写真を見ないのですか。由乃の令ちゃんが敗れたところなんか見たくもないですか。令さまを破ろうとするのなら見なければいけないのではありませんか。それとも」
「それとも?」

「相手がちさとさまだから見たくないんですか」


 ぱしいぃぃぃ


 あ……やっちゃった……。菜々、避けなかったな……。
どこか非現実的なところで考える。


「…スール制についてとやかく言う気はありません。 ただ私は、そんな狭い範囲で満足することは出来ませんから。 せっかく高等部に来て、中等部以上に自由に動き回れるようになるのに『少数の人間関係で満足しなさい』なんて、そんな縛りは願い下げです」

「わかったわ。もう、二度と言わない。でも、これだけは言わせて」
「はい」
菜々の眼が由乃を見つめる。これが、最後だ。なぜ、こんなことになるのだろう。

「菜々の言うような師弟関係だったら、教師と生徒がいればいいわ。姉妹なんかいらない。前の紅薔薇さまの言葉だけどね、『姉は包み込んで守るもの、妹は支え。』っていうの。 あなたが理解する時がくるのを祈っているわ。そしてその時に後悔しないことも」
「後悔はしません。 ごきげんよう」

「ごきげんよう、菜々。叩いてごめんなさい」
「いいえ。それくらいの覚悟はしていました」

 くるり、と踵を返し、振り向きもせずに菜々は去った。




「振られちゃったよ、笙子ちゃん」
菜々の去った方を見つめたまま、由乃が言う。

「お気づきでしたか」
 公孫樹の陰から出てくる笙子ちゃん。
「ふふ、蔦子さんみたいなわけにはまだまだいかないわね。撮った?」
黙って首を横に振る笙子ちゃん。
「せっかくの大スクープなのに」
島津由乃ともあろうものが、笑いがひきつってるんだろうな。

「菜々さんは以前の由乃さまを知りません。菜々さんのスタート地点に立つまでに、由乃さまが16年かかってることを実感として知らないんです。だから黄薔薇さまとの姉妹関係なんてわかるわけが……」
「だからなに!? 菜々にとっては、今の菜々にとってはそんなこと関係ないのよ」
「説明すればいいじゃありませんか」
「ううん。詳しく聞きもせずに菜々がそう思うのなら、それだけの縁だったのよ」
「でも……」
「でもはなし。もう、終わったの」

「なんで笙子ちゃんが泣くのよ」
「だって……」
「それより、笙子ちゃん、あの連続写真、ちょうだい」
「え?」
「こうなったら意地よ。菜々は令ちゃんと手合わせの約束をしてるの。支倉道場でね。そのときに令ちゃんも菜々も、まとめてなで斬りにしてやるわ」
両手をぐっと握りしめる。

「はいっ。由乃さまっ。」
涙を押し隠すように、にっこり笑う笙子ちゃん。

「あ……」
「なあに?」
「条件があります」
「皆まで言うな。そなたの姉と共に撮り放題差し許す」
「姉じゃありませんっ」


「……うまくは、いかないね、笙子ちゃん」
「……はい、由乃さま」

「とはいえ、ねえ。これから例によって支倉・島津家で祝賀会なんだわ」
とほほの顔になる由乃。
「ねえ、一人分予約余っちゃうからさ、来ない?」
「え、え、来ない、って私ですか?」

「他に誰がいるのよ。あなたよ、笙子ちゃん」
「そんなあ」
「ずっと私の妹代わりでがんばってくれたわ。今日ぐらいいいじゃない。蔦子さんは……今日は祐巳さんから離れないわ」
「そう……でしょうね……」

「ほーら、そんな暗い顔しないっ」
笙子の肩に腕を回す由乃。
「きゃん。はい、今日はお伴します」

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「というわけなんだけどね、瞳子ちゃん」
「って前回はまだ1月の3学期始まったトコロじゃないですか。いきなり当選発表ですかあ?タイムトラベルものじゃないんですから」
「そうなんだけどねえ、ケテル・ウィスパーさまの発端からはじまった競作、風さまと六月さまのストーリーが進んでしまうと、かぶりそうなのよ。まつのめさまの挑発に乗ってしまった以上これは早く出したかったの。それにHDDの藻くずになっちゃったヤツ、思い出したところから投入していかないとほんとにもう時間がないのおー」
「読者無視ですね。しかもこの物語時間で、まだ一月下旬ですよ。決着はバレンタインですよバレンタイン。まだ3週間あるんですよ」
「げ。ゆるしてください。まあそのー。はい。まあ、刑事コロンボみたいな倒叙ってのもあることだしぃ」
「ぜんぜんちがいますっ」
「えーと、風さまとのコメントで書いたように、ケテルさんの部分は魅力的なんだけど、前提抜きで吹っ飛びすぎているから、回想シーンにするか時間を戻すしかないのよ。前提が必要なのね」
「まあそういうことにしといてあげますから、ちゃんと完結させてくださいね」



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