「ごめんね。すっかり遅くなっちゃって。」
「いえ、かまいませんわ。」
私達二人は、山百合会の仕事が予想以上に長引いてしまい、帰るのが遅くなってしまった。さすがに11月だけに、辺りは既に闇に染まっている。
ふと、祐巳さまの方を見ると、祐巳さまは空を見上げて何かを見ていらっしゃる。つられる様に見上げると輝く月が写しだされる。
「綺麗だね、瞳子ちゃん。」
「そうですわね。」
満月ではなかったが、欠けてもなお、光輝く月は本当に綺麗だった。
「私はね……」
ふと、祐巳さまが私に話かける。
「私はね、瞳子ちゃんとは地球と月みたいな関係になりたい、って思ってるの。」
「それは、聖さまと白薔薇様の様な?」私がそう問いかけると、祐巳さまは少し考えて、「ちょっと、違うかな?」とおっしゃった。
「どのように違うのですか?」
「う〜んとね、月はいつも地球と近すぎず遠すぎ、絶えず一緒にいるでしょう?私も瞳子ちゃんとはそんな関係になりたいの。」
なんとなくだけれど、祐巳さまの言わんとする事が分かったような気がした。
「では、さしずめ月は私ですか?」
「違うよ。月は私かな?」
「えっ?」
以外な祐巳さまの言葉に私は思わず、驚いてしまう。
「私が月だったらね、ずっと瞳子ちゃんの事を見ててあげれるからね。だから、瞳子ちゃんも、嬉しい事や悲しい事、困った事があったらいつでも、月を見るといいよ。私がいつも見てるから。」
「祐巳さま……。」
祐巳さまが月にも負けないぐらいの穏やかな笑みを私に向ける。
「それにね、月はいつも地球を見ているけど、地球は太陽に目を奪われたり、新月の時はちゃんと居るのに見えなかったりするでしょう?だから、やっぱり私が月だよ。」
「もう、祐巳さまったら、酷いですわ。」
少し拗ねたように見せて、早く歩き始める。後ろから「ごめ〜ん、瞳子ちゃん。」と言いつつ、祐巳さまが追いかけてくる。
私だって、いつも貴方を見ています。
月が微笑む光の下で
私は
そう呟いた。