【1190】 くるくる回り過ぎ禁断の楽しさ広がる  (柊雅史 2006-02-27 00:58:22)


 福沢祐巳、17歳。
 平々凡々な学園生活を過ごしてきた彼女にも、ついに愛しい愛しい妹が出来た。


「今日はみんな、遅いねー」
「そうですわね。ところで、お姉さま? 先程から何か毛先がムズムズするのですが?」
「んあ?」
 言われて祐巳は初めて気が付いた。
 無意識の内に、祐巳は指先で可愛い可愛い妹の毛先を、くるくると巻いていたのだ。
「わ。びっくり」
「何がびっくりですか、何が。くすぐったいから止めてください」
「まぁまぁ」
「何がまぁまぁですか、何が」
 文句を言いながらも、邪険に祐巳の手を払ったりはしない。だから祐巳も心置きなく毛先弄りを続けることした。
「くるくるくるくる〜」
 毛先を親指で押さえつつ、ふんふんと鼻歌混じりに指に髪を巻く。ちょっと楽しくなって来た。
「くるるんぱ」
 親指をぱっと離してみると、祐巳の指先に絡んだ髪の毛が、しゅるしゅるっと勝手に解けていく。素晴らしいスプリングに、祐巳はちょっと感動した。
「うおお」
「お姉さま?」
「ん、いやなんでもないよ?」
 祐巳の感嘆の声に振り返ろうとするところを、指先で頬をつついて押しとどめる。
「いいからいいから」
「何がいいからですか、何が」
 軽くため息を吐きながらも、素直に正面を向いてくれる。だから祐巳は安心して毛先弄りを再開した。
「くるくるくるくるくるりんぱ」
 素早く髪を巻いてぱっと親指を離すと、さっきより素早く解けていく。
「わお」
「わお?」
「気にしない気にしない」
 ちょっと眉を潜めて不安げな表情を浮かべるのを、適当に宥めつつ、祐巳は次のレベルに挑戦する。
「くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる」
 正に怒涛の勢いで指先を操る。
「お、お姉さま!?」
「くるりんぱ」
 ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる、みたいな効果音が聞こえてきそうな勢いで、逆回転する髪の毛に、祐巳はドキドキと胸を高鳴らせる。
 やばい、これはやばい。
 あまりにも面白すぎる。
 高鳴る胸を押さえつつ、祐巳はふんふんと鼻息荒く更なる領域に挑戦することにした。
「くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる」
 それは正に限界への挑戦。
 指の残像でも見えそうな勢いで、怒涛の如く毛先を巻いていく。
「お、お姉さま!? あの、ちょ……」
「動かないでっ!」
「は、はい!?」
 鋭い制止を入れて、祐巳は限界を見極めて親指を離した。
 
 ぎゅおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!

「ほ、ほあー! ほほほあ、ほあーーーーー!」
 正にドリルの如き勢いで逆回転する毛先に、祐巳の興奮は最高潮! 思わず素敵な歓声を上げてしまう。
 時間にして数秒。けれど永遠に続くような悦楽の数秒を堪能し、祐巳は思わず両手を広げて妹に抱きついた。
「最高! ドリル最高ー! 大好きー!」
「おおお、お姉さま!?」
 ぎゅう、と抱きつかれ、喜んで良いのか不気味がれば良いのか複雑な表情を浮かべる妹に、祐巳はこれでもかってな程に頬擦りをする。


 福沢祐巳、17歳。
 平々凡々な人生を歩み、趣味らしい趣味も持たなかった彼女が、新たな趣味に目覚めた瞬間だった。




 その後、手当たり次第に髪を巻きまくる『辻巻きロサキネンシス』がリリアン女学園を恐怖のどん底に陥れることになったのは、皆の知るところである。

              リリアン女学園山百合会所蔵・リリアン暗黒史より


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